半年後・・の景色

東北地方の巨大地震の発生から一ヶ月以上が経ちました。
その影響は被災地は当然として、被災地以外にも広がっています。
政府系金融機関を中心に、中小企業の資金繰りの手当のバックアップは
されていますが、被災地が優先されるため、資金繰りに苦しむところもある
ようです。
阪神・淡路大震災の際には、被災地以外の企業では、1年を待たずに
売上げが回復したところが多かったようですが、現時点では、都内の
飲食店でも、いまだに売上げの回復は見られません。
実は、小売業やサービス業の場合、震災後二ヶ月頃が正念場と言われ
ています。
製造業は、全般的に、震災復興の絡みから生産再開にさえなれば、売上げ
回復していきますが、後ろ向きな消費ムードが明るくなるには、どうしても
時間を要します。
さらに、ずるずると状況を打開できずにいると、半年以内の倒産もあり得ます。
企業には、良い時も悪い時もあります。
通常、順調な成長が止まり、状況が悪くなれば、それに対する対応を企業
は行っていきます。
企業経営を行っていれば、必ず、事件は起きますから、こういうとき時こそ、
企業の力がためされる時です。
しかし、今回のように日本中の企業が一つの事件に遭遇した場合は、
状況の対応を怠り、単に、仲間と傷をなめあう・・ということが起こりがちに
なります。
バラバラに各企業で事件が起きていれば、事件をきっかけに、新たな対応
をする・・という健全性の循環が起こるわけですが、日本中で同時に事件に
遭遇すると、その健全性の循環が止まってしまう場合があるわけです。
地域企業が、商工会議所などの地域団体に集まって、地元の経済の地盤
沈下をお互いに嘆き合う・・という景色は日本の地方でよく見られる景色ですが、
その景色が日本中で起こってしまうわけです。
そして、ずるずると状況を受け入れていってしまう・・。これは大変危険なこと
です。
したがって、苦境を震災のせいにするのは、そろそろ止めにして、健全性の
循環をはじめなくてはいけません。
なお、銀行は、震災を機会に、ゾンビ企業の整理に入るはずです。業績の
打開が見えず累積損失がドンドンたまっていく中小企業をゾンビ企業と言う
ことがあります。
こうしたゾンビ企業も、地域の金融機関は、地元経済のために、ギリギリまで
応援をしてきました。
しかし、多くの企業の資金要請に対して、金融機関は改めて対応を企業ごとに
考えてきているはずです。
そして、ゾンビ企業の支援を止めるきっかけに、今回の震災はなるはずです。
残念ながら、こうしたゾンビ企業の倒産が、まずははじまります。
そして、次には、するずると対応を遅らせる企業の倒産が待っています。
こうした動きが、震災の半年後くらいから具体的になるはずです。
そろそろ、震災について嘆くのは止めましょう。
この日本中を巻き込んだ事件でさえ、新陳代謝のきっかけと考えましょう。
私たちは、何があっても、商売を続けなくてはいけません。

名目GDPが3位に転落ですって

「名目GDP 日本、中国に抜かれる!」
以前からニュースにはなっていましたが、改めて3位確定と先月発表がありました。
“経済規模で”42年間、世界第2位だったそうです。
どの報道を見ても論調が冷静で、
「当然のことですよね。だってあれだけ人口が多いですもの・・・」
そして、行きつく先は、
「一人あたりGDPでは、日本の方がまだ10倍大きい!」
しかも、日本の一人あたりGDPは世界で17位(2009年度)。
意外と普通の順位ですね・・・。
一人あたりGDPが日本より上位で、日本よりも人口が多いのはアメリカだけです。
世界の国別人口を上位から列挙すると、
『中国、インド、アメリカ、インドネシア、ブラジル、パキスタン、バングラデシュ、
ナイジェリア、ロシア、日本・・・』と、日本の人口は世界で10位です。
人口数が日本より上位で、日本より経済的に裕福と感じるのはアメリカだけではないでしょうか。
ご存知のとおり、GDPは【一人あたりGDP × 人口】の積で求められます。
一人あたりGDPが世界17位で、人口は世界10位・・・。
こう考えると、日本のGDPが世界第2位であり続けたのは、単純に“人口が多いから”、あるいは“人口が多い国の中で、一人あたりGDPが2番目に高かったから”という結論に達します。
ですが、今後、日本の人口は減少傾向に入ります。
それでは、人口の減少に引きずられ、GDPも下がり続けるのでしょうか?
これは、企業の売上高に置き換えてみればヒントが隠されています。
仮に、皆さんの会社の社員が1割減ったからといって、売上高も引きずられて1割下がるでしょうか?
10人の会社なら1人、30人の会社なら3人、100人の会社なら10人。
実際に下がったら経営者は頭を抱えてしまうはず・・・。
しかし、社員数の減少に応じて、下がりそうで下がらないのが売上高です。
それは残りの社員が懸命にカバーするからです。
つまり、一人あたりGDPが増加しているのと同じ現象です。
企業の数年間の連続分析を行っても、人数が減少している事業年度というのは、一人あたりの生産性は増加している傾向にあります。
もちろん、減少人数分を雇うのは簡単です。
とはいえ、簡単に雇ったら大変なことになると分かっているから、どこの中小企業も雇う事が出来ていません。
それでも、売上高を落とさないように努力は続く・・・。
そして、一人あたり生産性は増加する・・・。
いつまでたっても仕事は大変・・・。
これは中小企業のジレンマですが、大きな枠組みで見れば日本の今後のGDPの構造と同じです。
労働人口が減少していくのですから、仕方ありません。
また、皆さんの会社が、こう言われたらムッとくるはず。
「あなたの会社の売上高が大きいのは、社員数が多いからですね」
それよりも、こう切り返せるような形が目指すべき方向性ではないでしょうか。
「うちの会社の一人あたり生産性は業界平均の2倍だよ」
これが日本の現状です。
労働人口は減少するという大前提の下に、企業の一人あたり生産性に焦点を当てて経営される事が、今後の日本のGDPにも少なからず影響を与えるのではないかと考えます。

現実を歪める

林原グループが破綻しました。
「バイオ企業の雄」
「岡山の大地主」
と言われたグループの実態は、
架空の決算書で銀行を信用させ、
約1300億円もの借入残高を抱える
問題企業でしかありませんでした。
1883年に創業した同社は、
元々は、水飴事業を営む企業でしたが、
4代目社長になった林原健氏の社長就任で、バイオ企画を展開。
食品の甘味料に欠かせない「トレハロース」や
抗ガン剤「インターフェロン」の量産化に成功。
「バイオ企業の雄」として世界的に名前が知られていました。
しかし、『日経ビジネス』(2011.2.14号)によると、
2009年10月期の林原単体の売上高は281億円。
当期利益はわずか1億円。
その企業に対して、銀行の債権総額は約1300億円。
バブル時代を彷彿させるハチャメチャ度です。
架空の決算書を受け取り、融資を続けた銀行は、
林原に対して怒り心頭だと思いますが、
どう見たって、どちらも狂っています。
お互いに、現実を見なかった。
企業における不祥事の典型的なパターンが
ここにもあります。
通常、企業は、望む状況と現実にギャップがあると、
そのギャップを埋めるために、
分析をし、新たな仮説を立て、行動します。
企業経営とは、
決算書に代表される現実を示す各種数字を
客観的に受け入れ、それを味わい
次の行動をしていくものです。
これに対して、
林原グループは、「現実」を歪めることを選びました。
これは、人間で言えば、ウツの典型的な症状です。
そのウツ企業に、
銀行は大量の融資をしました。
その額は、このグループの規模からは
常識外れの融資額です。
林原グループは、
金融機関に対して、他の金融機関の融資残高について
虚偽の報告をいていたようですが、
最低限、融資トップの金融機関ならば、
おかしい・・と思ったはずです。
林原グループには、
28もの金融機関が融資をしていました。
この事実だけでもおかしいはずです。
それを見ないふりをしてきたのです。
28の金融機関の末端の金融機関にいたっては、
何の志もない提灯融資。
話題の企業に少しでも融資で入り込みたいという
スケベ根性だけのコソ泥融資と言っても良いでしょう。
しかし、これを笑うことはできません。
私たちだって、
現実を歪めてみていないでしょうか?
決算書を見て、言い訳をしていないでしょうか?
そして、どこかにコソ泥棒がないでしょうか?
こういう事件が起きた時は、
他人事の顔をしてニュースを楽しむのではなく、
我にも同じ色はないか・・と自省することをお勧めします。