『税理士セカンドオピニオン』とメールマガジンのタイトルを変えてから3カ月が
経過しました。
たまにはタイトル負けしないような内容もお伝えしなければと思い、地方の方
から特にご相談が多い「税理士の探し方」について触れてみます。
とはいえ、これを真正面から取り上げても、抽象的な話で終わってしまいます。
あるいは、具体的過ぎてメルマガでは書けません・・・。
そこで、今回は都道府県別の下記データを用いて考察してみます。
(1)税理士事務所数(公認会計事務所を含む)
(2)企業等数(個人事業を含む)
(3)1税理士事務所当たり企業等数
(4)1税理士事務所当たり県内総生産
(5)1km2当たり税理士事務所数
まずは、下記表をご覧ください。
このデータから税理士の探し方の何が分かるのか?
お客様からお話を伺うと、税理士を探すポイントは大きく分けて次の3つです。
・税理士報酬は高くないか?
・頼みたい税理士事務所は近くにあるか?
・希望するサービスを行ってもらえるか?
■税理士報酬は高くないか?
どの業種においても競争相手が多いほど価格が下がるという理屈はご存じの通り。
つまり、税理士事務所が多い地域ほど、その報酬も低くなるという図式が成り立ち
ます。
税理士事務所が多い上位3地域は、東京、大阪、愛知(データ(1))。
とはいえ、この3都府県は企業等の数も上位3位を占めるので(データ(2))、一概に
税理士事務所が多いとは言えません。
そこで、企業等の数を税理士事務所数で割ったのが、「1税理士事務所当たりの
企業等数」(データ(3))。
東京、大阪、愛知は見事に下位3位に沈みました。
1税理士事務所当たりのお客様の数は少なく、それだけ競争が激しいと言えます。
ここで最初の理屈に当てはめて考えてみると、この3都府県の税理士報酬は
“意外と高くない”可能性があります。
その補完データとして「1税理士事務所当たり県内総生産」(データ(4))をご確認
ください。
県内総生産とは国民総生産(GDP)の都道府県別のようなもので、これを税理士
事務所数で割ってみました。
データ(3)と同じように、大都市地域の1税理士事務所当たりの県内総生産は下位
に沈み、お客様の数が少ないとともに、お客様の企業規模合計も少ないと推定
できます。
これが大きければ、数は少なくても比較的規模の大きな会社が多く、1企業当たり
の報酬も高いという図式が成り立つはず。
「いやいや、東京の税理士事務所の報酬は高いよ!」
という方もいらっしゃるでしょう。
当然、大都市に拠点を構える一部の大手税理士事務所は非常に高い報酬を
取っています。
こういう事務所はもともと大規模企業のお客様が多いため、人件費の高いスタッフ
を雇い、一等地に事務所を構えているからです。
もし、中小規模事業者がこのような税理士事務所に顧問を依頼すると高くつきます。
これは、企業の規模に照らして相対的にという意味です。
つまり、大都市地域の大手以外の税理士事務所は、その競合状況から、企業の
規模等に照らして報酬は低めに抑えられていると考えます。
当法人は東京と新潟に事務所があり、全国のお客様の相談を受けているので、
かなりの地域の報酬相場を把握しています。
正直なところ、大都市地域と地方の相場は同等レベルです。
例えば、東京の税理士事務所に頼むのならば“大きなところ”というのが盲点で、
地方と同じような感覚で探せば、数は多いし、報酬も変わりません。
■頼みたい税理士事務所は近くにあるか?
やはり、税理士事務所は“近くがいい!”というニーズは根強いです。
“近くがいい”だけならば問題はないのですが、これが“近くて、良い”税理士事務所
と続くので厄介です。
こうなると、大都市地域は狭いエリアに数多くの税理士事務所があるので、“近く
の”税理士事務所は探しやすいと言えます(データ(5))。
しかし、“良い”税理士事務所に巡り合えるかどうかは、“宝くじで1万円が当たる
くらいの確率”です。
当たる人には当たるけど、当たらない人には当たらない・・・。
だから、税理士事務所も当たるまで“買い続ける”のが現実的。
また、近くにないのなら、遠くに買いに行けばいいのです。
それも、隣県ではなく、思い切って大都市地域へ。
地方の方も、宝くじを西銀座チャンスセンターに買いに行くように!
そして、こういう声もよく聞きます。
「税理士が来ない」
もちろん、毎月来てくれる“近くて、良い”税理士事務所が見つかればベストです。
これが探せないのであれば、“遠くて、毎月来ないけど、満足できる”税理士事務所
を探してください。
これであれば、どこの地域の税理士事務所でも問題ないはず。
ちなみに、当法人は東京と新潟に事務所を置いておりますが、顧問契約を結んで
いるお客様の所在地域は15都府県です。
セカンドオピニオン契約を合わせると倍近くになります。
当然、遠隔地のお客様は近場のお客様に比べれば訪問頻度は下がります。
しかし、当法人を含め、遠隔地のお客様と契約しているような税理士事務所は、
訪問しなくてもサービスを提供出来るようにと工夫も行っております。
このような税理士事務所も大都市地域に多く、WEBで探しやすいはずです。
“近くて、良い”から“遠くても、良い”と基準を変えるだけで、税理士事務所の選択肢
も飛躍的に増加します。
■希望するサービスを行ってもらえるか?
昔の税理士事務所は、ほどほどの報酬で“何でも”やっていました。
しかし、近年は税理士事務所もメニュー化が進み、最小構成単位で仕事を依頼
すれば報酬は安くなります。
特に大都市地域の税理士事務所ほどメニューの細分化が図られ、少しでも報酬を
安くしてお客様を取り込もうと懸命です(東京、大阪、愛知はこの傾向が顕著です)。
これに比べ、地方の税理士事務所はまだ“何でも”の傾向が強いと言えます。
“何でも”だから、サービスが陰に隠れてしまう場合もありますので、まずは今の
税理士事務所に、「このサービスをやって欲しい」と明確にお伝えしてください。
意外とこれを言わない方が多いのも事実。
言ってダメだったら税理士事務所を変えざるを得ませんし、言うのが嫌であれば、
やはりメニュー制の税理士事務所の方が依頼しやすいのではないかと考えます。
とはいえ、気をつけなければならないのは、メニュー制を取り入れている税理士
事務所に“何でも”頼むと総額はかなり膨らんでしまうという点です。
最近は“顧問料なし”の税理士事務所も増えてきましたが、これにもカラクリが
あって、“顧問料あり”のときと同じような仕事を依頼すれば、むしろ報酬が高く
なる仕組みです。
その実態は、お客様のためというよりも、事務所の経営効率を高めるための場合
も多く見受けられます。
また、サービスメニューが多彩という事と、サービス品質が高いかどうかは別問題
です。
これも、税理士事務所という宝くじを買い続ける事によって“当たり”を探さざるを
得ません。
以上、なんだか大都市地域の税理士事務所が良いと推奨しているようになって
しまいましたが、そうではありません。
地方の方からの「良い税理士がいない」というご相談に対し、圧倒的に税理士
事務所が多い大都市地域も選択肢に入れる事によって、「税理士の探し方」に
幅が出る事をお伝えしたかったのです。
競争が緩い地方の税理士事務所は寝ている所が多く、昔からのお客様が多い
ので、口で言うほど危機感はありません。
危機感がなければお客様へのサービス向上など期待できませんので。
是非、皆さんに税理士業界をたたき起していただきたいです(笑)
【参考】
今回用いたデータは、統計局の統計データ「平成21年度経済センサス基礎調査」
です。
『政府統計の総合窓口』というサイトがあり、ここで様々な統計データを調べる事が
出来ます(URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do)。
私も今回このデータを加工していて、この地域に新しく事務所を出したら結構行ける
んじゃないかと思ってしまいました。
エリア戦略等、使いようによってはおもしろいのではないかと考えます。
御社の金利、本当は何%かご存知ですか?
銀行から融資を受けている経営者の方であれば、他社はいったいどれ位の金利で融資を受けているのか?そもそも今支払っている金利は適正なのか?ひょっとして払い過ぎてるんじゃないか?等々、低金利時代とはいえ、会社にとって削減したい固定費の代表格ともいえる金利について考えたことのない方はいらっしゃらないでしょう。
皆さんの会社が支払っている金利が適正額かどうかは個々の会社の状況等によりますので、ここで判断することはできません。しかし、支払っている金利が表面上の金利ではなく“実質”どれくらいであるかを皆さんが計算、把握することで、銀行との金利交渉が有利に運ぶ可能性があることを、今日は知っていただきたいのです。
皆さんの会社が融資を受けることが決まると、銀行の担当者が約束の日時に現金を持って現れ・・・などということはありませんよね!?
そう、約束の日に預金通帳に数字が書き込まれるだけです。もし、その口座のお金を皆さんが全く使わず置いておいたとすれば、銀行は全くお金を動かしていない、つまり貸していないのと同じことになります。
もう少し具体的に考えてみましょう。
皆さんの会社が金利2%で3000万円の融資を受けたとします。そのうち2000万円は新商品の仕入れに使い、残った1000万円が預金口座に残っています。
ということは、前述の考え方によれば皆さんの会社が実質的に融資を受けている金額は3000万円から預金口座に残っている1000万円を引いた2000万円ということになります。
さて、では皆さんの会社が払っている本当の金利はいくらなのでしょうか?
便宜上、細かい計算は省略しますが、支払っている利息は3000万円×2%で60万円です。
残った1000万円を預金口座に入れていることによって、受取利息が発生しますが、少額ですので、ここでは無視します。
すると皆さんの会社は実質的に融資を受けている2000万円に対して60万円の利息を支払っていることになります。そう考えると、つまり60万円÷2000万円=3%の金利を負担していることになってしまいます。
金利2%で借りたはずが、実は3%で融資を受けたということになってしまうのです。
この実質的な融資の金利を「実質金利」といい、計算式は次のようになります。
実質金利=(支払利息-受取利息)÷(借入金-預金)
ちなみに当たり前のことですが、預金残高が多ければ多いほど実質金利は上昇します。
銀行の担当者から「得意先からの売掛金入金口座をうちの銀行に指定してくれませんか」と言われたことありませんか?
その理由の1つがこの実質金利です。銀行サイドに立ってみれば、融資を実行していても自行の口座に多く預金してもらっていれば、実質貸していない部分に対しての金利をも受け取ることができる、すなわち実質金利を高くすることができるのです。
こう考えると、途端に損している気になってしまいがちですが、事業を円滑に進めるためには必要最小限のキャッシュではなく、多少のゆとりをもったキャッシュを確保しておくことが不可欠です。そのため、ある程度の「実質金利」の負担は「保険料」として割り切る必要があります。
しかし、この「実質金利」を把握することが、銀行との金利交渉において具体的な根拠として役に立つのです。
「契約上の表面金利は○%だけど、うちは取引先からの入金口座を○○銀行さんに指定しているから預金残高も多いですよね?そうすると実質金利は○%くらいのはずです。もう少し金利を下げてはもらえませんか。」といった具合です。
業績不振であったり、すでに適正金利で融資が行われている場合は交渉の余地はそれほどありませんが、業績好調にも関わらず1ヶ所の金融機関のみから、高い金利で融資を受けている場合等には積極的な金利交渉による適正金利への引き下げが可能になります。
適切な知識武装をすることで、皆さんを悩ます固定費の1つを占める金利を下げることができるかもしれません。
是非、皆さんの会社の実質金利、計算してみてください。
経営者を魅了する節税対策の罠
『節税』
これほど魅力的な言葉はありません。
節税自体は悪い事ではありません。むしろ、積極的に行うべきです。しかし、節税を行うに際し、明確に理解しておくべき事があります。それは・・・
“節税対策=最終的に税金が減る”ではないという事です。
そして、誤解を避けるために押さえておくべき、節税対策の基本的なパターンは以下の3つです。
■消費という名の節税
■先送りという名の節税
■利益と資産の移転による節税
特に中小企業の経営者は、この3つの違いを理解し行動する事が求められます。なぜなら、節税に対する認識のギャップを利用して行うビジネスがある以上、自己防衛の知識として節税の意味を十分理解する必要があるからです。
【消費という名の節税】
この節税は、いわゆる“モノを買う”、“飲食を行う”という消費行動によるものです。消費行動が純粋な節税と言い切れるかは議論が分かれますが、世間一般ではこれも節税と呼ばれています。
とはいえ、この節税策、その効果は節税というよりもキャッシュフローの改善という側面の方が強いのです。例えば、もともと必要な消費行動を決算日前に行うか、決算日後に行うかによって、キャッシュフローが変わってきます。
≪事 例≫
利益100万円と見込まれている3月決算法人が、20万円の備品の購入を検討(税率は40%と仮定)。
●3月に備品の購入を行った場合
●4月に備品の購入を行った場合
税金と備品を合わせた支出は、前者が52万円で、後者が60万円。つまり、必要な消費行動であれば、決算日前に行った方がキャッシュフロー上有利となります。キャッシュフロー改善の側面が強いとお伝えしたのは、税金と支出の減少額が8万円と同じという点に表れています。
しかし、これも5月という納税のタイミングで切った場合であって、翌年の納税まで含めれば、税金も支出も変わらない事になります。
【先送りという名の節税】
この節税を“先送り”とお伝えするように、結果的として税金は1円も減りません。あくまで支払うべき税金を将来に先送りしているだけ。しかし、世間一般では一番もてはやされている節税策です。
実は、この節税策を本当に税金が減るものとお考えの方が意外に多く、税金の先送りという事実に気付いておりません。
この一番誤解の多い節税策には以下の2パターンがあります。
(1)将来、お金が戻って来ない
(2)将来、お金が戻って来る
まずは(1)のお金が戻って来ないパターン。これは、例えば地代家賃のような継続的な契約の費用を1年分前払いしてしまう事です。
通常、前払い分は費用として認められません。ただし、いくつかの要件を満たした場合はその支払った金額が費用となります。ちなみに、一時的なサービスを受ける場合やモノの購入等の場合の前払いは費用となりません。
≪事 例≫
利益500万円と見込まれている3月決算法人が、家賃1年分(20万円/月)の前払いを検討(税率は40%と仮定)。
●3月に家賃1年分の前払いを行った場合
●3月に家賃1年分の前払いを行わなかった場合
上記の事例を確認していただくと、家賃1年分の前払いを行った場合は税金がかなり減っている事が分かります。
しかし、常に1年分の前払いをしている状態なので、前払いを止めた年度は一切費用にならず、逆に税金が増えます。ですから、結果としては前払いを止めるまで、税金の先送りをしているだけにすぎません。
また、1年分の支出が先行するため、当然にキャッシュフローは悪化する事になります。
次に(2)のお金が戻って来るパターン。これは生命保険を使った節税が典型です。多額の保険料を経費に落とす事により税金が劇的に下がるため、経営者を魅了し続けます。
しかし、(1)と異なり、生命保険の解約時にはお金が戻って来ます。前払いが1年分であるのに対し、戻って来るお金は支払年月に比例し、戻って来たときに掛る税金も比例して増加します。
ここで、生命保険を利用した節税策のメリット・デメリットを簡単にまとめます。
【メリット】
A.税金の支払いを先送り出来る
B.退職金対策等に用いる場合、一時的に発生する費用を相殺する機能がある
【デメリット】
C.長期間に渡り支出が先行し、手元資金が減少する
D.保険会社に支払うコストが高く、節税だけを考えた場合は損をする
上記のうち、AとCは今までのご説明でご理解いただけると考えます。そして、この中で一番重要なのはDについての理解です。
生命保険による節税策の最大のポイントは解約返戻率です。節税で用いる保険契約は途中解約が前提となるため、解約した時にどのくらいの保険料が戻って来るかが全てと言っても過言ではありません。
例えば、毎年100万円の保険料を30年支払い、解約時に2,700万円戻ってきた場合、保険会社に支払うコストは300万円(解約返戻率90%)。
要は、最終的な税金が変わらないにもかかわらず、先送りをするために300万円というコストが必要になります。
もちろん、このコストは保険という保障を買っているために発生するものですが、そもそも保険を契約した動機が税金対策であるため、保障としてのコストとしては割に合わないのです。
しかも、長期間に渡り支払いを続けない限り解約返戻率は低いまま。同時に、長期間に渡り黒字を続ける事が出来る企業はごくわずかという絶対的な事実が存在します。結局、どこまで節税の効果(先送りの効果)を受ける事が出来るかは、誰にも分からないのです。
最後はBの機能についてです。現在の経営環境を考えると、より重要性が高いのはこの機能かもしれません。
例えば、毎年300万円の利益が出ている企業が、役員退職金3,000万円の支払いを検討しているとします。ここで問題になるのが業績に与える影響。
単純に考えれば、退職金の支払い年度は2,700万円の赤字。当然、経営者であれば銀行の評価が頭をよぎります。役員退職金という特別な費用という事は銀行も十分理解しますが、1年間で2,700万円の純資産の減少は財務評価に大きな影響を与えます。
そこで、この節税策の解約時の処理が役立ちます。解約による保険料の戻り分があれば、その全部または一部の金額が収益となり、役員退職金による費用計上額が相殺され、業績に与える影響を最小限度に抑える事が出来るのです。
この節税策を銀行対策と位置付け、保険会社に支払うコストも許容出来るとおっしゃる企業も少なくありません。
とはいえ、そもそも節税策にこだわらない企業は、退職給与引当金という会計上の処理を使って、退職金の為の将来の費用を毎年計上しています。このような処理を使えば、無理に生命保険を用いる必要もありません。
以上が、生命保険を使った節税策のメリットとデメリットです。要点は、目先の税金の支払いを回避したいか否かです。節税策を用いればキャッシュフローが悪化しますし、高いコストも支払わなければなりません。
それでも、緊急用資金を外部留保しておいた方が安心という企業や、解約時に上がる収益を赤字の補填に使うためのコストと割り切っている企業もあります。
【利益と資産の移転による節税】
こっちで税金を払うと税率40%。
あっちで税金を払うと税率20%。
では、どっちで税金を払いますか?
極端な話、税金が実際に減る節税というのはこのケースのみです。税率が高いものから税率が低いものへと利益や資産を移転し、その税率の差を利用します。
この節税の代表例は以下の通り。
(1) 法人利益 → 役員報酬
(2) 高い役員報酬の人 → 低い役員報酬の人
(3) 法人利益 → 役員退職金
(4) 個人資産が多い人(祖父母、父母) → 個人資産が少ない人(子、孫)
まずは(1)。日本の中小企業の多くが個人事業主としてではなく、法人という組織形態で事業を行うのも、給与所得という税率が低い所得を利用出来るからです。
もちろん、給与額によって税率が変化するので、無制限に上げればよいというものではありません。ですので、ご自身の役員報酬をいくらにするのが税金上最も有利なのかにつき、シミュレーションを行う必要があります。
次に(2)。当然ながら、給与所得が高ければ税率が高く、低ければ税率が低くなります。例えば、1社から家族数人で役員報酬を受け取っている場合、節税上で理想的なのは全員の役員報酬が同額という状態です。もちろん、職務権限上、同額とはいかないケースがほとんどですが、お互いの役員報酬を可能な限り近付けると、トータルの税金は減る事になります。
言わずと知れた(3)。退職金というのは、税金上“圧倒的に有利な”所得です。だからこそ、生命保険を中心とした様々な“退職金対策”が提案されます。生命保険等の手段を用いるかどうかは別として、退職金での節税が可能であれば積極的に行うべきです。
しかし、保険の売り手の言うままに退職金対策を行うのは危険です。この節税を企業側の財務戦略も含めてアプローチするのと、生命保険の売り手の常套句でしかない“退職金対策”で勝手にアプローチされるのでは、全く意味も効果も異なります。きちんとした節税を行いたいのであれば、税金や企業財務も考慮した上での対応が求められます。
最後に(4)。こちらは相続の問題になります。そもそも相続税が発生しないのであれば、節税自体が必要ありません。しかし、相続税の発生が見込まれるのであれば、事前に対策を行っておくか否かで税金が大きく変わります。
そして、相続税対策の中でも一番有効なのは、資産自体を移転してしまう事です。資産自体が減少すれば、課税財産のみならず、相続税率も下がる場合があります。単純な贈与や、スキームを組み込んだ対策、個人の相続税対策においては生命保険を使った資産の移転も有効です。
以上、実際に税金が減る節税とは、税率の差を利用して所得を右から左に移すだけなのです。実は、これだけをきちんとやっている方は、色々な節税策をせっせとやっている方よりも、最終的には有利であったりするという皮肉な結果が生じます。
以上、今回は、節税策自体ではなく、節税策の仕組みをお伝えしました。理解をされている方からすれば、何をいまさらと思うことでしょう。しかし、本当のところを理解されている方が意外に少ないというのが実感です。
ご紹介した3パターンの節税策のうち、消費と先送りの節税はお金を支払えばよいという簡単なものです。しかし、“実際に税金が減る”という、本来皆さんが求めている機能を果たしているかどうかについてはお伝えした通り。また、誤解をしている人が多いように、この誤解を狙うビジネスも存在します。
そして、実際に税金が減る節税策は、利益や資産を移転すればよいという非常に単純なものですが、詳細なシミュレーションや対策が必要となります。
結局、どのビジネスにも当てはまりますが、効果が高いものは手間が掛り、効果が低いものは手間が掛りません。しかも、飛びつきやすいのは手間が掛らない方です。
また、今回ご紹介した節税策以外にも、大小含めて様々なものが存在します。ただ、税理士も含めて節税策を売りにする話が氾濫している以上、その節税策がどのパターンに属し、最終的に税金が減るか否かについて判断する基礎知識だけは身に付けていいただければと考えます。
税理士ですら節税について誤解している場合もあるくらいですから・・・。
モラトリアム終了後の世界
「今まで返済を猶予しておりましたが、明日から約定どおりに返済してください。」
来年の4月以降、金融機関から、このようなセリフが聞こえてくるかもしれません・・・。
経営状況の厳しい中小企業に対して、返済を一定期間猶予する『金融モラトリアム法』が、来年の3月で期限切れとなります。
今まで猶予を受けていた中小企業にとって、返済の再開は死活問題であり、『円滑化法終了後の出口戦略』が様々な媒体で取り上げられています。
しかし、モラトリアム法が切れた途端に、金融機関が約定どおりの返済を求めてしまっては、中小企業の倒産件数が急増してしまいます。
そのような懸念を受けて、金融庁は11月初旬、「返済を猶予されていた中小企業でも、経営改善の余地があれば、その企業向けの融資を不良債権とは見なさない。」との見解を公表しました。
不良債権として見ない、ということは、金融機関サイドからすれば貸倒引当金を積む必要がない(または、多額に積む必要がない)ため、経営が圧迫されず、無茶な貸し剥がしには走らない、ということです。
望みがあるのであれば、ギリギリまで支援し、少しでも損失を抑えたい、というのが金融機関の本音でしょう。
「これで、猶予されていた中小企業もひと安心だ・・・。」
・・・とはいきません。
あくまでも、経営改善の見込み、が条件ですから、それを担保するため、金融機関は必ず『経営改善計画』の提出を求めてきます。単なる数字遊びの経営計画では通用しません。
私も仕事柄、金融機関と経営者との『経営改善計画』策定の会議に、取引のない第3者として、オブザーバー出席を求められることがあります。
やはり返済猶予を受けていた経営者だからでしょうか・・・、金融機関とのやりとりを見ていても、具体性に欠ける答弁が続きます。
金融機関「人件費の削減計画を教えてください。」
経営者「人件費は年間で10%カットいたします。」
金融機関「10%と言っても、どのようにして?」
経営者「パート従業員の仕事繰りを改善し・・・。」
金融機関「もう少し、具体的に・・・。どのように改善するのですか?」
経営者「厨房で余っている人間を、清掃担当にし、掃除のスピード化を図ることで(担当する人は増えますが)総人件費を下げます・・・。」
金融機関「いつからですか?」
経営者「・・・まだ体制が整っていませんので、それが整備でき次第・・・。」
金融機関「そうですか・・・、それでは体制が整いましたら、具体的な計画を教えてください。」
私「ちょっと待ってください。体制が整っていないとは?」
経営者「掃除の人間を増やすということは、新しい掃除道具が必要になります。それが揃い次第、ということになります。」
私「社長、掃除道具は今日買って帰りましょうよ。高価なものではないのですから。」
経営者「・・・まぁ、そうですね。」
私「それで、明日にでも、新しい人への掃除のレクチャーと担当割をリーダーが行い、実際に時短になるのか測定してくださいよ。」
金融機関「そうですね、1週間後の面談の際に、結果を教えてください。」
大前研一氏は、著書の中で、「問題解決手法(イッシュー・ツリー)の最終段階は、人の手の下せる、しかも効き目のたしかなものになっていなくてはならない」と述べます。
(参考文献:企業参謀)
これは当然のことであり、具体性に欠ける計画など、それこそ単なる数字遊びでしかないのですから・・・。
来年の4月以降、中小企業、及び、(我々も含めた)その周辺ブレインの真価が試されます。
モラトリアム終了後の世界がどのように変わるのか、注目していきましょう。
判例を都合よく解釈してはいけない!
4/24 『あの『保険節税スキーム』に最高裁が待った!』において、『逆ハーフタックスプラン』と呼ばれる保険節税スキームについて話をさせていただきました。
大変ありがたいことに、セミナーの反響もあって、税理士さんや保険会社の方々と情報交換をする中で、それぞれの立場から逆ハーフタックスプランに対する見解があるものの、そこにはひとつの共通点があることがわかりました。
それは、『それぞれの立場から都合のいい部分だけを過大に解釈している』ということです。
これはちょうど長期傷害保険の取扱いが定まっていない中で、生命保険各社が売りまくったあのときによく似ています。
今年のはじめに最高裁判決が出されたことによって、市民権を得たように思われがちな『逆ハーフタックスプラン』ですが、実は多くの問題を残しています。
そこで今回は、この『逆ハーフタックスプラン』に切り込んでみたいと思います。
まず、今回の最高裁で何が争われたのか?ということです。
今回の最高裁の争点となったのは、『養老保険の満期保険金について、一時所得の計算上控除することができる保険料の範囲がどこまでか』ということです。
ただ、その一点だけが争点となり、判決が下されたものであって、それ以外の事項については何も争点になっていないということです。
つまり、死亡保険金の受取人を法人とし、満期保険金の受取人を役員又は従業員とした養老保険の保険料について、その半分を損金(保険料)とし、残りの半分を資産計上(貸付金)とした会社の処理を認めたものではないということです。
この点について、税務署が否認指摘しなかったことをもって、容認したと理解している人が多いのですが、それは明らかな間違いです。
通常のハーフタックスプラン(死亡保険金受取人:遺族、満期保険金受取人:法人)については、法人税法基本通達9-3-4において、保険料の半分が損金(保険料)とし、のこりの半分を資産(積立金)とすべきことを規定されています。
これは、養老保険は生死混合の保険であることから、一種の福利厚生の目的・性格と、資産投資の目的・性格との二面性を併せ有しており、死亡保険金に係る危険保険料部分については、受取人が被保険者の遺族となっていることからみて、法人の資産に計上することを強制することが適当ではないからです。
さらに、その場合の保険料の区分については、死亡保険金に対する危険保険料分と、満期保険金に対する責任準備金分を明確に区分すべきところですが、通常、養老保険の契約書等においては、これらが区分して記載されていません。
そこで、保険契約者において、これを区分して経理することは不可能であることを考慮し、同通達によって、便宜的にその取扱いを定めているに過ぎません。
しかし、逆ハーフタックスプランについては、実務運用上、すべての従業員を対象に契約されるものではなく、かつ、満期保険金の受取人が代表者又はオーナー親族であることからみても、養老保険契約への加入は、投資目的として課税の繰延べを意図したことが明らかであり、従業員等に対する福利厚生を目的として加入したものではないと判断できます。
以上を総合的に判断すると、死亡保険金に相当する危険保険料については、貯蓄性が高いことから、終身保険同様、『資産計上』とすべきことが妥当であり、満期保険金部分に相当する保険料は、役員等に対する『給与』と考えられます。
逆ハーフタックスプランが『租税回避スキーム』であることは誰の目から見てもあきらかである以上、税務調査によって前述のような処分がされるリスクを想定しておく必要があります。
弊社では、この点について『保険で節税をしてはいけない!』セミナーにおいて詳しく説明を行っています。
セミナーの中では、万一、税務調査においてこのような指摘がされた場合には、どれだけの損失を被ることになるのかの危険予測のシミュレーションも行っています。
法律に規定がない以上、租税回避は犯罪ではありません。
しかし、その危険性とリスクを正確に判断することなく手を出すことは破滅への一歩であると自覚してください。
『節税に強い!』という税理士について考えてみた
そもそも、『節税に強い』または『節税に弱い』という分類は存在するのでしょうか?
私はこの業界で十数年のキャリアですが、非常に疑問でした。
「節税に強い!」と叫んでいる税理士を見ると、「本気で言っているのか?」と耳を疑いたくなります。
ある意味、税理士が「オレは税理士だ!」と言っているのと同じです。
しかし、企業が税理士に不満を持つ要因の一つには“節税の提案がない”というものがあり、それに応じて“節税に強い”と叫ぶ税理士がいるのも事実です。
そこで、今回は“節税”ではなく、“節税と税理士”について考えてみます。
■考えてみた1 節税の『知識』の有無について
「節税に強い」ということをアピールする税理士がいるということは、その前提として「節税に弱い」税理士がいるということです。
節税に弱いということを、節税の『知識』がないと仮定してみます。
それでは、節税の知識がない税理士はどの程度いるのでしょう?
あくまで経験からの推測になりますが、一般的に『節税の知識がない』と分類される税理士は20%程度。
通常、税理士業務を行っていれば、耳をふさいでも『節税』という話題が飛び込んできます。当然、お客様からも相談を受けます。
ですから、税理士が節税を『知らない』ということは考えられません。
それでも『節税の知識がない』という税理士が存在するのは、実務を行っていない税理士(資格を持っているだけ、新人、隠居 等)がそれだけいるというだけです。
きちんと業務を行っている税理士が節税の『知識』がないということはありません。
つまり、節税の知識がない税理士に出会う確率はごくわずかなのです。
ただし、もし、顧問税理士が『節税の知識がない』20%に該当すると判断した企業は、早めに税理士変更を検討される必要があるかもしれません。
なぜなら、節税の知識がないということは、税法全般について疎いからです。
では、節税の知識がある税理士が大半なのに、なぜ「節税に強い!」と叫ぶ税理士がいるのでしょうか?
■考えてみた2 『特別な』節税の知識の有無について
もしかしたら、「節税に強い!」と叫ぶ税理士は、『特別な』節税の知識を持っているのかもしれません。
そうであるならば納得できます。
それでは、節税の知識がある税理士のうち、『特別な』節税の知識を持っている税理士はどの程度いるのでしょうか?
これも経験からの推測になりますが、節税の知識を備えている税理士の中の10%程度です。
確かに、『特別な』と付くと途端に数が減ります。
これは特別な知識と経験が必要とされますから、このクラスの税理士にはそう簡単には出会えません。
では、『特別な』節税にはどのようなものがあるのでしょうか?
・巨額の資金が必要となる節税スキーム
・海外法人を利用した節税スキーム
・組織再編を利用した節税スキーム etc.
途端にハードルが上がりませんか?
特別な節税というものは、それを実行する企業もかなり限定されてくるのです。
大半の税理士が口にする節税には、このような手法は含まれません。
税理士の80%は一通りの節税手法は知っており、そのうちの10%は特別な節税の知識を有していますが、その特別な節税手法を実行できる企業というのは全企業の3%程度。
日本の全企業のうち中小企業が97%と言われているので、3%ということは概ね大企業と言っても過言ではありません。
当然、中小企業でも該当する場合もありますが、1%に達するかどうか。
つまり、税理士の80%は、日本の97%の中小企業に対して使える節税手法を理解しているということになります。
『特別な』節税の知識の有無はあまり関係なさそうですね・・・。
そもそも、特別な節税の知識を有する税理士というのは、大企業をクライアントに持つ大手の税理士法人に属していたり、そこから独立した税理士のため、出会う確率自体も少ないと言えます。
そのため、『節税に強い』と叫ぶこともありません。
■考えてみた(番外編1) 節税をさせたくない税理士
少し横道にそれますが、意外と多いのが、企業に節税をさせたくない税理士です。
節税の知識がある税理士のうち20%は該当します。
「役員報酬はそんなに取れません。この取引は認められません。その保険はダメです・・・」
そして最後には、「税金を払ってください!」。
一見、税理士として真っ当なことを言っているように感じますが、「そんなことをして、税務署に何か言われたらどうするんだ・・・」という裏のメッセージが込められています。
いわゆる「税務署寄り」と言われる税理士とも重なります。
(ちなみに、税務署寄りは40%程度)
このような税理士が顧問の場合、企業は自ら節税の知識を得て判断するか、セカンドオピニオン等を利用するしかありません。
「そんなことを勝手にやって! 私は責任取りませんからね!」
と言われても、税務署寄りの税理士はいずれにしても責任は取りませんので、気にしても仕方がありません。
■考えてみた(番外編2) 節税を勧め過ぎる税理士
いわゆる節税好きの税理士ですが、節税と言っても保険等の節税商品をワンパターンに勧めてくるのが特徴です。
企業側も、「そんなに良い商品があるのなら!」と最初は喜びますが、それが何度も続くと「単に保険を売りたいだけではないか・・・」と気付き始めます。
また、節税を行いすぎると財務が痛むので、外から見ると「この会社は何がしたいのだろうか?」という決算書ができ上がります。
気付いていないかもしれませんが、意外と評価が低いのがこの手の税理士が顧問をしている企業です。
税金を払わせないという部分最適に全力を尽くすのが、税理士の役目だとでも思っているのでしょう・・・。
これは財務のアドバイスとは相反する部分につながるので、まともな感覚を持っている税理士であれば、節税の有効性を伝えつつも、過度の節税にはブレーキを掛けます。
また、企業をなるべく赤字にして、税務調査が入らないようにと画策する税理士もここに含まれます。
「節税」というキーワードを巧みに使い、さもお客様のためというアプローチですが、「赤字にしておけば税務調査に入られないし、他の部分にまずい処理があってもばれないだろう・・・」という裏のメッセージが込められているときがあります。
赤字続きの企業は税務調査が入る確率は少なくなりますが、それは“税金は払っていなくても、損をしている企業だから無視”というのが基本方針です。
そこで節税した部分は、“どこかで、誰かが、代わりに”税金を支払っています。
利益も得た上で・・・。
■考えてみた(3) 『節税の提案がない』という企業と顧問税理士
以上から、大前提として下記が挙げられます。
・『節税に強い』と叫ぶ税理士がいる
・『節税の提案がない』と不満を持つ企業がある
・通常に営業している税理士であれば、節税の『知識』は持っている
・『特別な』節税の知識がある税理士は10%もいないが、そもそもその
『特別な』節税を使える中小企業は1%に満たない。従って、『特別な』
知識を持っている税理士でも、実際に使ったことがある税理士は数少ない
それでは、実は節税の知識がある顧問税理士と、節税の提案がないと不満を持つ企業の間には何が起こっているのでしょうか?
結論は、「何も起きていない」ということです。
そこに『対話』が・・・。
例えば、利益は出ているが、様々な事情で節税が難しい企業があるとします。
このような企業には「節税が難しいという事実」をお伝えする必要がありますが、税理士からその事実を伝えられていない企業はどうでしょう。
企業は「節税の提案がない」とこぼすのです。
そこには対話という事実がないだけ。
つまり、『節税に強い』税理士というのは、節税の『知識』がある税理士を指すのではなく、『企業にとって必要な節税についての情報を伝えられる』税理士ということになります。
従って、「節税に強い!」と叫ぶ税理士は『対話』ができるということを言っていることになります(あくまで原則的には)。
しかし、ここで考えるべき事実があります。
近年、お客様の数を飛躍的に増やしている税理士事務所というのは、低価格路線の事務所であり、このような事務所は税理士業務のメニューを細分化し、バイキング形式でお客様に選んでいただくようになっています。
帳簿は帳簿、相談は相談、“1回会ったらいくら”というように。
『節税についての提案』も実質的にメニュー化されていると言っても過言ではありません。
このような税理士事務所は積極的に広告展開する傾向にあるので、当然のように「節税に強い!」と叫んでいます。
「節税に強い!」と叫びつつ、相談業務をぶった切ってメニュー化しているのが実態です。
何か違和感を感じませんか?
「いやいや、それを選ぶのはお客さんであって。私自身は節税の知識があるからね!」
ということなのでしょうが、こういう事務所が『特別な』節税の知識を持っているケースは少ないと考えられます。
それなりの企業というのはこういう税理士事務所にはあまり近づきませんので。
近年、『顧問』というある意味では曖昧な制度に疑問を持つ企業が増え、それに応じる形でお互いにとって無駄と思われている相談時間を排除し、「顧問料0円!」、「毎月1万円から~」という流れが拡大しています。
とはいえ、ガソリンスタンドのセルフサービスなら害はなくても、企業と税金という問題についてセルフサービスが行き過ぎると害をもたらすことがあります。
繰り返しになりますが、『節税に強い』税理士とは、『相談がしやすい』あるいは『対話を持ちかけてくれる』税理士ということです。
もし、「私はたくさんの節税手法を知っているのです!」という税理士がいたら、あまり信用しない方がよろしいかもしれません。
同時に、税理士が発する裏のメッセージを読み取り、それが企業側に立ってのアドバイスなのか、税理士の打算からくるアドバイスなのかも考える必要があります。
■結論
『節税に強い!』と叫ぶ税理士にはお気を付けください。
アポなし調査はお断り!?
「ごめんください。」
「はーい、いらっしゃいませー!」
「○○税務署法人課税部門の柴沼と申します。」
「はぁ、税務署の方?」
「はい、株式会社○○の代表者の△△さんですか?」
「はい、そうですが・・・」
「本日は株式会社○○の法人税の調査にお伺いさせていただきましたので、ご協力ください。」
ある日突然、皆さんのお店に税務署職員が調査に来ました。さあ、皆さんならどう対応しますか?
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平成23年度の税制改正により国税通則法の改正が行われました。なんと約50年ぶりの改正です。
国税通則法とは国税に関する基本事項、共通規程を定める法律なのですが、法人税法や所得税法などの税法と比べて馴染みは薄く、その存在を知らない方も多い法律です。
さて50年ぶりの改正の中身ですが、その1つとして税務調査に関する規定が法定・明文化されました。(2013年1月から施行)以下にその内容を記載しておきます。
・納税者に調査開始日時、場所、目的などを事前に通知する。
・納税者から合理的な理由があって調査日時などを変更するよう求められたら、税務署は納税者と協議する。
・調査の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあれば、事前通知は必要ない。
税務調査は納税者に調査日時・場所、目的などを事前に通知し、納税者の合意を得て行うのが原則です。税務調査を受けた事のある方なら、ご存知だと思いますが、税務調査日の約2週間程度前に顧問税理士に連絡が入り、日程調整をするのが一般的です。
この流れは調査の現場では、ほぼ定着していますが、今までは法定されておらず、今回確認の意味で明文化されたものです。
あれ!?でも、うちの会社の税務調査は通知なしに突然来たぞ!
こんな経験をお持ちの方は、きっと飲食店等の現金商売を営む方に多いはずです。
飲食店など現金商売の業種では事前通知なしで税務調査に来ることが少なくありませんが、今回の改正で、事前通知することにより違法又は不当な行為を容易にし、調査の適正な遂行に支障をきたす恐れがあれば、通知なしの税務調査も可能であることが明文化されてしまいました。しかし、同時に合理的な理由があれば日時変更が可能である旨も定められたのです。
所轄税務署による通常の税務調査は任意調査ですが、いくら任意とはいえ正当な理由なくして拒むことはできません。しかし、事前通知なしの税務調査については、業務に支障をきたす恐れがあったり、仕事・私的な用事を問わず予定があれば、その旨を伝えて日時を変更してもらいましょう。今回の改正において明文化されているように、それで全く問題ありません。
ある日突然、店先や自宅に税務調査官が現れたならば、まずは落ち着いて顧問税理士の先生に連絡を取り、できれば電話を代わってもらい調査官と直接話してもらってください。
その間、調査官には玄関や応接室等へ通すなどして待っていてもらいます。何か聞かれたり、資料の提示を求められても、顧問税理士の先生に連絡を取るので待って欲しいと伝えましょう。強制調査であれば別ですが、任意調査であれば、調査官は納税者の許可なく帳簿書類等に触れることはできません。
皆さんにとって大切なのは税務調査ではなく、お客様です。通知なしの税務調査に対応するために、お客様に失礼があったり、業務に支障をきたすようなことがあってはなりません。改めて日程調整のうえ税務調査に応じる旨を伝え、ひとまずお帰りいただきましょう。
日程調整については、顧問税理士の先生に希望日を伝え、交渉は任せてしまいましょう。
繰り返しになりますが、そもそも所轄税務署による一般的な税務調査は任意調査です。任意にも関わらず、現金商売だからという理由だけでの事前通知なしの税務調査が認められるのであれば、もはやそれは任意調査ではありません。
法律の名前も条文も覚えなくて大丈夫です。予告なしの突然の税務調査は、正当な理由があれば日時の変更が可能。これだけ覚えておいて下さい。
成長均衡
キャッシュを得るために成長を目指すのですが、
キャッシュがないと成長できない。
なんとも皮肉な話です。
~『実学 中小企業のパーフェクト会計』P281より~
これは、岡本の『実学 中小企業のパーフェクト会計』、成長均衡の項目の最後に書かれている文章です。結論からお伝えすると、企業はキャッシュをコントロールしない限り成長が出来ない構造だという事になります。
もちろん、イー・アクセスに続き、米携帯電話3位のスプリント・ネクステルまでをも買収したソフトバンクのように、金融機関からの調達により一気に“成長”を図るという選択肢もあります。
しかし、中小企業がキャッシュを外部調達する主な動機は、「赤字になったから穴埋めとして借りる」、「借入金の返済により預金残高が少なくなったから借り換える」等、大部分がマイナス要因を補うためのものです。
おそらく、売上高増加のための成長資金として必要なキャッシュを見積もって借入れを行っている中小企業はごくわずかでしょう。基本的には、どの中小企業も売上高増加に必要なキャッシュは内部留保でまかなうつもりでいるはずです。
量的な“成長”が良いのか否かは、
企業ごとに慎重に判断する必要がありますが、
実際に、内部留保でまかなうべき、成長に必要なキャッシュとはどのように見積もるのでしょう?
ここを押さえておかないと、いつまでたっても「おかしいな・・・」と疑問を持ち続けることになってしまいます。
そして、その見積もり方法が、『成長均衡』。
営業キャッシュフローによって支える事が出来る成長率
成長均衡を簡単に説明するとこのような表現になります。つまり、借入れ等に頼らずに留保利益だけでどれだけ売上高を増加させる事ができるかという考え方です。
それでは、成長均衡をステップに基づいて計算してみます。
【ステップ1】売上高売掛金等比率を計算する
ほとんどの企業には売掛金と在庫があります。その結果、売上高を上げる前に在庫を用意する必要があり、売上高を上げた後にもすぐには現金化されません。つまり、このサイクルのため、売上高というプラス要因が、キャッシュにマイナスの影響を与える事になります。
この影響を算式化すると以下のとおり。
ここで算出されるパーセンテージが、売上高を増加させるときに必要なキャッシュの割合を示します。例えば、売上高売掛金等比率が20%だとすると、売上高を1万円増加させるために、事前に2千円の運転資金が必要になるのです。
【ステップ2】売上高留保利益率を計算する
留保した利益から成長のためのキャッシュを捻出するのであれば、売上高に応じてどの程度の利益が留保されるのかを確認する必要があります(ここでいう留保利益は税引き後利益)。
これを算式化すると以下のとおり。
ここで算出されるパーセンテージが、売上高に応じて留保される利益の割合を示します。
【ステップ3】売上高増加率を計算する
成長均衡は、売上高の増加率に応じて決まってくるので、ここが最も重要です。
これを算式化すると以下のとおり。
ちなみに上記算式は当期の実際の増加率を求める場合となります。増加率を将来の予測として計算する場合は、単純に10%というような決め方で問題ありません。
【ステップ4】成長均衡を計算する
最後に成長均衡の算式は以下のとおり。
上記1から3までのステップの結果が、以下のとおりであったと仮定します。
・売上高売掛金等比率 20%
・売上高留保利益率 1%
・売上高増加率 10%
これを上記算式に当てはめてみると、成長均衡率50%となります。
この成長均衡率50%の意味するところは、売上高を10%増加させるのに必要な資金のうち、留保利益では半分しかまかなえないという事です。つまり、売上高の増加率は5%が限度となります。
これが、“キャッシュを得るために成長を目指すのですが、キャッシュがないと成長できない”という成長均衡のジレンマです。
もちろん、営業キャッシュフローに与える要因はこれだけではありません。仕入債務や前受金等のプラス要因もあります。しかし、留保利益を全て運転資金に回せる企業などほとんどありません。むしろ、借入金の返済に大部分が消えてしまうのが現実です。そういう意味でも、成長均衡率については最低限100%を超える状態にしておく必要があります。
ここで、成長均衡率を改善するための手段は以下の3つになります。
・売上高増加率を下げる(=安定した運転資金水域まで抑制する)
・売上高留保利益率を上げる(=より多くの利益を残す)
・売上債権残高、棚卸残高を下げる(=回転率を高める)
売上高増加率を下げるという伝え方は語弊がありますが、キャッシュフローを重視して無理に売上高を増加させないという意味で捉えてください。これにより不良債権や不良在庫が増加してしまったら余計キャッシュフローが悪化してしまいますので。
売上高留保利益率を上げる点と、売上債権や棚卸を下げる点については、成長均衡にかかわらず常に改善すべき点になるので問題はないかと考えます。
そういう意味では、成長均衡を改善させるにつき何か特殊な事がある訳ではなく、当たり前の改善活動が成長を考慮したキャッシュフローにも好影響を与えるという事になります。
また、成長均衡を検討する上での注意点は以下の3つです。
・売上高が増加していない時には成長均衡は問題にならない(別の問題)
・節税によって留保利益率が下がっている場合はその分も考慮する
・過去の留保利益により多額のキャッシュを保有している場合には無視できる
成長均衡というくらいですから、衰退産業等のように今後の成長が見込めない場合は、成長に必要な資金という側面においてはあまり意味がないお話にはなります。
また、大きな節税対策を行っている場合、売上高留保利益率は本来あるべき姿よりも低く算定されます。中には、多額の役員報酬で節税しておきながら、「うちの会社にはお金がない! 運転資金が足りない!」とおっしゃる経営者がいらっしゃいますが、このような中小企業においては節税後のキャッシュを随時会社へ投入する事が求められます。
そして、成長均衡にかかわらず、過去の留保利益により多額の余剰資金を抱えている中小企業にとっては、「計算すると厳しいが、お金がたくさんあるので困らない」という状態になります。ですから、このような中小企業にとってもあまり意味がないお話になります。
利益が出ていればキャッシュが回るはずだと短絡的にお考えの方は少ないと思いますが、複雑化したキャッシュの流れを把握するのに困難を極めるというのも事実です。
「この会社、つい最近まで勢いがあったのに、何故急に伸び悩んだのだろう?」と財務諸表を分析すると、単にキャッシュが行き詰ったという笑えないケースも少なくありません。
成長均衡のみならず、キャッシュフローが悪いばかりに経営状態が改善されない中小企業が数多く存在します。キャッシュフローが複雑であるのならば、一つ一つをひも解いて原因を分析していく姿勢が、いち早く理解を深める事になると考えます。
どのような企業でも、最終的には、経営はキャッシュにつきますので。
住宅駆け込み特需に変化あり!?
消費税率アップによる、住宅の駆け込み特需ですが、どうやらその様相が変わってきました・・・。
消費税はH26.4月に8%へ、H27.10月に10%へ、と増税されます。
住宅取得への影響はとても大きいため、特例として、半年前(H25.9月)までに契約を済ませれば、完成自体がH26.4月以降だとしても、旧税率である5%が適用されます。
住宅取得を考えている消費者であれば、なんとしてでもH25.9月までに契約を済ませたいところです。
つまり、5%で取得するためのリミットが1年を切っており、(消費税増税が内定されてから、すでに多少の動きはありますが)住宅業界にとって本当の特需がこれから始まるのです。
「H25.9までは受注で忙しくなり、H26.4までは完工のオペレーションで忙しくなる。しかし、その後は・・・、どうなるのだろう?」
そのような思考が業界の常識だったのですが、そんな特需に“待った”をかける動きがあります。
国土交通省は9月に提出した『平成25年度税制改正要望』において、消費税増税の対応として「住宅取得に係る総合的な対策が必要」と記載し、前回の3%から5%へと増税になった時の経済的悪影響を説明しています。
「5%導入の特需として、平成8年における住宅着工は、対前年比+10%となったが、翌年は対前年比△17.7%、翌々年は対前年比△12%、と経済的悪影響を及ぼした。一時の税負担による影響を平準化するため、十分な対策を講ずる必要がある。」
本要望において具体的な対策案は明記されておりませんが、メインとなる対策は『住宅ローン控除』の拡充であり、(現行では2014年に縮小される予定ではありますが)どうやら反対方向に舵を切りそうな気配があります。
そのような動きを受け、みずほ総合研究所は、10月に『住宅ローン控除』の拡充と消費税率アップを天秤にかけた試算を行いました。
消費税率アップ後に住宅ローン控除が拡充される、という前提で試算を行い、年収500万円世帯で、消費税率アップによる影響が△75万円、住宅ローン控除拡充による影響が+206万円となり、トータル△5.2%の負担増(つまり、得するということ)
年収1,000万円世帯では、消費税率アップによる影響が△150万円、住宅ローン控除拡充による影響が+471万円となり、トータル△6.4%の負担増(同じく、得する)としています。
つまり、消費税率が上がることによるマイナスよりも、住宅ローン控除が拡充されることによるプラスが上回るため、むしろ、購入は待った方がいい、ということです。
ただし、前提となる住宅ローン控除の拡充条件が、
■対象借入残高の上限:4,000万円(現行3,000万円)
■減税期間:15年(現行10年)
■当初10年間の控除率:2%(現行1%)
■最大限税額:過去最大の1,000万円
となっており、どこまでの実現可能性があるのか疑問に思う部分もあります・・・。
また、年収500万円で住宅の取得価額2,500万円、年収1,000万円で取得価額5,000万円という前提を置いているので、そのような購入を決断される方は、弊社代表岡本が言うところの“マトリックスのあちら側の人”であることは間違いありません・・・。
ただし、すべての条件が揃えば、シミュレーションのようになることは間違いありませんから、今後の税制改正の動向を静観する必要があります。
まずは、今年も12月に公表されるであろう『平成25年度税制改正大綱』を待ち、消費税率アップと住宅関係の税制改正がどのような結末に至るのかを見守りましょう。
あなたはこの改正を信じますか?
『税務調査が新しくなります!』
ちょっと爽やかに言ってみましたが、実は中小企業にはとても恐ろしい話です。
一度でも税務調査を受けたことがある社長であれば、例え、何も見つからなかったとしても、あの精神的な苦痛と疲労は二度と味わいたくないと思うのが、税務調査ではないでしょうか?
その税務調査手続きが、昨年末の改正により、それぞれ次のように改正されました。
1.事前通知
従来、税務調査を行う場合の通知の取り扱いについては『事務運営指針』等の税務署内部の決まりに基づき実施されていましたが、以下の事項について事前に通知することが定められました。
これらの通知は『電話』によって口頭で行うこととされており、また、『○日以上前に通知する』ということが決められているものでもありません。
極端には、前日の連絡であっても『事前』であることには変わりありません。
さらに、所轄税務署の法令の運用上のルールを定めた『通達』において、調査日時の変更についての『合理的な理由』の例が示されており、それ以外の理由での調査日時変更が認められない可能性も考えられます。
2.無予告調査
今回の改正によってもっとも影響が大きいのが、『無予告調査』が正式に法令に定められたことです。
『調査の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあると認められる場合』には税務調査についての事前通知を要しないこととなっており、さらに、その『理由』について私たちに開示されるとは規定されておりません。
つまり、法令に無予告での調査の必要性が規定された以上、極端に言えば、調査官が『怪しい』と思えば、堂々と無予告調査ができるようになりました。
3.反面調査
反面調査に対する直接の規定はなく、よって、反面調査についての事前通知を規定したものもありません。
また、従来は『帳簿書類を検査することができる。』となっていたところから、『帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる。』と、その範囲が拡大しています。
4.物件の留め置き
調査官は必要があるときは、調査において提出された物件を留め置くことができることとされました。
これまでにも、調査官が調査において、社長の許可を得て帳簿書類を税務署に持ち帰るということは行われていましたが、税務署に持ち帰られると、大勢の目で、ゆっくりと資料を見られることから、否認事項がみつかる可能性が高く、断ることが多かった。
しかし、今後は、『必要がある』と言われた場合には、実質、持ち出しが断れなくなりました。
5.同一事業年度の『再調査』
従来は、一度、税務調査が行われ場合には、その事業年度については新たに調査対象となることはないと考える向きがありました。
しかし、今回の改正によって、『新たに得られた情報に照らし非違があると認められるとき』には、すでに調査が終了した事業年度について、再調査を行うことができることが明確に規定にされました。
これによって「前年までは調査が終わっているから大丈夫!」は無くなりました。
以上、中小企業の税務調査において特に関係するところだけをピックアップしてご紹介いたしましたが、今回の改正の問題はこれだけではありません。
『平成26年1月から記帳義務』の対象者が大幅に拡大され、事業所得、不動産所得又は山林所得がある方は、『白色申告者』であっても記帳義務が課されました。
国税や一部の専門家の間では、今回の改正は、『納税者の権利を守る』改正として、歓迎する向きもあるようですが、その実態は、税務署が税金を取りやすくするために、自分たちにとって都合のよい『税務手続』だけを『法令化』した感が拭えません。
みなさん、今後の税務調査の動向には十分ご注意ください。