経営分析の功罪

経営分析に幻想をいだいている経営者はたくさんいらっしゃいます。経営分析を行えば、自社が良くなるという幻想に・・・。
当然の事ですが、経営分析を行っただけでは何も変わりません。
特に、経営分析を自ら強く希望する方ほど、分析結果をお渡しした後の反応が薄いというのが現実です。そこには、経営分析をすごい魔法のように期待していたのに、フタを開けたら現実しか見えなかったというような感じさえあります。
現実が見えると、否定的な言動が多くなるというのが常なのでしょうか。しかし、経営分析による結果は、現実しか見えません・・・。
経営分析結果をお伝えしたときの経営者の反応は以下の二つに分かれます。
(1) 「へぇー」
(2) 「じゃあ、どうすればいい?」
■「へぇー」の経営者との会話
「へぇー。経営分析ってこんなものか・・・」
「そうですね。どの辺がこんなものとお考えですか?」
「これだけ見せられても、どうすればよいか分からないよね」
「例えば、貴社は限界利益率が他社に比べて低くなっております。この辺はいかがでしょうか?」
「他の企業と比較する事に意味ってあるの? やり方だって全然違うんだし・・・。ウチは大手の下請けだからどうにもならないんだよね」
とはいえ、目標経常利益率は10%だとおっしゃる。その数字も、過去の企業の経営分析から導き出されている数字ですよ・・・。
■「じゃあ、どうすればいい?」の経営者との会話
「なるほど。これがうちの分析指標だね・・・。」
「はい。いかがでしょう? 何か気になる点はございますか?」
「うーん。難しくてよく分からないが、限界利益率が他社に比べて低いのが気になるな。これを上げるにはどうすればいい?」
「一般的には、売上単価を引き上げる。仕入外注単価を引き下げる。限界利益率が高い商品の構成比率を高める。限界利益率が低い商品の構成比率を低くする。高付加価値商品を取り扱う。不採算事業から撤退する。等の方法がございます」
「君から見て、ウチは何を行うのが一番効果が高いと思う?」
このような経営者は、何を行えば良いのかをご自身で感覚的に分かっていて、なおかつ、このように聞いてきます。
さらに、“じゃあ、どうすればいい?”を何度も繰り返します。
■経営分析の現実と功罪
上記、二パターンの経営者の反応は極端なものですが、方向性としてはこのように分かれます。
繰り返しますが、経営分析は特別な結果を導き出すものではありません。単なる会計上の指標です。
ですから、会計の専門家ではない経営者にとって、経営分析指標が難しいものであるのは当然です。従って、その結果を見て、何かを思いつかなければならないと考える必要はありません。
“じゃあ、どうすればいい?”と、専門家との会話によって、ご自身の判断を行うためのヒントを引き出せばよいだけなのです。これは、社員との会話でも同じことです。
また、「経営分析って役に立つの?」と、経営分析を否定的に捉える方からご質問をいただくことがあります。
確かに、“役に立つか?”と言われれば、ケースバイケースですが、役に立たないという程のものではありません。教科書的なお手本しかない企業経営において、いわゆる通知表とも言える経営分析指標くらいしか、自社の状況を判断する材料がないのが現実だからです。
また、平均データと比較する事についての是非もあります。本来であれば、各業界の個別企業のデータを収集し、べき分布グラフにおいて、自社の業界内でのポジションを示すのが、真の意味での比較になります。

ここで勝ち負けが明確になれば比較する事の有効性も理解されるのですが、詳細な財務データが公表されている大企業と異なり、中小企業ではサンプルデータを集める事は非常に困難です。
とはいえ、平均データと比較しても意味がないと言い切れるのは、平均から大きく逸脱しているイレギュラーな企業のみです。平均付近に位置する企業は、平均を大きく超える事を目的に比較するという視点が重要と考えます。
もちろん、分析結果を基に状況判断をする事だけが正しい訳ではありません。また、経営者の直感は、良い意味で分析結果を裏切ります。ゲリラ戦略的な経営を行っている企業に、通常の経営分析指標など参考になりません。
分析指標は、使い方によっては大きな武器にもなりますが、分析指標を絶対視する事によって、自社の状況判断を誤らせる場合もあります。
あくまで手段であって、使う者、使い方によって、180度結果が異なる点において、功罪両面を併せ持つのです。
ちなみに、平均を20年、30年と続けると、いつの間にか優良企業に化けている場合があるという事実をご存じの方は多くはありません。
最後に、経営分析とは、以下の三段階で成り立っています。
(1) 収益構造や財務状況を構成比や比率で表し、自社の状態を把握する
(2) 構成費や比率で表した指標を、業界企業や同規模企業の指標と比較する
(3) 指標の比較結果から、改善する指標や全体のリバランスについて検討する
そして、当然ですが、経営分析を上手く使ったと言えるのは、三段階を経た後の改善行動をすぐに行う企業のみです。ちなみに、すぐに行動に移す経営者は、“じゃあ、どうすればいい?”の経営者の中ですら、2割しかおりません。

消費税増税の裏効果をご存じですか?

来年4月からの消費税増税を前に、
中小企業者において消費税増税分を
価格に上乗せしやすくするため、大手小売業者の『消費税還元』などを
銘打った特価セールを禁止する臨時措置が話題となりました。
この臨時措置では、本来、消費者が負担すべき消費税増税分を値引き
したり、ポイント還元したりしていると解釈できる広告や宣伝を
禁止しています。
これらは中小企業の消費税増税による価格への転嫁を促進するための
対応として政府が決めたことですが、はっきり言ってありがた迷惑です。
そんな、ありがた迷惑な臨時措置ですが、一つだけ私たちにとって
とっておきの裏効果が隠れていました。
それが、『総額表示の特例措置』です。
総額表示とは、平成16年に導入された制度で、消費税を含んだ支払総額
で価格の表示することを定めた法律です。

この法律の施工前に、私は地元の商工会などで何度か講演の依頼を受け、
その度に、これは大事だと話をしていたのです、私の話し方がよくなかった
のか参加されていた皆さんはあまりピンときていませんでした(汗)
例えば、現在120円の缶ジュースは8%増税後いくらになるのでしょうか?
理論上は123円42銭です。
※120円÷1.05×1.08
ところがいうまでもなく自動販売機には1円、5円は使えません。
その結果、以前100円だった缶ジュースは、消費税が導入されたときには103円ではなく
110円となりました。
その後、消費税が3%から5%に引き上げられると、115.円ではなく、120円となりました。
それは何故か?
3%の価格アップでは事務コストすら賄えなかったからです。
これは便乗値上げではありません。
適正な利益を維持するための『価格改定』です。
ところが、価格改定の際にネックになってくるのが総額表示です。
改定後の価格に消費税増税分を乗せて表示をしなければならないため
一般の消費者に与える『割高感』は絶大です。
消費者からは、すぐに「便乗値上げだ!」と言われてしまいます。
現に、総額表示が導入されたときには、見た目で値上がりした印象が強く影響し、
一般消費者が買い物にいく機会が多いスーパーなどでは売り上げの減少が
みられました。
そのため、国は昔きめた法律を曲げる臨時措置をつくったのです。
この臨時措置によって新たに認められることとなった表示方法は
次のとおりです。

これらの表示方法は10月1日以降に解禁となります。
これによって、従来、税金によって割高感を与えていた商品等について
次のように表示することができるようになりました。

ただし、この措置を利用し税抜価格で表示した場合には、
『できるだけ速やかに』総額表示をするように努めなければならないとしています。
どの程度努めればいいのでしょうか?(笑)
皆さんはこの機会を逃していつ価格改定に手をつけますか?

意外と知らない、出向者の社会保険とその影響!?

ねえねえ、「出向者の社会保険はどうしたらいいの?」
最近よくあるご質問の1つです。
そこで、今回はこの取り扱いについて簡単にご説明します。
★ 在籍出向
通常よくある出向の形です。
書いて字のごとく、籍は出向元に置いたまま、出向先で勤務するものです。
この場合には、いわゆる労働契約が出向元と出向先の両者で成立していることになります。
よって保険関係の適用はその使用者の責任の所在や、その給与の支払形態によって変わってくることになります。
★ 労災保険は?
まず、労災保険は実際に勤務をしている場所、すなわち出向先で適用することになります。
また、もし給与に出向元からも支払われるものがあれば合算して適用します。
★ 雇用保険は?
雇用関係は、出向元か出向先のいずれかにしか成立しません。
よって、いずれかのうち生活をするため必要な主な給与を支払う側での適用になります。
ちなみに、先のような給与の合算はありません。
■保険別の適用一覧
保険種類        適用先
労災保険   →    出向先
雇用保険   →    主たる給与の支払事務所
社会保険(健保・厚生)→ 給与の支払い事務所(一定の場合には保険者を選択)
★ 社会保険は?
健康保険や厚生年金の社会保険ですが、これは直接給与を支払うほうでの適用になります。
よって、勤務先が出向先でも給与は出向元が直接支払う、そんな時は出向元で適用することになります。(あくまで「支払う」ことであり双方の給与の負担は関係ありません)
★ 出向元、出向先の2か所から直接支給される場合は?
この場合には双方に使用関係が存在しることになるので、双方の会社において被保険者となってしまいます。
そこで、保険の二重加入を避けるため保険者を「選択」して、双方からの給与を合算して保険料を決定します。要は、従業員さんがいずれかを選択して、合算給与で適用することになります。
■給与の支払元と社会保険の関係
給与の支払元              適用関係
出向元で全額を支給       →   出向元で適用
出向先で全額を支給       →   出向先で適用
出向元・出向先から双方で支給  →   従業員が選択していずれかで適用
以上のように、
・直接支払うのはどちらなのか
・主な支給はどちらなのか
・支給に関わらず、勤務するのはどちらか
などによって保険の適用が変わってくることがわかります。
これを経営者の視点からみると、
例えば社会保険の適用は経費負担の面などから・・
・出向先でしたい
・出向元でしたい
また、給与自体の負担も
・出向先でしたい
・出向元でしたい
・双方でしたい
と、様々であることが考えられます。
そうすると・・・
例えば、「社会保険は出向先で適用したいので、給与は出向先から支給しないといけないな・・」
「しかし、給与の負担は出向元からもしたいので・・・双方から給与の支給をしてしまうと、社会保険の適用は従業員の選択になってしまうから・・」
「では、負担分を出向元から出向先へ「給与負担金」として直接支払って、給与自体は出向先から本人へ支払おう」ということになるのです。
会社を複数お持ちの経営者の場合には、この辺も知っておかないと人事の際の経費負担が
思わぬ結果となることもあるのです。
さらに、実際の給与の支給とその負担の関係や金額などによっては・・・
実は法人税法上の取り扱いも異なってきます。この辺はまた次の機会にお伝えしようと思います。
最近は建設業を中心に、社会保険の加入状況の現地調査、加入状況による下請けの規制など、厳しさが増大しています。
人事が思わぬ方向にならないよう・・気を付けたいものです。
【注:上記において、概要をお伝えするために、細かい規定部分は省略していますのでご了承ください。】

通達は法律ではない!

税金。私達は何を根拠に税金を納めなければならないのでしょうか。
ほぼ100%の人がこう答えるのではないでしょうか。「法律」
競馬の払戻金を一切申告せず、約5億7千万円を脱税したとして所得税法違反罪に問われている元会社員男性の判決が5月23日にありました。大きく報道されていましたので競馬ファン以外の方でも、ご存知の方が多いのではないのでしょうか。
長年競馬をやっていらっしゃる方でも、意外と知らない方が多いのですが、会社員の場合、給与以外の所得が20万円を超えると確定申告する必要があり、競馬の払戻金もその対象です。この元会社員の男性は競馬による所得、つまり収入から経費を差し引いた額が20万円を超えていましたので、申告して納税する必要があったのです。
この男性は競馬の所得を申告していませんでしたので、有罪になるのは仕方ありません。
しかし、今回の裁判で大きく議論の対象となった点は別にあります。それは「所得区分」の問題です。
所得税法では、個人の所得は「給与所得」「事業所得」など10種類に分けられており、どの所得区分に当てはまるかで所得の計算方法が異なります。馬券の払戻金については、“一応”「一時所得」とされています。
ここでは計算方法等の詳細は省きますが、今回のケースが検察側が主張するように「一時所得」であるとすると、認められる経費は当り馬券代だけになり、結果として脱税額は5億7千万円となります。
しかし、今回の大阪地裁が出した判決では、「一時所得」ではなく、男性の馬券購入を“営利を目的とする継続的行為”としてFX取引や先物取引と同じ「雑所得」に当ると判断しました。「雑所得」であれば、外れ馬券代や男性が開発した独自の競馬予想システムの運営コストなども含めて必要経費として認められます。その為、脱税額は約5200万円と結論づけられました。
うん?だって競馬の払戻金って「一時所得」決まっているんじゃないの?
そんな疑問がわいてきませんか?
実は競馬の払戻金は「一時所得」であるなどという事は法律には一切書かれていないのです。ですので先程、馬券の払戻金は“一応”「一時所得」とされている。と書いたのです。
法律に記載がないのに、どうして競馬の払戻金は「一時所得」とされているのか。実は「所得税法基本通達」というものに、その記載があるのです。
≪所得税法基本通達34-1(一時所得の例示)≫
次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等
この「通達」、「法律」ではありません。
分かり易く言うと国税庁長官が部下である税務署職員に対して法律について「こう解釈しなさい」と命令する文章なのです。
つまり、「通達」は言わば“内部の決まりごと”のようなものであって本来、法的拘束力は一切ないはずなのです。しかし、税務署は通達に従って税務行政を執行しますので、結果として事実上、限りなく法律に近い拘束力を持ってしまっているのです。
また、通達の前文にはこのようにも書かれています。
≪所得税法基本通達 前文より抜粋≫
この通達の具体的な適用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたい。
つまり今回のケースのように「馬券収入=一時所得」と杓子定規に判断してはいけません、様々な事象を勘案して、総合的に判断しなさい、と書かれているのです。
日本では実質的に通達が法律に近い効力を持ってしまっている事も事実ですが、通達による判断がひっくり返った今回の裁判を通して、通達はあくまで通達であって法的効力は無いということが分かります。
とはいえ、通達に記載がある以上、税務署側は必ず通達に沿った解釈、取扱いを行いますので、納税者が通達に反した解釈をすることは、それなりのリスクを覚悟しなければなりません。しかし、様々なケースがある税務において、通達に沿って解釈する事が必ずしも正しい判断であるとは言えず、通達に反した納税者の主張が認められる可能性があるということも事実です。
通達を根拠に課税されそうになっても簡単に諦めてはいけません。
しつこいようですが、「通達」は「法律」ではないのです。
ちなみにこの事件、先日、検察側が控訴しましたので、判断が更にひっくり返る可能性もあります。今後の判断も気になるところです。

適正規模とは-その2-

このまま大きくなるのが良いことか?
「売上高も社員数も毎年増えている。しかし、利益が出ない。このままで良いのだろうか・・・」
これは、設立5年から10年くらいの若い企業に多い現象です。会社は大きくなっているのに、借入金に頼る構造からは抜け出せない。しかも、増加する運転資金で精いっぱいで、設備投資資金を借り入れる余裕がありません。
構造でいえば、『社員数 = 売上高』のモデルであるとしても、『社員数 = 利益』または『売上高 = 利益』のモデルではないということです。
この問題も企業の規模と密接に関係しています。経営者にしてみれば、利益が出ないのは何かの規模がおかしいのではないかという疑念が生じてくるからです。
では、何がおかしいのでしょうか?
問題を単純化するために、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下、PPM)で考えてみます。

ご存じのように、PPMの図で利益を上げることが出来るのは、「金のなる木」のポジションです。しかし、売上高や社員数が増加しているにもかかわらず利益が出ない企業というのは、「花形」のポジションにいることになります。
もちろん、今は「花形」にいるけれども、もうすぐ「金のなる木」のポジションに突入出来るという場合は問題ありません。
しかし、『社員数 = 売上高』となっている企業というのは、「花形」からいつまでたっても抜け出せないのです。そして、社員数が減少に転じると、いきなり「負け犬」のポジションに向かってしまいます。
本来、「花形」で投入する費用は、広告費等の変動費性が高いものです。ダメだったら他に振り向けるだけ。ですが、このような企業の場合、社員を投入しているため、ダメだったら他に振り向けるということも出来ません。
企業の要は人材ですし、社員数を増やすことは必要です。ですが、社員は利益を押し上げるために増やすのであって、売上高を押し上げるために増やすのは避けなければなりません。
以上、ここまでお伝えすると、このような企業は社員数の規模がおかしいという結論に達します。しかし、『社員数 = 売上高』となっているため、同時に売上高の規模もおかしいということにもなってしまいます。
ですが、本当は社員数や売上高の規模自体よりも、企業の規模に対しての“仕組みの規模”が問題だということに気づく必要があります。
つまり、戦略、マーケティング、社員の人員配置や業務の進め方等、裏側の仕組みの規模が適正ではないのです。
こうなってくると会計だけでは解決出来る問題ではないので非常に難しいのですが、このままではいつまでたっても利益体質にならないということは容易に想像が出来ます。
従って、表向きの売上高や社員数、利益等の規模が適正か否かを検討すると同時に、その裏側の仕組みの規模についても適正か否かを意識しなければなりません。
極端な話、お金を使えば、どんな企業でも「花形」にはたどりつけます。しかし、「金のなる木」にたどりつける企業は、仕組みの適正化が全てです。
また、その企業にとって、経営者が目指したい規模と本来適正な規模が異なってきた場合、企業の収益構造にまでズレが生じて崩壊する可能性があります。
「自分の経営者としての器は、この会社の規模にとって適正なのか?」
これは、今までで一番印象を受けた二代目経営者の言葉です。この方がこのように自問自答されている限り、おかしな方向に向かう可能性は少ないでしょう。ですが、これが経営者の本音かと衝撃を受けました。
企業にとって、経営者にとって、社員にとって・・・。適正な基準というのは人それぞれですが、リスクが高い中小企業の経営者にとって、常に意識しなければならないことの一つであるとは考えます。

なぜ、あのコストだけ手付かずになるのか?

社長:「笹川先生、ちょっと相談があるんですが・・」
笹川:「どうされました?」
社長:「いつも労務関係の仕事をお願いしている社労士さんが、月額1万円での顧問契約をお願いできないかと言ってきてるんですが。」
笹川:「それで、社長はどうされるんですか?」
社長:「今、お願いしている仕事は算定基礎と労働保険の申告だけですから、それだけなら年間12万円もかからないんですよ。」
笹川:「それであれば、(顧問契約は)必要ありませんよね?」
社長:「そうなんですが、何か(顧問契約した方が)いいことがあるんでしょうか?」


長引く不況による業績低迷の中、多くの中小企業がコスト削減に取り組んでいます。
私の仕事柄お客様より、よく求められるアドバイスの一つに「ウチは他とくらべて、このコストが多く掛かっているから、改善が必要なものはありますか?」というものがあります。
少しでも余分なコストは削減し、業績を維持しようと努力する経営者の切実な思いが伝わってきます。
ところが、経営者の思いとは裏腹に間違ったコスト削減が行われていることが少なくありません。
コスト削減という言葉から最初にイメージをするのは、水道光熱費や事務用品の無駄遣いを無くしたり、飲み会の回数を減らす等の『節約』によるものです。
これらがまったく効果がないとは言いませんし、電力を大量に消費する業種であればその効果は非常に大きなものとなりますが、一般的には、それほど大きな効果があるわけでもなく、ただ単に従業員の士気を下げてしまうのが関の山です。
では、どのようなコストを削減すればよいのでしょうか?
一つは、いうまでもなく『仕入』や『運賃』『外注費』などの売り上げの増加に伴い増える経費で、これらは『変動費』といわれます。
ビジネスは売り上げから、これらの変動費を差し引いた限界利益をいかにして最大にするかを追求するものですから、これを考えない経営者はいるはずがないと思うのですが、現実にはそうでもありません。
下の図表をご覧ください。
これは、利益増大の方策について難易度と成長性の関係をあらわしたマトリクスです。

変動費の改善は、仕入先との交渉が必要となり軋轢を生ずるため、多くの経営者が手を付けることに躊躇するのです。
しかし、仕入等の変動費はひとたび下げることに成功すれば、その効果は売り上げ増加につれて次第に増大していくため、もっとも気を付けなければならないコスト削減です。
では、変動費とは反対に売り上げが上がろうが下がろうと変動しない経費はどうでしょうか?
これは『固定費』と呼ばれ一般的に行われるコスト削減がこれです。
そしてコスト削減の視点からみた場合、固定費は次のマトリクスによって分類することが可能です。
これは、固定費を継続性と売上貢献性の関係をあらわしたマトリクスです。

このマトリクスのなかでもっとも削減しなければいけないコストは、売上への貢献度が低く、かつ、支出が継続的に行われている左上の区分に属するものです。
ビジネスにおいてコストの考え方は、例外なく、投下額以上の価値を生むものか、ビジネスの遂行上やむを得ない支出に限定されなければなりません。
例えば、事務用品は左上に該当するコストであるため、削減が必要なコストであることは間違いありませんが、その影響額と従業員の士気に与える影響を勘案する必要があります。
また、水道光熱費については店舗や設備の電力もあるため削減にあたっては一考の余地があります。
それでは、冒頭の経営者の相談にあった社労士の顧問料はどうでしょうか?
従来、必要な手続きのコストを支払っていて何の問題もなくビジネスをやってこれたものを、顧問契約にかえて、毎月決まったコストを支払うことにどのような利益があるのでしょうか?
考えるまでもありません。
そこに利益はありません。
「これだけお願い」と専門家に頼んでいる場合には、専門家は頼まれたことしかしません。
しかし、顧問契約をしている場合には、スポットで業務をお願いする以上の期待がそこにはあるはずです。
しかし、その期待こそが経営者の心の弱さであり、一方的な妄想であるといっても過言ではありません。
ところが、多くの経営者が妄想に取りつかれ意味のないコストを支払続けています。売上貢献度が無く、かつ継続的に支出されながら、まったくの手付かずできているコスト、それは税理士や会計士に支払っている顧問料です。
社労士や弁護士、司法書士の顧問料はなくても、税理士の顧問料はほとんどの会社で出てきています。
しかも、そのコスト削減は最後まで手付かずにされているのが現実です。
それは何故か?
それは、会社にとってもっとも重要なお金の部分やプライベートの部分まで見られているという勘違いによる負い目からきているものです。
本当に税理士、会計士への顧問料はそこまで削減を留まる価値があるものでしょうか?
私はこう考えています。
私たち専門家の顧問料とは、観客が歌舞伎役者などに渡す『御捻り』のようなものだと。
私は顧問料をいただいているお客様にその顧問料以上の貢献をするために、常にお客様のことを意識し、何かお客様のお役に立てる情報があればすぐに連絡をするようにしています。
また、社長が実現したいといったことは最大限の知識と智恵を絞ってそれを実現するための方法を考えます。
それが私がお客様から頂いている顧問料の意味です。
みなさんの顧問税理士は会社のためにまたは社長のために、顧問料以上の価値を提供してくれているでしょうか?
もしも、顧問料以上の価値がない顧問税理士であれば、すぐに顧問契約は解除し、申告書の作成だけを依頼するべきです。
そのうえで、本当に相談のできる税理士に顧問を依頼をすべきです。
弊社では、税理士のセカンドオピニオンサービスを提供しています。
今の顧問税理士に違和感のある方は一度弊社のサービスをご覧になってみてください。

にわか専門家のアドバイスにはご用心!

今年の税制改正で『相続税』の取り扱いが大きく変わりました。
みなさんにとってはそれほど大きな関心事では
ないかもしれません。
しかし、私たち専門家の中には、今回の改正を
ビジネスチャンスとばかりに鼻息を荒くしている人たちが
たくさんいます。
その結果、自信をもって間違ったアドバイスを行う
“なんちゃって専門家”が出没していますのでご注意ください。
先日も私のところにこんな相談がありました。
相談者は30歳前後の青年です。
相談の内容は少し変えてお話いたしますが、概略は
次のとおりです。
寝たきりで痴呆になった父親と相談者の長男の二人暮らしで、
兄弟はいないとのこと。
奥さんは以前にお亡くなりになっていました。
痴呆といってもいわゆる”まだら呆け”の状態で、
調子がいいときには言う事もしっかりしているとの
ことでした。
このまま痴呆が進んでしまうと、いざというときに
銀行からお金も引き出すことができなくなってしまうという
ことで、銀行員と税理士のアドバイスにより『成年後見』の手続きを
行ったとのことでした。
成年後見とは。判断能力を失った人のかわりとなって
『後見人』が身の回りの世話の手配や財産管理を行うという
ものです。
そして、今回はその後見人に長男がなっていました。
その後しばらくすると入院費もかさむようになり、父親の年金に
長男の稼ぎを足しても生活費がままならない状態となり、生活保護を
受けることを考えているとのことでした。
そこで、今回の相談となった訳ですが、相談の内容は以下の通りです。
「生活保護を受ける前に自宅の土地建物を私(長男)の名義に
変更したいのですが、父親から生前贈与は受けられますか?」
結論から申し上げますと、後見人(長男)は被後見人(父親)に代わって
法律行為をすることができますが、『自己取引』となる取引は行う
ことができません。
被後見人の財産を後見人自身に贈与することはその代表例です。
つまり、成年後見制度は被後見人の保護に限定した財産管理しか
行えないため、相続対策の点から見たら絶対に使ってはいけない
制度です。
一たび家庭に法律や裁判所を持ち込んでしまえば、何も自由が
きかなくなってしまうのです。
今回のように、目先の問題にのみ囚われて、浅知恵のアドバイスを
受けてしまうと思わぬしっぺ返しを受けてしまうことがあります。
みなさんもにわか専門家のアドバイスにはご注意ください。
ちなみに、ご自宅のある地域の不動産の状況にもよりますが、
田舎にある二束三文の自宅の土地建物については、生活保護を
受けるにあたって必ずしも処分が必要とされない場合もあります。

悪い税理士

「先生の事務所は、“経営革新等支援機関”ですか?」
この質問は、悪い税理士をあぶり出すための強烈な踏み絵となります。
経営革新等支援機関とは、税務や金融に関する知識や支援経験が一定レベル以上の法人・個人として、国から認定された機関のことをいいます。
(以下『認定機関』。)
その認定機関と付き合うことで、中小企業は、信用保証料の引き下げや、特別償却・税額控除など、様々なメリットを受けることができます。
それでは、具体的にどの位のメリットを享受できるのか、特別償却・税額控除を例として説明していきます。
H25年度の税制改正で、『商業・サービス業・農林水産業活性化税制』が創設されました。 この制度は、認定機関のアドバイスによって取得した固定資産(建物付属設備60万円以上、器具備品30万円以上)について、30%の特別償却または7%の税額控除を認めるものです。
例えば、100万円の設備投資を行い、税額控除を受ければ7万円の節税となります。
200万円の設備投資であれば、14万円の節税です。
このように、付き合っている税理士が認定機関か否かによって、会社に残るキャッシュが変わるのです。
「それにしても、その僅かな節税額だけで、悪い税理士を判断するというのは大袈裟ではないか?」
そのような疑問を持たれた方もいるかもしれません。
確かに、『私(お客様)を大切にしてくれる、様々な情報を教えてくれる、単純に馬があう』など、目に見える節税額よりも大事なことはたくさんありますし、むしろ、そのような定性的な部分を重視して税理士の善し悪しを判断したいものです。
では、なぜ私が今回の認定制度を踏み絵と言い切るのか?
それは、認定機関の認定を受けることが、容易だからです。
もしも、この認定制度自体が高いハードルであり、認定を受けることが難しいのであれば、様々な理由から認定を受けていない税理士がいることでしょう。
「先生は、腕はいいのだが、商売っ気の無さから企業規模を拡大せず、規模基準によって認定から外れた。」
「先生は、納税者第一の信念で、税務調査でも果敢に闘う。その姿勢が(国から見れば)仇となって、国の認定審査において外れてしまった。」
等々。
しかし、繰り返しますが、認定機関の認定を受けることは簡単なのです。
上記のような理由で認定から外れることはあり得ません。
認定を受けている税理士と受けていない税理士の違いは何か、と言われれば、『申請をおこなったか否か』、ただそれだけなのです。
もう少し言うならば、『申請をおこなっていない=仕事を放棄している』と言ってもいいかもしれません。
認定制度が施行されたH24年8月段階で、信用保証料ディスカウントの話は漏れ伝わっていました。
H25年1月に発表された税制改正大綱において、特別償却・税額控除の制度は明記されておりました。
(新聞報道レベルの話ですから、情報リテラシー云々は関係ありません。)
にもかかわらず、平成25年4月26日現在で、認定機関は8,165機関しかありません・・・。(税理士登録者数は73,725人)
認定機関の中には金融機関や、弁護士・会計士も含まれており、また、(分母となる)税理士登録者数の中には勤務税理士が含まれているため正確な数字は算定できませんが、おそらく、認定を受けている税理士は全体の10%~20%といったところでしょう。
認定を受けていない(つまり、申請を怠けている)ことにより、節税できなかった金額について、その税理士はどう言い訳するのでしょうか?
私は、新聞報道レベルの情報も活用できず、お客様の懐を痛めている税理士は、悪い税理士だと思います。
「先生の事務所は、“経営革新等支援機関”ですか?」
私が経営者であれば、必ずこの質問をおこないますね・・・。
※弊社エー・アンド・パートナーズ税理士法人は、認定経営革新等支援機関です。

消費税、5%のつもりが8%に?!

みなさんは、消費税の改正前の日付の契約でも税金の計算上は「8%」になってしまうことがあるのをご存知ですか?
ご存知のとおり、平成26年4月1日から消費税の税率が変わります。
しかし・・・
実は、取引の「契約日」とその「完成引渡日」によっては、税金の計算上の税率が変わってしまうのです。今回は便宜上、建設業等の「請負契約」を前提にお話しします。

出典:週刊税務通信NO.3250号より
簡単に図で見ると上記のようになります。
まず、平成25年10月1日が、ポイントになる日(指定日)です。
そして消費税率の変更の施行日は、ご存知のとおり平成26年4月1日です。
上記の図を見ると・・・
・「契約の日」が平成25年10月1日(指定日)の前か、あるいは、以後か
・「完成引渡日」は平成26年4月1日(施行日)の前か、あるいは、以後か
この2点によって税金計算上の税率が変わってくるのがわかります。
簡単にまとめるとこうなります。
(1)「契約の日」が平成25年10月1日(指定日)前の場合には、必ず5%になる
(2) 「完成引渡日」が平成26年4月1日(施行日)前の場合には、必ず5%になる
そして・・・
(3) 「契約の日」が平成25年10月1日(指定日)以後で、かつ、
「完成引渡日」が平成26年4月1日(施行日)以後の場合には、必ず8%になる
わかりやすく言えば、上記の(3)に該当する場合には、
たとえ契約書に「消費税5%×××円」と明記されていても、
税金計算上は「8%」になってしまう、ということです。
そこで・・・
★対策1 契約日を前倒しする
「契約日」が平成25年10月1日前後で、かつ、「完成引渡日」が平成26年4月1日前後になりそうな場合には、同年9月30日までに契約できるように調整するのです。「契約日」が前倒しできれば、必ず5%になるからです。
★対策2 契約金額を高めに設定する
「契約日」は平成25年10月1日以後であるが、「完成引渡日」が平成26年4月1日前後になりそうな場合には、そもそもの契約金額を、税率が「8%」の場合を想定して高めに設定するのです。仮に、施行日以降の「完成引渡日」になり8%税率が適用されてたとしても、その分の消費税の負担を避けるためです。
契約の本数が多い、あるいは契約金額が大きい、などの場合には、上記の対策をするだけでも、会社の損益・資金繰りにも大きな影響がでることがあります。
業界からのお達し等があり、事前に準備する方も多いかもしれませんが、
知らなかった場合には大きな損失になる可能性があるのです。
少し先の話のようですが、事前に出来る準備をして
自社にとって有利になるように進めましょう。
なお、今回は「請負工事」の前提でしたが、その他の業種の場合にも上記のような適用があります。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/shohi/201303.pdf
簡単なチラシですが参考にしてみてください。

「保険」と「お金」

「掛捨てなんてもったいない!損ですよ!貯蓄型保険が得ですよ!」こんな風に誰かに言われた経験ありませんか?でも、本当に貯蓄型の方が得なのでしょうか?考えてみましょう。
掛捨て保険は契約期間中に死亡や病気、ケガなどがなければ払った保険料は返ってきません。したがって保険料が割安です。これに対して保証に加えて貯蓄もでき、満期になれば満期保険金が受け取れ、一定の期間が経過していれば、解約すると払い込んだ保険料以上の解約返戻金が受け取れたりするのが貯蓄型保険になります。貯蓄型の保険としては終身保険、養老保険、個人年金保険などがあります。当然掛捨てに比べて保険料は高くなります。
予定利率という言葉をご存知でしょうか?予定利率とは保険会社があらかじめ約束する利率(運用利回り)の事です。つまり、この予定利率が高いほど元本となる保険料は安く済むわけです。
この予定利率、20年ほど前までは終身保険の場合、5.5%と高く、保証と貯蓄の両方の機能を兼ね備えていました。しかし、現在の予定利率は1.5%程度となっています。また、4月から金融庁が予定利率の目安となる標準利率を1.5%から1%に引き下げたため、保険会社各社も予定利率を引き下げます。ということは、保険料は上がり、貯蓄性はさらに低くなります。
貯蓄型という名前に惑わされてしまうことが少なくありませんが、どのような保険にも必ず掛捨ての部分があります。貯蓄型の場合、掛捨て部分に貯蓄分の保険料を上乗せするため、当たり前ですが高くなります。
予定利率が極めて低い今、要するに自分で貯めるか、割高な保険料を支払って保険会社に任せるかの違いになります。しかし、ここでの大きな違いは、その貯蓄したお金の“自由度”です。
当然、自分で貯蓄しているお金に関しては、いつでも自由に使うことができます。その資金を使って投資することも、急な予期せぬ出費にあてることもできます。
しかし、保険を使った貯蓄の場合、払込保険料以上の返戻金を受け取るには、一定期間以上、保険料を払い続けることが必要となります。何らかの理由でお金が必要になり、中途解約すれば保障を失い、さらに払い込んだ保険料の総額よりも少ない解約返戻金しか受け取れないといったこともあり得るのです。
保険の目的をいま一度考えてみましょう。やはりそれは万が一の時の「保障」でしょう。
20年前と現在では状況が全く違います。「保障」と「貯蓄」は分けて考えるべきなのです。
今回は個人の保険を取り上げましたが法人でも同じです。保険は本来、社長さんに万が一のことがあった時に、会社や家族を守るためなどに備えるものです。
節税を目的としても、それは結局“利益の繰延”でしかありませんし、何よりお金が出てしまいます。その時に税金を払わなくて済む代わりに保険料を払うことによって、お金はなくなります。
解約返戻率の高い保険であっても、返戻率のピークまではやはり一定期間以上の払い込みが必要で、その間お金の使い道は保険料の払い込みにロックされてしまい、投資にも、いざという時の使途にも回せません。退職金準備など、出口の戦略がきちんと出来ていれば、もちろん使い方によっては有効であることも事実ですが、今、目の前のお金が流出していくことも事実なのです。
ご存知のように中小企業の法人税率は随分下がりました。特に800万円までの所得であれば、所得の4分の1ほどの税金を払えば、残りの4分の3のお金は手元に残せます。残ったお金は貯蓄にしろ投資にしろ自由に使えるということです。
もちろんお金が出ない節税方法に関しては別ですが、800万円までの所得に対しては節税対策を講じる必要は無いと言っても過言ではありません。
800万円までは積極的に利益を出し、内部留保(貯蓄)を厚くして財務体質を強固なものにしましょう!