消費税増税による損得と納税の資金繰り!?

消費税の増税が始まりました。
お金の動きを日々経理されている会社さんでは、すでに8%での経理処理がはじまっていることでしょう。
増税の始まる直前の2月~3月には、お客様からは「消費税が5%の今のうちに、仕入れを沢山しておいたほうが得ですか?」というご質問をよく受けました。
みなさんもご承知のとおり、答えは「NO」です。
消費税は、所詮は国へ収める預かり金の収支ですので、結果的には支払う時点が違うだけ(仕入れで抑えられた消費税相当額は、後に納税で出ていきます)であり、損得はありません。
損得があるとすれば、消費税の納税義務がない事業者か、簡易課税方式という納付方法を選択している事業者さんだけでしょう。
もうひとつ、よくご質問のあるのが、【増税による納付額の増大と資金繰り】です。
消費税が5%から8%に上がるので当然に納税額は増えることになります。当り前ですが、理論上は1.6倍の納税が必要、ということになります。
では、次の決算時には昨年の決算期の1.6倍の納税資金が必要なのでしょうか。
決算期の1事業年度の間に、5%の税率と8%の税率が混在している場合や、5%であった事業年度にかかる消費税の「中間納付」をされている場合などでは、答えは「NO」です。
中間納付額は前年度の消費税の納付額をベースに(年1回の中間納付の場合には)、その1/2が納付額として計算されます。従って、決算時に必要な納税額は前期の単なる1.6倍にならないということになります。

毎年の業績が同じであると仮定しても、上記のように思わぬ納税額となることが考えられます。
★資金繰り対策
(1)任意の中間申告制度
このような、納税者の資金繰りを圧迫し納付の滞納が懸念されることから、本来は中間納付の必要のない消費税の納付額の少額の事業者でも、任意で中間納付することで、決算時の資金繰りを緩和させる制度が創設されました。
税務署へ一定の届出書を提出することで、自主的に半期の中間納付ができるようになります。法人についてはH26.4.1以後の開始事業年度から、個人事業者はH27年分から適用できます。
(2)定期積金などの利用
非常にベタな方法ですが、納付見込額を毎月自動的に定期に積み立ててしまう方法があります。地味ですが効果は大きいものと考えます。
★損得と資金繰り
このように、増税による資金繰りは、特に改正直後の決算時には、想像以上に大きなインパクトになる可能性があります。
また、本来の資金繰りで言えば、適正に増税による転嫁がなされれば、理論上は資金繰りに影響はないという論点は存在します。
しかし、本来は預かりである消費税も運転資金として廻っているというのが、ほとんどの中小企業の実態です。
増税分を売上に転嫁できなくては、そこには間違いなく増税分を自己負担する【損】が発生します。さらに、前述の納税の資金繰りがやってきます。
そこで消費税の適正な転嫁、あるいは価格の見直し、そして、納税資金のための準備、この3つについて、早めの準備を行い増税の影響を乗り切っていただきたいと考えています。
この4月以降からでも、決して手遅れではありません。

税理士吠える!?

私のところに来られた相談者から聞いた話によれば、
「そんなことしたらスゴイ税金になるぞ!!」
税理士はそう言って吠えたのだそうです。
いったい税理士と相談者の間に何があったのでしょうか?
皆さんは『名義株』という言葉をご存じでしょうか?
言葉はご存じなくとも、字を見ていただければ、何のことかはおおよその察しがつくと思います。
その昔、株式会社の設立には7人の発起人(株主)が必要な時代がありました。
7人集まらなければ会社が作れなかったのです。
しかし、本当にお金をだすのは、オーナー社長だけで、あとは、親戚や知合いの名前を借りて、株主名簿に名前だけを載せておくということをしていた時代があるのです。
それによって生まれたのが『名義株』であり、名義株主です。
その他にも節税が温床となって、うまれた名義株もあります。
節税の世界にもトレンドがあります。
今では信じられないことですが、その昔、相続対策のとして『株式の分散』が勧められていた時代がありました。
これによって、実際には売買等が行われた事実がないにもかかわらず、株主名簿だけを書き換えるということが行われたのです。
ところが、最近では、中小企業の株式対策についてのトレンドは『分散から集中へ』です。
従来は何の問題視もされていなかった名義株ですが、会社法の改正以後、その存在が重要視されるようになり、一時は『モノ言う株主』という言葉も聞かれるようになりました。
つまり、会社経営は『税法』でするのではなく『会社法』で行うのだということです。
それでは、今まで重要視されてこなかった名義株が問題となってくるのはどういうときなのでしょうか?
それは、会社が儲かってきたときや、事業承継を意識したときです。
当初は一株数万円だった株価が、数十倍になっていることも珍しくありません。
そこで、本来の名義人である経営者は、名義株の名義を自分自身に戻そうということを考えるのですが、それに、今回の税理士が吠えたという訳です。
「そんなことをしたら贈与だから贈与税がかかる!」というのです。
つまり、税務上は、お金のやり取りがなく、株の名義変更が行われたときは、原則としてこれらの行為は贈与として取り扱われ、贈与税の認定がされるというのです。
しかし、これは名義株でない株の名義変更が行われた場合の話です。
名義株の名義変更は、『真正な名義回復』のための行為です。
そのためには、株式の真実の所有者が名義人以外の者であったことを証明することが必要です。
名義株の事実を証明するためのポイントは次の通りです。
・出資をした事実が、通帳等で判明するか。
・(株券を発行している場合)株券は誰が保管しているか。
・(配当が行われている場合)配当は誰が受取っているか。
・(配当が行われている場合)税務署に誰の名前で報告しているか。
・名義株主は株主であることの認識があるか。
・名義株主に株主総会の通知を出しているか。また、総会に出席していたか。
以上は、すべて状況証拠であり、間接証拠に過ぎません。
上記を裏付ける強力な証拠は、名義株主として登録されている本人から、『私は株主ではありません。』という“直接証拠”をとることです。
もちろん口頭ではなく、書面で残る証拠をとらなくてはいけません。
そのためにもっとも重要なことをいいます。
“死人に口なし”という状態になる前に、当事者が生きているうちに名義変更をしてしまうということです。
卑近な事例をお話いたします。
私の祖父が亡くなったとき、金庫の中にあった遺品の整理をしていると、地元では名前の知れた建設会社の決算書がでてきました。
決算書を見るとかなりの内部留保があり、株価もそこそこであることはすぐにわかりました。
すぐにその会社に連絡をとり、株主名簿に祖父の記載があるかの問い合わせをしました。
回答はすぐにあり、株主として記載されていることと、株数がわかりました。
ここでポイントになってくるのが、祖父が亡くなった今、この株が名義株なのか、それとも本当に祖父が出資したものなのかが、相続人にはわからないということです。
その後、相続による名義変更を申し出るとともに、変更後の株主名簿を送ってもらいました。
そこの社長さんからは、その後、何度か「株式を買い取らせていただきます。」という連絡をいただきましたが、その都度、「祖父から引き継いだものですので、大切に持たせていただきます・・」とご遠慮させていただいております。(笑)
皆さんの会社に将来問題となりそうな株主はいませんか?
株主が親族ばかりであれば安心ということは決してありません。
親族だからこそおこる問題もあります。
もしかしたらという目で、一度株主の点検をしてみてください。

それ、贈与ではありません。

「え!?贈与税がかからないのって年間110万円までなんですよね!?」
それはそうなのですが、実はそれ、そもそも「贈与」ではないんです。だから110万円に縛られる必要ないんですよ・・・
孫や子に贈る1人当たり1500万円までの教育資金について、贈与税が期間限定で非課税になる制度が、昨年4月から始まっていることはご存知の方が多いと思います。この制度が始まって以降、贈与について質問をいただく機会が増えていますので、皆さんの関心が高いことがわかります。
この制度、いわゆる“富裕層”にとっては複数のお孫さんに1500万円ずつ教育資金を贈与するなどすれば相続財産を一気に減少させることができるので、いくつか注意すべき点があるものの、基本的に有効な手段である場合が多いでしょう。
しかし、“準富裕層”とも言うべき比較的豊かな生活を送っている中流層の方々にとっては、この制度の利用にあたっては十分な検討が必要です。
なぜなら、これから始まる相続税増税の影響を心配して、教育資金の贈与税が非課税になる商品を使用して贈与をしたことによって、結果として自分自身の老後資金が不足気味になってしまうケースが少なくないからです。
そこには贈与税についての、ちょっとした理解不足があることも1つの要因です。贈与税を正しく理解すれば、教育資金贈与の非課税制度を使わなくても、可愛いお孫さんの教育を助け、手元の老後資金を確保しつつ、相続財産を無理なく減らしていくことが可能です。
前置きが長くなりましたが、今回は“贈与と扶養義務”についてのお話です。
贈与税については年間110万円までの基礎控除があり、贈与税がかからないことは、皆さんご存知の通りです。しかし、子供や孫にまとまったお金を渡しても、そもそも贈与にならない、つまり贈与でない以上、110万円に縛られる必要がない。そんな財産の渡し方があるのです。
親子や祖父母・孫といった親族間には、お互いに助け合う“扶養義務”があります。扶養義務とは言い換えれば生活の面倒を見る義務です。つまり、親が子供の生活費や教育費を負担しても、それは生活の面倒を見ているのであり“贈与”ではありません。同じように祖父母が孫の教育費を出しても扶養と見なされるのです。
例えば大学に進学した場合、初年度にかかる費用は入学金などもありますので贈与税の基礎控除額110万円を上回ることが多いでしょう。しかし前述したとおり、これを祖父母が負担したとしても、扶養義務による負担であり、そもそも贈与にはなりませんので、もちろん贈与税はかからないのです。ただし、大学4年分の学費をまとめて先渡しすれば、初年度の費用を除いて手元に貯蓄として残りますので、贈与と見なされてしまいますので注意が必要です。必要な金額を必要な時にその都度渡し、もらった側は使い切るのが鉄則なのです。
贈与にならない教育費は、塾代や教材費、部活や習い事など学校の授業料以外でも問題ありません。ただし、贈与に当らない生活費については通常必要と認められるものに限られますので、車などのぜいたく品は贈与と見なされます。
このように、扶養義務に着目して、お孫さんの生活費や教育費を必要な都度、必要な金額を援助してあげることによって、徐々にではありますが財産を減らしていくことができます。繰り返しになりますが、これは扶養義務による負担であり、贈与ではありませんので、年間110万円の基礎控除枠に縛られることもありません。またその都度、援助するかしないか、するのであれば、いくら援助するかについて検討・判断することができますので、自分自身の老後資金が不足するまで必要以上に財産を渡し過ぎてしまう危険性は無くなります。
納税者にとって魅力的に見える税制であっても、必ずしも自分自身に合った制度であるとは限りません。正しい知識と冷静な判断で、みなさんの財産を守りましょう。

起業大国、ニッポン!

日本は起業大国を目指すのだそうです。
先月、中小企業庁から2014年版『中小企業白書』が公表されました。
注目すべき程のものではありませんが、国が中小企業の現状と今後についてどのように考えているのか、参考になる場合もあります。
*ご興味のある方はこちらまで>>
その中で、国は起業“希望者”が急激に減少していることを憂い、開業率が低い理由として以下の3つの課題を伝えています。
1.起業意識
「教育制度が十分ではない」、「安定的な雇用を求める意識高い」、「起業を職業として認識しない」
2.起業後の生活・収入の不安定化
「生活が不安定になる不安」、「セーフティーネットがない」、「再就職が難しい」
3.起業に伴うコストや手続き
「起業に要する金銭的コストが高い」、「起業にかかる手続きが煩雑」
そして、「起業大国」に向けた3つの課題の対応策として以下を提言しています。
【課題1】起業意識の変革
対応策1 ⇒ 起業家教育
対応策2 ⇒ 起業に対する社会的評価の改革
【課題2】起業後の生活・収入の安定化
対応策1 ⇒ 起業のセーフティーネット
(1) 経営者保証のガイドラインの見直し
(2)小規模企業共済制度
(3)起業後の収入の安定化(失業保険)
対応策2 ⇒ 兼業・副業の促進
【課題3】起業に伴うコストや手続きの低減
対応策1 ⇒ 誰もが起業家応援社会の構築
対応策2 ⇒ 起業することでメリットのある仕組み
対応策3 ⇒ 起業に関する相談体制の拡充
実際に起業してきた皆さんは、これらの対応策を目にされて、どのように感じますでしょうか?
私個人的には、リスクが低ければ起業するという考え方は、ものすごく違和感があります。
そもそも、このようにリスクを低くしたとして、起業後に一体どれだけの方が食べていけるようになるのでしょうか?
しかも、ご丁寧に兼業・副業のアンケートまで採り、

(2014年版『中小企業白書』19頁)

フランスでは、近年これほどまでに起業数が増えているのだ!のダメ押し。

(2014年版『中小企業白書』19頁)

開業数が増えると潤うかもしれない税理士の息でも掛かっているのかと疑ってしまいます。
まず、フランスでの起業数の爆発的な増加は、2009年に導入された『個人事業主制度』が大きく影響しています。ここで詳しくは述べませんが、この制度は、税金や社会保障費を一定期間優遇することによって起業を促し、失業者対策や副業を奨励するためのものでした。そうしたところ、登録が簡単だったこともあり、失業者やサラリーマンが大勢起業したということです。
このフランスの制度が長期的に成功を収めるかどうかはまだ分かりませんが、日本も同じようなことを狙っているのかもしれません…。
とはいえ、起業数を増加させることによって弊害がない訳ではありません。フランスでも問題視されているのは、企業に勤める従業員を退職させ、個人事業主として起業させた上で同じ仕事をさせるという点です。
当然、安易に起業できる制度ができれば、正規雇用から非正規雇用へのシフトが問題視されたように、雇用から契約(事業者同士の)へのシフトが問題となってきます。お金も人もない起業者が、手っ取り早く仕事を取るには下請けが早いのですから。
おっ! そう考えると、中小企業白書の裏側には、大企業の思惑も見え隠れするのか…。
ちなみに、この10年間で、製造業の給与所得者数は265万人減少したのに対し、サービス業の給与所得者数は285万人増加。そして、平均給与は、製造業が2万円の微増に対し、サービス業は46万円の大幅減少とのこと(2014年版『中小企業白書』10頁)。
供給が減れば価格は上がり、供給が増えれば価格は下がるのは当然のこと…。
そうであるならば、起業者数が増えれば、一人当たりの平均所得が減るのも必然ではないでしょうか。
それで潤うのは、そのような起業者に仕事を頼む企業側だけのような気がします。
もちろん、起業が増えることによって、今まで想像もできなかった新しい物やサービスが誕生するかもしれません。ただし、前述したように、起業のリスクが低くなったから起業するというような方々から、そのような革新性のあるものが誕生するというのはあまり想像ができません。
さらに言えば、経営者からすると、兼業や副業に励んでいるような社員を雇いたいとは思わないのではないでしょうか。
働き方の多様化というのは必然的な流れとはいえ、それが構造的に低所得化を促しているとも言えます。
個人の働き方と同様に、企業の事業展開も多様化の様相を見せていますが、自社が抑えておくべきポイントを理解しておかないと知らぬ間に…ということになりかねないかもしれませんね。

社長、それ騙されてますよ!増税詐欺にご用心!

私がある企業様を訪問していると、応接ブースから社長と営業マンの商談が聞こえてきました。
営業:「社長、今ならまだ3月中に納品できますよ!」
営業:「4月以降になると、増税になりますから3%分損しますよ!」
社長:「どうせ買うなら今買ったほうが得だよな?」
営業:「間違いありません!」
営業:「単純計算で○○万円も得ですよ!」
増税前には、どこの会社でも交わされていたであろう、ありふれた会話です。
皆さんはこんな会話をし、そして設備や材料を購入しませんでしたか?
もし、そうなら騙されたという意味において、詐欺にあったのと同じです!
4月に入り、とうとう消費税の税率が8%となりました。
3月の最後の週末には、私の住む田舎でさえ、まとめ買いの人たちでごった返していました。
消費者にとっては、あと数日もすれば、一気に3%もの値上げになる訳ですから、当然のことです。
私もカミさんを説得できるこの絶好の機会を何とか利用しようと思いましたが、買うものが見つからず諦めました(泣)
世の中の消費者が増税前にまとめ買いをするように、一般消費者の誰もが持っている、この当たり前の認識につけ込んだ『悪徳営業』ともいえる行為が行われていいたことを皆さんはご存じでしょうか?
ただ、営業マンの中には、悪意ではなく、単に知識の欠落によって、善意で営業をされている方が多くいるのも事実です。
しかし、これこそ、私たちが消費税の納税の仕組みを知らないが故に引き起こされた、悲劇と言えます。
消費税の計算の仕組みを知っていれば、会社でこんな駆け込み買いをする必要がないことが分かります。
最初に、結論からお話いたします。
前回のメールマガジンにおいても簡単に触れたことですが、消費税は、原則として、売上に係る消費税から仕入・経費に係る消費税を控除した金額が納税額となるため、増税による消費税をちゃんと売上に転嫁できていれば、増税によって損益に影響がでることはありません。
図で示すと以下のとおりです。

以上のとおり、増税による損益への影響がないということがわかります。
ところで、請負工事等のように経過措置を適用し、販売側は5%の税率を適用し、それに係る材料仕入れ等は、新税率の8%が適用される場合があります。
この場合には、差額の3%分はやはり損になるのではないかとの疑問を持たれる社長さんが多いのですが、これについても下図のとおり、損益への影響はまったくないこととなります。

最後に、今までの話には例外が2つありますのでご注意ください。
一つは、簡易課税という方法によって消費税を計算している会社。
もう一つは、消費税を納めていない、売上高が1000万円未満の小規模会社。
これらの会社にとっては、増税分の消費税を控除できる機会がありませんので、一般消費者同様、まとめ買いをする意味はあると言えます。
また、損得には影響はありませんが、資金繰りに影響がでる場合があります。
粗利が極端に低い取引の場合、売上の消費税を5%しかもらっていないにもかかわらず、仕入れに係る消費税を8%で支払っている場合には、消費税が還付となるケースがあります。(上記、図を参照。)
この場合には、納付期限を迎えるまでの間、一時的に資金繰りが悪化することが考えられますのでご注意ください。
社長たるもの、あいまいな情報を鵜呑みにせず、消費者の頭と経営者のアタマの2つを上手く使い分けていくことが必要です。

セミナーメモ

現代経営の根幹は、収支の帳尻を合わせることと人を動かすこと

これ以上でも以下でもない

~岡本吏郎『組織コミュニケーションセミナー』~

ときどき、「伸び悩んでいるな…」と思う企業を目にします。これは、単純に業績が上がらないという意味ではなく、表面上受けるその企業の印象と、実際の収支にギャップを感じるという意味です。
つまり、もっと売上げが高くてもおかしくないし、もっと利益が出ていてもおかしくないと思われる企業です。
このような企業の経営者とお話しをすると、やることはやっていそうです。やることはやっていそうなのですが、最終的には、「でも、人がね…」という言葉を口にします。
逆に、表面上の印象と実際の収支が、良い意味でギャップがある企業も存在します。言葉は悪いですが、この企業がこれほどまでに…と驚いてしまいます。
そのような企業は、見栄えも何も気にせず、単に経営者が「でも、人がね…」と口にするような問題がないという印象です。
先日、自社主催の『組織コミュニケーションセミナー』に参加してきましたが、岡本が言うように、経営の根幹が「人を動かすこと」にあるのだとしたら、「動かされる人」の問題だけではなく、「動かす人」の問題もあり、より大きいのは「動かす人」の問題だということに改めて気付かされます。
私も、人事、コミュニケーション系のセミナーには色々参加してきましたが、ほとんどのセミナーが(コンサルタントが)、「組織の問題」をシステムや仕組みに落とし込むことによって解決させることを目的にしていました。
セミナーで紹介されるシステムや仕組みは、とてもロジカルで見栄えも耳障りもよく、まるで魔法のようなものに感じます。
しかし、実際にはそれで問題が解決する企業は数少なく、問題が解決しないにもかかわらず、システムや仕組みの運用に膨大な時間とコストが投入され続けます。
これは、システムや仕組みによって「動かされる人」をコントロールすることを目的にしていますが、「動かす人」=経営者本人のことを横に置いて解決を図ろうとしている限り、本当の問題は解決しないということがよく分かります。
とはいえ、外部から組織に何らかの刺激を与えることによって、問題を抱える社員を浮かび上がらせることには役立つかもしれません。これは、コンサルタントや経営者が意図していることではありませんが、システムや仕組みを導入することによって、業務がより複雑になり、それについて来れない又は反抗する社員が出てくるからです。
中小企業の場合、それでも救いがあるのが、やろうと思えば経営者はほとんど全ての社員に目が届くということです。つまり、経営者が社員の問題に気が付いて修正する機会があります。
そうなってくると、社員の問題を修正するには、「人を動かす」経営者自身の問題に気付かなければなりません。
以上、『組織コミュニケーションセミナー』にて、これらを自分の問題と照らし合わせました(苦笑)
私は「収支の帳尻」の専門家ですが、数字遊びをしていてもお客様の業績は良くなりません。
税理士の中には、経営計画やコンサルティングなどをお客様に提供すれば、お客様の問題は解決すると勘違いしている方々がたくさんいます。
そして、役に立たないと分かっていて、これらを提供している税理士もいます。
システムや仕組みに依存する経営が伸び悩むのは当然のことだとしたら、間違っても税理士がシステムや仕組みに依存させてしまうのだけは避けなければなりません。
大した人数を雇用していない税理士が、より大きな組織を運営するお客様に「人を動かす」経営の何たるかを語るなどおこがましいですから…。

経営者保証が外れる?

中小企業が金融機関から融資を受ける際、切っても切れないのが経営者の個人保証…。
まだ一般的ではないため、ご存じではない方も多いと思いますが、昨年末に『経営者保証に関するガイドライン』が公表され、2月1日から適用されました。
これを簡単に説明すると、経営者の個人保証について、

  1. 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
  2. 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
  3. 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援することを目的とするとのことです(経済産業省webサイトより)。
→ガイドラインはこちら
“朗報!”と言いたいところですが、当然ながら、これは法律ではありません。従いまして、これを取りまとめた研究会が“経営者保証に関する中小企業、経営者及び金融機関による対応についての自主的自律的な準則”(太線強調は筆者)と自ら言うように、経営者保証の取り扱いについて大きく何かが変わるわけではありません。
「残念ながら、御社では難しいですね…」と金融機関から言われれば、「はい、そうですか…」とならざるを得ません。
ただし、金融機関もこれを無視するわけにもいかず、各行のwebサイトを見れば、「尊重し、遵守する」との文言が記載されています。
つまり、「経営者保証を外して欲しい」と言わない手はないということです。そこから金融機関との交渉は始まります。
そして、ガイドラインには、経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、以下のような経営状況であることが求められるとしています(長文ですが引用します)。
■法人と経営者との関係の明確な区分・分離
主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。
また、こうした整備・運用の状況について、外部専門家(公認会計士、税理士等をいう。以下同じ。)による検証を実施し、その結果を、対象債権者に適切に開示することが望ましい。
■財務基盤の強化 経営者
保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
■財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。
なお、開示情報の信頼性の向上の観点から、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。
また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める。
中小企業において、法人と経営者の明確な分離というのが現実的には困難であるというのは金融機関も理解しています。ですから、各企業につき個別判断にならざるを得ません。ということは…、金融機関も相手を見ながら判断する場合もあるということです。
今までも、金融機関に粘り強く経営者保証を外して欲しい旨を持ち掛け、成功していた中小企業もあります。もちろん、ある程度の財務水準に達していてこその成果ではありますが、「経営者保証は外れないもの」と、そもそも交渉すらしていなければ成果は上げられません。
これは、融資は信用保証協会の保証が必要であって、プロパーでの融資は無理と決めつけているのと同じです。
「プロパーで融資を受けたい」と交渉すればよいだけであって、この程度でも中小企業ごとの対応に大きな差が出ます。これはそれ程難しいことではありません。
ガイドラインができた以上、今後は経営者保証を外すために財務状況を整備する中小企業も増えてくるでしょう。また、金融機関の選択において、経営者保証を外してくれるというのも大きな判断基準になり得ます。
では、経営者保証を外すための財務状況の整備はどうすればよいのか?
それこそ、企業ごとにやるべきことは異なるため、一概には言えませんし、金融機関ごとに基準が違うでしょうから、正解はありません。金融機関と交渉しつつ、顧問税理士とも対応を検討する必要があります。
法人と個人の税負担のバランスが大きく変化してきた以上、経営者保証なども考慮した上で節税等の対応も見直すことは、地味ですがとても重要なことです。
また、事業承継において、後継者にとっては経営者保証がネックとなる場合も見受けられますので、いずれにしても無視するには影響の大きい問題です。
ただし、経営者保証を外すにあたって、若干の利率上乗せを求められることも想定されるので、それならば経営者保証はあってもよいという方もいらっしゃるかもしれませんね。
これを機会に、今後の経営者保証について検討されてみてはいかがでしょうか?

消費税増税に関する注意点のポイント!!

消費税の増税も間もなくですね。
今回はこの時期でもお問い合わせの多い、増税に関する事業者の注意点についてお伝えます。
(1)消費税の転嫁拒否等の行為の禁止
平成26年4月1日以後の、継続的な取引を行っている事業者から受ける商品やサービスの供給に関して、次の4つの行為は禁止されています。

出典:日本商工会議所「消費税の転嫁対策特別措置法5つのポイント」より

このように、消費税の増税に関して増税分を価格に転嫁せず、不当にその分の負担を求めること等を禁止しています。仮にこのような不当な行為を受けた場合には、商工会議所、公正取引委員会、中小企業庁等の専用窓口で相談が受けることができ、これらの行為は取締の対象となります。
(2)消費税還元セールの禁止
平成26年4月1日以後に、自社の商品やサービスの広告等への表示に関して、「消費税」という単語を使用した、次のような表示が禁止されました。
これは、消費者に誤認を与えたり取引先への転嫁の阻害や買い叩きをしたりしないように、消費税に関連して安売りや広告を出すことを禁止したものです。
・消費税は転嫁しません!
・消費税還元!
・消費税は当社が負担!
・消費税分値下げ!
しかし、消費税とは関連しない内容での
・3%値下げセール!
・8%ポイントサービス!
など、たまたま率が同じになっただけのセール等は問題がないといわれています。
ポイントは、「消費税の還元」「増税に関連する相当分の値下げ」等の意味にとられない表示にすることが重要です。要は、消費税の転嫁はしなくてはならないのです。
(3)総額表示の義務が緩和され、「外税表示(税抜表示)」が認められます。
消費者(エンドユーザー)への価格表示に関して、事業者は「総額表示」すなわち税込価格での表示の義務があります。しかし、今後8%への増税後にも10%への増税も控えていることなどから、その表示上の煩雑さを考慮し、平成25年10月1日から「外税表示(税抜表示)」することが認められるようになりました。

出典:日本商工会議所「消費税の転嫁対策特別措置法5つのポイント」より

このように、税抜価格を前面に出すことで「値ごろ感」を強調する効果も期待できます。しかし、税抜価格であることを明確に表示しなければなりませんので注意が必要です。その価格が税込みなのか税抜きなのかわかりづらいような曖昧な表示は禁止されています。
また、消費税率を表示しないこの表示方法により将来10%に増税した場合でも、広告の版下等の変更なく対応が可能となります。
今回は消費税の増税に関連した注意点を3つ確認してみました。
特に(3)に関しては、売上高を構成する税抜き本体部分の見直し、要は、価格設定の見直しの機会にもなるものと考えています。
増税前の駆け込み需要もまもなく落ち着くことでしょう。
本当の勝負は4月以降です。今回取り上げた転嫁拒否等の不当な圧力も、既に水面下では行われているのかもしれません。
しかしこのような相手に屈することなく、価格設定の見直しも、是非とも出来る範囲で実行されてみてはいかがでしょうか。

印紙税、ちりも積もれば・・・

一見、地味~な改正ですが、年間を通して考えると業種によっては馬鹿にできないインパクトがある改正が4月1日から適用されます。その地味さからか、事業を営んでいる方ほとんど全ての方に関連する改正にも関わらず、あまり話題になっていないため、まだご存知で無い方もいらっしゃるようです。
この改正、領収証等に係る印紙税の非課税範囲の拡大です。
現在、『金銭又は有価証券の受取書』(領収証等)については、記載された受取金額が3万円未満のものが非課税とされていますが、平成26年4月1日以降に作成されるものについては、受取金額が5万円未満のものについて非課税となります。
とても地味な減税改正ですが、意外と馬鹿にできません。3~5万円程度の代金を受け取り、領収証を発行する取引は業種によってはかなりあるはずです。該当する取引1件当たりの減税額は200円にすぎませんが、該当取引が1日に5件、営業日を年間300日とすれば年間30万円の減税です。くれぐれも4月以降、5万円未満の領収証に印紙を貼ってしまうことのないように気をつけてください。
改正についてはさておき、東京スター銀行が税務調査を受け、印紙税2億1千万円の納付漏れを申告していたという記事が1月22日の日経新聞に掲載されていました。ちなみに過怠税、約2億3500万円が追徴されたとのことです。
東京スター銀行によれば、同行は住宅ローンの融資承認をした際、「審査結果のお知らせ」と記した文書を顧客に郵送していましたが、契約手続きの案内文書に過ぎず、印紙は必要ないと判断し、収入印紙を貼っていなかったとのことです。
しかし、国税局は“融資承認を示す文言”の記載があるため、過去3年間に郵送した文書約1万1500通について印紙税が課される「消費貸借契約書」に該当すると判断したようです。つまり、その文言があったが故に課税文書に該当してしまっていたのです。
これ以降、東京スター銀行は税務署に印紙税が課されないことを確認して“融資承認を示す文言”を削除した文書に改めたとのことです。
当たり前ですが、印紙税は課税文書に該当する文書にかかってきます。どういったものが課税文書に該当するのか、該当しないのかは印紙税法に定められています。印紙税法を読むと、文書の作成のしかた、ちょっとした文言の有無によって課税文書に該当したり、しなかったりすることがわかります。
例えば、契約の申込みの事実を証明する目的で作成される単なる申込文書は契約書には該当しませんので印紙税はかかりません。しかし、申込書、注文書、依頼書等と表示された文書であっても、契約当事者双方の署名又は押印があるなど、相手方の申込みに対する承諾事実を証明する目的で作成されるものは契約書に該当するため課税文書となります。実際の文言など詳細はわかりませんが、東京スター銀行の事例もまさしくこうしたことを誤ったことによるものと推測されます。
ということは、東京スター銀行が税務調査で国税局の指摘を受けた後にそうしたように、課税文書に該当する文言を削除するなどするだけで、印紙税を節税することができる場合があるということなのです。もちろん、印紙税を節約することを目的に必要な文書を削ってしまうなどということはあり得ませんが、東京スター銀行の例のように、内容的に削除しても問題ない文書を削除することで印紙税が節約できるなら、そうするにこしたことはありません。
今回の改正もしかりですが、印紙税は書類1枚当たりの税額は低くても、それが多くなれば決して馬鹿にできない金額になります。いま一度自社が納めている印紙税にかかる文書について、見直してみてはいかがでしょうか。

法人税引き下げの意味するところ…

法人実効税率の引き下げの議論が加速してまいりました。
これは、中小企業にとっても喜ばしいことであるのは間違いありません。
ただし、単純に税率の引き下げで終わるという話ではないので注意が必要です。
ご存じのとおり、税制の変更は税収にも大きな影響を与えるため、“どこかで上げるなら、どこかで下げる”、“どこかで下げるなら、どこかで上げる”という構造にあります。
例えば、消費税の話を単純化すると、消費税率の引き上げは税収不足から決定されたものですが、「消費税率の引き上げにより経済が落ち込めば他の税収が下がるため意味がない」という反論がありました。
これは理屈としては一理ありますが、その場合でも税収が足りない以上“どこかで”上げなければならないのは間違いありません。
そもそも怪しかった将来の高速道路の無償化の話も、笹子トンネル崩落事故をきっかけにほぼ絶望的となっています。
これも税金が関係する話であり、税金とは直接関係なさそうなものであっても、過去の清算のために将来も税金が投入されるケースは、今後も噴き出してくることでしょう。
そうであるならば、法人実効税率の引き下げは、何かの犠牲の上に成り立つと考えるのが常識的な判断です。
現時点では、法人課税の中で“犠牲”が検討されているものとして、いわゆる法人税の『特典』として取り扱われている、30万円未満の少額減価償却資産の即時償却・試験研究費税制・雇用促進税制・所得拡大促進税制などのお得な税制の廃止や縮小があります。
これらはもともと時限的な措置なのですが、経済状況に応じて、年々拡大している傾向にあり、それらをこの際止めてしまおうという趣旨です。
つまり、法人実効税率の引き下げは、表面的には歓迎されるべきものであったとしても、実際には納税額が増える企業もあるということです。
さらに、法人実効税率の引き下げについては、下記のような二つ考え方の議論があります。
(1)法人実効税率の引き下げは、日本企業の競争力向上と海外からの
投資を呼び込むことにつながり、長期的にはむしろ税収が増える
可能性があるため、短期的な税収不足は気にすべきではない。
(2)法人実効税率の引き下げは、税収不足を招くため、法人課税の中で、
あるいは他の税目での補てんも踏まえて代替財源を確保すべきである。
(1)については、税制というよりも経済政策に近いと、皆さまはお考えではないでしょうか。安倍首相が好みそうな積極策といえるかもしれません。
これに対して、(2)については、“下げた分を他でまかなう”という保守的な考え方です。当然と言えば当然なのですが、「法人税を下げたのだから、所得税は上げるよ」という、どちらが得なのか分からなくなるという側面も有します。
皆さまは、どちらの考え方に賛成でしょうか?
それでは次に、これを会社経営の考え方に当てはめてみます。
(A)商品の値下げは、ライバル企業との競争力向上と新規受注を
呼び込むことにつながり、長期的にはむしろ売上高が増える
可能性があるため、値下げによる短期的な売上高減少は気に
すべきではない。
(B)商品の値下げは、利益減少を招くため、収益構造の中で、
あるいは原価構造見直しや固定費削減での補てんも踏まえて
利益を確保すべきである。
いかがでしょう?
中には、法人実効税率の引き下げの考え方と、会社経営の考え方で、逆の判断をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
法人実効税率の引き下げも、値下げも、一概にダメだという訳ではありません。必要に応じて実行すればよいだけです。
ただし、『日本企業の競争力向上と海外からの投資を呼び込む』、『ライバル企業との競争力向上と新規受注を呼び込む』ことにより税収や売上高が増加したとしても、あくまで“上乗せ”部分として考えるべきであり、国や会社の運営上は代替財源や利益の補てんが大原則です。
従って、これらの考え方は相反するものではなく、一体性を有するということになります。
税制の変更は、会社経営に大きな影響を与える以上、予測される税制の変更に応じて先手を打つのが王道です。
法人実効税率の引き下げ積極論者が主張することが当てはまるのであれば、競争が激化するということであり、勝者と敗者がより明確になるということにつながるのですから…。