平成25年度税制改正大綱についてお客様とお話しする機会が多いのですが、その中で反応が大きい二点についてお伝えいたします。
とにかく皆さん驚かれるのが、交際費の全額損金算入!
限度額も800万円に引き上げられます。
(二週連続同じネタで申し訳ございません)
実際の減税額のインパクトとしては期待できませんが、イメージとしては圧倒的な存在感のようです。
「これって交際費になるの? 何とかならない?」
お客様と税理士の間で繰り広げられた交際費をめぐる「何とかならない?」的な会話が無用になるだけでも何と生産的なことでしょう(笑)
特に、中小企業の経営者の中には、「この領収書はやめておくか・・・」と泣く泣く個人負担していたケースも多いはず。個人負担していた取引先や社員との飲食代等も、これからは気にせず領収書を出せると喜ばれている方も多いのではないでしょうか。
また、この際、役員報酬を下げて、その分個人負担していたものをきっちり会社で精算するというのも方法の一つです。所得税を払った後のお金を使うよりも、課税前に使った方が税金も減りますので。
ちなみに、交際費と言えば、取引先との飲食代や贈答関係が真っ先に頭に浮かびますが、それだけではありません。
交際費の周辺経費は、会議費、広告宣伝費、福利厚生費、寄付金、紹介手数料などなど、たくさんあります。今まではここの線引きの判断が微妙であり、交際費としての意図を持っていなくても、要件を充たさなかったり、必要書類が整備されていないため税務上の交際費として判断されてしまうケースがありました。
社内の飲み会など、当然に福利厚生費と思いがちですが、要件を充たさなければ立派な社内交際費です。
しかし、これら交際費等が全額損金となる以上、ここの判断に無駄な時間を使う必要はなく、1人当たり5,000円以下の飲食費の要件を充たすための書類等も特に必要ありません。
また、今までは支出の意図に限らず、処理の簡便性から、交際費課税されるか否かで「接待交際費」という勘定科目を使用しているケースが多く見受けられました。ですが、これからは支出の意図に応じて勘定科目を使い分けていくのも重要になるかと考えます。
いくら800万円まで全額損金算入になったからといって、実際に交際費がたくさん計上されていたら見映えも悪いですしね!
それと、交際費課税の改正の適用期間は1年間です(平成25年度末まで)。延長の可能性もありますが、限られた期間で有効に利用してください。
もう一点、今回の減税の目玉に人件費の税制があります。
その名も、所得拡大促進税制!
名目が「個人の所得水準を底上げする観点から」というのがすごいですが・・・。
概要は下記のとおり、人件費の増加額に対して10%分の税額を控除するというもの。
話を単純化すると、人件費が1,000万円増加すると、本来の税額からさらに100万円減らしてくれるということです(中小企業は法人税額の20%を限度)。
(『平成25年度税制改正について』経済産業省より)
実際にこの税制が適用されるのは4月以降開始の事業年度になりますが・・・、
実は既に始まっています!
上記の図を見てのとおり、この税制の適用年度(平成25年4月1日以降開始事業年度)は、人件費が基準事業年度(平成25年3月31日以降終了事業年度)から5%以上増加している必要があります。
つまり、3月決算の会社で考えれば、基準年度は当期であり、次期との比較で税制の適用の有無と減税額が決まります。
感のよろしい方はお気づきかと思いますが、この税制の効果を最大限享受するには、当期と次期の人件費の差を如何に広げるかがポイントです。
とはいっても、毎月の給与を少なくするわけにはいかないので、対象は賞与に限られてくるかと考えます。決算賞与を未払計上して4月に支払う会社については、4月に支払うのだけれども、未払計上はしないという方法も考えられます。
当然、賞与分の費用の計上を次期に回すので当期の税金は多くなりますし、次期は利益が出るか分からないというケースも多いはずですので、どの会社も使えるわけではありません。
ただし、条件を充たす会社であれば、経理処理を変えるだけで2年間通算の税金は減少します。この手法は、「人件費を5%増やすなんて簡単に出来ないよ」とお考えの会社でも使える減税の裏技です。実際に人件費を増やせなくても、賞与の計上月をずらすだけで人件費の5%増加をクリアできる会社は多いでしょう。
あるいは、決算賞与を支給している会社のみならず、夏季賞与や冬季賞与の支給月前後が決算の会社も使える手法になります(効果が大きそうな会社は決算月の変更を考えるところもあるかもしれませんね・・・)。
国がどんなに減税策を用意しても、現実問題としてその効果を受けられる中小企業というのは限られてきます。しかし、上記のように、減税策の要件を逆手にとってその効果を受けることもできるのです。
せっかく国が用意した減税策です。計画的に行ない、少しでも内部留保に回しましょう。
国は、内部留保されることを求めてはいないでしょうが、
『小規模企業等に係る税制のあり方については、個人事業者、同族会社、給与所得者の課税のバランス等について、幅広い観点から検討する』と、来年以降、中小企業とその経営者を狙った増税も視野に入れていますので・・・。
カテゴリー: 日本の税金アーカイブ
手取りの取扱いを変えてみる
例えば、源泉所得税を会社で負担してくれる給与の受取り方があるとしたらどうします?
繰り返しお伝えしているとおり、25年度から給与所得控除額の上限が設けられました。
もちろん、年収1,500万円以下の方は関係のない改正ですが、会社役員等で年収1,500万円を超える方は・・・諦めてくださいということです。
さらに、今月から所得税額に対して復興特別所得税額2.1%が課され、所得税の最高税率が40%から45%へ引き上げられることが進んでいます。
さらに、さらに、社会保険料の増加・・・。
「どれだけ給与から天引きされるんだ!」
と、毎年減少していく手取り額を見て、溜め息をつかれる方も多いはず。
おや? 天引き?
そういえば、天引きされない給与の受取り方がありました。
念のため、皆さまにお伝えしておきます。
現金だけが、給与ではない。
これはご存じの方も多いかと。
いわゆる現物給与と呼ばれる「ブツ」で受け取る給与が分かりやすい例です。
商品券や高額製品を会社から受取ったときも、給与とみなされ所得税が掛かります。
年末年始の忘年会やイベントで受取られた方も多いのではないでしょうか。
例えば、1万円の商品券を受取った場合、これについても会社は源泉所得税を天引きする必要があり、税率10%として1,000円を本人から徴収します。
この1万円と1,000円を通常受取っている給与と合算し、年末調整等で最終的に精算することになります。
こういうケースでのお問い合わせはよくありますが、このことをご説明しても納得できない方が多いようです。
もちろん、私だって当事者でしたら嫌です!
しかし、「法律上」はそうなっているため、判断が難しいところ・・・。
ただし、源泉徴収しないでもよい処理の仕方があります。
これが「グロスアップ」と言うものです。
例えば、ピッタリ1万円の商品券をあげたいのに、同時に1,000円の源泉所得税を徴収しては意味がない。
このような場合、税率10%と仮定して、1万円を90%で割り返します(=11,111円)。
そして、この11,111円を給与とみなし、源泉所得税1,111円、差引支給額1万円(=商品券)とすることが可能です。
この1,111円は源泉所得税として納税する必要があるため、会社の支出額は1万円から11,111円に増えてしまいますが、受取る側からすればうれしい処理です。
しかも、年末調整等で1,111円の一部が還付されるかもしれない。
福利厚生と考えるのであれば、これも選択肢の一つです。
「従業員ばっかりずるい! 役員にもないのか! 役員は定期同額給与というものがあるから無理なんだろ!?」
確かに、社員と役員では取り扱いが違います。
ただし、中小企業の役員の場合は、もっと「大きな額」のグロスアップが可能です・・・。
いわゆる節税法人と言われる企業において流行した手法に、生命保険の契約方法の利用があります。
これは、会社で契約して会社が受取る生命保険契約ではなく、会社で契約して、“役員が受け取る”保険のことです。
これについては、当社の笹川が『保険で節税をしてはいけない!』というセミナーでも養老保険のパターンをご紹介したので詳細な説明は省きますが、
例えば、保険契約者を会社、保険金受取人を役員とする生命保険契約を締結したとします。
通常、会社が契約する場合には、『保険料』という費用となりますが、保険金受取人を会社ではなく役員個人に指定すると、『給与』とみなされます。
つまり、給与とみなされる以上、1万円の商品券と同様に所得税の徴収が必要です。
通常、受取人を個人とする保険契約は、給与から社会保険料や源泉所得税を差引いた手取り額から保険料を支払います。
しかし、この契約パターンの場合、保険料を会社から生命保険会社に直接支払われるため、役員個人のお金は減少しません。
しかも、この場合もグロスアップが使えます。
例えば、毎月50万円の保険料を保険会社に支払う場合、これを仮に20%を源泉徴収するとして、80%で割り返すと625,000円になります。
この625,000円を給与とみなした上で、500,000円を保険会社に直接支払い、125,000円を源泉所得税として納税する。
年収として計算した場合の税率設定の問題はありますが、役員個人としては保険料も源泉所得税も負担せず、保険金の受取人となることができます(ただし、個人住民税は自己負担です)。
役員を受取人とする生命保険契約はときどき見受けられますが、源泉所得税の問題があるために実質的に自己負担を強いられるところ、ここでグロスアップを利用して源泉所得税まで回避しているケースは中々ありません。
もちろん、この源泉所得税分も損金として認識されるため、法人税の減少要因となります。
ここで疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんので説明しておきますが、この保険料は役員に支払われる訳ではなく、保険会社に直接支払われるものです。
そのため、実際には定期同額給与が適用される「役員報酬」とは別に、「経済的利益」として定期同額給与の判定を受けます。
つまり、役員報酬の改定は、原則として株主総会等で一定の時期に行わなければならないのに対し、生命保険契約等の「経済的利益」は、いつ契約してもよいのです。しかも年払いでも問題ありません。
以上、今回は、給与とみなされるものとグロスアップの組み合わせで、手取りの取扱いを変えてみました。
これを節税とみなすか否かは皆さまのご判断にお任せしますが、課税方法の組み合わせでも色々な選択肢が生まれるという点を知っておいていただければ幸いです。
400万円納めるよりも、350万円納めるほうが損に感じてしまう?
私は税務の現場で、たびたび次のような場面に出くわすことがあります。
私「今期の決算は1,000万円の所得ですが、予定納税でたくさん納付していますから、今回の決算では還付になります。」
お客様「納税にならなくてよかった!むしろ、税金が戻ってくるなんて!」
私「予定納税で500万円納付しているおかげで、今回は100万円の還付ですが、1年を通せば400万円納めていますよ。」
お客様「そうなるのかね?とにかく納税ではなくてよかった!!」
同じお客様の翌期の決算において・・・
私「今期の決算は、900万円の所得ですから350万円の税金になります。ですが、予定納税で200万円納めていますから、差額の150万円の納付になりますね。」
お客様「そうか・・・、納税なのね。仕方ないか・・・。」
私「前期は400万円の納税でしたから、それに比べれば、50万円少ないことになりますね。」
お客様「違うでしょ?前期は税金が戻ってきたよ。」
私「それは予定納税が多かったからであって、通年で見れば400万円ですよ。ですから今年は50万円少ないことになります。」
お客様「そういえば、そうだったね・・・。しかし、納税か・・・。」
このテンションの違いは何故に起こるのでしょうか?
下のグラフは、行動経済学において有名なプロスペクト理論の価値関数を表したものです。
損得の増減に対して、人が感じる価値の動きを表したものであり、このグラフから読み取れることは次の3点です。
(1)参照点依存・・・
損得の価値は絶対的なものではなく、その人がもっている独自の基準を参照点として、そこからの距離で決まります。
年収1,000万円のAさんにとって、1,000万円は絶対的な価値ではありません。
ライバルだと思っているBさんの年収が900万だった場合には満足感を得ることになりますが、もしもBさんの年収が1,100万円であれば、不満を感じてしまうことになります。
(2)価値の逓減・・・
幸福度も不幸度も、増えていくに従って、感じる価値は鈍化していきます。
一杯目のビールはとても美味しく感じますが、三杯目にもなれば・・・、ということです。
(3)損失性回避・・・
人は利得よりも損失のほうに大きく反応します。
例えば、同じ100万円であっても、100万円を得る喜びより、100万円を失う痛みのほうが大きく、回避しようとする傾向にあります。
冒頭の決算時のやりとりにおいても、これらの効果が大きく作用しています。
お客様にとって、参照点は『この決算において1円でも納めることになるのか否か』であり、損失性回避から、(通年でいくら納めているかは関係なく)『目の前の納税をとにかく回避できてよかった』という心理になります。
実際、決算時のタイミングだけを見れば、通年で400万円納めている期(決算時には100万円の還付)よりも、通年で350万円納めている期(決算時には150万円の納付)の方が、ものすごく損をした気分になっているのです・・・。
これから消費税の増税等で世の中のモノの値段が変わってくるわけですが、このような価格に対する人の感情の動きを知っているかどうかは非常に大切になります。
販売サイドであった場合、「税込価格1,050万円が、消費税の増税で1,080万円になりました。」と提示するよりも、「増税後の税込価格1,110万円ですが、当社は増税相当分値下げしますので、お値引きをして1,080万円にて提供します。」というだけで、消費者の受ける印象は変わります。
消費サイドであった場合、「A社は『基本料金2年間タダ』と言っているが、B社は『前機種5万円で買い取り』と言っている。今すぐ5万円もらえるなんて非常に魅力的だと思うのだが、目の前の単純な損得に関わらず、トータルでお得なのはどの会社なのだろう?」といった冷静な思考が必要になります。
まずは、『人間の行動は不合理である』と認めることが出発点になります。
そもそも、経済学が前提としている『完全で合理的な人間』などいないのですから。
節税額40億円!!
8月23日の日経新聞に、センサーや測定器を作っているキーエンスが、あることを実行したことによって、なんと40億円の節税効果が発生する見通しとの記事が掲載されていました。果たして40億円もの節税効果が発生する、あることとはいったいどんなことなのでしょうか。
40億円の節税と聞くと、大抵の方はとんでもないウルトラCのような手段を想像するのではないでしょうか。しかし、今回キーエンスが取った方法はいたって簡単なものでした。
そう『決算期の変更』です。
税制改正により平成24年4月1日以降に開始する事業年度より、法人税率が5%引き下げられることになりました。キーエンスは3月20日を決算日としていた為に、新しい税率の適用を受けるのは平成25年3月21日から始まる事業年度からでした。
そこでキーエンスは平成24年度の決算期を変更し、3月21日から6月20日までの3ヶ月として、6月21日から新事業年度を開始させたのです。
これにより6月21日開始の事業年度は、平成24年4月1日以降に開始する事業年度に該当し、新しい税率の適用を受けることができます。事業年度を変更することにより、税制改正の恩恵を早い時期から享受し、結果として40億円のもの節税効果を得る事ができる見通しなのです。
新税率の適用を早く受けるためだけに決算期を変更する事が、良いかどうかは一概には言えませんし、これを聞いたからといって同じ手法をとる会社はごく僅かではないでしょうか。しかし、この事例を耳にしたことをきっかけにして自社の事業年度について改めて考えてみてはいかがでしょうか。
皆さんは会社設立の際に決算期をどうやって決めたか覚えていらっしゃいますか?
設立時及び事業年度開始日の資本金が1000万円未満の法人であれば、原則として1・2期目は消費税の免税事業者となります。その為、この恩恵をフルに享受しようと、たまたま設立の用意が整った設立月から12ヶ月後の月を決算期としている方がかなり多いのではないでしょうか。
もちろん、そのメリットは決して小さくありませんので、それも1つの選択肢と言えます。
しかし、そうして決算期を決めた会社であっても消費税の免税事業者でいられる期間が終わってしまっていれば、そのままの決算期に拘る必要はありません。
決算期の決定にあたっては様々な角度からの検討が必要になりますが、今回は税の観点から決算期を考えてみましょう。
経営者の皆さんは毎年、自らの役員報酬をいくらに設定すればよいのか、頭を悩ませていることだと思います。
その理由の1つとして、来期の業績予測が難しいということがあるのではないでしょうか。もし仮に来期の業績が完璧に予測できたならば、役員報酬の決定に悩む事は、ほとんどなくなるでしょう。
しかし、そんな事が不可能であることは言うまでもありません。
しかし、予測のブレを少なくすることは可能です。利益変動の大きい月を事業年度の最初に持ってくるのです。そうすることで年間の業績予測が、早い時期に精度が高いものとなるはずです。
法人税法上、役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に決めなければなりません。であれば、できるだけ早い時点で精度の高い業績予測をすることが出来れば、最適な役員報酬の算定がし易くなるのではないでしょうか。また、早い時点での業績予測が可能になれば、決算対策を行う上でも有利になることは間違いありません。
季節商品を販売する会社や、受験指導をする予備校、塾などを思い浮かべていただければイメージし易いと思います。受験予備校に集まる生徒の多くは4月から始まる新年度カリキュラムに合わせて3月や4月に入校します。ということは、この時期の生徒の数がわかれば年間の業績予測が立ちやすくなります。
それなのに、この会社の決算期が3月や4月であれば、利益変動の大きな時期が期末になるため、決算ギリギリまで業績予測がつきにくく、決算対策を行う時間もなければ、役員報酬が適正額であったかは最後まで判りません。
そこで決算期を2月にすれば、利益変動の大きな時期が事業年度の前半になるため、早い時期に精度の高い業績予測ができ、決算対策も余裕を持って行えます。また役員報酬の設定期限である期首から3ヶ月目の5月までには、今年度の生徒の人数も把握できることから、精度の高い業績予測を基に役員報酬を設定することが可能です。
決算期の変更は株主総会の特別決議等により定款の変更を行い、税務署等に異動届出書を提出すれば、それで終わりです。登記の必要もありません。
たったこれだけの手続きで決算期を変更することが、皆さんの会社にとって大きなメリットをもたらすことがあるかもしれません。
ただし、皆さんお分かりのとおり、会社は税金のみを考えて経営するわけではありませんので、必要以上にこだわらないようにしてください。
これを期に様々な角度から再度自社の決算期を考えてみてはいかがでしょうか。
節税の5W1H ~もっともシンプルな節税思考~
節税
という場合、皆さんがまず思い浮かべるのは、『How?』。
つまり「どのように節税を行うのか?」という「手段」です。
極端な話、「手段」さえ知っていれば節税は誰でもできます。わざわざ税理士に相談することでもありません。
役員報酬、保険、交際費、車 etc.
あり触れたものが並びます。
しかし、誰にでも思いつくものに本来の意味での節税効果はあるのでしょうか?
当然ながら、答えはNo
節税という言葉にクラッときてしまうため、思考マヒ状態のまま、フラフラと安易な手段の衝動買い・・・。
衝動買いのため、いつかは「しまったー!」と後悔します。
会社経営における重要な決定事項であれば、計画を立てた上で、手段の選択は最後の段階であるはず。
しかし、「節税」に関しては(重要な決定事項のはずですが)、入口の段階で「手段」に飛びついてしまう企業が非常に多いのです。
では、手段に飛びつかないためには、節税をどのように考えるのがよいのか?
実は非常にシンプルです。
英語では、5W1Hという問いかけがあるのは皆さんもご存じかと思います。
When(いつ)
Where(どこで)
Who(誰が)
What(何を)
Why(なぜ)
How(どのように)
この5W1Hの問いかけは、節税にもあてはまります。
When(いつの年度で節税をするのか?)
Which(どちらの法人で節税をするのか?)
Who(誰の所得で節税をするのか?)
What(何の所得区分で節税をするのか?)
Why(なぜ、節税をするのか?)
How(どの手段を使って節税をするのか?)
冒頭でもお伝えした通り、一般的な節税は、最後のHowがクローズアップされます。しかし、順番を見ても分かるようにHowの判断は最後です。
そもそも、節税が有効であるかどうかの検討もせずに、手段を決めるというのは無意味だということはご理解いただけるはず。
節税とは、利益が出たら行うものではなく、計画的にやるものです。
というよりも、計画的にやられていないものは、9割以上の確率で実際には税金は減っていません。
つまりはこういうことです。
■When(いつの年度で節税をするのか?)
→ 節税を行うのは節税効果を得られる年度のみです。従って、毎年絶対に実行しなければならない手段というのは、長期的な意味では節税効果が得られていない可能性が高いのです。
■Which(どちらの法人で節税をするのか?)
→ 法人が複数ある場合、一方が黒字で、一方が赤字というのは非常にもったいない状態です。利益操作はダメですが、両社の利益の規模感を近づけることです。つまり、二社でトータルの税金が少なくなるように事業を展開するのが理想です。
■Who(誰の所得で節税をするのか?)
→ 税率が高いのに、それでも特定の人の所得を高めますか?節税の基本は所得の分散です。財産が多額にあるのに、それでもその人の所得を高めますか?特定の人の財産を不必要に増やさないのも節税の一つです。
■What(何の所得区分で節税をするのか?)
→ 法人所得という区分だけでの節税効果はたかが知れています。個人所得、相続財産というように異なる税率が適用されるところにこそ節税効果は表れます。
■Why(なぜ、節税をするのか?)
→ 節税を行う意図は? 単に税金を減らしたいだけでは、キャッシュ残高が減るだけです。税金の減少が大事なのか、手元に残るキャッシュ残高が大事なのかはよく考える必要があります。
■How(どの手段を使って節税を行うのか?)
→ 上記さえ決まれば、本当に有効な節税手段など限られることが分かります。
誰でもできるものに節税効果はあるのか?ということに対して、Noとお伝えしましたが、本来のステップを踏んだ上での節税には効果がもたらされます。
それでもほとんどの場合、手段Hを用いる前の5Wの段階で、節税効果が得られてしまいます。
When→Which→Who→Whatを検討し、その上でWhyを考え、それでも必要ならばHowを用いる。
結局、有効な節税を行うための最大の手段は、節税計画です。
きちんと計画を立てておき、手段の衝動買いの誘惑に惑わされないようにする。
会社の経営計画とも連動していますが、利益を追求することと節税は裏返しの関係にもありますので、裏経営計画とでもいいましょうか。
節税を難しく考えず、手段の誘惑があった場合は、5W1Hの思考で検討してみましょう。一見効果がありそうなものでも、メッキがはがれること間違いなしです。
準備はお済みですか?
平成24年も残すところあとわずかとなりましたが、
みなさんは来年から始まる『所得税増税』について
具体的な準備はできているでしょうか?
繰り返しになりますが、平成25年から増税となる内容について
確認しておきます。
・青天井だった給与所得控除が『245万円』で頭打ちとなる。
・復興特別所得税の課税が始まる(25年間)
給与所得控除については、上限が設けられるというのは大きな改正の
ようですが、1970年代のはじめまでは給与所得控除には上限額が設けられていました。
ところが、1974年の税制改正において、「給与所得者についても、
収入の増加に応じてなにがしの経費が増加する」という理屈から
『定額制』は廃止され、どんなに収入が増えても、青天井に最低
5%の控除額が保障されたのです。
つまり、高給取りには高給取りで何がしかの『交際費』がかかる
と言った理屈です(笑)
その他にも個人をターゲットとした増税案があります。
本年成立した『消費税増税法案』ですが、実はあの法案の中には
消費税の他に、『所得税』と『相続税』の増税法案が含まれてい
ました。
しかし、与党が消費税増税法案の成立を優先させるため、法案の
中から審議を遅らせる原因となっていた所得税と相続税の項目
(第四条から第六条まで)を削除し、来年度の税制改正大綱に先送
りしたのです。
その先送りした項目のうち重要な項目は次のとおりです。
・所得税の最高税率の5%引上げ
・相続税の最高税率の5%引上げ
・相続税基礎控除額の引下げ
現在、衆議院は解散総選挙の真っ最中のため、毎年12月頃に公表さ
れている税制改正大綱が、年内に公表になるかは不明ですが、いず
れにしても来年度の税制改正大綱には、先送りとなった所得税と相
続税の増税案が再び盛り込まれてくることは間違いありません。
つまり、近年の税制を議論するうえで度々登場する『所得の再分配
機能の回復』という言葉にも表れているように、この国の税制は、
『法人減税、個人増税』の方向へ舵を切ったということです。
そこで、私たちが考えなければならないことが、従来から多くの
中小企業が行ってきた役員報酬を使った『節税策』についてです。
ひとことで言うと、『会社の利益を役員報酬で全部とってしまえ』
というものです。
この節税法の前提になっているのが『会社の税金>個人の税金』
という構図です。
この構図は、幾度の税制改正を重ねる中で徐々に逆転してきたの
ですが、来年から始まる給与所得控除の改正と復興特別所得税に
よって決定的なものとなりました。
ここに、ひとつ例をあげてお話いたします。
以下のようなデータに基づいて役員報酬をシミュレーションして
みました。
≪前提条件≫
経常利益 5,000万円
現在の役員報酬(年収) 5,000万円
扶養家族 2名
つまり、『役員報酬算入前利益』が1億円という会社です。
ご覧のとおり、この会社の場合、もっとも税負担が少なくなる
役員報酬の額は『14,000万円』となります。
もしも、この会社が今までどおり50,000千円の役員報酬をとった場合には、
一年当りの税額差は 3,428千円 にもなり、5年続けば 17,140千円、10年では、
34,280千円にもなります。
以上からお分かりいただけたように、役員報酬をとって利益を潰すという
節税手法は、もはや通用しない時代に入ったと考えてください。
それでは、今後は会社に利益を残すようにすればいいのか?というと
これはこれで、社内の内部留保が膨らんでいく一方になってしまい
ますので、その後の『出口戦略』をどうするのかが重要です。
そこで、社内に貯めておいても仕方がないので、いつでも自由に使えるお金を
手元に持っておきたいという考え方もでてきます。
その場合には、一年あたり3,428千円のコストを負担して、役員報酬を
取るという選択肢もあるわけです。
いずれにしてもその選択に際し、具体的な数字の裏付けがあるのかが重要だということです。
何故なら、数字を意識して行うことで、そのあとの『結果』と『行動』は、
それを意識していないときでは、まったく別のものとなって表れてくるからです。
そこで、エー・アンド・パートナーズ税理士法人では、平成25年からの改正を踏まえて『最適役員報酬シミュレーション』ソフトと、今後の経営戦略について『中小企業節税白書 第1巻(CD音声)』を発売いたしました。
このCDには、中小企業のオーナー社長がとるべき役員報酬についての戦略を
余すことなく盛り込んでいますので、是非、今後の経営戦略にご活用ください。
経営者を魅了する節税対策の罠
『節税』
これほど魅力的な言葉はありません。
節税自体は悪い事ではありません。むしろ、積極的に行うべきです。しかし、節税を行うに際し、明確に理解しておくべき事があります。それは・・・
“節税対策=最終的に税金が減る”ではないという事です。
そして、誤解を避けるために押さえておくべき、節税対策の基本的なパターンは以下の3つです。
■消費という名の節税
■先送りという名の節税
■利益と資産の移転による節税
特に中小企業の経営者は、この3つの違いを理解し行動する事が求められます。なぜなら、節税に対する認識のギャップを利用して行うビジネスがある以上、自己防衛の知識として節税の意味を十分理解する必要があるからです。
【消費という名の節税】
この節税は、いわゆる“モノを買う”、“飲食を行う”という消費行動によるものです。消費行動が純粋な節税と言い切れるかは議論が分かれますが、世間一般ではこれも節税と呼ばれています。
とはいえ、この節税策、その効果は節税というよりもキャッシュフローの改善という側面の方が強いのです。例えば、もともと必要な消費行動を決算日前に行うか、決算日後に行うかによって、キャッシュフローが変わってきます。
≪事 例≫
利益100万円と見込まれている3月決算法人が、20万円の備品の購入を検討(税率は40%と仮定)。
●3月に備品の購入を行った場合
●4月に備品の購入を行った場合
税金と備品を合わせた支出は、前者が52万円で、後者が60万円。つまり、必要な消費行動であれば、決算日前に行った方がキャッシュフロー上有利となります。キャッシュフロー改善の側面が強いとお伝えしたのは、税金と支出の減少額が8万円と同じという点に表れています。
しかし、これも5月という納税のタイミングで切った場合であって、翌年の納税まで含めれば、税金も支出も変わらない事になります。
【先送りという名の節税】
この節税を“先送り”とお伝えするように、結果的として税金は1円も減りません。あくまで支払うべき税金を将来に先送りしているだけ。しかし、世間一般では一番もてはやされている節税策です。
実は、この節税策を本当に税金が減るものとお考えの方が意外に多く、税金の先送りという事実に気付いておりません。
この一番誤解の多い節税策には以下の2パターンがあります。
(1)将来、お金が戻って来ない
(2)将来、お金が戻って来る
まずは(1)のお金が戻って来ないパターン。これは、例えば地代家賃のような継続的な契約の費用を1年分前払いしてしまう事です。
通常、前払い分は費用として認められません。ただし、いくつかの要件を満たした場合はその支払った金額が費用となります。ちなみに、一時的なサービスを受ける場合やモノの購入等の場合の前払いは費用となりません。
≪事 例≫
利益500万円と見込まれている3月決算法人が、家賃1年分(20万円/月)の前払いを検討(税率は40%と仮定)。
●3月に家賃1年分の前払いを行った場合
●3月に家賃1年分の前払いを行わなかった場合
上記の事例を確認していただくと、家賃1年分の前払いを行った場合は税金がかなり減っている事が分かります。
しかし、常に1年分の前払いをしている状態なので、前払いを止めた年度は一切費用にならず、逆に税金が増えます。ですから、結果としては前払いを止めるまで、税金の先送りをしているだけにすぎません。
また、1年分の支出が先行するため、当然にキャッシュフローは悪化する事になります。
次に(2)のお金が戻って来るパターン。これは生命保険を使った節税が典型です。多額の保険料を経費に落とす事により税金が劇的に下がるため、経営者を魅了し続けます。
しかし、(1)と異なり、生命保険の解約時にはお金が戻って来ます。前払いが1年分であるのに対し、戻って来るお金は支払年月に比例し、戻って来たときに掛る税金も比例して増加します。
ここで、生命保険を利用した節税策のメリット・デメリットを簡単にまとめます。
【メリット】
A.税金の支払いを先送り出来る
B.退職金対策等に用いる場合、一時的に発生する費用を相殺する機能がある
【デメリット】
C.長期間に渡り支出が先行し、手元資金が減少する
D.保険会社に支払うコストが高く、節税だけを考えた場合は損をする
上記のうち、AとCは今までのご説明でご理解いただけると考えます。そして、この中で一番重要なのはDについての理解です。
生命保険による節税策の最大のポイントは解約返戻率です。節税で用いる保険契約は途中解約が前提となるため、解約した時にどのくらいの保険料が戻って来るかが全てと言っても過言ではありません。
例えば、毎年100万円の保険料を30年支払い、解約時に2,700万円戻ってきた場合、保険会社に支払うコストは300万円(解約返戻率90%)。
要は、最終的な税金が変わらないにもかかわらず、先送りをするために300万円というコストが必要になります。
もちろん、このコストは保険という保障を買っているために発生するものですが、そもそも保険を契約した動機が税金対策であるため、保障としてのコストとしては割に合わないのです。
しかも、長期間に渡り支払いを続けない限り解約返戻率は低いまま。同時に、長期間に渡り黒字を続ける事が出来る企業はごくわずかという絶対的な事実が存在します。結局、どこまで節税の効果(先送りの効果)を受ける事が出来るかは、誰にも分からないのです。
最後はBの機能についてです。現在の経営環境を考えると、より重要性が高いのはこの機能かもしれません。
例えば、毎年300万円の利益が出ている企業が、役員退職金3,000万円の支払いを検討しているとします。ここで問題になるのが業績に与える影響。
単純に考えれば、退職金の支払い年度は2,700万円の赤字。当然、経営者であれば銀行の評価が頭をよぎります。役員退職金という特別な費用という事は銀行も十分理解しますが、1年間で2,700万円の純資産の減少は財務評価に大きな影響を与えます。
そこで、この節税策の解約時の処理が役立ちます。解約による保険料の戻り分があれば、その全部または一部の金額が収益となり、役員退職金による費用計上額が相殺され、業績に与える影響を最小限度に抑える事が出来るのです。
この節税策を銀行対策と位置付け、保険会社に支払うコストも許容出来るとおっしゃる企業も少なくありません。
とはいえ、そもそも節税策にこだわらない企業は、退職給与引当金という会計上の処理を使って、退職金の為の将来の費用を毎年計上しています。このような処理を使えば、無理に生命保険を用いる必要もありません。
以上が、生命保険を使った節税策のメリットとデメリットです。要点は、目先の税金の支払いを回避したいか否かです。節税策を用いればキャッシュフローが悪化しますし、高いコストも支払わなければなりません。
それでも、緊急用資金を外部留保しておいた方が安心という企業や、解約時に上がる収益を赤字の補填に使うためのコストと割り切っている企業もあります。
【利益と資産の移転による節税】
こっちで税金を払うと税率40%。
あっちで税金を払うと税率20%。
では、どっちで税金を払いますか?
極端な話、税金が実際に減る節税というのはこのケースのみです。税率が高いものから税率が低いものへと利益や資産を移転し、その税率の差を利用します。
この節税の代表例は以下の通り。
(1) 法人利益 → 役員報酬
(2) 高い役員報酬の人 → 低い役員報酬の人
(3) 法人利益 → 役員退職金
(4) 個人資産が多い人(祖父母、父母) → 個人資産が少ない人(子、孫)
まずは(1)。日本の中小企業の多くが個人事業主としてではなく、法人という組織形態で事業を行うのも、給与所得という税率が低い所得を利用出来るからです。
もちろん、給与額によって税率が変化するので、無制限に上げればよいというものではありません。ですので、ご自身の役員報酬をいくらにするのが税金上最も有利なのかにつき、シミュレーションを行う必要があります。
次に(2)。当然ながら、給与所得が高ければ税率が高く、低ければ税率が低くなります。例えば、1社から家族数人で役員報酬を受け取っている場合、節税上で理想的なのは全員の役員報酬が同額という状態です。もちろん、職務権限上、同額とはいかないケースがほとんどですが、お互いの役員報酬を可能な限り近付けると、トータルの税金は減る事になります。
言わずと知れた(3)。退職金というのは、税金上“圧倒的に有利な”所得です。だからこそ、生命保険を中心とした様々な“退職金対策”が提案されます。生命保険等の手段を用いるかどうかは別として、退職金での節税が可能であれば積極的に行うべきです。
しかし、保険の売り手の言うままに退職金対策を行うのは危険です。この節税を企業側の財務戦略も含めてアプローチするのと、生命保険の売り手の常套句でしかない“退職金対策”で勝手にアプローチされるのでは、全く意味も効果も異なります。きちんとした節税を行いたいのであれば、税金や企業財務も考慮した上での対応が求められます。
最後に(4)。こちらは相続の問題になります。そもそも相続税が発生しないのであれば、節税自体が必要ありません。しかし、相続税の発生が見込まれるのであれば、事前に対策を行っておくか否かで税金が大きく変わります。
そして、相続税対策の中でも一番有効なのは、資産自体を移転してしまう事です。資産自体が減少すれば、課税財産のみならず、相続税率も下がる場合があります。単純な贈与や、スキームを組み込んだ対策、個人の相続税対策においては生命保険を使った資産の移転も有効です。
以上、実際に税金が減る節税とは、税率の差を利用して所得を右から左に移すだけなのです。実は、これだけをきちんとやっている方は、色々な節税策をせっせとやっている方よりも、最終的には有利であったりするという皮肉な結果が生じます。
以上、今回は、節税策自体ではなく、節税策の仕組みをお伝えしました。理解をされている方からすれば、何をいまさらと思うことでしょう。しかし、本当のところを理解されている方が意外に少ないというのが実感です。
ご紹介した3パターンの節税策のうち、消費と先送りの節税はお金を支払えばよいという簡単なものです。しかし、“実際に税金が減る”という、本来皆さんが求めている機能を果たしているかどうかについてはお伝えした通り。また、誤解をしている人が多いように、この誤解を狙うビジネスも存在します。
そして、実際に税金が減る節税策は、利益や資産を移転すればよいという非常に単純なものですが、詳細なシミュレーションや対策が必要となります。
結局、どのビジネスにも当てはまりますが、効果が高いものは手間が掛り、効果が低いものは手間が掛りません。しかも、飛びつきやすいのは手間が掛らない方です。
また、今回ご紹介した節税策以外にも、大小含めて様々なものが存在します。ただ、税理士も含めて節税策を売りにする話が氾濫している以上、その節税策がどのパターンに属し、最終的に税金が減るか否かについて判断する基礎知識だけは身に付けていいただければと考えます。
税理士ですら節税について誤解している場合もあるくらいですから・・・。
判例を都合よく解釈してはいけない!
4/24 『あの『保険節税スキーム』に最高裁が待った!』において、『逆ハーフタックスプラン』と呼ばれる保険節税スキームについて話をさせていただきました。
大変ありがたいことに、セミナーの反響もあって、税理士さんや保険会社の方々と情報交換をする中で、それぞれの立場から逆ハーフタックスプランに対する見解があるものの、そこにはひとつの共通点があることがわかりました。
それは、『それぞれの立場から都合のいい部分だけを過大に解釈している』ということです。
これはちょうど長期傷害保険の取扱いが定まっていない中で、生命保険各社が売りまくったあのときによく似ています。
今年のはじめに最高裁判決が出されたことによって、市民権を得たように思われがちな『逆ハーフタックスプラン』ですが、実は多くの問題を残しています。
そこで今回は、この『逆ハーフタックスプラン』に切り込んでみたいと思います。
まず、今回の最高裁で何が争われたのか?ということです。
今回の最高裁の争点となったのは、『養老保険の満期保険金について、一時所得の計算上控除することができる保険料の範囲がどこまでか』ということです。
ただ、その一点だけが争点となり、判決が下されたものであって、それ以外の事項については何も争点になっていないということです。
つまり、死亡保険金の受取人を法人とし、満期保険金の受取人を役員又は従業員とした養老保険の保険料について、その半分を損金(保険料)とし、残りの半分を資産計上(貸付金)とした会社の処理を認めたものではないということです。
この点について、税務署が否認指摘しなかったことをもって、容認したと理解している人が多いのですが、それは明らかな間違いです。
通常のハーフタックスプラン(死亡保険金受取人:遺族、満期保険金受取人:法人)については、法人税法基本通達9-3-4において、保険料の半分が損金(保険料)とし、のこりの半分を資産(積立金)とすべきことを規定されています。
これは、養老保険は生死混合の保険であることから、一種の福利厚生の目的・性格と、資産投資の目的・性格との二面性を併せ有しており、死亡保険金に係る危険保険料部分については、受取人が被保険者の遺族となっていることからみて、法人の資産に計上することを強制することが適当ではないからです。
さらに、その場合の保険料の区分については、死亡保険金に対する危険保険料分と、満期保険金に対する責任準備金分を明確に区分すべきところですが、通常、養老保険の契約書等においては、これらが区分して記載されていません。
そこで、保険契約者において、これを区分して経理することは不可能であることを考慮し、同通達によって、便宜的にその取扱いを定めているに過ぎません。
しかし、逆ハーフタックスプランについては、実務運用上、すべての従業員を対象に契約されるものではなく、かつ、満期保険金の受取人が代表者又はオーナー親族であることからみても、養老保険契約への加入は、投資目的として課税の繰延べを意図したことが明らかであり、従業員等に対する福利厚生を目的として加入したものではないと判断できます。
以上を総合的に判断すると、死亡保険金に相当する危険保険料については、貯蓄性が高いことから、終身保険同様、『資産計上』とすべきことが妥当であり、満期保険金部分に相当する保険料は、役員等に対する『給与』と考えられます。
逆ハーフタックスプランが『租税回避スキーム』であることは誰の目から見てもあきらかである以上、税務調査によって前述のような処分がされるリスクを想定しておく必要があります。
弊社では、この点について『保険で節税をしてはいけない!』セミナーにおいて詳しく説明を行っています。
セミナーの中では、万一、税務調査においてこのような指摘がされた場合には、どれだけの損失を被ることになるのかの危険予測のシミュレーションも行っています。
法律に規定がない以上、租税回避は犯罪ではありません。
しかし、その危険性とリスクを正確に判断することなく手を出すことは破滅への一歩であると自覚してください。
あの『保険節税スキーム』に最高裁が待った!
生命保険の節税スキームである『逆ハーフタックスプラン』について、今年の始めに国側を勝訴とする最高裁判決がでました。
この『逆ハーフタックスプラン』とは、養老保険を利用した、節税スキームです。
養老保険とは、一般的な生命保険が死亡時のみ保険金が支払われるのに対して、養老保険は保険期間満了時に、満期保険金が支払われるというものです。
そして、逆ハーフタックスというくらいですから、通常のハーフタックスプランが存在します。
『ハーフタックスプラン』は、保険料の半分を費用にできるというもので、死亡保険金の受取人が、従業員又は役員の遺族、満期保険金の受取人を会社とするものです。
会社にとっては、従業員が退職する場合には、中途解約して解約返戻金を受けることもできるし、満期には満期保険金を受けることができることから、本来は、『積立金』に近いものです。
『積立金』ということであれば、通常は費用には計上できません。
しかし、福利厚生の意味合いもあることから、保険料の半分は費用にすることを税務署も認めた保険なのです。
そして、この死亡保険金の受取人と満期保険金の受取人を逆にしたものが、『逆ハーフタックスプラン』といいます。
法律には規定がないため、ハーフタックスプランの”逆”だからという理由で、一部の専門家の間では、全額が費用として取り扱われていました。
つまり、会社が受取人となる死亡保険金部分については、ハーフタックスプランのとおり費用。
従業員又は役員が受取人となる満期保険金部分についても、従業員や役員が経済的な利益を受けることから、従業員や役員に対する『給与』と考えるからです。
まだ話はおわりではありません。
ここからが、『逆ハーフタックスプラン』の節税スキームの肝となる部分です。
保険期間が満了したときに満期保険金を受け取る役員等は、その満期保険金について『一時所得』として課税されます。
例えば、会社で3000万円の保険料を支払っていて、満期時に役員が、4000万円の満期保険金を受け取ったとします。
既にご承知のことと思いますが、一時所得の金額は次のように計算します。
収入 ― その収入を得るために支出した金額 ― 50万円
そこで、問題となったのが、満期保険金の4000万円から控除する保険料は、3000万円なのか、それとも3000万円の1/2の1500万円なのか?ということです。
法律上は、『その収入を得るために支出した金額』と規定しているだけで、その保険料を誰が負担したものかまでは明確に書かれていませんでした。(現在は、書き加えられました。)
もう、おわかりのとおり、今回の裁判で争われた案件では、会社が負担した、1500万円を含めた3000万円全額を、一時所得の計算上、収入金額から控除して申告したのです。
つまり、会社で一度、費用にしておきながら、役員個人の確定申告において、もう一度、経費として申告したということです。
常識で考えれば、あり得ない話ですが、法律の解釈では起こりうる話です。
確かに、所得税の条文等をみる限り、そのように理解する余地もありますが、最高裁では、『常識』が優先されました。
常識で考えればありえない節税スキームですが、誰がどのように提案し、そのリスクを説明したうえで行ったのかわかりませんが、「よく、こんな非常識なスキームに乗ったな」というのが私の感想です。
先日、弊社でも『保険で節税をしてはいけないセミナー』を開催しました。
私自身、半信半疑ではじめたセミナーでしたが、意外に大きな反響があり驚きました。
セミナー終了後には、たくさんの保険相談をいただきましたが、その保険のほとんどが結果的に節税にはなっていませんでした。
相談された方は、みなさん、その現実に愕然とし、「今すぐ、解約します。」という人がいれば、「そんな説明は受けていなかった!」と、いらだちを隠せない人もいらっしゃいました。
セミナー参加者の中には保険会社の人や保険代理店の人も多くご参加いただいており、彼らは口を揃えて、「(加入前に)説明をしていないはずはないんだけどなぁー」と、口々に言っていました。
しかし、説明する側は、保険に入ってもらいたいとう思惑がありますから、こちら側に有利な言い方をしている可能性はあります。
今回は、中小企業の大部分が手を出している、生命保険を題材にして話をしましたが、これ以外にも、間違った節税手法に手を出している中小企業をたくさん目にします。
決算前に思いのほか多額の利益が出ることがありますが、そのときに経営者が考えるのは、“ウルトラC”の節税スキームです。
そして、その“ウルトラC”に、どれだけのリスクがあるのかもよく理解しないままに、危険な節税に手を出しているケースをよく目にします。
本来、『節税』とは、目先の税金にとらわれず、大局的な視点で、生涯にわたる税金を減らす、タックスプランニングのことです。
さらに、『株主=社長』である、いわゆる“同族会社”の場合には、法人に係る税金と、個人に係る税金の両方を勘案したうえで相対的にプランニングする必要があります。
例えば、法人の税金を減らすことのみにとらわれ、法人を赤字にしてまで過分な役員報酬を支払う行為はその典型といっても過言ではありません。
このようなことは、例をあげたらきりがありません。
つまり、多くの中小企業がとっている節税対策は間違っているのです。
そこで、今回、世の中に出回っている、あらゆる節税手法について、中小企業経営の視点から、その効果と活用法について検証、解説を行っていくとともに、他社がどのように節税をしているのかという事例を交えてお話する、『中小企業節税白書』を製作することといたしました。
専門家がすすめる節税について、それを鵜呑みにするのではなく、自らの判断と、中長期的な視点から、それが本当に節税になるのかを考えるようにしてください。
地味な対策ですが
まずは、これをご覧ください。
これは、非上場企業の株式評価に用いる、各業種別の『類似業種批准価額』計算上の株価の推移です。
ご存じのとおり、自社株式の評価額は、自社の業績だけで決まりません。細かい説明は省きますが、中小企業の皆さまの自社株評価額も、多かれ少なかれ上記価額の影響を受けます。
単純な話、自社株式を可能な限り低額で相続又は贈与したいということであれば、類似業種批准価額は低ければ低いほど良いということになります。
ですから、自社株対策が必須の中小企業であれば、この類似業種批准価額計算上の株価のウォッチは非常に重要です。仮に自社の決算書の内容が二年連続変わらなかったとしても、類似業種批准価額が大幅に変動すれば、自社株評価額が大幅に変わる可能性があります。
つまり、自社株式に対し、より有利な相続対策を行うためには、この数値を見ながらタイミングを計ると言っても過言ではありません。
続いてこちらをご覧ください。
冒頭のグラフは最新の平成24年4月までの1年間分ですが、さらに2年遡った3年分の動きです。ほとんどの業種では緩やかな動きですが、いくつかの業種で大きな変動があります。
この類似業種批准価額計算上の株価は、各業種の複数の上場企業の株価の平均値を基に算定されます。このサンプルにどの企業を用いているかについては公表されておりません。
この大きな変動というのは、大抵サンプルの変更があったことを示しています。過去には、このサンプルの変更により、自社株評価額がいきなり倍になったケースも経験しました。常に贈与のタイミングを計っていれば対策の立てようもありますが、3年ほど放置していたら倍になっていたでは目も当てられません。
話は少し変わりますが・・・、
8月10日、いわゆる「社会保障と税の一体改革関連法案」が成立しました。当然、議論の的は消費税でしたが、所得税や相続税の引き上げについても法案に含まれていたのは意外と見落としがちです。
最終的には、消費税増税を優先するため、所得税と相続税の増税条項を削除(予定調和ですね)しましたので、増税は確定していません。その代り、法案には『平成二十四年度中に必要な法制上の措置を講ずる』という附則が追加されています。
平成23年の税制改正大綱で盛り込まれたものの成立しなかったという経緯がありますので、この年末の税制改正大綱において3度目の正直という形で再提出される予定です。
特に、相続税については平成27年から増税というのが既定路線ですので、既に道筋がつけられています。自社株評価額が変わらなくても、相続税が増える可能性があるということですね。
話は戻って・・・、
上記のグラフ、よーく見てみると、平成23年度の株価に比べ、平成24年度は上昇傾向にあります。そうなってくると、前期の決算書を使っての自社株評価で相続税対策を行っておいた方が・・・という可能性があります。
地味なのですが、自社株対策ではこういうことも行います。
この地味な対策を続けるだけで、相続税が数百万円変わる可能性があるのであれば、やるに越したことはないですよね。