税務調査、始まっていますね…

ご存じのとおり、国税の人事異動は毎年7月10日になりますので、税務調査はこの人事異動後に活動を開始し、実際の調査は8月に入ってからというのが流れです。現在進行形の企業様もおありのことでしょう。

しかし、税務調査も少し流れが変わってきたようで、人事異動前に調査の事前通知が始まっています。実際、当社のお客様でも6月下旬に税務調査の事前通知がありました。早いなと思います。

事前通知が早まったということは、結果として税務調査の件数が増えるということにつながります。近年は税務調査の件数が減少傾向ですから、少しでも調査件数を増やすということなのでしょう。

こうなると、やはり税務調査が省略となる場合もある書面添付制度は有効ですから、ぜひご活用いただくのがよいと思います。もちろん、顧問税理士様に…。

ちなみに、上記の当社への事前通知も、書面添付を提出しているお客様に対してでした。

「あのー、33条の2の添付書面出していますけど、それでも調査の日程調整しますか?」

「…少々お待ちください。(ガサゴソ)、♪~…、…、…。もしもし、一度なかったことにしてください。調査自体行わない可能性がありますので…。」

もちろん、今回のケースはレアな笑い話ですが、書面添付制度にはこのような効果があります。

とはいっても、税務調査はやはり嫌なものです。何と言っても時間が奪われます。書面添付制度を利用しても、永遠に来ないということではないので、来てしまったら仕方ありません。税務調査に来てしまったら、早く終わってもらうしかありません。

では、どうすれば早く終わるのか?

一番は、顧問税理士に普段からしっかり仕事をしていただくこと。これに尽きます。次は、自社でも正確な処理を心掛けること。

ベタですが、問題がなければ税務調査も早く終わるのは当然です。税理士にも限界がありますし、ミスもします。帳簿の正確性を確保するには、自社と税理士の共同作業が必要です。

では、税理士に頼りきりにせず、自社でも正確性を心掛けるには、どのようにすればよいのか?

これはやはり税務調査のチェックポイントを抑える必要があり、チェックポイントを知ることが重要です。ちなみに、国税庁は下記のようなチェックリストをホームページに掲載しています。

   ・「大規模法人に関する要注意項目確認表」(PDF)

   *上記の関連ページはこちら

大規模法人とありますが、中小企業でも変わりません。慣れないと少し難しいかもしれませんが、よく出来ています。決算月まで会計処理が終わった後、改めてこのチェックリストでご確認いただき、漏れや修正すべき点、顧問税理士に伝えておくべき点をご確認いただくのがよろしいかと考えます。それだけでも随分違うと思います。

このチェックリストは税務署への提出対象ではありませんが、税務調査に来た時などに、帳簿書類の一番上に堂々と置いておくのも面白いかもしれませんね(笑)

「うちは、国税庁が出しているチェックリストでしっかり処理しているよ!」って。

もちろん、どの企業も「これは微妙かな…」と思う点はあるでしょう。しかし、それは既に皆さまも十分把握しており、かつ、覚悟をしている部分もおありのはず。

ネックとなるのは、想定外のリスクです。このようなものはチェックリストなどで炙り出しておくのが一番です。

税務調査対策にウルトラCはありません。調査官と上手く交渉して…という話しもありますが、それはあくまで問題が発生しているケースに対してです。

問題が発生しないようにするには、問題点を事前に抑えておく。本当にこれだけなのです。

調査官も税金を取りたいばかりではなく、調査が早く終わるものなら終わらせて、次の法人の調査に取り掛かりたいのです。

ぜひ、協力して早く終わらせてあげようではありませんか!
もちろん、修正なしで。

P.S.
少し税務調査から外れる内容もありますが、法人会などもチェックシートを公表していますので、ご参考にしてください。

   *【法人会:自主点検チェックシート】

 

自社の雇用について考えさせられる改正?!

「配偶者控除」が無くなったら、あなたはどうしますか?

皆さんご存知の「配偶者控除」ですが、ついに廃止の方向で検討されています。
以前から、時代の変化とともにその改正が議論されてきましたが、早ければH29年1月から改正となる模様です。

誰もが知っている「103万円」という給与のライン。
配偶者控除の廃止によって、このラインは当然になくなります。
このラインの消滅が、女性の働き方を大きく変える、(政府に言わせれば、このラインが女性の勤労意欲に歯止めを掛けていた、とのことのようですが)、ひっくり返せば、雇用する側の雇用のあり方も変わる必要が出てきます。

◆新しい制度の発足?
配偶者控除の廃止によって、現在検討されているのが「夫婦控除」です。
いくつかの案は出ているようですが、軸になるのは、配偶者の所得にかかわらず、一定金額を夫婦のいずれかから控除できる案で、これまでの配偶者控除の趣旨とは全く異なるものになりそうです。

◆主婦の収入の壁
先述の「103万円の壁」ですが、この税制の優遇を受けるため、このラインまでしか働かない(働けない)という主婦は、多くいらっしゃいます。
また、「130万円の壁」。
この用語もよく耳にする、ご主人の社会保険の扶養になるためのラインです。
実際にはこの、「103万円の壁」「130万円の壁」を上限に労働時間を調整しているというのは、どこにでもある風景ではないでしょうか。

また、大規模な企業では、H28年10月から、パートなどの短時間労働者の社会保険の適用基準の改正によって、年収106万円以上で社会保険加入となる可能性もありますから、働く会社の規模等によって「106万円の壁」「130万円の壁」が今後の一つのラインになることが予想されます。

◆雇用する側にも変化を求められる
現状では年収160万円を超えてくると、配偶者控除も受けれず、また、ご主人の社会保険の扶養にも入れないが、トータルでの手取りがグッと増えてくるライン、と言われています。

そうすると、今後は、

  1. 相変わらず、年収103万円あたりの労働時間がちょうどいい
  2. 社会保険の扶養になれる年収130万円弱まで労働時間を増やしたい
  3. 手取りを大きく増やすため、年収160万円以上、むしろ、フルタイム勤務を希望する

という、変更の希望があることが予想できます。

仮に会社がこの希望に対応出来ない場合には、例えばその希望を叶えるべく転職をされてしまう、そんなことも考えられます。

あるデータによれば、配偶者控除の廃止による増税によって、パートタイムではなくフルタイム勤務への希望の割合が、これまでの全体の13.1%から25.2%へと、ほぼ倍増するという情報もあります。
また、実際には、この年収が103万円以下の配偶者を持つことで、ご主人の給与に「扶養手当」などを支給している企業も多く存在しています。

個人への税負担の改正が、主に女性の働き方へ、さらには、この女性を雇用する側の体制にも変化を求めることになりそうです。

私個人的には、上記のような「手当て」があるとしたら、これ自体が今後は労働時間の調整をする大きな要因になると考えますが、企業としても労働者に不利にならない様な給与規定の改定が必要になるものと考えます。

また、「女性の社会進出を!」と謳うなら、税制改正の前に、例えば、子供を預けても安心して長く働けるような社会的環境を整備することの方が先のようにも感じます。

年収103万円のパートさんを多く雇用しているあなた、
「配偶者控除」が無くなったら、あなたはどうしますか?

必要な人材の確保、一人あたりの労働時間の増加による生産性の確保など、労働条件の変更の希望があっても、それに対応できる体制の準備が必要になりそうです。

「他の役員はいくらもらっているんですか?」と聞かれたときのために知っておきたい役員報酬の決議方法

質問です。

あなたの会社では役員同士がいくら報酬をもらっているかを知っていますか?
又は知らせていますか?

社長をはじめ役員全員が『親族』であるオーナー企業の場合には答えは「Yes」でしょう。

しかし、社長と副社長のみが親族でそれ以外の専務や常務、平取締役が親族外の会社では「No」というところも少なくない思います。

しかし、これを当然のことと思っていると後々面倒なことが起こることがあります。

今日はそんなお話をいたします。

業績低迷の折、コスト削減の一環として『役員の報酬削減』を行うことがあります。

このような場面で社長の一声で『全員一律10%カット』などと言われたときに月給100万円もらっている人と、月給30万円の人とでは金額の重みが違います。

そうでなくともサラリーマンであれば、俺はこれしか貰っていないけどあいつはいったいいくら貰っているんだ?と常に思っているものです。

そんな鬱積した気持ちが「他の役員はいくら貰っているのか全部教えてください!」と言わしめることとなります。

役員A「そもそも私は役員なのですから他の役員がいくら(給料を)貰っているのかも知る権利があるはずです。」

さて、このような場面であなたなら何と答えますか?

「そんなことをお前に教える必要はない!」と言ってしまって構わない相手ならそれでもいいのですが、ここは法律に基づいた理解をしておきたいところです。

そのためには、まず、取締役の報酬はどのようにして決めたらいいのかを理解しましょう。

取締役の報酬については会社法第361条において、『定款』で定めることを前提としたうえで、定款で定めていないときは『株主総会の決議』によって定めることとしています。
定款で役員報酬を定めることはまずありません。

なぜなら役員報酬を変更するたびに定款を作り変えることになり、面倒だからです。

そのため、株主総会で役員報酬を決めるのですが、株主総会の決議において報酬を定める場合、取締役全員の報酬の総額のみを定め、その具体的な配分は取締役会の決定もしくは代表取締役に一任することとしています。

株主総会で個々の支給額まで決議することが原則となりますが、役員個々の支給額を変更するたびに株主総会の決議をすることが大変なので、株主総会では総額のみを定め、その範囲内であれば、あとは取締役会もしくは代表取締役に一任するほうが実務上運用しやすいということです。

その他にも株主総会で個々の支給額まで決めない理由があります。

株主総会で個々の支給額まで決議したのならば、そもそも全員の支給額を本来知っていなければならないからです。

多くの中小企業では株主総会など開催していません。
書類上だけ開催したことにしているだけです。

そこが弱みとなります。

会社法では「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。」と規定しています。(会社法314条)

説明をするためには株主総会に出席する必要があり、取締役も監査役も株主総会への出席義務があります。

そのため、株主総会において役員個々の支給額を決議した場合には、当然に他の役員もその決定を知っていることが前提であり、後日において他の役員から各人の支給額について質問がありその応答を拒否した場合には、その役員によって『決議不存在確認』又は『決議取消しの訴え』を起こされるリスクが生じます。

しかし、株主総会において役員報酬の総額の枠のみを決議した場合には、その総額の枠のみを伝えるだけで足りることとなります。

ただし、この場合においても適法に株主総会を開催していない場合にはその事実が覆ることはなく、その役員によって『決議不存在確認』又は『決議取消しの訴え』を起こされるリスクは残ります。

次に、個々の支給額について取締役会で決議する方法と代表取締役に一任する方法のどちらがよいのかですが、代表取締役に一任することがベターです。

何故なら取締役会で決議した場合には当然その役員も会議に出席している必要があり、上記の株主総会と同じ問題が生じるためです。

また、取締役会の議事については議事録を作成し、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならないこととなっています。(会社法369条)

以上の理由から中小企業が取締役の報酬を決定する手順としてベターな方法は次のとおりです。

  1. 株主総会で報酬の総額のみを定める。(少し大きめに定めておくこと。)
  2. 個々の支給額については「その配分は取締役会に一任することとする」としたうえで取締役会では「代表取締役に一任することとする」とします。
  3. 各人の支給額を決定し「報酬決定通知書」により各人に通知する。

取締役会において、個々の取締役の報酬額の決定を代表取締役に一任した以上、当該取締役会の構成員である役員に、後になって「その額を開示せよ」との権利が認められると考えるのは困難です。

以上のことを踏まえると個々の支給額の開示を求められた場合の対応は次のようになります。

「個々の支給額については取締役会において私に一任されており、その開示を求める権利はあなたにはありません。」

会社の規模もそれなりになってくると古参の従業員や活躍を期待する従業員を役員にすることで後継者対策や責任ある職位を与えることで更なる貢献を期待します。

何らのトラブルがないうちは社長の方針に逆らうことはなくこのような問題は起こりませんが、いざというときに備え普段から適切な株主総会、取締役会の開催と進行に努めてください。

問題解決型交渉

3月12日の日本経済新聞に東京都心のオフィス空室率が5.31%で、20ヶ月連続で改善しているとの記事が掲載されていました。大企業の収益好転に伴い、業容拡大によるオフィス拡張の動きが引き続き活発とのことです。

私たち中小企業の収益が好転しているか否かはさておき、オフィスが手狭になった等々、様々な理由によりオフィス移転や開設を検討されている経営者の方もいらっしゃると思います。しかし、オフィス移転の際に経営者を悩ますコストの一つに「敷金・保証金」があります。

通常、「敷金・保証金」は個人宅で賃料の1~3ヶ月分、オフィスで賃料の6~12ヶ月分がおおよその相場になりますので、都内でそれなりの広さの物件を借りれば、かなりの金額になります。しかもこの「敷金・保証金」、支払った時には損金にならないのだから、参ります。

しかし、もし、この「敷金・保証金」を支払わずに済むのなら・・・
オフィス移転のハードルも、少なからず下がるのではないでしょうか。

ご存知のように敷金・保証金は入居者が家賃を滞納したり、退出時に入居者の過失による修繕費がかかったりした時の為に、大家さんが預かっておくお金です。繰り返しになりますが、入居者にとっては預けておくお金ですので、支出時において損金にすることはできません。

いずれ退去時に損金になるか、戻ってくるとはいえ、支出時に損金にならないキャッシュの流出は経営者にとって喜ばしいものではありません。

であれば、敷金・保証金を払わずに済むか、せめて減額できるように大家さんに交渉する方法は無いのか、考えてみましょう。

当たり前ですが、「絶対に滞納なんかしないから、敷金は勘弁してください!」と交渉しても、まず取り合ってもらえません。そこで、敷金の性質を理解したうえで交渉するのです。

再度確認しますが、敷金や保証金は「大家さんが家賃の滞納や入居者の過失による修繕に備えて預かっておくもの」です。つまり、大家さんにとって敷金は「担保」です。

ということは、家賃の滞納などに対する大家さんのリスク問題が、敷金とは別の形で担保、解決できれば、交渉が可能になるかもしれません。

そこで交渉に有効なのが「家賃の年払い」です。家賃は通常、月末に翌月分を支払います。これを1年分まとめて先払いする、つまり「年払い契約」にすることを条件に敷金を無しにする、若しくは減額してもらえないか交渉するのです。

大家さんにとっては、前もって1年分の家賃を受け取ることができれば、家賃滞納のリスクから、ある程度解放されるはずですので交渉してみる価値は十分にあります。
「家賃は1年分先に払うから、その代りに敷金無しにして!(減らして!)」と交渉するのです。

ちなみに、この1年分の先払い家賃、家賃が1年以内のものであるなど、一定の要件を満たせば「短期前払費用」といって、支払った時点で全額損金に算入することができます。前払費用として資産計上しなくてもよいのです。

もう一度繰り返します。敷金・保証金という形であれば、支出時に損金にはできません。
しかし年払いの家賃で一定の要件を満たしていれば、支出時に損金にできます。
仮にオフィス移転が、予想以上に利益が出た期の年度末と重なれば、それまで毎月支払ってきた家賃に加えて、年払いした1年分の先払い家賃も損金として計上することができ、結果として最大で2年分の家賃を、支出した期の損金とすることも可能なのです。

敷金・保証金は当然に支払うべきものと思って諦めていませんか?
同じ支出でも、支出時に損金にできるのと、できないのとでは会社にとって大きな違いです。交渉ごとは、ただこちらの利益だけを求めて行ってもうまくいきません。しかし、相手側の立場、抱えている問題を理解し、解決してあげる視点を入れることで、うまくいくことがあります。オフィス移転や開設の際は、ぜひ「ダメ元」で交渉してみましょう。

税制改正で税務署が注視!生保名義変更スキームに要注意

日本の中小企業経営者は生命保険を使った節税が大好きです。
“合法的に上手いこと節税している感”が多くの経営者から支持されているのだと思います。
そんな生命保険を使った節税スキームにまた一つ網がかかることになりました。
生命保険契約では、保険料負担者である『契約者』、保険事故の対象となる『被保険者』、そして『保険金受取人』の三者によって課税関係が異なってきます。

(保険契約者が保険料を支払っているものとします)

上記の取り扱いは保険契約時から保険金支払時まで契約者である保険料負担者に変更がなかった場合です。
契約の途中で契約者の変更があった場合の取り扱いについては次のとおりです。
例えば、10年満期の養老保険について、当初の5年間は親が契約者となり保険料を負担し、その後の5年間は子供が契約者となり保険料を負担した満期保険金を子供が受け取った場合はどうでしょう?
この場合、次の二種類の税金が課税されることとなります。

○親が保険料を負担した部分の満期保険金   親から子への贈与 → 『贈与税』
受け取った保険金の1/2が贈与税の課税対象となり、贈与税の基礎控除110万円を超えた場合には贈与税が課税されます。

○子供が保険料を負担した部分の満期保険金   子供の所得 → 『所得税(一時所得)』
(受け取った保険金の1/2-払込保険料-50万円)×1/2が一時所得として課税対象となります。
保険会社は100万円を超える死亡保険金や満期保険金の支払いがあった場合、『生命保険契約等の一時金の支払調書』を税務署へ提出することとなっており、これによって税務署では保険金の支払い事実を把握することができます。

(支払調書の図)

 

しかし、これだけでは保険金について正確な課税が行えませんでした。
支払調書には保険金受取人、保険契約者、被保険者、払込保険料などが記載されており、これによってどの税金がかかるのかを計算することができるように思われますが、支払調書に記載される契約者は保険金支払時の最終契約者であるため、極端なケースでは、保険金支払いの直前に契約者を変更することにより、本来、贈与税の課税がされるべきものを、全額一時所得として申告をしているケースもあるのです。
支払調書の記載上の注意点には『契約者以外の者が保険料等の払込みをしていることが明らかなものについては、「保険契約者等」の欄にその保険料等の払込人を記載すること。』となっています。
これは、妻が契約者となり、その保険料の支払が夫の口座から引き落としになっている場合等で契約者変更があった場合には該当しませんでした。
そこで、このたびの税制改正では、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を別に記載することとなりました。
改正後の支払調書の書式が公表されていませんのではっきりとしたことはわかりませんが、少なくとも、既払込保険料と『保険金支払時の契約者の払込保険料』が同額でない場合には、差額保険料は本人以外の者が負担したことが明らかであり、これによって税務当局では、贈与等の事実が容易に把握できることとなりました。
子供が就職するまでの間に親が保険料を支払い、就職をした後に契約者を変更する場合や、夫が契約していた養老保険の満期金の契約を変更し、妻が受け取る場合には、今後は税務署より『保険金受取についてのお尋ね』という書類が届くようになるかも知れません。

ここまでは個人間についての話をしてきましたが、この改正は個人間に限らず、法人と社長の間の保険料負担についても当然に適用となります。
低解約期間付きの生命保険契約にかかる保険料を法人が負担し、その後解約返礼率が跳ね上がる直前に社長個人に名義変更をした場合、その保険契約を解約することで社長個人に多額の経済的利益が発生する場合があります。
これらの契約についても、今後は解約返戻金支払時に社長が負担した保険料が支払調書によって明らかとなりますので、名義変更時の法人での経理処理ならびに名義変更によって社長が受ける経済的利益の妥当性が問われることとなるのは明らかです。

マイナンバー制度も導入されあらゆる情報が国税当局に把握されつつあります。
“合法”“節税”をうたった名義変更スキームには安易に手を出されないことをお勧めいたします。

マイナンバー制度・・・けっきょく何を準備すればいいの?!

「平成28年1月からマイナンバー制度が実施されます!!」

テレビの政府系広告もはじまり、制度の名前くらいは誰でも知っているかと思います。
ナンバーの通知が始まる平成27年10月までも、もう半年もありません。

しかし、「では、会社では一体なにをどうしたらいいの?」という経営者の方も多いのでないでしょうか。

そこで、経営者(事業者)が「しなくてはならいこと」、「してはいけないこと」について、簡単にまとめてみることとしました。

★ マイナンバー制度の概要
まずは制度の概要についてです。
ご存知の通り、この制度は社会保障や税制度の効率性・透明性、国民にとっての利便性や公平性の観点から実施されることとなりました。

まず、H27年10月から順次、マイナンバーが個人の住民票の所在地へ「通知カード」が発送されます。さらに、申請をした者には「個人番号カード」が発行されます。

このマイナンバーですが12桁の番号で、住民票を持つすべての国民に割り当てられます。したがって海外にいらして住民票がないような方は、帰国して住民票が登録された時点で発行されることとなります。
この制度の導入によって、税務行政の効率化と納税者サービスの向上が期待されています。

★ 事業者がしなくてはいけないこと(1)
先の社会保障と税制度での効率化のため、一般の事業者では、社会保険や雇用保険・労働保険等の手続き関係の書類、そして、税務署等へ提出のための源泉徴収票や支払調書などの作成において、このマイナンバーを記載する必要があります。

また、各種報酬や地代家賃、あるいは配当金などの支払調書の作成、と考えると、その対象は事業者の従業員だけではなく、取引先にまで及ぶこととなります。
従って、これらの者のマイナンバーの提示を受けること(収集)が必要になります。

★ 事業者がしなくてはいけないこと(2)
マイナンバーの提示を受ける際には、いわゆる「本人確認」が、提示を受ける事業者に義務付けられています。
この本人確認は、原則として「マイナンバーの確認」と「身元確認」の二つの確認を厳格に行わなければなりません。具体的には、下記のような書類の確認が必要となります。

■1.従業員など本人から提示の場合
(1)「個人番号カード」の確認
      又は
(2)「通知カード」又は「マイナンバーの記載のある住民票」の確認
       +
「運転免許証」又は「パスポート」等の確認

■2.代理人から提示の場合
⇒代理人のケースは、例えば、年末調整のために扶養親族のマイナンバーが必要な場合や、従業員の奥さんを社会保険の扶養親族とする(3号被保険者)とするために、奥さんのマイナンバーが必要な場合などが該当します。

(1)原則として、
親族からの「委任状等」の確認
      +
「代理人の運転免許証等」の確認
      +
「奥さんの個人番号カード」の確認
      又は
「通知カード」又は「マイナンバーの記載のある住民票」の確認

★ 事業者がしてはいけないこと(1)
従業員の氏名・年齢・住所・電話番号等は、いわゆる個人情報保護法に規定される「個人情報」となりますが、この情報にマイナンバーが紐づくと「特定個人情報」として、マイナンバー法の厳しい規制の適用を受けることとなります。

この法律では、事業者が取得したマイナンバーは、前述の社会保障や税制度の手続き上、書類を行政機関へ提出するときにしか使ってはいけないことになっています。

従って、例えばこのマイナンバーを社員番号にしたり、番号と営業成績等を紐付けて管理したり、取引先の発注履歴と紐づけたりといったことに使用することは禁止されており、違反した場合には厳しい罰則規定が存在します。

★ 事業者がしてはいけないこと(2)
特定個人情報は、(1)と同様に、書類を行政機関等へ提出するとき以外では、第三者に提供することはできません。たとえその個人の承諾を得たとしてもできないこととなっています。

したがって、例えばグループ会社間への従業員の出向や、転籍の場合でも、グループ間で情報を共有することはできません。
転籍等の後に、改めてマイナンバーの提示を求め、本人確認を行う必要があるのです。

★ 最後に・・事業者がしなくてはいけないこと(3)
上記のような規制があることから、マイナンバー法では、個人番号や特定個人情報について、事業者に対して厳格な情報管理を求めています。

具体的には、マイナンバーを取り扱う担当者や責任者を明確にしたり、情報自体にアクセスできる制限をかけたり、その情報にアクセスした履歴を残すなど、従業員等の特定個人情報を扱う業者として、組織的に取り組む必要があります。

簡単にまとめると、上記の通りですが、まだまだ、国民への周知度も低く、具体的対応の面でも不明瞭な部分はありますが、今後の動向で、新たな情報が入り次第、またお伝えするつもりです。

しかし、マイナンバー法が実施されてからの対応では遅すぎます。
制度の情報にはアンテナを張り、平成27年10月以降、マイナンバーの収集と管理が始められるよう、今から準備することをお勧めいたします。

借金をゼロにする『相続放棄スキーム』の光と闇

私事ですが、最近、妻からの提案で我が家の保険を見直すことになりました。
妻 「私の保険証券が届きましたよ。」
妻 「今のところはあなたが受取人になっていますから・・・。」
この言葉を聞いて今回の原稿を思いつきました。
みなさんは『相続放棄』という手続きをご存じでしょうか?
中小企業の社長でこの手続きを知らない方はいらっしゃらないとは思いますが、念のためにご説明いたします。
相続が起こり自分が相続人となった場合に、亡くなられた方が残された財産の一切を引き継がないための手続きです。
この手続きをした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
つまり、この手続きの利用シーンは次のとおりです。

  1. 現預金や不動産よりも借金のほうが明らかに大きい。
  2. 相続の揉め事に巻き込まれたくない。

中小企業の社長は会社で行った借入金について、必ず個人保証を行っています。
民法大改正によって『個人保証は原則禁止』となった今も中小企業融資の実態は何も変わりはしません。
社長はそれでも覚悟を持って臨んでいますからいいのですが、その陰でいつも生きた心地がしていないのは奥様なのです。
あるとき、社長からの電話で私が会社を訪問すると、社長との会話の合間をみて奥様が悲痛な面持ちで私に話しかけていらっしゃったことがありました。
それはちょうど社長が多額の設備投資を決められた直後のことでした。
経営は決して順風満帆とはいえない中での社長の決断でした。
奥様としては、社長の判断を理解しながらも、
毎月返済していけるのだろうか?
返済できなくなったらどうしたらいいのか?
社長も無理をしているし、社長に万一のことがあったらどうしたらいいのか?
と、不安は尽きないご様子でした。
社長が従業員より多額の役員報酬をとり、多少の貯蓄があったとしても、数億円もの借金を個人保証しているとなれば奥様としては気が休まりません。
そこで私は少しでも気が楽になればと思い、『相続放棄』についての話をしました。
私 「社長に万一のことがあったときのことを考えると不安で仕方がないんですね?」
奥様 「そうなんです・・・。」
私 「ご安心ください。」
私 「万一のときは相続放棄をすれば、ご家族に借金がいくことはありません。」
奥様 「でも、それだと家も現金も全て相続できないんですよね?」
私 「それは、その通りです。」
私 「そのために『生命保険』にご加入いただいているんですよ。」
奥様 「保険は相続放棄しても、もらえるんですか?」
私 「はい、保険金は受取人固有の財産です。相続を放棄したからといって、もらえなくなるということはありません。」
奥様 「そうですか。それを聞いて少し安心しました。」
法人で生命保険に加入してはいるものの、個人ではしっかりとした契約のない方をお見受けすることがあります。
法人で契約している保険金は会社が受取人となっていますので、いざというときには個人のもとにお金が入らず会社に入ってしまいますので注意が必要です。
(退職慰労金の固有財産としての判断については今回は説明を割愛いたします。)
一昔前であればこれだけで奥様の不安を少しでも軽くすることができました。
ところが、その後保険法が改正され、遺言によって受取人の変更ができるようになったのです。
これによって保険会社との契約上の受取人と遺言による新たな受取人の二人が存在する場合がでてきてしまったのです。
例外はありますが、一般的に生命保険会社では、正式な婚姻関係にある配偶者がいる場合には、『愛人』または『内縁関係』にある人を受取人とする契約は結ばせてくれません。
いくつかのハードルはありますが、保険法の改正によってそれが可能となってしまったのです。
万一の時に自分と家族を守ってくれると信じていた保険が、遺言書によって他人に渡ってしまうことがあるということを覚えておいてください。
保険は互いを思いやる絆があってこそのパートナーからの『最期のプレゼント』ではないでしょうか。
万一のときの備えは大切ですが、それ以上に相手を気遣う気持ちを大切にしたいと思う今日この頃でした。

スカイマーク、民事再生法

皆さまご存じのとおり、1月28日に国内航空第3位のスカイマークが民事再生法の適用を申請しました。最高益更新から3年も経たないうちに…ということが強調されています。
JALのケースもそうでしたが、航空業界は政治も影響するので破綻の原因を業績だけに限定することができません。
とはいえ、業績を見ずには始まらないので、今回はスカイマークをケーススタディに過去最高益の更新という点と、勝負をかけた大型投資という点から考えてみたいと思います。
まずは、以下のスカイマークの業績推移をご覧ください。
(スカイマーク公表決算資料より)

【スカイマーク・実績】

スカイマークがエアバスと大型旅客機購入で契約を結んだのが2011年2月。
当時のIR情報では、カタログ価格で約1,150億円と記載があります(為替レートは83円換算)。
業績が大きく上昇を始めた年度で、その翌年である2012年に最高益を計上しています。つまり、この頃までは十分に支払いが可能であると踏んでいたということになります。
なお、エアバス購入のための前払金が建設仮勘定に計上されています。
契約後から毎年積み上がり、2014年の3月期には建設仮勘定の額が手持ちの現預金の額を超えてしまいました。
前払金の支払いは当初から予定されていたことですので、問題は現預金の急減です。当然、2014年3月期の赤字転落も大きな要因です。
そして、前払金の支払いが2014年4月から滞り始めました。
初回の納品予定は2014年10月。そして、2014年7月にエアバスから解約通知が届き…。後は報道されてきたとおりですが、解約通知から半年後に民事再生法の適用を申請しています。
ちなみに、2014年6月に発表した2015年3月期の業績予想は以下のとおり。

【スカイマーク・業績予想】

この業績でエアバスの前払金をまかなえるはずがなく、キャッシュの破綻は目に見えていました。
また、やはり注目すべきは円安という要因です。
エアバス購入当時の換算為替レートが83円で、2014年の年間平均レートは106円近くまで上昇しています。
ドル建てでの前払金の支払いのたびに購入価格が上がっているようなもので、当初の見込み額を大きく超えたはず。 購入当時に為替レートが現在のようなものだったら、ここまでの大型契約を結んだかどうかは疑問です。
さらに気になるのはスカイマークの有利子負債です。 借入れがありません。
航空機材などはリースでまかない、運転資金すらも借りておりませんでした。
これはいざというときに素早く支援してくれるメインバンクがないことと同じです。
仮に、スカイマークにメインバンクがあり、素早い資金調達が可能であれば、違った結果になったかもしれません。
LCCとの激しい競争がなければ…、赤字に転落しなければ…、急激な円安がなければ…、エアバスが契約変更に応じてくれれば…。メインバンクがあれば…、国交省がJALとの共同運航を認めてくれれば…。
エアバスからの大型旅客機購入は、将来を見据えての投資だったことでしょう。
しかし、あまりにも長期にわたる航空機の調達計画は、経営環境の激変により納品にすら至りませんでした。
最悪の事態に対応するための備えも不十分だったと言わざるを得ません。
徹底した効率化と剛腕で鳴らした西久保前社長でしたが、その剛腕ゆえに最後は柔軟な対応に徹しきれなかったのでしょうか…。もともと西久保前社長は自ら上場させたベンチャー企業の創業者でした。その後にスカイマークの社長に転身しています。従って、スカイマークはベンチャー企業特有の、極端な行動を取り続けてきました。
これが成功の要因でもありましたが、諸刃の剣でもあります。
また、大きな勝負に出なければ問題はなかったのかもしれません。
スカイマークの業績の推移や採用した方針は、中小企業でもよくみられるパターンです。ですから、中小企業の経営者の判断にとっても十分参考になります。

  • 自社の業績を左右する要因が何か分かっているか?
  • その要因が悪化したときの業績を想定しているか?
  • 身の丈に合った投資であるか?
  • 投資と回収の期間が長期に渡るとき、回収に至るまで耐えうる体力はあるか?
  • いざというときに支援してくれるメインバンクはあるか?
  • 最後まで意固地にならずに柔軟に対応できるか?

仮に、スカイマークがこの難局を乗り切り、エアバスの大型旅客機を手に入れ、国際線に参入すれば…逆転ホームランを打てたのかもしれません。
しかし、逆転勝ちの勝率は、先行逃げ切りの勝率を著しく下回ります。
中小企業が逆転勝ちを狙いに行くということは身の丈にあった勝負とは思えません。
以上、スカイマークの業績推移に、為替レートを付け加えるだけで、見え方が変わるはずです。
皆さまの会社も、業績推移に影響を与えているであろう要因をいくつか探してみてください。
その推移によって、計画の見直しが必要かもしれません。計画が動き始めてから逆転ホームランを狙うような事態にならないように…。

「マイナンバー制度」の憂鬱

いよいよ私たち一人ひとりに番号がつけられる日が近づいてきました。
これに伴い、私たちの全ての預金が税務当局に把握される日も遠くないようです。
「マイナンバー制度」は、ご存知のように国民一人ひとりに番号を割り振って、所得や納税実績、社会保障に関して一元的に管理するというものです。この制度は個人だけでなく法人も対象としています。今年の10月から個人番号・法人番号の通知が行われ、来年、平成28年1月から順次、社会保障、税、災害対策分野で利用開始することが予定されています。
そして1月14日に閣議決定された税制改正大綱では、平成30年1月からマイナンバーを銀行の預金口座に適用することが盛り込まれ、銀行はマイナンバーによって検索できる状態で預金情報を管理する義務が課せられます。私たち預金者は法律上、銀行等に対してマイナンバーの告知義務は課せられませんが、銀行等からはマイナンバーの告知を求められるようになります。つまり、とりあえずは任意でスタートしておいて、義務化の是非については平成31年以降に検討するという見通しになります。
この「マイナンバー制度」導入によって、数年後には私たち個人・法人の資産情報が詳細に国に把握されることが想定されますが、中小企業経営においては、間もなく影響があるであろうことが容易に想像できます。
それは、昨年お伝えした「社会保険の強制加入」です。
マイナンバー制度が始まれば、「もう社会保険加入からは絶対に逃れられない」。
そう思った方がよいでしょう。
「政府は、今年度から国税庁が保有する企業情報をもとに厚生年金に加入していない企業を調べ、加入を求め、応じない場合は法的措置で強制加入させる」と昨年発表しています。
このことは、社会保険未加入の中小企業経営者にかなりの衝撃を与えました。
しかし、「マイナンバー制度」が始まれば、国税庁が情報を提供するまでもありません。簡単に未加入事業者が炙り出されてしまいます。
こうなると、「国税庁が情報を提供するのは、きっと大きい会社からで、うちみたいな小さい会社は、まだしばらくは大丈夫だろう・・・」などという淡い期待を抱く事すら、マイナンバー制度が始まれば意味がないことが分かります。
しつこいようですが、「マイナンバー制度」が始まれば、社会保険未加入事業者を社会保険庁が捕捉することが、間違いなく容易になります。残念ながら、もう逃げられないのです。であれば、社会保険に加入することを前提とした経営に切り替えるか、社会保険の適用事業所に該当しないように従業員5人未満の個人事業所になるしかありません。
しかし、現実には個人事業所になるという選択肢を選べる会社は、ほとんどないはずです。
であれば、一刻も早く現実に目を向けて、社会保険に加入しても利益が残せる経営を実行していくしかありません。現実に目を向けていけば、自ずとやるべきこと、やらなければいけないことは見えてくるはずです。
社会保険財政の悪化を背景に社会問題化している社会保険の問題。元はと言えば法律に従って強制加入を徹底してこなかった行政の怠慢が引き起こした問題です。それを制度自体が崩壊寸前であるにも関わらず、決して景気が良いとは言えない今この時になって「強制加入の徹底」など、本当に勝手な話で腹が立ちます。
しかし、だからこそ、この「社会保険の強制加入」をきっかけとして、皆さんの会社が万が一にも倒産するようなことがあっては絶対にならないのです!
「マイナンバー制度」が始まれば、預貯金を含む資産の状況や社会保険の加入状況などの様々な情報が税務当局に筒抜けになる時代に入ります。全てを監視されているようで、気分がいいものではありませんが仕方ありません。これからは、“全てを把握されている”ことを前提として、法律の範囲内で知恵を絞り税務対策を行っていくという意識を、今までにも増して強く持つ必要があります。ということはつまり、本当の意味で頼れる専門家を味方につけることが、今まで以上に重要になるでしょう。

有給休暇の改正は、果たして「敵」か「味方」か・・!?

あなたの会社では、「有給休暇」を取得できますか?
労働基準法改正案が国会に提出されたようです。
昨年から報道はされていましたが、有給休暇の取得を従業員の希望を踏まえ、企業側からいつ取得するかを決定させることを義務付けるというものです。
簡単に言えば、企業側から有給休暇を取得することを義務付けるもので、これにより、従業員に有給休暇を確実に取得させることが狙いのようです。
当然ですが、現行の法律でも企業は従業員に有給休暇を取得させなければならないと定めています。しかし、実体としては従業員の自らが、いつ休むのかの時期を申請することが前提となっているので、その請求がなければ企業側は有給休暇を与えなくても違法ではない、ということになっています。
では、あなたの会社では、「有給休暇」を取得させていますか?
この改正により有給休暇を取得させることが義務化された場合、あなたの会社ではどのような影響があるでしょうか。
まず想定できるのが、
⇒有給休暇を取得したことにより出来なかった仕事を、他の日に残業してもらう必要がある
⇒残業による割増賃金の支払いが生じる
ということではないでしょうか。
そうすると、これまでより少ない勤務時間で同じだけの仕事をこなしてもらうには、今の仕事のやり方を変え、作業効率を改善させることが必要になります。
また、そもそもの日々の勤怠管理も見直さないといけないかもしれません。
長引く不況のさなか、すぐに効果が出るような「物を買わない・使わない」などの節約による方法は尽くしてきたかと思います。
しかし、長年続けてきた「社内のオペレーションの見直し」など、既存の業務フローや作業方法、あるいはその業務自体の要否など、見て見ぬフリをして手をつけてこなかった企業も多いのではないでしょうか。
細かい見直しレベルでも、例えば・・・

  • 今までは営業担当が行っていた(行うものと思いこんでいた)作業の分業化
  • パートさんには出来ないと思い込んでいた業務の分担化
  • 個々に任せていた業務の均一・同質化、マニュアル化
  • ネットバンキングの導入による振り込み・記帳等の作業効率化
  • 同、ネットバンキングからの仕訳取込みによる経理作業の軽減化

など、固定概念化されているものの見直しや、マニュアル化、IT化などは、大きな効果が期待できる可能性があります。また顧客の見直しにおいては、時間と手間ばかりがかかり収益に貢献しないような「招かざる客」というのも存在しているかもしれません。。。
今回お伝えしたかったのは、この改正により「残業代をどうやって減らすか」ではなく、 すべきことは「会社の根本的な合理化への見直し」にあるのではないか、ということです。
実際に有給休暇を取得させること、それ自体は、労働環境の改善につながることは間違いありません。また、見方を変えれば適切な休暇をとることで労働生産性が上がるなど企業側にもメリットは考えられます。
戦後直後に作られた労働基準法ですが、そもそもブルーカラーである労働者向けに作られた法律ともいわれており、ホワイトカラーへの適用自体がナンセンスであるという見方も存在しています。とはいえ、今後もこの「労働者寄り」の法律は、経営者には厳しい改正が繰り返されるのは間違いありません。
今回の改正をきっかけに、是非、企業内部の根本的な見直しをされてみてはいかがでしょうか。この改正を「味方」にするか、「敵」にするかは、経営者自身にかかっているのではないでしょうか。
◆追記
有給休暇の消化方法に、「時間単位付与」という制度もあります。これは有給休暇を時間単位で取得できるというものです。効率化の一つの方法になるかもしれませんね。
【年次有給休暇の時間単位付与】
【厚労省リーフレット】