中小企業が目指すべきDX

DXと耳にした時点で思考停止に陥り、「うちには関係ないや…」とお考えの経営者は数多いと思われます。

昨年末に発表された税制改正大綱に以下のような文言がありました。

ウィズコロナ・ポストコロナの新たな日常に対応した事業再構築を早急に進めていくためには、デジタル技術を活用した企業変革(DX)が重要であるが、これを企業ごとのレガシーシステムの温存・拡大につながらない形で進める必要がある。

コロナ禍において、日本自身がレガシーを代表するような構造にあることが露呈したのは皮肉ですが、重要なポイントはDXは手段であって目的ではないということです。

企業における目的は事業の再構築であって、DXを重要な手段として進めてくれという趣旨です。そして先月ご案内したとおり、国は事業再構築補助金という兵站の用意も進めています。

「うちには関係ないや…」とお考えの方は、DXという手段(武器です)を手に取ることすらしないのですから、負けても言い訳にできません。

なお、ご存じのように大企業であってもDXを上手く進められるとは限りません。むしろレガシーシステムと言われる厄介なものを抱え、八方ふさがりであるケースも非常に多いとのこと。

そういう意味では、大企業や中堅企業より、中小企業の方がDXを進めやすいはず。レガシーな人材はいてもレガシーなシステムなんて無いに等しく、「えーーーーい!」という割り切りの下に、せめて一年、のたうち回ることを覚悟すれば結構行けてしまいます。

では、DXは何から手を付けるのがよいのでしょうか?

もちろん社内の業務を俯瞰することから始まりますが、DXが何たるかも分かっていない段階から核心となる業務のシステムに手を付けてしまっては失敗が目に見えています。

入口があって出口がある。

出口であるバックオフィスのシステムはフロントシステムに比べてシンプルな構造であり、やることはどの企業も共通です。従って、中小企業においてはバックオフィスのDXを進めたうえで、フロントシステムにつなげて行くというのが王道ではないでしょうか。

もともとバックオフィスに割ける人員は少ないがゆえにシステムもそれに合わせた構造になっています。とくに会計、給与、販売管理が充実しており、クラウドで連携するのは当然のレベルです。

もちろんフロントシステムや経費精算もつなげられますし、とうとう請求書や領収書などの電子保存も簡単な方法で認められました(システムさえ整えれば、来年からはレシートの写真をスマホで撮ったらポイって捨てられます)。税金もインターネットバンキングにすらアクセスせずに電子納税できてしまいます。

最後の決め手が電子インボイスの推進。2023年10月から始まるインボイス制度(すべての企業に義務化される消費税の制度)に振り回されないようにするには、電子インボイスを発行できるようにするとともに、電子インボイスを受け入れられるようにしなければなりません(取引先と請求書をデジタルでやり取りし、そのデータをそのまま会計ソフトなどに取り込んで自動で登録するなどのイメージ)。

つまりパソコン一つでバックオフィスがクラウドに連携してペーパーレスで完結する環境が整いつつあり、大企業より中小企業の方が迅速に移行できるはずです。しかし、それはDXという手段を手に取るかどうかに掛かっているとも言えます。

事業再構築補助金の申請要件を充たさなくても、IT導入補助金など他にも国が兵站を用意しているのですが、DXに意識的でなければ知ることもない補助金でしょう。

コロナがあろうがなかろうが、人口減少時代においては少ない人数と少ない時間でより多くの粗利益を稼いでいかなければなりません。そういう意味でもDXは必須です。

もし皆さまの会社においてDXが進まないのであれば、誰が止めているのか?
経営者か、スタッフか、付き合いのある業者か、あるいは事業構造そのものなのか…そこもポイントです。

また、「DXだー!」と意気込んでも、各部署・各担当がシステムを勝手に入れてしまう、連携が取れないシステムをばらばらに入れてしまう等も十分起こり得ます。

DXを進めても負荷が移転しているだけで、会社全体として負荷が下がっていないということでは意味がありません。トランスフォーメーションを起こすには「つながる」ことが必要です。

なお、社内の人間が社内のありとあらゆる業務を全部把握しているのであれば、その方を中心にDXを進めれば良いと思いますが、そうでないのであれば外部からも支援していただくべきです。つながりは俯瞰できないと分かりません。

繰り返しますがDXは目的ではありません。あくまで手段であり、デジタルである必要がないものは超アナログでよいのです。

デジタルであろうがアナログであろうが、社内の業務のつながりを強化し効率化する。社内のリソースを最大限生かすためにDXを取り入れていく。そして事業の継続性のために粗利益を稼ぎまくる。

中小企業が目指すDXは、そもそも難しく考える必要はないのです。

DXをやらないと決めたのであれば、アナログで稼ぎまくる手段を考えてください。何も問題はありません。

さあ、皆さまはどちらでしょうか?

高いけど、いい

中小企業の経営戦略イコール「価格設定」。
そう言い切っていいほど重要な価格戦略には、何度も言ってきたことですが大きく分けて2つの意味があります。

当然ながら収益の確保。もう1つは顧客のスクリーニングです。

当社では昨年、新型コロナの影響で社内の懇親会等を一切行うことができなかったため、年内最後の営業日に事務所でランチをいただくことにしました。

そこで当社の女性スタッフが選んだのは麻布十番の中華屋さんからのラーメンの出前。
メニューの一部をご紹介します。

【メニューの一部】 (全て税抜価格)

タンタンメン 
1,900円
五目海鮮入り醤油味ソバ
2,900円
かに玉入り醤油味ソバ
4,000円
五目チャーハン
2,800円
焼餃子(5個) 
2,100円
天津丼
4,000円

今年は1回もみんなで食事に行っていないから、少しくらい高くてもいいよと言ったものの、この店でいいかと聞かれてホームページを見て驚きました。

一番安い麺類と餃子で税抜4,000円(笑)。ちなみにラーメンも餃子もごく普通サイズ、店の立地を考慮しても、なかなか勇気ある価格設定です。

価格に驚きながら、店の評判を調べてみるとさらに驚きます。

見る限り、個人のブログやグルメサイトなど口コミのほとんど全てが「高いけど、とても美味しい」「値段に見合う美味しさ」「至極」というようなものばかりで、「高過ぎる」といった批判的な声は見当たらないのです。

この店のラーメンが万人受けする美味しさということもあり得ますが、好みがありますので、一定数の批判的な意見は必ずあるものです。

では、なぜこの店にはそうした声が見られないのでしょうか。

おそらく、このラーメンとは思えない高価格が理由です。

ラーメンにこれだけの金額を出せるのは、価格が高いことにいちいちネットで文句など言わない層のはず。美味しくない、価格に見合わないと思えば、次はもう行かないだけ。
逆に美味しいと思えば、高くても繰り返し利用する層のはずです。

この価格設定でなければ、こうした層の顧客と出会えることはありません。
中途半端ではだめなのです。

この店の価格設定が、顧客のスクリーニングを意図してなされたものかは分かりませんが、結果として一部の優良顧客層だけを惹きつけることに成功していることは間違いないでしょう。

一方で、高価格であるとういことは、常に顧客から厳しい目で見られることになります。

この店はラーメン、チャーハン、餃子にこれだけの価格を付けることに相当なプレッシャーを感じながら、日々、質の高い仕事を続けてきたのではないでしょうか。

新型コロナで前提条件が大きく変わってしまった今、規模で勝負ができない私たち中小企業は、経営を一から考え直さなければいけません。

「高いけど、いい」

お客様に、そう言っていただける経営を、この店は実践しているのです。

補助金を使いこなせる企業

もらえるものはもらえばいい。

コロナ禍での補助金受給は、ある意味義務でもあります。
しかし、国からの補助金を受け取らないと潰れてしまうようであれば、それは民間企業の経営ではありません。

補助金はあくまで補填。
補助金が無くても継続企業として成り立つ状態であり続ける必要があります。
(そのための内部留保であり、借入に困らない業績を続けることが重要)

そして、次は継続企業としてあり続けるために、コロナ関連の補助金として最大級のものが登場します。

事業再構築補助金

持続化給付金や家賃支援給付金、雇用調整助成金など要件を充たせば確実に受給できるものに対して、「当選」or「落選」という審査をくぐり抜ける必要があるものです。

既にご存じの方も多いとは思いますが、簡単にまとめると以下のとおりです。

*コロナ以前に比べて売上減少が10%以上の中小企業が…

*税理士等の認定支援機関と一緒に事業計画を作成し…

*補助事業終了後3~5年で「付加価値額」または「一人当たり付加価値額」が
 年率平均3%以上増加することを目標として事業を遂行することにより…

*6,000万円を限度に、総事業費の2/3を補助する

コロナによる環境変化に対応して、新分野の進出や業態転換、事業・業種の転換、これらを通じた規模の拡大などを目指す取組みを対象に、「建物費、建物改修費、設備費、システム購入費、外注費、研修費、広告宣伝費など」幅広い経費を認めている点が大きな特徴です。

繰り返しますが、コロナ関連の補助金です。簡単に当選するわけではありませんが、これまでの補助金に比べたら当選の確立が格段に高いと考えられます。

現時点で詳細は発表されていないため上記リンクの情報以上のものはありませんが、事業の再構築を検討されている企業はぜひご検討ください。

「じゃ、うちも補助金もらおう!」

と、誰しも手を挙げたいところでしょうが、誰しもができるものではないとも考えております。

なぜなら、常日頃から事業計画を真剣に検討していなかったり、そもそも事業計画なんて作ったこともない企業にとってはハードルが高すぎます。

また、補助金を受取りたいがために慌てて検討した事業計画が本当に中長期的にプラスになるかは大きな疑問があります。そもそも補助率は2/3です。残りの1/3は自己負担であり、事業の継続にはランニングコストが発生し続けます。中途半端な計画で補助金を受けることはとても危険です。

スケジュール的には令和2年度3次補正予算案が成立しだい、2月前後に公募が開始され、3月前後に申請の受付けを開始という流れが想定されています。予算は1兆円以上が予定されているので、今後数年に渡って行われる可能性が高く慌てる必要はありません。

ただし、公募回数が増えるごとに審査が厳しくなるのは常ですし、補助金の受付に合わせて事業を再構築しようとすればスピード感がなくなります。

したがいまして、事業再構築を計画中であり、さらにそのタイミングに補助金の申請がピタリと合う企業にとっては宝くじのようなお話です。

そして、今後はこのような補助金が主流になっていきます。国も口には出さないものの、持続・継続できない企業、計画できない企業は退場して欲しい…という裏返しです。

いまある大企業も過去に国・公的団体のさまざまな支援を受けてきたはずです。補助金に頼る経営はダメですが、補助金の波に乗れる企業には理由があります。

それはもちろん常日頃から中長期を見据えた計画を立てることです。

 

発想

昨年は新型コロナによる緊急事態宣言を契機に、デジタル化・クラウド化推進の波が一気に訪れました。

年末に公表された税制改正大綱でもDX投資促進税制を始めとし、電子帳簿保存法の大幅要件緩和など、デジタル化への政府の意気込みが伝わってくる内容となっていました。

一方で、世の中のそんな流れにあらがうようなサイゼリヤの「アナログ化」への取り組みが12月25日の日本経済新聞で紹介されていました。

多くの外食産業が人手不足に加えて人と人との接触を避けるために、タッチパネルなどの最新機器を導入して料理の注文を受けるなか、サイゼリヤは携帯端末の使用をやめ、紙の注文票にお客様が手書きして注文する方式に変えたのです。

メニューには料理に対応する「DG01」といった4文字の英数字が割り当てられており、店員がコールベルで呼ばれたときにはお客様によって記入済みの注文票を受け取るだけ。接客時間は従来に比べ半分程度にまで減らせたそうです。当然、携帯端末にかかる費用も削減できます。

ここで注目したいのは、あえてアナログに戻すことによる効率化の実現と、注文票を「お客様に書いてもらう」という発想です。

皆さまの事業の中で、本来であれば、お客様から対価をいただいて提供すべきサービスについて無償で提供してしまっていることはないでしょうか。それは、言い換えれば対価をいただかないのであれば、お客様自身に行ってもらうべきことかもしれません。

年の初めに改めて自社が提供するサービスと対価について考えていただきたいのです。

もちろん、店員が注文を取る作業に対して対価をいただくことはできませんが、サイゼリヤのように低価格でお客様を満足させる商品の提供を実現するためには、お客様にも協力していただくという発想があってもいいはずです。

サイゼリヤがこの手書き式を導入したのは、特徴である末尾が「9円」のメニュー、ミラノ風ドリアを299円から300円、ガーリックトーストを189円から200円などに「値上げ」をしたタイミングと同時です。

にもかかわらず「値上げをしておいて、客に注文を書かせるのか」といった声は聞こえてきません。私も利用しましたが、注文を自分で書くことに特に何の違和感も覚えませんでした。

未だ終息が見えてこない新型コロナ騒動の開始から間もなく1年になろうとしています。

はっきりとしているのは、ここまで前提条件が変わってしまった今、過去の慣習や常識は何の意味も持たないこと、今やデジタルが当たり前のことも再度疑ってかかる必要があるということです。

そして、戦略の要である値上げを実行する次のタイミングに向けて、今から周到に準備を進めておかなければいけません。

今年もまた1年が始まります。
ともに見たくない現実に目を向けていきましょう。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

中小企業の再編促進、加速

まるでノアの方舟の様相です。

業種ごとにかなりの強弱がありますが…今年の倒産企業数は昨年を下回って推移しているようで、国の延命措置が功を奏しています。
これに対して廃業企業は過去最高になる可能性があるとのこと。

ここで改めて倒産と廃業の違いを簡単にお伝えします。

「残った債務の支払いができるかどうか」

債務(借入金や買掛金など)の支払いができなくなれば倒産、債務の支払を完了したうえで事業を停止できれば廃業です。

理由はともあれ、廃業は事業継続を断念したということなので、規模が小さい企業が大半です。それなりの規模の企業で債務超過でないのであればM&Aという選択肢を取り得るからです。

もしM&Aが難しいのであれば廃業は賢明な判断です。商売は信用ですから、倒産で周りを巻き込んでは再起も難しくなる…。撤退が早ければ再起も早められます。

問題なのは、いまの日本は再起を限りなく遅らせる、つまり廃業ではなく、大きな倒産を助長する延命措置が行われている点です。借金漬けにして延命させたら、廃業の可能性も潰れてしまいます(廃業なら自己破産も不要です)。

そして、この延命措置をいつから縮小するか…という話題が出る矢先の第三波。
来年早々にもさらなる延命措置が発動される可能性すらあります。

しかし、国の本音はどうでしょうか?

延命措置を続けてはいるものの「中小企業は事業を続けられるのかどうか、はっきりして!」が本音かと思われます。ゾンビ企業には早く撤退してもらないとお金が掛かって仕方がないからです。

今年の税制改正大綱も目玉がなく発表されましたが、その中でも中小企業に再編してほしいという思いが強くにじみ出ました。

それはM&Aの「買い手」企業への優遇措置です。「M&Aを税制上も支援するから積極的に買ってね!」という微妙な言い回し。それもそのはず、国が目指す企業の再編とは雇用の確保であり、買い手が積極的になってくれないと実現しません。

さらには中小企業の生命線である資金繰りを助けるはずの地方銀行等も経営状態が危うくなってきました。遂に、銀行の再編にもお金を出し始めます!

中小企業の事業承継に関しては税制で支援しようとしてきましたが、らちが明かないのは明らかなため、そのうちM&Aをしてくれたらお金を出すという流れになってもおかしくはありません。

もちろん、倒産、廃業、M&Aと簡単に判断ができるものではありません。倒産も廃業もM&Aもせずに再起の可能性だって十分にあるでしょう。しかし、延命措置が講じられているからといって、コロナの波に乗り続けては再起の波に乗ることができません。

現状のまま再起するのであれば、それはノアの方舟と一緒です。方舟のサイズを決め、そこに乗り切るもの以外は諦める。

それが嫌であれば、最初から頑丈で大きな方舟を作るべきだった。その方舟を作れなかった時点で、それがその企業の限界だったということです。

今からたくさんの人・物を積むことに掛ける時間はありません。それよりも、いち早く新しい波に漕ぎ出すべきです。

コロナの波は今後も波状攻撃のように続くでしょう。中小企業にとっては感染者数だけの問題ではありません。

しかし、コロナの波に隠れて、新しい小さな波がいくつも発生しています。コロナの波に踊らされては、本来乗るべき波に乗れなくなってしまいます。

皆さまも2021年が始まる前に足元の小さな波を探されてみてください。

最後に…2020年、中小企業の経営者の皆さま、本当にお疲れさまでごさいました。
それでも皆さまが日本の雇用を支えているのは間違いありません。

厳冬の時期のトランスフォーメーション

「あそこの会社、激減した売上を維持するために広告費を3倍にしたらしいよ」

最近、当社のお客様の競合のお話を伺いました。
当社のお客様の広告費は昨対比で6割減になっている状況においてです。

その競合企業はもともと利益が出ていません(信用調査で確認済み)。利益が出ていない企業が売上を維持するために広告費を3倍にするとは信じ難い話ですが、日本で本格的にコロナ禍が始まって9カ月程度が経過した今、このようなことまで起こっていました。

それを可能にしたのは国が面倒をみたお金です。

制度融資、雇用調整助成金、持続化給付金、家賃支援給付金、各地方自治体の支援金など、想像以上に中小企業の体力を温存させました。むしろ売上が前年同月比50%以下となることを願ってしまうような状況です。

粗利益をそっくりそのまま補填できた会社もあったことでしょう。もともと経営が苦しかった会社はコロナ禍で儲かったと言えなくもない。それほどの支援が行われたのです。

この企業のように、国のお金でお客様を買っている以上、国が面倒を見なくなればお客様も買えなくなるという事実を忘れてはいけません。

では、これほどの猶予を与えられた期間を皆さまはどのように使われましたか?

GoToキャンペーンが開始された夏ごろから気を緩め、何とかなると期待に変わっていたのであれば、皆さまの会社はコロナ前と何も変わっていないはず。中小企業がwithコロナなんて言っていたら遠からず潰れてしまいます。

事実、来年の宿泊予約はGoToトラベルの期限を境に全く異なる状況です。GoToはあくまで一次的なカンフル剤であり、アフターGoToは暖春ではなく厳冬です。

ワクチンなどが提供され始めれば医療費の助成が中心になり、消費喚起策は縮小されるでしょう。

極めつけは、この冬季賞与から始まる本格的な収入減少。テレワークで残業代が少なくなり、賞与がカットされ、昇給も期待薄、転職先も多くはない…。特別定額給付金も含めた年収ベースで考えれば、来年から収入が大きく減少する消費者が多数となるのは間違いありません。

つまり、消費者心理を凍り付かせる環境がそろってきました。これが最低でも数年は続きます。その理由がコロナであろうが何であろうが、収入が下がれば消費も下がるのは変えようがない事実です。

そのような状況が迫っている以上、これまで価格で勝負していた企業はどんどん厳しくなります。いままで購入してくれていたお客様はより安さをもとめて移動します。価格に比例して価値が見合わない商品またはサービスを提供していた企業も同様です。

ちなみに、冒頭の企業は価格勝負の企業ではないと言われています。コロナ前の売上を求めて過剰反応したとしか思えません。それでも今までと同じような売上を維持しようとすれば莫大な固定費が掛かります。

コロナ禍にかかわらず、お客様を厳選していない企業は、お客様から厳選されてしまいます。このような時期に逃げていき、状況が落ち着いても戻って来ないお客様はそもそも私たちのお客様ではなかったということです。

皆さまがお客様を厳選することに躊躇を覚えるのは、やはり売上が下がるという恐怖感…。実際に売上が下がることも多いでしょう。

お客様を厳選することによるメリットは何なのか?

それはデジタルトランスフォーメーションならぬ、収益構造のトランスフォーメーションです。お客様を厳選すると行動が変わり、その行動によって掛けるべき固定費が変わり、そこから上がる粗利益も変わる。

収益構造はお客様によって変わります。お客様を厳選すれば、あとは売上の最大化に尽力するだけ。一点集中は強力な武器にもなります。

もし今後もお客様を厳選しなかったら、体力不足の中小企業は国の延命措置にすがるしかありません…。それは会社経営ではなく、国民の雇用維持のために国に経営させられている器でしかありません。

これから厳冬の時期に入りますが、収益構造のトランスフォーメーションは確実に進めていってください。むしろお客様厳選の効果が目に見えて分かる時期でもありますので。

あらゆる慣習や当たり前を疑い、商売を根本から見直してみる

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、バイオマス由来の材料を配合していることから本来は有料化の対象外である自社のレジ袋について、10月1日からデザインやサイズを新しくしたうえで有料化(20円)することにしました。

また、新たなチケット価格戦略として、繁閑に応じて価格を変える「ダイナミックプライシング」の導入、アトラクションに待たずに乗れる「ファストパス」の有料化なども検討しているとのことです。

2021年3月期決算が通期で初の営業赤字となる現実味が増し、今後も入場者数など多くのことがコロナ前に戻らないことを前提に考える必要がある以上、様々なサービスを有料化できるように変えていこうとする動きは当然のことと言えます。

今年も残すところあと1月半となる今、年が明ける前に業界慣習や常識などを一切取っ払って皆様にも改めて自社の商売について考えてみて欲しいのです。

先月末に朝日新聞の全国版で紹介された、行列ができるサンドイッチ店の経営者と先日話をさせていただく機会がありました。

自店での販売に加えて全国展開する大手総合スーパーなど約50店舗に商品を卸しているこのお店は、全ての商品をスーパー側が買い取る「買取仕入」にて卸しています。

在庫リスクを負いたくないスーパー側は、商品が売れた場合に生産者がスーパーに販売手数料を支払う委託仕入やお客様へ販売できた分だけをスーパーが仕入れる消化仕入での契約を望み、商品を置いて欲しい生産者側は多くの場合それを受け入れてしまいます。

しかし、絶対に買取仕入でしか商品を卸さないというこの経営者はその理由をこう話してくれました。

「商品をスーパーに置く以上、売るのはスーパー側の仕事のはずです。在庫リスクを負わない委託仕入や消化仕入で契約すると、彼らは真剣に売ろうとしない。そんなのおかしいじゃないですか。」

サンドイッチ店を経営する以前、20代半ばに大手ゼネコンを退社し、歌手を目指しアコースティックギター1本を手に地元のバーで歌うことから始めたこの経営者。
最初から「500円でも1000円でもいいので、お店から必ずギャラをもらうようにしていた」そうです。

理由は「タダで歌を聴かせるのはおかしいし、少額でもギャラが発生することで歌う側にも仕事としての責任が生まれる」から。

ギャラどころか演者がライブハウスに出演料を支払い、チケットを自ら手売りするのが「当たり前」の業界慣習に逆らって、自らの「そんなのおかしい」という感覚にしたがって行動した彼は数年後、キャパシティ1000人規模の地元ホールを満員にしています。

人口減少社会withコロナ禍にあって、多くの前提条件が崩壊してしまった今、過去の「当たり前」は何の意味も持ちません。

まずは業界や自社で当たり前と考えられていることを書き出してみてください。

きっとその中に「おかしいのではないか」と感じることがあるはずです。

内側にいると、疑うことすらしなくなってしまう慣習やしきたり。
そうしたものに囚われることなくフラットな頭で考えてみて欲しいのです。

実現の仕方を考えるのはそのあとです。

来年以降、コロナ禍を生き抜くためのヒントが見つかるかもしれません。

待遇格差問題

同一労働同一賃金に関連して注目されていた最高裁の判決が立て続けに出されました。

皆さまもご存じのことかと思われますので詳細は省きます。
結論としては以下のとおり。

  • 元アルバイトが賞与の支給を求めて提訴 → 不合理な待遇格差ではない
  • 元契約社員が退職金の支給を求めて提訴 →      〃
  • 現契約社員が手当と休暇を求めて提訴  → 不合理な待遇格差である 

不合理な待遇格差と判断された日本郵便の件は頻繁に取り上げられていたものであり、労使ともにおかしいと判断していた部分もあるので、順当な判決です。

そして、判決の中で強調されていたのは『個別事情に基づいての判断』であり、個別事情が変われば異なる判決もあり得るという点です。

個別事情だらけの中小企業については2021年4月から同一労働同一賃金のルールが適用されます。

待遇格差について求められるのは、これまた中小企業が苦手とする『説明責任』

「見てわからないか? 考えればわかるだろ!」

と非正規社員にパワハラをしても意味はありません。

働き方改革なんてものはコロナ禍で吹き飛びましたが、景気の後退局面の中で、いち早く待遇が良い会社に転職しようという流れができてもおかしくはありません。

同一労働同一賃金…それこそ中小企業の個別事情を踏まえれば何てことはない代物ですが、新型コロナで過剰反応する方々と同一労働同一賃金で過剰反応する方々は同じ人種かもしれない…ということは肝に銘じておくべきです(暴言で申し訳ありません)。

「あいつ、全然仕事していないじゃん」

と陰口を叩かれている正規社員がいれば待遇格差問題を助長しますし、非正規社員の待遇が悪いのではなく、仕事をしていないと思われている正規社員の待遇が良すぎるのかもしれません。つまり、厚遇されていると思われている正規社員が一人でもいれば、それだけで問題になり得ます。

したがいまして、中小企業でも事実に基づく待遇格差は明確にしておく必要があり、これをやっておかないと痛い目に遭うかもしれません。

経営者は「お金の問題なのか?」と思うでしょうが、事実『お金の問題』です。

中小企業にとって一番の悩みどころは、これらを就業規則や賃金規定で表現しきれるものでは無いという点です。もちろん個別事情なんてものを表現できるわけはありません。

それでも説明責任を果たそうとすれば、以下のような形でシンプルかつ明確にするのも有りだと思われます。

中小企業であれば雇用者を正社員かパートタイマーに二分できるでしょう。つまり、正社員に対して求めることを明確にし、パートタイマーには求めていないことを明確にする。ここに職務ごと(営業、現場、経理など)の内容を追加すれば、ほぼ説明できると考えます。

むしろこのような資料をもって、正社員に対して求めることを伝えることの方が重要なのではないかと考えます。

さらに、このように具体的にまとめていければ、結果として就業規則の服務規律などに盛り込んでいけるものも出てくるはず。

同一労働同一賃金は口頭で説明できるようなものではなく、複雑で細かすぎる説明資料を作れば運用できません。

問題は待遇格差ではなく、非正規社員が限られた時間で懸命に仕事をこなしているのに、正規社員が残業しながら漫然と(あるいは残業もせずに期限も意識せず)仕事をしているのではないか?という点に尽きます。

当然ですが、雇用形態にかかわらず、同じ時間で同じ内容の仕事と責任を求めているのであれば、待遇格差はなくすべきです。

同一労働同一賃金のルールも視点を変えれば社内の業務改善につながるものであるということは念頭においてください。

大幅値上げの火災保険、年内に必ず見直しを

ここ数年、頻発している自然災害による保険金支払額の急増を受けて、来年2021年1月より損保各社の火災保険料が「一斉値上げ」となることはご存知でしょうか。

法人・個人所有にかかわらず、ご自宅・マンション・ビル・工場など全ての物件が対象となる今回の値上げ。その値上げ率がかなりのものとなっています。

2018年7月 広島県、岡山県、愛媛県などに甚大な被害をもたらした集中豪雨。
2019年8月 長崎県から佐賀県、福岡県までの広範囲に及ぶ集中豪雨。
2019年9月 関東甲信地方、東北地方に甚大な被害をもたらした過去最強クラスの台風。
2020年7月 熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨。

記憶に新しいここ3年だけでもこれだけの災害が起きていますので、保険料の値上げは仕方ありません。とはいえ、これだけの上げ幅ですので、なんとか値上げが実施される前に対策を打っておきたいところです。

契約年数と満期の時期によって考えられる対策をまとめましたので、自社の契約内容に応じて確認をしておきましょう。

ポイントは値上げ前の「2020年12月31日までに長期年払契約の火災保険に入る」ことにあります。

ケース④のように既に長期の保険契約を結んでいて満期が2025年以降であれば、現契約を続行することが有利となりますが、1年契約又は長期契約であっても2021年1月1日以降に満期が来るようであれば、現在の契約を年内に一度解約し、同日付で新たに長期契約で入りなおすことを検討します。

1年契約の年間保険料100,000円の火災保険に入っていた場合、仮に2年おきに20%値上がりした場合には5年目には172,000円まで保険料が上がることになりますが、5年間の年払い契約であれば、契約時の保険料を5年間キープできることに加えて5%~10%程度の長期契約割引が適用され、その差は5年間で最大250,000円程にまでなります。

ちなみに今回の値上げは2018年までの台風損害による保険金支払い増加を受けて実行されるものであり、2019年2020年の豪雨・台風や、この先に起こる災害を受けての値上げが今後も実施されるであろうことが確実視されています。

また、現在の契約を一度解約しても日割または月割での解約返戻金が受けられますので、新契約も同一の保険会社を選ぶ場合は解約によるロスはほとんどありません。

こうした提案を保険代理店の担当者がしてくれればよいのですが、残念ながら、なかなかこうした方法を積極的には教えてくれないのが実情です。

倉庫や工場など複数の物件を持っている企業にとっては特に、何も対策をしなければ、かなりのコスト増になることは間違いありません。

これを機に必要な補償がきちんとカバーされているかを含めて、現在の契約内容を改めて確認し、できる対策は年内に講じておきましょう。

利益はどこへ消えた?

一昔前、「チーズはどこへ消えた?」という本が一世を風靡しました。

誤解をおそれずざっくりまとめてしまうと、
変化は起きる、変化を予期せよ、変化を探知せよ、変化に素早く適応せよ etc.

皆さまもこの本のタイトルのように考えることがあるのではないでしょうか。

「あのとき出した利益、あれだけあったお金…どこへ消えたのだろうか?」

いま、このコロナ禍で再スタートとお考えだとしても、皆さまの過去の利益やお金がどこへ消えたのかを十分認識されていないのであれば、また同じことを繰り返す可能性があります。

もう二度と繰り返したくはない。

と思っていても、繰り返してしまうのが人間です。それでもできるだけ繰り返さないような防波堤はあって然るべき。

「利益がどこへ消えたのか?」と振り返るには、やはりその形跡を追う必要があります。そして、会社経営のお話なので決算書で追うのが一番分かりやすい。

しかし、単年の決算書を見返しても、ほとんどの方は分からないと思われます。そこでお勧めするのが過去の決算書の数字を並べた表を作成すること。

決算書は主に貸借対照表と損益計算書がありますが、この二つは対になっています。対になっているのですが、別々のものとして認識されていることが皆さまを混乱させる要因になっています。

従いまして、貸借対照表と損益計算書は合体させて眺めてください。そして、不必要な情報は消してしまえばいい。

例えば以下のような感じ。これなら税理士などのプロに頼まなくてもできるはず。
できれば10年。これだけ並べれば傾向は分かると思います。

これは棚卸資産が最重要の会社のサンプルデータであり以下の傾向が読み取れます。

  • 稼いだお金が棚卸資産に化けているという事実
  • 資金繰りを楽にするのであれば仕入を止めて棚卸資産を減らせばよい
  • 仕入のチャンスを逃さないのであれば借金をしてでも仕入れるべき

このサンプルの会社は自社の傾向を十分に理解していますし、このままブラッシュアップすると決められています。ただし、寄り道したくなることだってあります。そこで辿ってきた道を何度も見返すことにより迷いなく進めるようにしておきます。

また、その会社および経営者の性格に応じてどの項目が傾向を表すかは異なるため、その傾向が分かるものを探して並べる必要があります。

そこから何が見えるのか…成功の傾向か、失敗の傾向か。そして、この1~2年はどのような傾向で、今後どのような方向に進んで行く予定だったのか?

そこからのコロナ禍…。

過去の利益やお金の消え方から、今後進もうと考えている方向性が過去の傾向と同じ轍を踏んでいないかどうか?

まず、これを知ることが重要です。

もちろん「消えた先」が分かっており、それが健全な消え方であれば何ら問題ないでしょう。例えば「確かに会社から利益とお金が消えている。しかし、それは役員報酬として受取り、きちんと現預金として残っている。そして、いつでも会社にフィードバックできる」という傾向。そのような場合は表の欄外に個人の預金を付け加えてください。

もし、以下のような傾向が出てしまったら、その原因をよく噛み締め、同じ轍を踏まないように注意してください。

  • 利益が消えただけで、その行き先が何も生み出していない ⇒ お金の浪費
  • そもそも利益が出た形跡がない ⇒ 時間の浪費

例えば、恥ずかしながら当社と私のお話をさせていただくと…。

当社は構造的には非常にシンプルな労働集約型のサービス業です。設立からの傾向を見れば、良くも悪くも売上高と人件費が連動していることが分かります。

この点は今後の基本的な方向性を定め、連動性を切り離すことで覚悟を決めました。コロナ後でも方向性は変わりません。

あとは生産性を追及するあまり、そこに時間とお金を突っ込み浪費に終わったという傾向です。いまなら笑えますが完全に矛盾しています。ですから、私の個人的な関心からくる独りよがりを組織に求めるのは止め、いまは生産性の追求に時間とお金を掛けないと決めました。

自社の(経営者の)傾向を抑え、利益の形跡を追うことができ、やることが明確になる。

これは素晴らしいことなのですが、逃げ出さずにまっすぐ進まなければならないのはとても辛い! 消えた利益を探さないのは逆に楽なことです。

歴史に学べとはよく耳にしますが、会社の、そして皆さまの足跡から学べるものも多いと考えます。

手法としてはとてもシンプルなのですが、是非一度試してみてください。