対症療法と原因療法

ついにはオリンピックまでも吹き飛ばしてしまった新型コロナウイルス。

事態が収束しても、すべての経済活動を「再開」で済ませられるような状況ではなくなりました。その間に潰れていく企業は増加し、自粛モードが続けば停滞期間が長期に渡ることも考えられます。

以下の図表は現在も申請が殺到している雇用調整助成金の過去の実績データです。

(労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究報告書No.187、6ページ)

リーマン・ショック後に突出して支給が行われ、その後に東日本大震災も発生、最終的には4~5年間は影響があったことが分かります。

次に同期間の完全失業率と有効求人倍率の図表です。やはり元に戻るのに同程度かかっています。

(労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究報告書No.187、5ページ)

雇用調整助成金の主な支給要件には「直近1ヵ月の売上高が前年同期に比べて10%以上減少」というものがありますが、あくまで一時休業を行った場合に支給を受けることができるというだけであって、売上高が10%以上減少しているが一時休業するほど暇ではない・余裕がないという場合は申請できません。

そして、今回は全国的、かつ幅広い業界に影響を与えており、雇用調整助成金の支給を受けない企業においても10%以上の減収は当然のごとく発生するはず。

これが3ヵ月程度の10%減ではなく、リーマン・ショック時のように4~5年間も影響を受けるようであればどうしていくべきなのか…。

普通に考えたら制度融資や返済猶予を中心とした国の支援で乗り切るしかありません。世の中にあふれている情報も対症療法がほとんどです。しかし、対症療法だけで乗り切ろうとするのはとても危険だと考えます。

それは新型コロナウイルス発生前の売上高を完全終息後にも維持できるのか?という点が抜けているからです。

「そもそも発生前にも十分な利益が出ていたのか?」、「そもそも無理して経営していたのではないか?」。

つまり、今回は新型コロナウイルスにより強制リセットを強いられましたが、これを機会にいま一度自社の売上高と固定費の構造を冷静に分析してみるべきです。

売上高を維持できないにもかかわらず、今後も固定費を維持しようとすれば無理が生じます。例えば売上高が現在よりも20%減となれば以下のように固定費を変えなければなりません(なお、限界利益率を上げるというのは鉄則ですが、大幅な固定費の削減は外注比率を増加させることにもつながるため、あえて限界利益率を下げています)。

「固定費を30%下げることなど不可能…」

そのとおり、実際にできる企業は数少ないでしょう。しかし、「売上高が半分になったら?」という話と一緒で、「固定費を30%下げたら?」というところから検討を始めないと大きな赤字を垂れ流すことになります。

新型コロナウイルスの影響が大きい中小企業にとっては対症療法で何とかなるレベルではありません。しかし、国は対症療法を進めてきますし、その対症療法も受けなければなりません。

しかし、同時に原因療法も模索してください。

自社の経営状態が改善しないのは、「新型コロナウイルスの影響ではなく、対症療法を繰り返した結果であり、原因療法に手を付けなかったことだ」と自覚する。

これがすべてだと考えます。

それでもまだ原因療法に手を付けられないのであれば、まだ心のどこかで景気が良くなることを願っているのではないてしょうか?

備えとしての借入

新型コロナウィルス騒動によって、ある日突然、何が私たち中小企業を襲ってくるか分からないことを多くの経営者が実感させられています。

こんな時、最も重要になって来るのは資金繰りです。
もともと資金力の乏しい私たち中小企業においては特に、こうした局面で一気に深刻な事態に陥ってしまう可能性があります。

設備や人材その他について投資を行いながら事業を運営し、不測の事態にも備えておかなければならない私たちは、銀行からの借入を上手く活用していかなければなりません。

今回は、私が普段からお客様にお話しさせていただいている、借入についての基本的な3つの考えをお伝えさせていただきます。

【必要なくても借りておく】
今回のような不測の事態の際に最も重要になってくるのは手元の自由になるお金です。
あえて極端な物言いをしますが、経営をしていると起こる様々な問題の多くは、お金で解決することが可能であり、お金があることで確実に打ち手が増え、状況に応じた適切な判断を行うことが可能になります。
平時において資金繰りに特に問題がない状況でも、借入によって、常にある程度資金にゆとりがある状況を作っておくことは経営において非常に重要です。

【利息は保険料】
現状の資金繰りに問題がないのに借入をしたら利息がもったいない。
そう考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、余剰資金確保のための利息は、不測の事態に備えて手元にキャッシュを置いておくための「保険料」だと私は考えています。
しかも、利息は全額損金になります。
1,000万円の資金を1%の利率で借りた場合、利息が損金になり税金が減ることを加味すれば、実質の負担は年間で6~8万円、月額5,000円~7,000ほど。
キャッシュ=血液である企業にとって、利息は保険料以外のなにものでもありません。

【借入の返済期間はできるだけ長くする】
「期限の利益」。
私たちは借入をすることで、これを手に入れます。
〇年間、借りたお金を返さなくていい利益です。
これだけ低金利の時代においては特に、期限の利益は最大限に生かさねばなりません。
繰上げ返済はいつでもできます。
原則、「借入の返済期間はできるだけ長い期間で」が正解です。

今回の件ではセーフティネット貸付など資金繰りに関しても政府が支援を始めていますが、当然手続きが必要で、着金までにはある程度の時間を要します。

次に起こる不測の事態の際にも政府の支援があるとは限りませんし、仮に支援があったとしても、手続きをして着金を待つ時間的余裕などないかもしれません。

私たち中小企業はいつでも不測の事態に対応できるように、平時から自由になるお金をある程度手元に置いておくことが重要です。

これを機に改めて「備える」という観点から手元のキャッシュが十分であるか検討してみてください。

他力による一本足打法

瞬間風速としては、リーマンショッククラスの影響が出ている新型コロナウィルス。

直接的な被害から始まった観光業及び製造業のみならず、飲食業・小売業並びにサービス業と幅広い業種に被害が広がっています。

残念なことですが、自転車操業を繰り返していた企業についてはこの春に掛けて倒産が相次ぐことでしょう。倒産までは行かなくとも内部留保が薄い企業については早急に資金手当に動いていただくことをおすすめします。

3月3日時点において公表されている政府支援策は以下のとおり(一部重複しています)。

1.経済産業省ホームページ
日本政策金融公庫等の支援機関相談窓口と、関連する補助事業を紹介する専用コーナーです。

2.中小企業基盤整備機構ホームページ(J-Net21)
各都道府県における金融支援の対応等が掲載された専用コーナーです。

5.日本政策金融公庫による主な融資制度

*TKC ProFIT EXPRESS(令和2年2月26日・28日、3月2日・3日付)より引用

昨秋の台風被害の際、このメールマガジンでも書かせていただきました。

「売上が半分になったらどうなるのか?」

しかし、今回は半分どころか8~9割の売上が飛んで行ってしまうという凄まじさ…。ブラックスワンが、実際に起こるとこのような事態にまで発展します。

何度も繰り返しますが、「売上が半分になったらどうなるのか?」

やはりこの問い掛けは常に行わなければなりません。今回は中国依存、インバウンド依存の企業が致命傷を負っています。

もちろん中小企業は選択と集中が重要です。業種特化、地域特化、特定顧客特化は当然の戦略ですし、効率も上がります。従って、中国特化、インバウンド特化が悪い訳ではありません。

しかし、今回倒産していくであろう企業は「他力」による一本足打法を行っていたはずです。中国「特化」、インバウンド「特化」ではなく、中国「依存」、インバウンド「依存」。ただ流れてきた売上を捌いていただけの他力です。

選択と集中による特化とは「自力」による一本足打法を指します。誰かに支えられながら一本足で立っている企業と、自力で一本足で立っている企業では中身がまるで違うのは皆さまもご理解いただけると考えます。

自力で一本足で立つにはリスクも織り込む必要があり、そのリスクすらも強みに変えていかなければなりません。それだけ覚悟が求められます。

ただ流れてきた中国からの旅行客を受け入れていただけのホテルはすぐに潰れ、自力で中国の販路を開拓していたホテルは耐えられる可能性が高まるでしょう。なぜなら、自力とは自社で考えてすぐに動ける状態を指すからです。

そして、皆さまも聞き飽きたであろう財務の重要性。危機を未然に防止するために必要な資金は保有し続けなければなりません。

「売上が半分になった。早く借りなければ…」では致命的に遅いのです。

自力による一本足打法とその足を支える財務体質の強化。極端に言えば、中小企業はこれができれば他に言うことはありません。

体重が重ければ(抱えるものが多ければ)それを支える足(財務体質)は太い必要があり、体重が軽ければ(抱えるものが少なければ)それを支える足(財務体質)は細くても問題ありません。

これから1~2年かけて徐々に退場していく企業が増えると予想されていましたが、ここで一気に強制退場が始まります。しかも国を挙げて盛り上げていた観光関連から…。

セーフティネット保証だけで何とかなるとも思えませんので、政府はリーマンショック時のモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)クラスの支援策を行うのか、それとも近年の傾向でもあったゾンビ企業は撤退という方針を貫くのか…。業種によって偏りがあるでしょうが、中小企業にとってこれから数ヶ月が正念場です。

皆さま、まずは守りを固めて、荒野になるかもしれない市場を攻略する体力を残しておきましょう。

そして、他力に頼る経営を行っているようでしたら、いち早く自力に脱皮できるよう動いてください。

社会保険がビジネスモデルを変える

皆さま既にご存知のとおり、パート労働者の厚生年金の適用拡大について、対象企業の要件を現在の「従業員501人以上」から、2022年10月に「101人以上」に、2024年10月には「51人以上」に段階的に引き下げる方針を決めたことが、昨年12月に報じられました。

今から約4年半後には、中小企業であっても従業員が51人以上であれば、要件を満たすパートさんを社会保険に加入させなければいけなくなるのです。

【現在:パートでも健康保険・厚生年金加入となる人の定義】

勤務時間・勤務日数が、常時雇用者の4分の3未満で、1~5全ての要件に該当する方

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 雇用期間が1年以上見込まれること
  3. 賃金の月額が8.8万円以上(年収106万円以上)であること
  4. 学生でないこと
  5. 被保険者数が常時501人以上の企業に勤めていること

採用難が続く中、多くの中小企業がパート労働者を重要な戦力として活用している現在、これが実行されれば、対象となる企業にとっては大きなコスト増となります。

では、どれだけの影響があるのか、比較的、パート労働者が多いと思われる宿泊業、飲食サービス業の数字を使ってシミュレーションしてみましょう。

使うのはTKC会員(税理士・会計士)の関与先である全国の宿泊業、飲食サービス業の実際の数値(黒字企業平均)になります。

給与賞与のうち、パート労働者がどれくらいの割合を占めているかまではわかりませんので、給与賞与49,537千円のうち、パート労働者の給与割合が2割~10割であったと仮定してシミュレーションしてみました。

【パート労働者の割合別の損益】

パート労働者が社会保険の対象となると、その割合と同程度の割合で経常利益は減少していき、パート労働者が6割で利益は半分以下に、10割だとほぼ無くなってしまうことが分かります。

しかし、シミュレーションはこれでは足りません。

社会保険の対象になるということは、保険料の半分はパート労働者自身の給与から天引きされることになりますので、手取り額が減少することになります。

パート労働者本人にとっては、社会保険に「加入できる」というよりも「手取りが減る」ことに対するマイナスイメージの方が強くなることが容易に予測できます。

では、人材確保のため、パート労働者本人の手取りを減少させないように手当てした場合はどうなるでしょう。

【パート労働者の手取りを減らさない場合の損益】

パート労働者が4割を占めている場合で経常利益率は1%まで下がり、6割を占めている場合には赤字となってしまいました。

もちろん、実際にパート労働者の手取りを減らさないように手当てしてあげるかどうかは別ですので、このシミュレーションをそのまま鵜呑みにする必要はありません。

しかし、今の人手不足を考えれば、これから4年半の間に人件費が増加することはあっても減少することは基本的に考えられません。
このシミュレーションが一気に現実味を帯びてくるわけです。

4年半後にパート労働者の社会保険加入対象となる企業で、多くのパート労働者を抱える企業にあっては、今のビジネスモデルが成り立たなくなる可能性があるほどの大きな案件として認識して、備えていかなければなりません。

議論の過程では21人以上の企業を対象とする案もあったことを考えると、今回は対象にならないであろう企業であっても油断はできず、対象となると仮定して、自社への影響を知っておいて欲しいのです。

この変化の時代で生き残っていけるビジネスモデルであるか、ぜひ考える機会としてください。

回転率の重要性

皆さまも一度は耳にしたことがあるであろう在庫回転率。

在庫回転率 = 売上原価 ÷ 在庫金額(棚卸資産)
 ※売上原価の代わりに売上高を使用する場合もあります。

一年間に在庫が何回転したかを表す指標です。回転率が高いほど早く在庫が売れている証拠であり、効率が良いということになります。

基本的には回転率が高いほど良いと言われますが、その場合は相対的に在庫金額が少ないということになります(代表的なモデルはトヨタのカンバン方式)。

ここで指摘されるのは機会損失。

在庫が多ければ売り逃さなかったであろうというリスクを嫌い、在庫金額をあえて増加させるという考え方もあります。

「うちの在庫は腐らない。安いときに大量に仕入れて多く持っておいても困ることはない。だから、売上高の最大化を追求したい」

もちろん、ビジネスモデルによっては在庫回転率の高さが有利とは言い切れません。トレードオフとまではいかないまでも、売上高の上昇傾向に対して在庫回転率は下降傾向となるケースが多いのは事実です。

以下は日本経済新聞電子版2020年1月20日の記事にあった無印良品の業績図表です。

売上高と在庫回転率が相反しています。増収増益を目指す以上、回転率は犠牲にせざるを得ないということでしょうか。

なお、この記事では無印良品の在庫水準の急激な悪化を指摘していました。そして、売上高が増加したから在庫回転率が下がっているという単純な理由ではなく、競合との競争激化も影響しているとのこと。

さらに気になるのはロス率。

廃棄ロス率 = 廃棄額 ÷ 売上原価
 ※売上原価の代わりに売上高を使用する場合もあります。

在庫を廃棄した割合であり、値引き額を考慮した値引きロス率などもあります。在庫回転率が高くてもロス率が継続的に高ければ意味がありません。

在庫回転率が悪化していくと、行き着く先は廃棄処分や値引き販売であり収益性は悪化します。最終的には粉飾にも使われてしまいます。

無印良品のロス率は分かりませんが、消費税10%増税後もほとんどの商品で税込価格を据え置き、実質的な値下げを行っています。直近では減益の予想であり、これでさらに在庫回転率が下がってくると厳しい状況が待っているかもしれません。

在庫回転率を上げるために、まずは不良在庫となり得るものは即座に認識して処分する。次にロス率を把握して、無駄な仕入れにメスを入れる(ロス率が面倒であれば実際の廃棄額を認識していただくだけでも結構です)。つまりは受発注管理の厳格化です。

在庫回転率を上げるべきか、機会損失を防ぐべきか?

日本経済の拡張期が過ぎている現在では、機会損失よりも在庫回転率やロス率を重視すべきであり、中小企業においては生命線と言えます。

なお、在庫を持たないビジネスを行っている企業もあるでしょうが、回転率の考え方は在庫に限りません。

例えば、見込み客。一度お客様とコンタクトしたあと、見込み客として名簿に登録し、DMやメルマガを送り続けることがあります。

「当社は1万人の見込み客名簿がある!」

と豪語するも、実際に名簿として有効なのは1千程度であり、そのうち一年間の購入者数は300程度だったりします…。

これも機会損失を恐れて、名簿の整理をしないまませっせとコストと時間を使い続る典型です。これを名簿回転率と呼べば、名簿1万人に対して回転率は0.03です。名簿1千人と考えれば回転率は0.3。

そうであれば1万人にDMを送り続けるよりも、1千人により多く購入していただくことに注力すべきではないでしょうか。

「これ誰?」と一度名刺交換した程度の人にまで年賀状を出すことと同じ。はっきり言うとムダでしかありません。

製造、仕入、在庫、販売、資本、すべての回転率を上げ、ムダを省いて行くことがロス率を低下させます。

デジタルトランスフォーメーション(DX)も叫ばれていますが、中小企業なら目に見える範囲を確実に改善すれば回転率は上がります。

まずは捨てる。そこからムダに作らない、仕入れない、持たない、動かさない、売らない。これができれば、雇わないにもつながります。

『リソースは無駄なく使い切らなければならない』これが中小企業の鉄則であり、その一つのアプローチが回転率という考え方になります。

財務指標上の概念だけで回転率を見ていると理屈っぽくってつまらないのですが、実際の導線とつなげて考えると、とても有効な指標になります。

ぜひ一度ご検討ください。

メインバンク再考

皆さまは「うちのメインバンクは〇〇銀行」と言いきれますでしょうか?

ウィキペディアによると、メインバンク制とは下記のとおり。

企業は複数の銀行・信用金庫などと取引関係を保つのが通常である。しかし、その取引関係には濃淡がある。うち一行の主力取引銀行(メインバンク)とは借り入れ・預金・手形取引・取引先の紹介など、他行との取引とは別格の濃厚な取引を続け、経営内容に関する情報を提供し経営指導を受けるなど関係強化に努めて安定的な資金供給を受けられることを期待し、不況期など経営が悪化した場合には役員の派遣を受けて再建を図る。大型の資金需要に対しては、メインバンクの主導のもと複数金融機関が貸出条件・分担額などを取り決めて融資に当たる。

この説明は比較的規模の大きい企業向けの説明となり、一昔前のイメージと重なります。

では、現在の中小企業はどうかというと、低金利融資の乱発により「単に借りているだけ」の金融機関が多数ある…。

つまり、メインバンクの意味が「別格で濃厚な取引」であるのに対し、「同列で淡泊な取引」を行っている金融機関ばかりという状態です。

もちろんメインバンク制が機能していたときとは時代背景が異なります。銀行窓口に行くことも少なく、少額融資ならインターネットで完結するようにもなりました。淡泊なお付き合いになるのも当然です。

従いまして、「どこがメインバンクか?」という話自体が不要になってきたのかもしれません。

しかし、大企業や意欲的なベンチャー企業と異なり、中小企業には直接金融(社債の発行や株式資本の調達)の選択肢はありません。メインバンクは不要という流れが中小企業にとって本当に良いのかどうかは自社の状況を踏まえて検討する必要があります。

なぜなら、そこには無視できない環境の変化があるからです。

ご存知のように、金融機関の業績は急激に悪化しておりリストラを急いでいます。効率化のためにシステム投資を急ぎ、人員削減と採用抑制。店舗の統廃合から最終的には資本提携や経営統合。

BtoCにおいては明らかに金融機関の果たすべき役割が変わってきており、今後はさらに加速することでしょう。

そしてBtoB、つまり企業と金融機関の関係です。金融機関はおおまかには以下のように分けられ、基本的に規模に比例します。

 *都市銀行(3メガバンク、りそな)
 *地方銀行(第一、第二)
 *信用組合・信用金庫・協同組合など

大企業が信用組合から借りることはありませんが、中小企業が都市銀行、地方銀行、信用組合の全てから借りているケースもあるでしょう。

さらに企業が融資を受ける際に「この取引をうちに移して欲しい」との要望を受け、各金融機関に各取引が分散されていきます。

その結果、企業も金融機関もどこがメインバンクか分からない…。

そのような状況の中、金融機関における人員整理と店舗の統廃合の末に何が待っているかというと、『取引先の見直し』です。

都市銀行にすれば、大企業から中小企業まで面倒を見ている暇はありません。年商数千億円の大企業と取引を行いつつ、年商数億円の中小企業のケアを手厚く行うという判断がくだされるでしょうか?

中小企業にしてみれば、今までは積極的に融資の提案をしてきた都市銀行からは急に渋られ、距離的に近かった地方銀行の店舗がなくなり、ふと気付くと密に相談できる金融機関が一行もない…なんてことが待っている可能性があります。

金融機関が融資の際に最初の目安にするのは「年商」です。

つまり、自社の年商がお付き合いのある金融機関にとって「コアな顧客」に該当するのかどうかを把握しておく必要があります。

なお、地方の中小企業は都市銀行との取引自体がほとんど無いため、自社を「コアな顧客」とする地方銀行や信用組合などとの取引が中心のはずですが、その代わり取引相手の金融機関の経営状態はよーく把握しておく必要があります。それほど経営が痛んでいる金融機関が増えているからです。

ここで話をまとめます。

低金利融資の行き過ぎた状況は借り手の皆さまにとっては得でしたが、貸し手の金融機関にとっては損でした。そして、体力も維持できなくなってきたとなると…。

現在のような環境では金融機関も取引先の選別を厳しくするのは当然で、それにより近年のような淡泊な付き合い方では不利になる可能性が高まっています。

もし、自社に資金ニーズが強いのであれば、自社の規模をコアな顧客とし、経営基盤が安定している金融機関と適度なお付き合いをされているかどうかが重要です。

仮に地方銀行や信用組合などとの取引が都市銀行よりも高くついたとしても、長期的には適正なコストにつながるかもしれません。

淡泊なお付き合いが主流になる今の時代だからこそ、濃厚なお付き合いを前提とするメインバンク制というのは大きなメリットになります。

金融機関にとっても適正規模の大切な中小企業は優遇の対象となるはずですので。

運が悪かったで済ますべきか…。

9月、10月と続いた台風大雨被害…。
私も千葉在住のため、その被害を目の当たりにしました。

昨年も西日本を中心に大きな被害があり、皆さまにおかれましても、今後は経済環境のみならず、自然災害も考慮すべきと強く感じていらっしゃることと思われます。

また、長年経営をされていれば、突然の事件により大きな被害を受けてしまうことがあります。

そのような中でも、すぐに立ち直れる企業と、立ち直れない企業に分かれてしまいます。
そこにはどのような差があるのでしょうか?

もちろん大震災のように取り返しがつかない被害もあります。今年の台風でも致命的な被害がありました。

しかし、被害を防ぐ術がなかった一部の企業を除き、被害があったとしてもほとんどの企業は間接的であるはず。

「今月は5,000万円の売上の見込んでいた。しかし台風被害の影響で2,500万円になってしまった。だから当期は赤字だ。運が悪かった…」

仮に年商が5億円であれば2,500万円の減収は5%にあたります。粗利率が40%であれば粗利益で1,000万円。

台風被害の影響でも固定費が変わらないのであれば、この会社が予定していた最終利益は1,000万円以下、経常利益率2%以下。

5%の減収…。

常識的に考えても、通常あり得る変動幅です。

つまり、こういう企業は一回何か事件が起こったらすぐに赤字になってしまう体質の企業ということになります。今回はたまたま台風被害だったというだけ。

しかし、現代のような不確実性の高い経営環境において、何も起こらない年があると想定する方が間違っています。

例えば、消費税の増税などは何年も前から決まっていました。増税後に景気が良くなると考えていた方はほとんどいなかったはず。それでも増税に向けて何も準備をしてこなかった企業は腐るほどあります。

「増税の影響が想定以上に大きかったために売上の見込みから5%下がった。だから当期は赤字だ。仕方がない…」

このような経営者は何が起こっても同じように赤字の理由を述べるでしょう。予測できても予測できなくても、何に対しても準備を行っていません。

「減収の見込みを立てていたら、これは準備になるのではないか?」

その減収の見込み幅はどの程度だったのでしょうか。10~20%でも足りません。そのくらいは十分あり得るからです。最低でも30%、できれば50%下がったらどうなるのか?というところから検討を始める必要があります。

「さすがに50%はやり過ぎでしょ…」

と、お考えの方も多いかと思われますが、誰しも自社が被災するとは想定されていないでしょうし、仕事が出来ない状態になるとはお考えではないでしょう。実際に被災したら50%減少では済まない可能性があります。

従って、被災でも事件でも予測し得ない事象が発生した場合に、「当社はどうなるのか?」という想定ができているかどうかという点が、すぐに立ち直れる企業とそうでない企業の差になって現れます。

そして、自らに対する問いかけとして、「売上が半分になったらどうなるのか?」というところから始めると、本当に自社が危機を乗り越えられるかどうかが分かります。逆に言えば、そのレベルでないと、すべて現状の延長線上で対処しようとしてしまいます。

「売上が半分になったら…」という問いかけから戦略的に売上を下げている企業は、質の悪い売上を捨て始めます。実際、売上を下げると判断した企業ほど利益が上がるというケースを多数見てきました。

このような企業は質の悪い売上が下がり、質の良い売上が上がり始めるので、結果として現状維持か増収となり利益率が上がります。外部からは質の悪い売り上げを捨てたことは分かりません。

準備ができていない企業にはババ(捨てられた売上)が回ってくる確率が高まり、ババかもしれないと感じていても何かと理由を付けてそのカードをひきたくなってしまいます。さらに、ババを捨てることもできなくなります。

すべては準備です。ネガティブに考える必要があるということではなく、売上が半分になったらどうなるか?というところからスタートすると、準備の質が変わるということです。

地震、台風、大雨、火事、病気、取引先倒産、関係悪化、社員の退職…。
事件は毎年起きます。

赤字の原因を事件のせいにせず、準備により黒字の原因を作っていただければと考えます。

災害をきっかけにリスクへの備えを考える

先月8日から9日にかけて台風15号が関東地方を直撃しました。
過去最大級の暴風による千葉県の甚大な被害は報道等でご存知のとおりです。

その中でもゴルフ練習場のネットが強風にあおられ、鉄柱が倒れて近隣の住宅10数軒を直撃した被害は目を疑う光景で、被害に合われた近隣住宅の方に対する補償についてのゴルフ練習場側の対応などが連日報道されていました。

被害に合われた方に十分な補償がなされて欲しいと願うと同時に、職業柄どうしても気になってしまうのが、ゴルフ練習場側の賠償責任です。

ゴルフ練習場は十分な施設賠償責任保険に入っていたのだろうか・・・
保険が下りない場合、被害に合われた方への補償ができるほどの内部留保はできていたのだろうか・・・

今回のケースの場合、自然災害が原因のためゴルフ練習場に賠償責任はないと判断されれば、賠償責任保険に入っていたとしても、保険金支払いの対象にはなりませんが、自社の保険加入について見直す機会として欲しいのです。

個人法人を問わず、私たちが負うリスクには大きく2つに分けられます。

(1)については、起こる確率が比較的高めであるものの、損害額が比較的少なくてすむため、内部留保があれば、それで十分に対応できる損害になります。しかし、保険で備える場合、起こる確率が高めであるため補償額に対して保険料は高めになります。

(2)については、起こる確率は低いものの、万が一起きた際には損害額が大きく、個人や企業では負担しきれないような損害になります。しかし、保険で備える場合、起こる確率が低いため、補償額を大きくしても保険料は安く済みます。

こう分けて考えると、保険で備えるべきは(2)のタイプのリスクというのが分かるかと思いますが、意外とよく見るのが、(1)のタイプのリスクにきっちりと保険で備えている一方で、(2)のリスクに対する備えはしていないか、していたとしても補償額が少なすぎるといったケースです。

個人法人問わず、しっかりと内部留保ができているようであれば(1)のタイプのリスクについては高い保険料を支払わずとも内部留保で対応すればよいですし、その分、内部留保では対応しきれない(2)のタイプのリスクについては保険でしっかりと備えるべきです。

ただし、生命保険を含めて保険についてはリスクに対する考え方や、個人法人問わず、それぞれ財政状況や背景にあるリスクが異なるため、一概に何が正解かは言うことができません。

内部留保が少ない場合など、不足の事態による急な出費に対応できない場合は(1)のタイプのリスクについても備える必要があると言えるでしょう。

問題は、自身や、自社にはどういったリスクがあるのかを適切に評価することなく、保険代理店や税理士などに勧められるがままに保険に加入し、もしくは加入せず、不測の事態にどれだけの備えを講じているのかを把握・理解していないケースがとても多いことです。

リスクに対する考え方は保険代理店や税理士によっても異なります。お付き合いがあることも理解できますが、ぜひ複数の方の意見を聞いてみるといいでしょう。

ご自身が、自社が、必要に応じて過不足なく適切な保険に加入し、万一の際に必要な備えがきちんとできているか、これを機会に点検してみてください。

増税前、最後の確認

2014年4月以来、5年半ぶりの消費税の増税が目前です。

今回の特徴の一つに、需要の動きが極めて少ないという点が挙げられます。駆け込み需要の反動がないということは、増税以降なだらかな需要の下落が想定されるということです。

なお、効果に疑問があるとはいえ、2020年6月まで増税後の需要平準化のために消費税の還元策が行われます。そのまま7月からオリンピックが始まり、パラリンピックが終わるのが9月。

そして祭りの後、私たち中小企業はどのような環境に身を置いているのか…。予測不可能とはいえ、確実に手を打っていかなければなりません。

消費税の増税にかかわらず、近年の経営環境は中小企業にとって熾烈であり、徐々に体力を奪われてきました。現在の業績には異変が起きていない場合でも、疲弊していたり、先行きが見通せないことも多いでしょう。

この状態で増税に伴う不況感が増してくれば、一気に瓦解してもおかしくはありません。
だからこそ、今は守りを固めるのが最も重要だと繰り返しお伝えしてきました。

守りを軽視した企業は市場からの撤退を余儀なくされますので、堅守の重要性を知る皆さまはその機会を待てばよいのです。

釈迦に説法ですが、中小企業が守りのために検討すべき事項としては以下のような点が挙げられます。

 ・値上げ
 ・原価低減策
 ・人件費高騰の対策
 ・労働時間減少の対策
 ・インボイス制度の対策
 ・不要な固定費の見直し
 ・資金繰り
 ・財務管理体制の強化策
 
この点、値上げについて誤解をされている方がいらっしゃいます。おそらく値上げを攻めの打ち手と思われているのでしょう。

中小企業の場合、値上げにより求める結果は売上高の増加ではなく、売上高の維持あるいは許容範囲内の減少にあります。

つまり、基本的に値上げは販売数の減少をもたらすものであり、販売数の減少によって自社の生産能力に余裕を持たせることにつながります。

それにより設備や人員の増強を抑制または削減することができますので、リソースを増強させる余力が無い中小企業にとっては、いまあるリソースに合わせることができます(値上げの結果、販売数の減少を補って余りある売上高の増加がもたらされれば内部留保に回せばよいだけ)。

逆にいえば、必要なリソースを揃えられないのであれば、値下げを伴う売上高の増加(販売数の激増)は、中小企業にとって最悪の打ち手ということになります。

・社員数と労働時間、支給可能人件費
・現在の設備と今後の設備投資額
・現在の現預金残高と借入可能額

この3点を考慮するだけでも、生産能力(=販売数)は目途がつきます。あとは固定費と必要な利益を決めれば、値上げをしなければならない単価を想定できます。

税理士という立場で中小企業の経営を見ていると、その多くがリソースの限界に挑戦し続けていることが分かります。当然ですが、いまそこにあるリソースの限界を突破できるのはほんの一握りであり、のちに成功物語として語られるスタートアップだけです。

リソースの限界に挑戦し続けた99%の中小企業は混迷の道を歩みます。

リソースに合った経営(身の丈にあった経営)というのは、何か諦めのようなものを想像させてしまうのかもしれませんが、自社の力だけで大きくなる会社などありません。敵失による機会を逃さない企業が新たなリソースの獲得に成功するのです。

それまで守りを固め、お金をため、いまのリソースに磨きをかけてください。

そして最後に、中小企業が最も不得意とする『継続的な』財務管理。

「うちは管理がしっかりしている」と思われている場合でも、それはあくまで現在の状況で最適化されているだけです。

売上高が変わり、人が変わり、システムが変われば今のやり方は通用しなくなります。内部留保が不十分な中小企業の財務管理に不備が出ると取り返しがつきません

遅行指標だけではなく先行指標の管理も取り入れ、異常値の早期発見により、必要な打ち手をいち早く検討していく必要があります。

いまの経営環境は「売上高が上がる=リスクが増す」という状況です。もし、増税後も売上高が上がっている場合は、十分に注意をして舵取りを行ってください。

 

無くなる仕事

店舗レジ業務、データ入力、電話オペレーター、電車運転士、薬剤師による調剤業務、公認会計士による監査業務、そして税理士の会計入力業務・・・

AIの発達によって今後無くなるであろうと考えられ、実際に機械に置き換え始められている仕事のほんの一部です。

5年以上前から、こうしたことが広く言われ始め、現在までの身の回りの変化を知る私たちは、自社の業界においても「無くなる仕事」があることを誰もが実感しているはすです。

しかし、どこかでこうも思っていないでしょうか。

「とはいえ、もう少し先の話だろ・・・」

国税庁は先月「税務行政の将来像」として、スマート税務行政の実現に向けた最近の取組状況をホームページで公表しました。

スマートフォン・タブレットによる電子申告や納税手段のキャッシュレス化など、利便性向上に向けて様々な取組がなされていることが確認できます。

中でも目を引いたのが、来年10月を導入予定としている「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」の無料提供です。

具体的には以下の流れになるようです。

① 従業員が国税庁ホームページから年調ソフトをダウンロードする。
(勤務先が年調ソフトをダウンロードして従業員に配布することも可能)
② 従業員が保険会社等から入手した控除証明書等のデータを年調ソフトに取り込むことで、控除申告書の所定項目に自動入力される。
③ 従業員は内容を確認して、そのまま勤務先にオンラインで提出する。
※住宅ローン控除申告書も同様の流れで完了。

国税庁の資料を見る限り、このソフトを利用することで年末調整計算は特別な知識も必要なく、基本的に自動でできるようになり、書類保管にかかる負担もなくなります。

つまり来年の年末調整の時には、既に税理士に報酬を支払って依頼するような事務仕事ではなくなっている可能性が高いのです。

IT化による技術革新によって、将来「いなくなる」とまで言われる税理士の業務の中で、年末調整や確定申告といった業務が無くなるであろうことは平成25年にマイナンバー法が成立した時点で、ある程度予測されていたことです。

そうは言っても年末調整業務が急に無くなることはありませんでしたので、多くの税理士は「無くなるかもしれないけど、もう少し先の話しだろう」そう考え、特に手を打つことなく、変わらず年末調整業務を受けてきました。

しかし、自動で年末調整計算をしてくれるソフトを国税庁が無料で提供してくれる来年以降、年末調整業務を税理士に依頼する企業は間違いなく減少していきます。
年末調整業務による報酬を当てにし続けてきた税理士事務所の売上に与える影響は決して小さくありません。

IT・AI技術の進化によって、皆さんの業界でも必ずあるであろう「無くなる仕事」。
仮にその仕事が残ったとしても、それはAIで代行できる価格競争に巻き込まれる仕事です。

そして、それは「もう少し先の話し」なんかでは決してありません。

現時点では、まだ受注がある仕事から手を引くのはとても勇気のいることですが、無くなることを前提に他の収益源に注力するなどの準備をすることはできるのではないでしょうか。

税理士にとって売上の一角を担ってきた年末調整業務が、「無くなる仕事」から、
いよいよ「無くなった仕事」になろうとしている今、これを対岸の火事としてはいけません。

その時はもう目の前です。

「無くなる仕事」

皆さんは、どう向き合いますか。