地層

来年発売予定の本があります。
この本は5部立てで、最後の5部はある家族の物語で始まります。
今回は、その本のある部分の抜粋から始めてみようと思います。
第五部 中小企業会計再論
(第一章 省略)
第二章 会計における重要な真実
第一章の家族の物語をお話しましょう。

家族は、現実を見ないふりをして過ごしつつも、在庫や税金の問題に翻弄されるようになりました。そして、昔のようにカゴの現金のやり取りでは商売をやっていくことができないことを悟りはじめました。
そもそも、そのことは借金をしたときに薄々感じていたことでしたが、税金の問題に翻弄されるまでは、何とかなるような気でいました。
家族は、早速、書店に行って会計の本を数冊買ってきました。これさえ見れば、全てが解決すると家族は思いました。

 
空手の試合に出る人が空手の入門書を買ってきて試合に勝とうとしていたら、誰もが笑います。しかし、中小企業や自営業者の現場では、こうしたことが意外にも起きています。
確かに、本を読むだけで解決することもありますから、本を読んでもダメというわけではありませんが、本を読む者の態度に、怪説盲従的な態度や近道思考があることも事実でしょう。
家族の問題も数冊の会計の本で解決するというものではまったくないわけですが、家族はこうして問題の第二段階に突き進んでいくことになります。
この第二段階がどのように進んで行くかは、実際に本を手に取っていただくか、立ち読みいただければと思います。しかし、実際は、このような家族が、会計の本に手を出したときには、手遅れになっていることが多いというのが事実です。これは、会計の世界ではよく起こることです。
今度出版する本でも、この家族を題材に、経営の最初の出発点で誤りをしてしまった・・・としたら(この物語の家族はそうです)、その誤りは最低でも全治三年以上の病になるという話をさせていただいています。
3年なんて言うのは、かなり遠慮をした話で、実際は、5年から7年。場合によっては、完治しない・・という可能性さえあります。
そういう病気の人が、とりあえず会計の本から学ぶ・・という図は、悲劇的に見えて仕方がありません。
私も会計関係の本を書く立場ですから、こんなことを言うことは許されないかもしれませんが、これは誰もが知っておかなくてはならない事実でしょう。
『会社にお金が残らない本当の理由』にも書いたように、経営の舵取りは車のハンドリングのようにはいきません。どちらかと言うと船の操作に似ています。ハンドルを切ってもすぐに方向は変わらないのです。
そして、そのうえ財務的毀損もすぐに改善することはありません。
やったことがすべて地層になってくるからです。
これからの不況は、この培った地層の性質が勝負になります。
先般、あるお客様から
「あんたのおかげで、内部留保も十分にできているから、当分は、アクセルを少しゆるめて経営をしていくよ。不況期の入り口はそれが良いんでしょう?」
と電話をいただきました。このお客様は、良い地層を作り上げることができたというわけです。
私たちは、たまたまですが、今回の事態を想定し、早く警告を発していました。
また、私たちもファンドを売る立場にありましたが、某証券会社の代理店でありながら、ファンドを1円も売らないという暴挙をやっていました(おかげで、代理店は昨年辞めました)。
どれもこれもが過去の行動の地層として結果が出る。不況とは、地層の確認のために起こるような気がしてなりません。
今の時期は過去の行動が問われます。
この時期は、「乗り切ればいい」という態度では乗り切れません。
もう一段謙虚な考えで歩いていきましょう。

大奥に見る現代の経営

妻 「映画観に行かない?」
妻から誘われた・・・何かおかしい。
きっと何か裏があるに違いない・・・きっとそうだ。
私 「何観るの?」
妻 「デトロイト・メタル・シティ」
私 「・・・」
最近、事業承継について考えさせられる出来事がありました。
一言で説明すると、兄弟喧嘩。
ところが兄弟喧嘩も事業承継が絡むと非常に厄介な問題になります。
日本の中小企業はピーク時には540万社ほどあったらしいが現在では100万社の減少となっている。この背景には倒産、合併、買収などの他に中小企業ならではの問題があるようです。
それが『後継者不在』という現実。
また、その一方で後継者はいるものの同族会社ならではの問題も出てきています。
日本の中小企業の9割以上が同族会社。ワンマン経営でやってきた同族会社の後継者と言えば社長の息子と相場は決まっています。
創業者である社長は苦労して大きくしてきた会社を息子に継がせたいと思うのは“親心”として当たり前。
その場合、兄が社長、弟が専務というように一緒に会社に入ることが昔から数多く行われてきました。
兄弟は幼少の頃より起居を共にしており、遠慮のない口喧嘩を繰り返しながら成長を遂げてきて、兄弟という“私”の部分が、会社の公的部分にまで影響してしまいます。
例えば経営会議や取締役会における討議の場にしても、兄弟の気易さが表面化し、他の従業員に対しては絶対に口にしないような露骨な表現を用いてしまい、それが感情的議論へつながり、気まずいしこりを残すことになるのです。
弟である専務からみれば、少々社長に反抗しても自分の地位は安泰だという甘えがあるでしょうし、社長である兄にしてみれば、まさにその甘えが我慢のならない図々しさとなって反映します。
そして、さらに問題を複雑にする出来事が起こります。それは兄である社長の息子の登場です。
これがまさに大奥の世界。
喧嘩もしながらそれでも何とか二人で大きくしてきた会社に、ある日突然経営に顔を突っ込んでくる社長の息子に専務は苛立ちがつのります。
そして、その苛立ちはあるキーワードによって爆発するのです。
それが二代目経営者が口にする『経営改革』という大義名分。
景気後退、業績低迷の中にあって、従来どおりの経営を続けていては会社は倒産してしまうと息子は親父に訴えます。
その話を息子から聞かされた社長は、以前から事あるごとに衝突してきた弟に、この時とばかりに詰め寄るのです。これによって身内間の紛争がはじまります。
本来,些細とも思える原因によって身内間の紛争が生じ、それが急速に拡大して、やめろやめないにまで至ります。同族会社においていったん紛争が発生すると、途中で和解できる例は少なく、最終的には一方が会社を退くことになってしまいます。
そこで、今度問題となってくるのが自社株の存在。
今までは市場に流通しない株など紙切れ同然でしたが、事業承継問題に絡んで、その存在は重要となってきます。
次回からは同族会社をとりまく自社株の取り扱いと事業承継問題について話をいたします。
・・・どうやら妻は松山ケンイチのファンになったらしい。
で、映画はどうだったかと言うとこれが尾を引く面白さ。
そのときはそうでもなかったんですが、今になってじわじわと面白さが込み上げてきた。
映画では、松山ケンイチ演じる「ねぎっちょ」が夢と現実の狭間で悪戦苦闘する中であることに気づく。
「僕にしか見せられない夢がある!」
会社でも同じだと私は思うのです。
その人にしかできない役割がある。みんなそれぞれ欠点もあって、でも、それぞれが補い合ってひとつの会社になっている。
それを肝に銘じ、私たちはみんなでひとつの夢を追いかけることができる、そんな素敵な会社をつくって行きたいものです。

何で、私が納めるの?

役人が“論理的”に作ったものには、いろいろな不条理があります。
一つ例を上げてみましょう。
ある女性が詐欺にあいました。
※正確には詐欺ではないのですが、彼女の心情的には“詐欺”なので、ここでは詐欺としておきます。
その彼女は彼に貢ぎ続け、その金額が数千万円に達したとき、彼は消えました(ずいぶんお金持ちだったようです)。
その事実を知った彼女は悲嘆に暮れました。
しかし、それだけではなかったのです。
数年後、彼女の元に一枚の紙が地元税務署から送られてきました。
贈与税を納めろ・・・というのです。
何のことかと、詳しく問い合わせてみると、彼に貢いだ数千万円の贈与税を払えと言うのです。
彼女は「おかしい・・・」と思いました。
お金を貢いだのは、彼女。
お金貰ったのは、彼。
贈与税を払うのは彼であるべきです。
どうして、騙されてお金を貢いだ彼女が贈与税を払わないといけないのでしょう。
ところが、税務署は驚くべきことを言いました。
「あなたは、この贈与税の連帯納税義務者です」
つまり、彼から贈与税を取ろうと税務署は考えましたが、彼は行方不明。
そこで税務署は、連帯納税義務者である彼女に納税を迫ったのです。
この税務署の行動を不服に思った彼女は、いくつかの抵抗をしましたが、どうにもなりませんでした。
法律に書いているのですからどうにもなりません・・・。
こうした“不条理”が税務の現場では時々起こります。
先般、あるお客様が相談に来られた内容も“不条理”を突きつけられる例でした。
私たちは、税務上では“不条理”が起こるので、その行動を別の形で実行するか、この“不条理”を受け入れるか、どちらかしかないことを説明しますが、カンタンには納得いただけませんでした。
そりゃそうです。不条理なんだから・・・・・・。
でもね、不条理でも、法律は法律です。
この国は、そんな不条理があらゆるところにあるために、国の力を失いつつあるわけですが、この国にいる限りは、“不条理”を理解して、別のやり方を考えるしかありません。
しかし、例に上げたような、“論理的”が極端なことになった“不条理”ばかりではありません。”
役人たちは、“論理的”を強調しながら、その“論理”をカンタンに隠すこともしばしばです。つまり、法律そのものが“不条理”であることはよくあります。
そして、税務には、そんな“非論理”もはびこっています。
実は、税務自体が“不条理”。
そう見えても仕方ない環境では、私たちは仕事をしている。
この事実は知っておきたいところです。

【決算前夜】は【決戦前夜】

冬から春へと変わる季節の変り目、3月。
決算を迎える会社が最も多い月です。
現時点では決算日前ですが、既に業績も固まり、概算納税額も計算済みのはず。
また、新年度の予算編成が終了していなければならない時期でもあります。
皆さんの会社の新事業年度予算案は、どのようなものになったでしょうか?
私も、お客様の予算検討会に出席する事があります。
そのようなとき、お客様があまりにも当然の予算案を出してくると、生意気な事を口走ってしまう場合があります。
「それって、何もしないという事ですか?」
立場上、その会社が抱えている問題点は把握しています。
第三者の私でも予測し得る予算案を立てるという事は、問題点もそのまま放置するという様に捉えてしまうのです。
杓子定規の予算案を見たら崩しにかかり、あまりにも非現実的な予算案を見たら現実に引き戻します。
「来期必達売上高! 目標利益絶対確保!」
このような観点から作られる予算案は、願望を反映させた、ただの数値目標です。
会社を取り巻く全ての環境要因を反映させなければ意味がありません。
環境要因を意識すると、経営者は考え始めます。
考え始めると、問題点自体が動き始める。
後は、決断し、その決断を予算に反映させる。
そして、予算案を従業員に発表してしまえば、その決断は伝わり、経営者の退路は断たれます。
つまり、予算案を検討するという事は、その会社の問題点を浮き彫りにし、それをどう解決していくかのプロセスを検討するという事でもあります。
問題点から逃げた予算案に、将来性を感じません。
“やりたくはないのだけれども、やらなければいけない事”を、予算案の作成というプロセスを通じて、実行のタイミングに落とし込むのです。
このプロセスに関わっていると、我々も緊張感がみなぎってきます。
予算案の編成は、重大な決断を伴うことが多いため、本当に苦しい作業です。
それでも、予算案を片手に、新たな事業年度へと向かわなければなりません。
経営者にとっては、戦場に向かうのと同じ気持ちのはずです。
決戦の準備は万全ですか?
もうすぐ、夜が明けます。
例え勝てなくても、負けないで戦場から戻って来てください。
その戦場での教訓を胸に、次の戦場へ向かえばいいのですから。

法人成りブーム再来か!?

長らく滞っていた平成23年度税制改正ですが、民主、自公3党で合意の
とれた部分だけを抜き出し法案化したことでようやく可決にこぎつけました。
実は、今回成立した項目の中には『消費税の免税事業者要件の見直し』が
含まれていることから、これを機に個人事業者が法人となる、
『法人成り』の検討を始めた事業者も少なくありません。
私も、この2,3ヶ月の間に数人の方々からご相談を受けました。
平成23年度中に法人を設立することにより、現在、新設法人に認め
られている、設立から2年間の消費税の『免税』を受けることが狙いです。
これについては以前にお話していますのでそちらをご覧ください。
その法人成りの質問をいただく際に、よくいただく質問が
『社会保険に加入するとどうなるのか?』というものです。
社会保険に加入した場合、従業員と会社で保険料を折半することと
なっていることから、その経費増が気になるというものです。
個人事業者については、適用業種であって常時5名以上の従業員を
使用する場合には社会保険の加入が強制となっています。
従業員が5名未満の場合や、農林業、美容業、飲食店などの一部の
業種については、社会保険の加入が『任意』となっており、負担増となる
ことから加入するケースは少ないと思われます。
しかし、法人の場合には、従業員数に関係なく社会保険への加入が『強制』
されており、たとえ一人オーナー会社であっても、社会保険への加入が強制
されることとなります。
その他にも社会保険への加入が注目されている理由があります。
それは、ハローワークが行っている『求人』の取り扱いです。
多くの中小企業はハローワークを利用し求人を行っていますが、
近年、社会保険に加入していない事業所について、ハローワークでの
求人を受け付けない動きが強まってきています。
社会保険に加入していない会社は求人を出しませんということです。
この件に関して随分前に厚生労働省から報道発表されています。
『ハローワークにおける厚生年金への加入が明示されていない求人への
社会保険事務所と連携した対応等について』
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/04/h0419-5.html
これにより、社会保険加入への関心が高まっています。
それでは、社会保険に加入した場合に会社が社員一人当たりに支払う
保険料がいくらになるかご存知でしょうか?
会社が支払うこととなる保険料の計算は次のとおりです。
(注)
(年収×25.538%)÷2
(注)
健康保険料(東京) 9.48 %
厚生年金保険料 16.058%
以下のケースで負担することとなる保険料を計算してみます。
≪設例≫
年収平均500万 従業員数 10名
(500万円×10名25.538%)÷2=6,384,500円
いかがでしょう、社会保険に加入した年から、これだけの利益が吹っ飛ぶ
計算になります。
利益率が50%の会社なら、売上高にして約1280万円に相当する利益です。
それだけではありません。
厚生年金の保険料はこれから毎年アップすることが
すでに決まっています。
それ以外にも『昇給』による社会保険料の増加も考えなければいけません。
たとえ会社は成長しなくても、ある程度のレベルの社員を雇っていたい場合には、
一定の昇給は、その社員の生活最低保障として必ず必要になってきます。
その場合、社会保険負担も昇給に比例して必ず増加していきます。
みなさんは、この負担を無視できるでしょうか?
税務上の有利不利は、経営上における重要な判断ポイントとなります。
しかし、それだけを基準として法人成りを考えることは明らかに間違っています。
目先の利益にとらわれ、将来にわたる重要な判断を誤らないように
していただきたいと思います。
そこで、今回、社会保険に加入する場合のメリット・デメリットと
法人成り・経営上の判断ポイントについての解説音声を作成いたしました。
詳しくは、こちらをご覧ください。
この音声に収録されている内容は、その辺の書籍には書いていない
『経営者のための社会保険の知識』です。
この音声をお聞きいただければ、経営者に必要な社会保険の知識は十分
に修得いただける内容となっています。
社会保険の加入時の参考にしていただければ幸いです。
詳しくは、こちらをご覧ください。

税金の世界でも『年金問題』!?

税理士は各地域の税理士会に所属しており、2、3ヶ月毎に所轄税務署と
『事務連絡会』というものを開いています。
これは、その連絡会の中での税務署とのやり取りです。
税理士 「この場合、本当に確定申告しなくていいんですね?」
税務署 「しょうがないですね。申告をしろという規定がありませんから・・・」
税務署 「それで結構です・・・。」
また、この国は行き当たりばったりの制度を作ってしまいました。
それは『年金取得者の申告不要制度』というものです。
大ざっぱに言うと、年金400万円以下の人は確定申告をしなくてもいいという
制度です。
このようなできたばかりの制度には多くの欠陥があるものです。
もう少し詳しくお話いたします。
年金をもらっている人の中で、一定の金額以上の年金をもらっている人に
ついては『扶養親族等申告書』というものを提出しています。
もちろん出している人にしかわからない話ですが、一言でいうと沢山の年金を
もらっている人のところに届く書類です。
この書類に扶養となる家族をたくさん書いて出すことによって、本来は年金から
控除される税金が少なくなったり、ゼロになったりします。
事例でお話しましょう。
例えば、お爺さん、お婆さん、お父さん、お母さん、子供2人という
家族がいたとします。
ここでは、お父さんは会社を経営しているオーナー社長だと思ってください。
そして、お爺さんは前経営者で、退職して沢山の年金をもらっています。
この場合、お婆さん、お母さん、子供2人は誰の扶養につけるでしょうか?
通常であれば、一番収入の多い、お父さんの扶養にするでしょう。
オーナー社長とお爺さんはそれぞれ確定申告を行い、税金を納めています。
ところが、今回の年金申告不要制度を乱用すると次のようなことが
できてしまうというのです。
1.年金機構の『扶養親族等申告書』にお婆ちゃん、お母さん、子供2人を
記載して提出
2.社長が確定申告を行う。その際、お婆ちゃん、お母さん、子供2人を
扶養親族として申告をする。
つまり、扶養親族の変更です。
これで、お婆ちゃん、お母さん、子供はお爺さんと社長の二人の扶養親族と
なることになります。
従来であれば、扶養に変更があり納税が発生する場合には確定申告が
必要になりました。
しかし、今回の申告不要制度については、年金が400万円以下であり、
かつ他の所得が20万円未満である場合には確定申告が不要となっています。
ただし、今までの話はすべて国税だけの話です。
住民税についてはこの申告不要制度がありません。
つまり、所得税の確定申告は行う必要はありませんが、住民税の確定申告は
必要なのです。
先ほどの扶養変更についても住民税の申告では扶養を変えたことをちゃんと
申告しなければいけません。
これによって扶養が重複していることが明らかとなり税務署より何らかの
お尋ねが届くことになる筈です。
この手の税法の抜け穴を使ったテクニカルな節税ノウハウが出回る可能性が
ありますが、これは明らかな脱税行為であり、制度上の瑕疵を悪用するものです。
このような瑕疵は必ず立法手段によって対処されます。
目先の怪しい話に飛びつくことのないように十分ご注意ください。

なぜ、あの社長は税務調査を歓迎するのか?

社長 「先生、今、税務署の方が来られまして・・・」
税務署の調査です。
私 「分かりました、私が行くまで中には入れないでくださいね。」
社長 「あっ、いいんです先生、もう調査はじめていただきました。」
私 「エェーそうなんですか!」
私 「今すぐ行きますから待っていてください(汗)」
普通の社長であれば税務調査は少なからず嫌がるものです。
ところが、この社長は快く税務調査を受け入れてしまいました。
実は、そこにはある理由がありました。
以前、税務調査を受けたときに、従業員による多額の不正が発見されたと
いうのです。
実は、税務調査では、税金の申告漏れだけではなく
社内不正や経理の不備が発見されることが少なくありません。
所轄の税務署より調査の連絡があったことを知った従業員が
横領の告白をしてきたというケースもあるくらいです。
また、その逆に、以前の税務調査で不正を指摘されなかったため
その後、不正金額が増加したというケースもあります。
一般の調査官による税務調査は、決められた期間で一定の
件数をこなす必要があり、見落とされることも珍しくありません。
ところが、調査官の中には査察部出身の者もおり、彼らは一般の調査官と
目の付けどころが違います。
帳簿書類の日付や筆跡、印鑑の種類まで確認し、書類の偽造までも見破ります。
その結果、申告漏れの税金よりも、発見される不正金額のほうが大きい場合
があるのです。
これは本当に珍しいことではありません。
多くの税理士が経験していることです。
税務調査が行われるまで、従業員の不正が続いてしまうのでは
困りますし、できれば、税務調査を受けずに不正を防止できるに
こしたことはありません。
まず、ある職務が一人の従業員に集中している仕事は要注意です。
・発注業務を一人の従業員が行っている。
・経理業務を一人の従業員が行っている。
・集金業務を一人の従業員が行っている。
・業者との折衝が 一人の従業員が行っている。
・請求書の発行を一人の従業員が行っている。
これらは全て不正の温床となります。
次に、不正を防止するために、次のことを徹底しましょう。
・予算制度の採用
・貯蔵品の受払簿を作成
・定額資金前渡制の採用
・現金回収は避ける
・領収証にはナンバリングをする
(書き損じは破棄させない)
・売掛金残高は確認状を送付
・定期的な棚卸(立会人を付ける)
・リベートの有無を確認する。
また、ある社長はこんなことも行っています。
その社長は、どんなに量が多くても全ての請求書に目を通し、
自ら決裁をします。
そして、その決裁は、必ず社員が揃っている前で、大きな声で全員に
聞こえるように質問をしながら行うのです。
これは実に上手いやり方です。
社長 「おーい、この外注なんでこんなに高いんだー?」
社員A「先月の○○が一緒になっているからです。」
社員B「それは先月に請求になっているはずです・・・」
社長 「おい、どうなってんだー(怒)」
こんな感じで、従業員どうしが牽制し合い、
社長も現場で起こっている問題が見えてきます。
その他にも不正を防止する手段は沢山ありますが
あらゆる手段を徹底したとしても不正は完全には無くすことが
できません。
それは、経営者自身による不正が残っているためです。
以前に、こんなことがありました。
預金の受払いと経理を全て奥さまが一人で行っていた会社がありました。
以前からどうしても預金の受払いが合わなかったため調査していったところ
犯人は社長の奥さまだったのです。
もちろん、その逆もありました。
売上金の集金をすべて社長が行っていたのですが、
入金額が少なく現金がマイナス残高になってしまうのです。
社長が奥さまに内緒で売上げの一部を抜いていました。
いずれも立派は『横領』です。
社長とその親族による横領は税務調査では大きなペナルティーと
なります。
日頃から、適切な経理を心がけ、税理士による監査を受けることは
税務調査対策だけではなく、大きな意味があるのです。

なぜ、税理士は社長を怒らせたのか?

「先生、お久しぶりです。また、お世話になります・・」
三年前に一度弊社にご相談に来られた社長さんが、人の縁で回りまわって
再び弊社に来社されることとなりました。
しかも、私に連絡をくれた人の話を聞いてみると、三年前にいらしたときと
まったく同じ内容のご相談についてです。
その内容とは、ある経理処理について納得がいかないというものです。
その社長さんは、税理士と退職した経理担当者が処理を間違っていると
考えています。
その話を聞いて、私は『これは不味いことになったなー。』と直観的に
思いました。
数日後、その社長さんより面談予定日の電話があり、三年前に解決した筈
なのに一体、どういうことなのか聞いてみました。
すると、「あの当時(三年前)はまだ会計のことがよくわかっていなかった。」
「あれから自分で勉強し直したのでもう一度話を聞いて欲しい」ということでした。
数日後、社長さんがいらっしゃいました。
挨拶もそこそこに早速本題に入りました。
最初は穏やかだった社長さんも、話しているうちに興奮してこられ、
しまいには「訴えてもいいと思っている。」と憤怒する始末です。
厄介なことになったなーと思いながらも社長さんの話を聞き続けました。
ところが、話を聞いているうちにこれはとても単純な話だということがわかりました。
実は、その社長さんは、経理処理の間違いを糾弾したいのではなく、ご自分の
納得がいかない点を『理解したい』と思っていらっしゃったのです。
仕事柄、かなりきびしい口調ではありましたが、“知りたい” “教えてほしい”と
言っていました。
そこで、私は、社長さんの目の前で、その顧問税理士に直接電話をし、調査に
必要な資料の提出を依頼し、場合によっては、私の説明に同席するように
依頼しました。
その税理士さんは、地元では名の知れた先生です。
電話をすると、先生は興奮された様子で、
「もう何度も説明したんです。」
「そもそも言っていることがおかしいでしょ?」
「もう先生の好きにしてください。」
とおっしゃいました。
私はすぐに思いました。
「あぁーこれが話をこじれさせた原因か」と。
社長さんと言っても相手はシロウトです。
しかも、お客様です。
そのお客様を相手に「言ってることおかしいでしょ?」はオカシイデショ?
お願いした資料は、翌日には私の手元に届きました。
私は、届いた資料の一つ一つに目を通したうえで、あらためて社長さんの
お話を聞き、資料で確認しながら、疑問点の一つ一つに十分な時間をかけて
話し合いました。
その結果、経理処理に問題はなく、社長さんの思い違いであることがわかりました。
確かに、結果だけみれば、社長さんの思い違いです。
しかし、専門家であれば、その思いの一つ一つに誠実に耳を傾け、寄り添うことが
できなければ意味がありません。
みなさんの中で同じようなことで悩んでいらっしゃる方がいらっしゃいましたら
弊社の『税理士セカンドオピニオンサービス』をご利用ください。
今回の件は、(税理士)先生だけに反面教師となりました。

遺言書だけで大丈夫と思っていませんか?

ある日のこと、午前と午後で相続についての二組の相談者が
訪れてきました。
その2組の相談がとても対象的だったので私の記憶に
残りました。
1組目の相談は、すでに数年前に被相続人のお父様がお亡くなりに
なっており、その後、相続の手続きが行われず、手つかずになっていました。
とくに田舎ではよくある話です。
もちろん、相続手続きがされなかったのにはちゃんと“理由”が
ありました。
それは、相続人の一人がお父様が残された遺言書に不満が
あったため、他の相続人がどうしていいのか分からなくなっていたのです。
その手つかずになっていた相続の話が、何故、今回動くことに
なったのか?
それは、『名奉行』が現れたからです。
ここが今回の話でポイントにしたいところです。
世間では“遺言書”を作っておけばそれで相続は円満に進む
と思われているようですが、そんな単純なものではありません。
いくら故人が想いを記した最後の手紙であったとしても
残された家族にとっては今後の生活を左右する重大事です。
内容次第では素直に受け取ることはできない場合もあります。
そこで登場するのが名奉行の『遺言執行人』です。
遺言執行人とは、遺言の内容を実現するために必要な権利義務を
もった、いわば相続奉行といったところです。
遺言書があったとしても、中にはその遺言を快く思っていない人や
名義変更等に協力しない人がいて、遺言の実現にはとても時間がかかって
しまします。
そんなときに名奉行の裁きが必要なのです。
これは理屈ではありません。
ガンコ親父の『説教』と同じです。
だれか説教をしてくれる人でもいなければ、
まとまる話もまとまらないというものです。
実は我々、税理士には遺産分割協議に口を挟むことは
許されていません。
しかし、遺言書を作成する際に、その遺言書において遺言執行人
としての権限を与えられた場合は別です。
その場合には、税理士は故人の意思に沿い、遺言執行を速やかに
行います。
これから遺言を作成しようとお考えになっていらっしゃる方は、
作成の相談だけではなく、執行まで含め長く付き合える専門家に
相談をしてください。
それでは、もう一組のご相談はどんなものだったのか。
こちらは、事務所に入って来られたときからちょっと独特な
雰囲気がありました。
話を聞いてみると、ご兄弟4人だけでいらっしゃたとのことです。
普通、相続のご相談で、奥さんが抜けるというのはあまりないケースです。
事前にインターネットで調べてきたのか遺産分割協議書のひな形を
持っており、若干の知識も持っていました。
相談者「遺産の分割は相続人で話し合って決めるんですよね?」
私「その通りです。遺言がなければ皆さんの話し合い次第です。」
相談者「わかりました・・話し合いですか・・。」
終始、遺産分割協議の方法について聞いていらっしゃいました。
ご長男が中心でいろいろと質問されていましたが、どことなく
皆さん核心部分に触れられないご様子です。
私は仕事柄多くの方と接しているので、言葉の端々や抑揚から
相談されている方の『思惑』がだいたい推察できます。
どうやらこの相続、ご兄弟それぞれに思惑があるようです。
私(この相続、いったい誰がまとめるんだろう・・・。)
しかし、今、私にできることは質問に答えることだけです。
専門家をただの情報屋として質問に答えてもらうだけでいいのか?
はたまた、名奉行役として采配をふるってもらうのか?
みなさん、専門家を上手に使ってください。

何故、疑問に思わないのか?

先日、お客様の役員様よりこんなご質問をいただきました。
お客様:「当社では、代金の回収にクレジットをご利用いただくことがあります。」
お客様:「その際、利用伝票(お客様控)をお渡しするのですが、中に、領収書を
欲しいとおっしゃる方がいらっしゃるのです。」
笹 川:「なるほど、心配性な方もいらっしゃるんでしょうからねぇ。」
お客様:「そこで、ちょっと疑問なんですが・・・」
笹 川:「はい、なんでしょう?」
お客様:「当社では、代金を直接そのお客様より受領したわけではないのに、
『領収書』を発行するのはおかしくありませんか!?印紙だってかかるし・・・」
この話を聞いて、すぐに思い出すのが、飲食店や家電屋さんでクレジットカードを
利用したときのことです。
あのときに印紙が貼ってあったでしょうか?
この事案については、国税庁より取り扱いが公表されています。
《国税庁》クレジット販売の場合の領収書
結論としては、クレジット販売の場合には、『信用取引』により商品を引き渡す
ものなので、その際に発行する領収書であってもお金の受け取りの事実が
ないので、たとえ表題が『領収書』となっていたとしても、課税文書には該当しない
こととなります。
ただし、注意点があります。
クレジットカード利用の場合であっても、その旨を『領収書』に記載しないと、
課税文書となりますので、必ず、但し書きに『クレジットご利用』とお書き
いただくことが必要です。
これを書き忘れてしまいますと、ただの『領収書』となりますので、印紙が必要と
なります。
いかがでしょう、電気屋さんでクレジットカードを使ったときの領収書には、
クレジットの利用であることがちゃんと書いてあったことを思い出しませんか?
裏話になりますが、このお客様のところでクレジットが利用されるようになったのは
今にはじまった話ではありません。
以前よりずっとクレジットを使われてきました。
それでは、何故、今回この役員さんがこのような質問を突然してきたのかというと、
そこには、社内で起こっていたある『変化』を感じたからだそうです。
その変化とは、最近、『クレジット利用のお客様に対する領収書の発行が増えた』
という事実です。
本来であれば、クレジット利用伝票(お客様控)がいっている訳ですから、一部の
お客様より領収書の発行を依頼されることはあっても、多数のお客様より一度に
依頼されることはまずありませんでした。
そこに、この役員さんは何かがおかしいと感じ取ったのです。
そして、よくよく調べて行くと、その領収書を欲しがっているのは、お客様ではなく
自社の従業員だということが分かったそうです。
実は、リフォーム工事を行う場合に、市が助成金を出していたのですが、その申請
に必要な書類の中に『領収書』があったのです。
それに対して疑問をもったその役員さんは、市の担当者に連絡したところ、
「クレジットの利用を想定していなかった。すぐに対応いたします。」との
回答をいただいたそうです。
はじめからこうすればよかった話だとは思いませんか?
私たちの会社では、部分的に見ると一見正しそうに行われていることも、全体から
みた場合にはおかしいことが行われていることが少なくありません。
ただ、その違和感を感じ取るアンテナを張って仕事に望んでいるかという姿勢の
違いです。
私は小学生のころに『なぜナゼ坊や』というあだ名を付けられたことがありました(笑)。
大人になって、一から十まで「なぜ何故?」と聞いていては仕事になりませんが、
ただ、いつも部分でおきていることの正しさに疑問を持つアンテナは忘れずに
持っていたいものです。