今だからこそ重要となる与信管理

「最近、他のお客様の状況はどう?」
と聞かれることがあります。自社が膠着状態に陥っているときに、ふと隣の芝生が気になるという感じで口にされます。
自社が順調であったり、窮地に陥っている場合には、隣の芝生など気になりません。
当社のお客様は個性的な企業が多いため、業界動向や景気動向に左右されないケースが多く、比較ができないというのが難しいところ。そして、一般論をお話ししたところで新聞レベルと変わらないため、焦点を絞ってお話することが多くなります。
そのような中でお話しすることの一つに、与信管理があります。
例えば、現在は売上が増加傾向の企業数が増加しているように思えますが、このような状態が続くと、どの企業も債権額が増加していきます。
もちろん、増収・増益という好循環にあればよいのですが、増収であっても増益という企業はそれほど多くないように思われます。増益であったとしても、増収に見合った利益は出せていない。
そして、増収に応じたキャッシュを確保できているかというと、さらに怪しいと思われます。
増収であっても、債権がいち早く入金されない限り、資金繰りは改善しません。むしろ、仕入が先行するケースでは、増収により資金繰りが悪化します。状況によっては、黒字倒産が増える可能性が考えられます。
つまり、増収の企業が増えるということは、債権の貸し倒れ又は長期滞留リスクが高まっているとも言えるのです。
それでも、長期に渡る継続的な取引先であれば、すぐに異変を察知し、対応できるはず。
(とはいえ、継続的な取引先であるが故に、情が顔をのぞかせてしまう場合もありますが…)
問題は、初回又は付き合いが浅い取引先です。取引先も、取引する相手(つまり自社)を選んできています。自社に隙があると、相手に狙われてしまいます。
本来であれば、可能な限りリスクを排除するために設定された取引条件も、「まあ、今回は大丈夫か…」と崩してしまうと、崩したときに限って、何らかの問題が生じます。
「それは結果論でしょ」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、このような相手も、隙がない企業には近づきません。相手にされないことが分かっているから。
また、帝国データバンクや東京商工リサーチで信用調査をする企業も増えてきましたが、信用調査をしている企業でも、隙がある場合には引っ掛かります。実際に自分がそのような目に合うとは思っていないことでしょう。
実際、先日お話を伺ったお客様でも、数千万円の債権が期日になっても入金されないと相談を受けました。もちろん、信用調査は実施しています。
幸い、お付き合いのある弁護士がいたので、すぐにその場で電話をしてもらって対処しましたが、それで問題解決とはなりません。そのお客様だけではなく、他の取引先への支払いも同じように滞留している可能性があるからです。
このお客様は取引単価が大きいため、契約時半金、納品後半金の取引が原則です。しかし、色々理由を付けられ、そして説得され、渋々、納品後全額を受け入れてしまいました。
本来であれば、契約金を払わない言い訳をされた時点でアウトなのですが、ふとした瞬間に、売上を目の前にして、自分に言い訳をしてしまいます。ちなみに、このお客様の業績は良好で、金融機関からも優良企業とみなされています。正直、隙を見せたとしか言いようがありません。
そして、その取引相手を検索すると、「あ、ここ知っている」という企業でした。WEBサイトも見栄えが良いです。
皆さま例外なく、未知の相手には警戒されます。しかし、少しでも知っている相手ですと、「まあ、大丈夫かな…」と、原則を緩めてしまうきっかけにしてしまいます。
債権額が増加している状況で、一つでも歯車が狂えば、一気に窮地に立たされる場合があります。皆さまも、自社の債権額の推移を改めてご確認いただき、リスク要因は徹底して排除してください。消費税の増税延期という話しが出ている時点で、かなり雲行きが怪しいです。
ちなみに、予防線を張るという意味で、顧問弁護士がいらっしゃる企業には、WEBサイトの会社概要欄に、顧問弁護士を掲載することをお勧めしています。皆さまもご経験があるように、取引相手の会社概要欄は必ずチェックされます。顧問弁護士と記載があるだけでも、近寄ってこない相手もいらっしゃいますので。

譲渡価格から事業承継を考える

ここ1、2年、M&Aのご相談をいただく機会が増え、当社もお客様のサポートをさせていただいております。

3月はM&Aの成約が多いため、私も複数のお客様の案件でバタバタ動いておりました。
譲渡と譲受でしたら、圧倒的に譲渡のご相談が多い状況です。

会社を譲渡されようとする理由の多くは後継者問題です。ただし、近年は業界の先行きへの不安や単独企業での成長に限界を感じられ、後継者問題と相まってご検討されるお客様が増えてきました。つまり、理由は一つではありません。

長いお付き合いのお客様には、私の方からM&Aという選択肢についてお話させていただくこともあります。お客様ご自身も漠然と問題には気付いていらっしゃるものの、やはりご自分の口から「売りたい」とおっしゃるには抵抗があるようです。

そのような中で、皆さまが一番気にされるのは社員の雇用です。ただし、雇用に関しては原則維持となるため、実際には問題とはなりません。

次は譲渡価格の問題です。

おそらく、一般的な方程式で算出された譲渡価格を見せられたとき、ほとんどの方はがっくりされると思われます。

「こんなものか…」

そうなると、やはり簡単には売ることができない。このまま経営していた方が手元に残るお金は多くなる。そうお考えになります。また、M&Aの仲介業者に支払う手数料も安くはありません。

ただし、売り時を間違えると売ることも出来ず、後継者も定まらずに、時間だけが経過していくことになります。

例えば、親族ではない社員に引き継いでもらおうとしても、通常は一社員が買えるような金額ではありません。

「自分の会社はたった1億円にしかならないのか…」と思われても、1億円を出せる社員などいらっしゃらないからです。

また、私が直接担当しているお客様は私と同年代の40歳前後から50歳までの方が多いのですが、皆さまとお話していると、ご自身のお子様に事業承継したいとお考えの方はごく少数です。

そうような場合の選択肢は、社員又は外部に譲渡するか、廃業又は倒産ということになります。廃業又は倒産というのは雇用の問題からも避けたいところですので、現実的には譲渡に行きついてしまいます。

そして、譲渡という場合、有利な条件で交渉を進められるのは、内部留保が分厚い会社です。
内部留保がない会社は、ほとんど価格が付きません。つまり、内部留保がない会社というのは収益性が継続的に低く、買い手からすると魅力が薄いのです。

ただし、内部留保がない理由が、中小企業特有の“経営者ご自身に内部留保を持たせている”ということであれば問題はありません。買い手からもらうべきお金を既に会社からもらっていたというだけです。しかし、会社から個人にお金を移してしまえば、やはり個人で消費してしまう方が多いというのが現実的なところです。

従って、会社にも経営者個人にも内部留保が少ない場合は、“譲渡価格が低いため”M&Aという選択肢も採用することができないこととなります。

まだ経営者として第一線で働かれている方でも、最終的には親族に会社を引き継いでいただくか、売らなければなりません。M&Aはあくまで事業承継の選択肢の一つであり、M&Aを行うにあたっての現実的な問題もありますので簡単にはいきません。

しかし、M&Aのサポートをしていて気付かされるのは、M&Aの対象として魅力がない企業というのは、やはり継続性という面で非常に問題があります。お子様に引き継いでいただく場合においても、この程度の金額しか付かない企業を引き継がせてよいのかとお悩みになられる場合もあります。しかも、その金額すら“過去の蓄積”であって、将来を約束するものではありません。

以前も、譲渡価格の低さに難色を示されたお客様に対して、「確かに金額は低いです。しかし、これが御社の市場価格です。この程度の金額しか付かないような道を選択されていたということです。実際、御社は金額が高く付く道も十分選択できたはずです。譲渡せずともまだまだやっていけますが、今のやり方を続けていたら、必ず限界は来ますよ」とお伝えさせていただいたことがあります。

非上場企業というのは、市場から企業価値を評価されるということがありません。従って、評価されることに慣れていませんので、譲渡価格が経営者ご自身の価値と錯覚される場合もあります。

しかし、「自社の市場価格はいくらなのか?」という側面から事業承継を考えるのも、客観的で非常に参考になると考えます。

価格が付かない理由が、自社の問題点となりますので…。

 

 

(山田 拓巳)

【お詫び】
4月1日に掲載させていただきました記事「社会保険料削減(案) ~その2~」にて、誤植がございましたので、訂正してお詫び申し上げます。

(訂正前)
また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4.5万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。

(訂正後)
また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。

 

消費税増税時代だからこそ契約書に入れたい気の利いた一言

前回に引き続き消費税増税についてお伝えいたします。

今回は、消費税増税後にしっかりと消費税をもらうために契約書に入れていただきたい『言葉』についてです。

前回、消費税率が上がる前には国民生活への負担を軽減する目的で経過措置が設けられているという話をいたしました。

それ自体は悪いことではないのですが、その一方で経過措置の適用がない取引にもかかわらず、契約時点でお客様にしっかりとお伝えしていなかった、もしくは、曖昧にしていたために本来であればもらわなければならない消費税を貰えないというケースができてきます。

そこで、今回は『消費税増税に対応した契約書の作成方法』についてお話しいたします。

      

 

【契約書作成時の重要ポイント】

1.金額は税抜きで記載し消費税等は別途徴収することを明らかにする

例えば、『月額賃料540,000円』としてしまうと消費税分が40,000円なんだろうなという想像はつきますが、消費税率改定後には賃料改定の通知をしなければ相手もそのままでいいだろうなと思ってしまいます。

正直に申し上げれば、「向こうが言ってくるまで(自分からは)黙っていよう」というのが一般的ではないでしょうか。

そこで、契約金額は税抜きで記載し消費税等は別途徴収することを明らかにするため次のように記載しましょう。

<記載例>

月額○○円(消費税別)
金額○○円(税抜、別途消費税)

2.消費税等の税率改訂に対応する条項を盛り込む

取引の態様ごとに契約書に盛り込むべき条項の記載例をご紹介いたします。
なお、請負工事に関する経過措置の説明については前回のメールマガジンをご参照ください。

<記載例>
(1) 経過措置の適用を受ける請負工事

第○条 消費税等の取扱いについて

消費税等は上記請負金額とは別に徴収する。
本契約は改定消費税法附則5条3項の規定によって、契約物の引渡日が消費税率改定日後であっても消費税率を契約日における消費税率により計算する。
なお、平成28年10月1日以後に何らかの理由で請負金額を増額した場合で、かつ、契約物の引渡日が消費税率改定日以後となった場合においては、その増額分に係る消費税率は改定後の消費税率により徴収するものとする。

(2) 指定日以後に契約した請負工事

消費税等は上記請負金額とは別に徴収する。
なお、消費税率については当該契約物の引渡日における税率によるものとする。

(3) 不動産等の賃貸借契約

不動産等の資産の賃貸借契約についても指定日前に契約した一定の契約については経過措置の適用がありますが、その用件の一つに『対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと』というものがあります。

対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこととは、契約書において賃料改定の条項がないことをいい、次のような条項がない場合をいいます。

賃料については、公租公課の変動、諸般の経済情勢の変化、近隣の賃料比較等により、当事者間で協議の上改定することができる。

つまり、一般的な不動産等の賃貸借契約においてはこの条項が入っているため経過措置は適用はありません。

したがって不動産等の賃貸借契約においては次の文言を入れてください。

本契約は消費税経過措置の適用はない。
なお、契約期間の中途において消費税率の改定が行われた場合には、賃貸人からの通知の有無にかかわらず、消費税率改定後の賃料に係る消費税等については改定後の税率により計算するものとする。

(4) 一括受領の長期の保守契約、メンテナンス契約等の役務提供契約

契約が3年間や5年間など長期にわたる契約で、月ごとに役務提供が完了する場合において、施行日以後における保守料金に係る消費税については、新税率が適用されます。

なお、施行日前に一括して契約期間に係る保守料金を受け取っている場合であっても、施行日以後に係る部分は新税率となることから、施行日以後の保守料金について10%と8%の差額である2%部分を追加徴収しないと本体価格を値引したことになるので注意が必要です。

契約期間が1年間で、その1年分の保守料金を一括して収受している場合において、事業者が継続して当該対価を収受した時に収益計上しているときは、施行日前までに収受し収益計上したものについては旧税率を適用することとなります。

ただし、『中途解約をした場合には未経過期間分の保守料を返還する』旨の条項がある場合には、裏を返すと時の経過に応じた保守料金等が決められていることになるため、施行日以後の期間における保守料金に係る消費税は新税率が適用されますので注意してください。

月ごとに売上計上している企業が多いことから考えると次のような記載をすべきです。

消費税は上記保守料金とは別に徴収する。
なお、本契約は消費税経過措置の適用はないため契約締結後において消費税法の改定により消費税率が改定された場合には、契約時に領収した消費税額との差額を追加徴収するものとする。

すべての契約に共通して言えることは、『消費税率は変わるものだ』ということを前提に契約に臨むということです。

消費税率は必ずまた改定されます。

税金に関する条項をしっかりと盛り込んで思わぬ損失を被らないよう気を付けてください。

 

社会保険料削減(案) ~その2~

それでは、前回に引き続き、社会保険料の削減(案)をお伝えいたします。

【その2】ある意味、加入者全員の社会保険料が下がる

前回お伝えしたのは、かなりイレギュラーな案でしたが、今回は国が推し進める制度をお伝えいたします。

それは、「確定拠出年金制度」です。

「確定拠出年金制度」を簡単にお伝えすると、従来からの退職一時金制度に替えて、退職金を年金で受け取ることを認める制度です(もちろん、併用することも考えられます)。

退職一時金制度は、企業が従業員の将来の退職に備えて積み立てていかなければならないものであり、業績の浮き沈みによっては重い負担になります。さらに将来の退職金のための引当金は経費に算入されないため、お金だけ準備しておかなければなりません。

これに比べて、「確定拠出年金制度」は、掛金を随時外部拠出することになるため、将来に備えてお金を準備するのではなく、いま経費に算入することができます。受け取る従業員側にとっても、企業が倒産しても掛金は既に確定している権利であるため確実に受け取れます。

また、日本の全企業に締める中小企業の割合は99%超であり、中小企業において最も一般的と思われる「中小企業退職金共済制度」の加入者数は約330万人。

これに対して、「確定拠出年金制度」の加入者数は、2015年3月時点で500万人を超えています。
上場企業を中心に、退職一時金制度からの移行が進んでいるからです。

このことから、今後は最もメジャーな退職金制度となってゆくと考えられています。

しかし、今回は「確定拠出年金制度」について説明する内容ではないため、制度についての詳細は下記に譲ります。

>> 厚生労働省HP『確定拠出年金制度の概要』

それでは、確定拠出年金制度が、なぜ社会保険料の削減につながるのか?

今回は、最も社会保険料が削減される可能性がある制度設計にて、導入による変化をお伝えいたします。

確定拠出年金掛金は、掛金の上限が月額55,000円まで認められています(他の企業年金に加入している場合は27,500円)。ちなみに、中小企業退職金共済は月額3万円が限度です。

そして、確定拠出年金掛金の「選択制」を導入した場合、掛金を拠出するのは社員自身となります。
掛金の拠出は給与内にて行うため、現在の給与の内訳を変更することになります。

例えば、月額30万円の給与の場合、従来通りの給与が24.5万円、確定拠出年金の枠として5.5万円の合計30万円となります。

つまり、企業としては企業負担の掛金の拠出無しに、社員の給与に確定拠出年金の枠を設定できるのです。この場合、社員から掛金を預り、拠出することになります。

そして、上記のケースで、社員が確定拠出年金の掛金として1.5万円を積み立てるとどうなるのか?

下記をご確認ください。

(シミュレーション表)

シミュレーション表なので詳細に過ぎる部分がありますが、上記のケースでは、社員が毎月1.5万円の確定拠出年金の掛金を積み立てると、年間3.4万円の社会保険料が削減されます(社員本人と企業負担の双方が削減対象となりますので、合計6.8万円)。

なぜ、社会保険料が下がるのかと言うと、確定拠出年金掛金は給与としてはみなされないため、社会保険料の算定対象外となり、社会保険の等級が下がる可能性があるからです。

さらに、上記のケースで5.5万円を掛金として拠出すると、社会保険料の削減効果は年間10.3万円(両者で20.6万円)となります。

さらにさらに、社会保険のみならず税金も下がるため、個人の節税商品として最強とも言われています。仮に10年の間、給与、社会保険料及び税金が変わらなかったとして、掛金1.5万円を拠出し続ければ、この社員は48.6万円の節税が可能となるのです。

簡単に説明すると、確定拠出年金制度導入に伴う社会保険料の削減案は以上となります(簡単ではないと思われますが…)。

当然、一人当たり削減額×社員数となりますので、社員が多い企業ほど削減効果が上がります。ただし、今回説明した制度において、社員が掛金を拠出するかどうかは任意です。制度を導入しても、企業は掛金の拠出を強制出来ません(せめてお願いでしょうか)。

とはいえ、社員にとっても、手取り後のお金を貯金するより圧倒的に有利なのは間違いありません。この辺の理解が進めば利用者が増加する可能性があります。

また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。役員も社員同様に参加可能です。

確定拠出年金制度の導入は、確かにハードルが高いです。しかし、使い方によっては、中小企業においてネックの退職金制度の導入と社会保険料の削減に効果を発揮します。

中小企業においても導入が少しずつ進んでいるようですので、一度ご検討いただくのもよろしいかもしれません。

以上、二回にわたり、社会保険の削減(案)をお伝えいたしました。

 

消費税率10%で『トクする人』と『損する人』

消費税率10%引き上げ延期がささやかれる昨今ですが、予定通り平成29年4月の引き上げが実施されることを前提とすればそろそろ準備を済ませておかなければならなりません。

なぜなら、消費税率があがると、世の中への影響が大きいため国民生活への負担を軽減する目的で経過措置が設けられており、その期限が『平成28年10月』とされているからです。

この平成28年10月のことを『指定日』といいます。

指定日とは、経過措置の適用を受けるための契約の締結の期限となる日のことです。
基本となるイメージは図のとおりです。

 

(図1)

この経過措置、実はいろいろと用意されているのですが、その中でも経営に大きな影響を与える可能性のあるものを今回は二つだけご紹介いたします。

  1. 予約販売に係る書籍等の税率等に関する経過措置
  2. 通信販売に係る税率等に関する経過措置

この二つの経過措置は実は一つの条文の中に書かれたものであり、互いに密接な関係にありますので注意して読み進めてください。

まず、『予約販売に係る書籍等の税率等に関する経過措置』の概要をお話しいたします。

法人又は個人事業者が、平成28年9月30日までに締結した契約に基づく譲渡で次の1~4のいずれにも該当するものは旧税率8%が適用されます。

  1. 不特定かつ多数の者に対するものである
  2. 定期継続供給契約に基づくものである
  3. 書籍その他の物品である
  4. 対価の全部又は一部を施行日前に領収している

『書籍等』とは、単行本や週刊誌に限った話ではなく、食料品、健康食品、化粧品、装花なども含まれ、『定期継続供給契約』とは、週、月、年その他の一定の周期を単位とし、おおむね規則的に、継続して一定の種類のものを一定の代金で供給する契約をいいます。

次に『通信販売に係る税率等に関する経過措置』の概要をお話しいたします。

法人又は個人事業者が、平成28年9月30日までに申し込みを受けて行った商品の販売で次の1~4のいずれにも該当するものは旧税率8%が適用されます。

  1. 不特定かつ多数の者に対するものである
  2. 郵便、電話その他の方法により商品の内容、販売価格その他の条件を提示している
  3. 郵便、電話その他の方法により売買契約の申込みを受けている
  4. 提示した条件に従って平成29年4月1日以後に商品を販売いる

みなさんはこの二つの経過措置の違いがわかるでしょうか?

今ではネット上での買い物が普及し、その結果、日常的に『通信販売』での『予約販売』を行っています。

そのため、税務署が言うところの『予約販売』と『通信販売』の違いが理解し難いので次に整理いたしました。

(図2)

※単発取引が通信販売の場合、代金の受領は後でもよい

 

結論になりますが、その取引が定期継続販売である場合には、新聞、テレビ、チラシ、カタログ、インターネットを通じての申し込みが行われたとしても、平成29年3月31日までに代金を受領した部分のみが8%の適用を受けることになります。

次に、予約販売や通信販売の経過措置に潜む落とし穴についてお話しいたします。

注文者からは事前に8%の税率で代金の一部または全部を領収しており、その時には帳簿上では『前受金』として処理がされています。

そして、いざ商品を発送した時点でその前受金を『売上高』に振り替えるのですがこの時にミスが起こります。

発送日が平成29年4月以後ということで経過措置の適用があるにもかかわらず、新税率10%で売上に計上してしまうのです。

半年以上も前に受けた予約なので受注から販売までの管理が一貫されていないことがこのミスを招く原因です。

さらに、このミスは会計事務所が毎月見ているから大丈夫というものではありません。

会計事務所が毎月帳簿を見ていたとしても平成29年4月以降に計上された売上が10%で計上されていることに何の疑問も持たないどころかそれが当たり前という先入観すら持っています。

会計事務所のスタッフは一般的に一人で20社以上の担当を持っています。

そのため一社一社の取引に経過措置の適用の配慮をしている余裕がないのです。

つまり、会計事務所を当てにしていてはダメだということです。

受注から販売まで一貫した管理を行うことで、つまらない損を出さないように注意してください。

 

社会保険料削減(案) ~その1~

国が社会保険の強制加入に乗り出しているのは、以前からお伝えしているとおり。

日本年金機構が国税庁から企業の納税データを受け取り、社会保険未加入の約80万社を特定し始めているからです。つまり、社会保険からは逃れられません。未加入の企業において、まだ連絡がないのは順番待ちというだけです。

最近も、社会保険未加入の企業から相談がありました。
利益も十分出ており、給与もそれなりの金額を支払っておりました。
時間の問題です。

「加入しなければならないのは仕方がない。それでも社会保険料負担を下げることができないのか?」

このお悩みは既に加入している企業においても同じですので、誰もが知りたいと思われることでしょう。

そこで、今回と次回に分けて、社会保険料の削減(案)をお伝えいたします。

ただし、どの企業でもできる訳ではありません。しかし、実行は可能であり、選択肢としての情報は多い方が有利のため、あえてお伝えいたします。実際に実行する場合には、顧問税理士や社会保険労務士にご相談ください。

【その1】加入できない

負担を下げると言いつつ、いきなり「加入できない」から始まってしまいましたが、実は法人においても社会保険料を支払わなくてよい方法があります。

そもそも、社会保険に「加入する」には、毎月支給する給与がなければなりません。裏を返せば、毎月支給する給与がなければ、社会保険に加入できません。

当然、従業員については、毎月支給する給与が発生するため、社会保険に加入しないという選択肢はありません。

ただし、役員についてはどうでしょう? 

例えば、二社法人があり、主たる法人からは7割の役員報酬を受け取り、もう一社からは残り3割の役員報酬を受け取っているような場合があるとします。

今までは、片方で社会保険に加入し、もう一方の法人では社会保険に加入していないというケースが多く見受けられたのですが、今後はもう一方の法人においても社会保険の加入を迫られます。この場合は、二社での役員報酬の合計額から総額の社会保険料を算出し、二社の役員報酬の比率にて、それぞれの法人にて社会保険料を按分することになります。

このような場合、あえてもう一方の法人にて「毎月」役員報酬を支給する必要はあるでしょうか?

「ない」という場合は、その支給を年1回のみに変更できるはず。そうであれば、毎月支給する給与がないため、その法人において、その役員は、「社会保険に加入できません」

そして、その支給は事前確定届出給与で支給時期と金額をコントロールすればよいのです。

繰り返しますが、社会保険の加入要件は、毎月給与の支給を受けている場合です…。

また、そのもう一方の法人が、社会保険に加入できない役員のみで構成される場合は、そもそも社会保険の加入事業者に該当しないため、社会保険の加入事業者にすらなれません。

以上となりますが、この方法は法人が一社しかない場合は中々難しいかもしれません。二社以上ある場合は、それほどハードルが高いとは言えません。実際に実行している法人もありますので。

ということで、次回は実際に毎月の社会保険料が削減される方法をお伝えいたします。

 

社会保険未加入企業の経営者様は必ず最後まで読んでください。

そろそろ本当に覚悟を決めなければならないでしょう。

2月24日の日経新聞に【厚生年金、加入逃れ阻止 79万社特定、強制も】という記事が掲載されていました。

記事では社会保険未加入の疑いがある企業が79万社にのぼっており、マイナンバー(法人番号)を活用し、2017年度末までに全ての未加入企業を特定すること、悪質な企業には立ち入り検査を実施して強制加入させる方針であることを伝えています。

また先だって1月19日の読売新聞では厚生労働大臣が、記者会見で社会保険料の支払いを逃れるため厚生年金に加入していない悪質な事業主について、刑事告発を検討する考えを表明した、という記事が掲載されていました。

既に昨年、日本年金機構から「厚生年金保険・健康保険の加入状況の確認について(お願い)」という書類が届いている未加入企業も多いようです。しかし、実際にそれをきっかけに社会保険に加入した、又は加入させられたという話は、まだそれほど聞こえてきていませんので、昨年までは厚生労働省もあくまで「探りを入れている段階」であったように感じます。

しかし、新聞報道にあるように、いよいよ厚生労働省も本当に本気モードに突入する寸前と言っていいでしょう。

社会保険への加入は経営を根本的に見直さなければいけないほどのインパクトを与える事項です。「近い将来、加入しなければいけないことは、もう分かっているが、少しでも加入時期を引き延ばしたい」。そう考えている経営者の方も多いと思います。

今回、私が未加入企業の経営者の方にお伝えしたいのは、「くれぐれも、加入指導を拒否し続けて強制加入させられたり、立ち入り検査を受けるようなところまで、加入時期を引き延ばし続けないで欲しい」ということです。なぜなら【強制加入はリスクが非常に大きい】からです。

「社会保険は過去2年に遡っての加入、保険料の請求をされることがある」というのを聞いたことはないでしょうか?

これは厚生年金法第92条および健康保険法第193条により、保険料の徴収の時効が2年と定められていることに起因しています。時効が2年であるということは言い方を変えると「2年間は遡って保険料を徴収することができる」ということです。

しかし、厚生労働省は自主的に加入した企業については、「原則として過去2年に遡ってまでの加入は求めない」というスタンスのようです。ちなみに、この“自主的に加入”というのは、未加入であることを指摘、指導されてから早期に観念して加入した企業を含んでいるようです。実際、加入指導後、早めに加入したケースで、遡って加入させられたという話しはあまり聞いたことがありません。

ここで、気を付けなければいけないのは悪質な企業と判断されるケース、立ち入り検査などの結果を踏まえて加入させられるケース、加入指導を拒否し続けた企業が職権により強制加入となったケースに関しては、法律どおり「最大2年、遡って保険料を徴収されることがある」ということです。

では、2年間遡って加入させられた場合の保険料を簡単に試算してみましょう。
通常、社会保険料は会社と従業員個人とで折半です。しかし、2年分の保険料を遡って従業員から徴収することは現実的に困難である場合が多いと思われますので、全額会社が負担すると仮定します。

現在、月給30万円の方の社会保険料は会社負担、個人負担を合わせると約8万3千円です。これが10名だとすると月額83万円。2年間でなんと、1,992万円・・・・・。
仮に従業員に遡って折半の負担を求めたとしても約1,000万円の負担・・・・・。

「冗談じゃない!そんなもん払えるか!!!」
今、これを読んでいるみなさんは、怒りさえ覚えているはずです。
こんなもの支払わされたら、会社規模によっては本当に潰されてしまいかねません。

しかし、月給30万円の従業員を10人抱えている企業が強制加入ということになれば、これだけのリスクがあるということは法律に基づく事実です。

ですから、強制加入させられるような事態だけは、なんとしても、なんとしても避けていただきたいのです。もし自社が2年間遡って加入させられた場合どのぐらいの保険料になるのか、簡単でかまいませんので試算してみてください。試算結果を見れば、どの時点をもって自主的に加入するかは、もはや重大な経営判断事項であり、想定して備えておく必要があることに気が付くはずです。

覚悟を決め、判断を下す時が迫っています。

 

マイナス金利

「マイナス金利、その影響は?」
と、よく聞かれるようになりました。

「住宅ローンの金利も下がるようだし、会社で借りるお金の金利も下がるのかな? いま借りておいた方がよい?」
そう思われるのも当然です。

結論からお伝えすると、企業向け融資の金利も下がる可能性があります。

そもそも、企業の場合は融資の金利に個体差が激しいため、もともと優遇されている企業は更に有利になるでしょうし、もともと厳しい企業はそれほど変わらないか、場合によってはさらに厳しくなる可能性もあると考えます。

ただ、どの企業においても、「借りませんか?」とのオファーは増えることでしょう。

中小企業の経営環境は、ますます不透明感が増してきました。予想以上に売上が伸びない、現状維持が精一杯、利益率が下がってきた・・・、このような不安をお持ちでしたら、迷わず借入を増やすことをお勧めします。

お金で頭を悩ませるようでは、本業に悪影響を及ぼしますので。

特に3月は企業向け融資も決算セールです。少しでもお金に不安がある企業は早めに交渉を始めてください。来年になると、史上まれにみるこの低金利環境はどうなるか分かりません・・・。

なお、リース契約もマイナス金利の影響を受ける可能性があるため、多額のリース契約をご検討の企業は要注意です。

また、マイナス金利の影響で、一時払い終身保険の販売停止が始まっています。

「一時払い終身保険が販売停止されます!今のうちに加入しておかないと損しますよ!」と保険代理店や金融機関から駆け込み営業を受けている方も多いと思われます。

一時払い終身保険は、相続対策等でよく使われる節税商品です。保険会社が破綻しない限りという前提が付きますが、非常にシンプルで安全性が高く、利回りも預金などに比べてかなり高いため、使い勝手がよいのです。

さらに、80歳を越えていても契約でき、健康診断などは必要ないため、基本的に契約時期を選びません。

ただ、現役世代が一時払い終身保険に加入する必要性はありませんのでご注意を。

大抵、現在加入されている死亡保障目的の保険で、相続税の非課税限度額(法定相続人の数×500万円)はカバーできていますし、お金を寝かせてしまうだけです。

お勧めできるのは、ご自身、父母又は祖父母がご高齢で、生命保険に加入しておらず、寝かせてもよいお金があり、かつ、相続税が掛かる方です。

「利回りが良い運用商品! もうすぐ販売停止!」などの口車に惑わされないでくださいね。

しかし、「マイナス金利」という漠然とした不安感からも、消費者行動は促されるものだなと・・・。住宅業界や保険代理店等、追い風を受ける業界もありますので、自社に与える影響もご検討ください。

 

経費精算、効率化元年

公共交通手段を多く使う仕事の場合、交通費の精算というのは頭を悩ます作業の一つです。

一昔前までは、都度、経理に現金精算してもらっていたと思いますが、近年は立替経費として月に一度の精算という中小企業が増えてきました。

この立替経費の精算に使われる時間は、従業員一人当たり月平均1時間と言われています。移動ルートを確認し、交通費を調べ、Excelに入力し、領収書があれば貼り付け、それを経理に提出。毎月、経費精算の時期が憂鬱…、という方も多いはず。

また、交通費のみならず、諸経費も立替というケースも多く、「これは何の費用ですか?」、「申請の勘定科目が違いますので、修正してください」というやり取りが経理との間になされることになり、さらに憂鬱…。

「このような非生産的な作業はあり得ない!」

と文句を言ってみたところで、精算しないと自腹を切ることになるので、致し方ありません。
ところが、この非生産的な経費精算に、一筋の希望の光が見えてきました。

それは、スマートフォンやデジカメ等によるデジタル画像の保存です。

皆さまご存知のとおり、領収書などは原本保存が絶対原則であり、一部例外としてスキャナ等による画像保存が認められていました。しかし、画像保存は何かと要件が厳しく、現実的にはほとんど使われておりません。

この画像による保存要件につき、国がスマートフォン等によるデジタル画像の保存を認めました。具体的には、今年の9月30日以降に、国に利用の申請をすることにより可能となります。

もちろん、単にスマートフォンで画像を撮ったらOKという訳ではなく、タイムスタンプという日時の刻印をデータに施す必要があります。とはいえ、この制度が始まる現時点から、既に関連業者がタイムスタンプ機能の実装を検討しておりますので支障はないでしょう。

それでは、なぜデジタル画像の保存が認められるようになったら経費精算の効率化につながるのか?

要約すると下記のとおり。

  • クラウドの経費精算アプリケーション(以下、「経費アプリ」)が急速に増えてきている
  • 経費アプリでは、スマートフォンで撮影した領収書等の画像が自動的にアップロードされ、保存される
      → 原本はその場で破棄ができる
  • 経費アプリに、Suica等の交通系ICデータを連携させることができる
      → 交通費の確認、入力等の作業が自動化される
  • 経費アプリに、従業員が立替えた個人クレジットカードデータ等も連携させることができる
      → 交通費のみならず全ての経費がデータで連携できる

つまり、経費アプリの利用を前提にすると、Suicaやクレジットカード等は日付・金額・取引先が全てデータで取得でき、現金払いは領収書画像データをアップロードすることにより、OCRで金額や取引先を予測してくれる(まだ精度に問題がありますが)ことになります。

そして、原本は破棄できるため、紙での出力は必要なく、経費アプリ内で立替経費か個人利用分かの取捨選択をするたけで、申請データが経理担当まで届き、振り込まれるという流れが完成します。

もちろん、立替経費の申請から受け取りまでの間には「承認」というフローが存在し、それも経費アプリ内で行えます。この承認も場所と時間を選ばず行えます。

以前からクラウド会計についてはお伝えしてきました。クラウド会計自体は急速にシェアを伸ばしているものの、会計のみのクラウド化というのは少しハードルが高く、爆発的に増えているという状況ではありません。

特に、中小企業でも数十人規模くらいになってくると、会計だけクラウドにすれば良いという問題ではありません。そこで、以前からクラウド会計の起爆剤としては、全社的に影響のあるアプリケーションが必須という認識でおりました。

そのような最中、今回のデジタル画像での領収書等保存要件の緩和と、経費アプリの急速な台頭です。

経費アプリ自体は数年前からよく見かけるようになってきましたが、交通費の自動算出が主で、他の経費などは領収書の原本保存が義務付けられていたことから、中小企業レベルでは普及は遅れておりました。

ここまでお伝えする以上、経費アプリの提供会社がクラウド会計との連携を重視している、つまり仕訳として連携するというのは当然です。

経理の効率化を進める場合、経理業務を経理の下に集約するのではなく、全従業員にシェアすることが考えられます。例えば、全ての事務を経理にお願いすると経理が3人必要になる。しかし、全従業員に経費精算などの業務をシェアすることにより、経理が2人で済むことになる。これにより経理の人件費カットにつながる。

しかし、各従業員は、毎月経費精算に1時間掛かる…。

「一月、たった1時間でしょ?」

と思われる方も多いかもしれませんが、この1時間が意外とストレスなのです。従業員30人いれば、経費精算に月30時間費やされています。経理だって紙ベースの経費精算書が正しいかどうかの確認が必要になります(おかしなものがないか、金額が正しいか、内容が明確か等)。経理での確認と精算に5時間必要として、合計35時間。

これを経費アプリ導入により、月10時間以内に短縮出来たらどうでしょう?

現状、経費アプリを提供している会社の利用料を調べると、中小企業が利用するサービスでは、月額300円~500円が相場のようです。

仮に社員の時給が1,500円換算とすると、十分に元が取れるはず。

「立替経費は給与と一緒に振り込んでいるのだから、経費アプリが給与計算ソフトとも連携すれば楽になるなー」

というところまで想像できた方は、ご想像どおりです。

【経費精算⇔勤怠⇔給与⇔会計】までつながった場合の業務の効率化は、人数が増えれば増えるほど、破壊的レベルです。

ちなみに、当社は経費精算システムをスタッフが自社開発しました。クレジットカード等のCSVデータも読込みが可能なレベルで、会計ソフトへの連携も実装しています。勤怠データも給与計算ソフトと連携させています。当然、給与計算は会計と自動連携。

しかし、画像保存まで考えた場合、このまま自社システムで運営するより、外部の経費精算アプリケーションを利用した方が良いかなと考え始めています。つまり、当社も、今まで内製化などで効率化していたシステムを崩す時期が来たように思います。

軽く、掛かるコストが明確で、常に連携していて「視える化」されている方が、経営上の判断を行いやすいのは間違いありません。内製化の維持コストは規模のメリットを活かしてこそ意味がありますので。

「社員が30人増えたから、経理を一人増やすか…」

という判断よりも、

「一人雇うと、月2,000円のアプリケーション費用が発生するのか…」
(内訳は下記)

・ GoogleApps 月500円
・ 勤怠 月200円
・ 給与計算 月300円
・ 経費精算 月300円
・ マイナンバー 月200円
・ その他 月500円

という判断の方が、根拠が明確なのは間違いありません。

もちろん、Suica等を使わないエリアの企業は経費アプリが十分に機能しないでしょうし、どのような企業でも当てはまる訳ではありません。とはいえ、効率化できるところは効率化し、戦力を補うという意味では、色々試していく必要があるのではないでしょうか?

 

節税 VS 返済

経済の先行きは怪しいけれど、目の前に納税が迫っていれば、節税したくなるのが経営者…。

聞けば、やはり保険契約は盛況の模様…。
時代が変わっても、税制が変わっても、「節税といえば生命保険!」というのは変わらないようです。

そして、契約数が急増するであろう3月決算が近付いてまいりました。

納税した方が財務状態が良くなると分かっていても止められない、止まらない。
では、この節税という魔力から解き放たれる方法を教えてくれ!

と言われれば、「一つあります」とお答えします。

返済はいかがでしょうか?

例えば保険で節税しようという場合、資金の流出が伴います。
だから納税も少なくなる。

納税は少なくなるけれど、お金も少なくなる。
逆を言えば、お金があるから節税したくなる。
このような関係性は否定できません。

節税するためのお金がなければ、結局は節税を諦めざるを得ない…と考えるのは私だけではないはずです。

それでは、節税以外でお金を使ってしまえばいい。
例えばそれは、繰り上げ返済です。

「住宅ローンを繰り上げ返済すると、総返済額が減少する」

これは皆さまもよくお耳にされることと思います。

節税に使おうとしているお金の裏付けは何?と考えると、意外と借入金でまかなっている中小企業が多いのが実際のところ…。

例えば、現預金1億円、借入金1億円の企業があったとします。
単純なお話しをすれば、その企業が持っている現預金の裏付けは借入金です。

もちろん、「借入は設備投資に充てているので、現預金は内部留保で貯めたお金だ!」と言い切ることはできますが、設備投資は過去の話、現預金と借入金は現在の話という側面を捉えれば、やはり現在の現預金の裏付けは借入金と結論付けてもおかしくはありません。

つまり、理屈を抜きにすれば、借入金で節税している企業が多く、節税のために利息を支払っていることにつながります。

そうであるならば、節税のためにお金を支払うのではなく、返済のためにお金を支払った方がお得ではありませんか?

「まあ、そうだよな…」

いま、ここで冷静に考えれば、納得される方も多いでしょう。
しかし、納税が迫れば冷静ではいられなくなります。

では、さらに冷静になるために、シミュレーションしてみましょう。

皆さまの会社の利益が、1,000万円と予測されたとします。

社長

「利益は800万円までが税率上有利と聞くし、少し節税できないかな?」

そこで、保険会社や税理士が提案します。

提案

「保険料500万円のこちらの保険に加入されると、半分損金に算入されますので、利益が250万円減少し、税引前利益が750万円になります。
ご契約いかがですか?」

社長

「そうか…。保険料500万円というのは少し大きいけど、先日、銀行が運転資金用に5,000万円を借りないか?と提案してきたばかりだ。借りてもすぐに必要という訳ではないから、この借入れを保険料に使えば、自己資金は必要ないな。毎年、1,000万円くらいの利益は出ると思うから、ここで節税しておくのもいいかな」

提案

「10年後には、解約返戻率が95%となります。解約返戻金が4,750万円でして、その期間の節税額が750万円(損金250万円×10年×実効税率30%)となるので、差し引き500万円お得です!」

社長

「よし、契約だ!」

上記の会話は、意外と多いパターンではないかと考えます。

もちろん、当メールマガジンの読者の皆さまは、節税額750万円というのが単なる先送りで、解約したときにまとめて課税されるということはお気付きのはず。すなわち、単純に考えれば差し引きゼロ。

実質的には、250万円(総額5,000万円の保険料から解約返戻金4,750万円を差し引いた金額)が掛捨ての保険料となっています(純粋な保険機能はありますので、無駄金ということではありません)。

ただし…、この仕組みが分かっている方でも、色々な理由を付けて、契約してしまう事が多いのです。これが節税という名の魔力。

それでは、この総額5,000万円の保険料を返済資金に回していたらどうでしょうか?

話を単純化するために、5,000万円を借りて、10年間で返済すると仮定します。
金利は信用保証料込みで1.5%。

この場合の10年間の利息総額は約380万円です。

解約しても戻ってこない保険料250万円と、借入による利息380万円。
10年間で合計630万円。

つまり、節税という名の魔力につかまると、10年間で630万円のコストが掛かっている場合もあり得るということです(実際、多くの企業がこのような状態に陥っています)。

もちろん、新たに借金して節税なんかしないという方がほとんどかと思われます。しかし、支払う予定の保険料と同額以上の借入金が既にあれば同じこと。

節税する代わりに、今ある借入金を優先的に返済していく、つまり、当初の借入の返済ペースではなく、繰り上げて返済するというお考えをお持ちの経営者は、おそらく少ないはず。

住宅ローンではよく知られる繰り上げ返済ですが、中小企業の経営において、繰り上げ返済はあまり行われていません。

繰り上げ返済というものは、不確実性が高い運用よりも、確実にコストカットが可能です。

一昔前までは税務署憎し、税金憎しという方が多かったのは事実ですが、最近は銀行憎し、返済憎しという方が多いような気がします。

ということで、税金を減らすことよりも、借入金と利息を減らすことを考えてみませんか?

納税すると内部留保がたまります。利息を減らすと、さらに内部留保がたまります。
借入金が減ると、自己資本比率が高まります。

節税よりも、繰り上げ返済の方がROAが高まります!

この構造に気付くと、少しは節税の魔力から解き放たれるのではないでしょうか?