私たちは大企業ではない

アパレル企業は店鋪を大量閉鎖し、EC事業を強化。

大手飲食店チェーンは今までの売上の7割でも利益を出せるよう店舗や仕入れを徹底的に見直し、宅配やテイクアウトにも力を入れる。

このような方針を報道で見聞きするようになりましたが、要約すると以下のような主張かと思われます。

「今までは売上を追って、不採算店舗や不採算事業に目をつぶってきました。とにかくシェアが重要だったからです。しかし、世界が変わったので、私たちも変わります。これからは『効率』です。売上よりも利益率を重視して効率よく稼ぎます。投資家の皆さま、今後の私たちを見てください」

コロナ禍は大企業のこれまでの失敗を堂々と他責できる良い言い訳になりました。いずれにしても近い将来方針転換の必要性を迫られていたからです。

それでもコロナ禍がビジネスモデルを変えていくという認識は皆さま共通だと思われます。しかし、大企業が取り組むことは誰でも真っ先に思いつくような、そして既にどの企業も手を付けているようなことばかり。競合もすぐに追随します。

大企業はお金を使ってすぐにできることを、まるで汚れた服を着替えるように行います。1,000店舗のうち200店舗を閉鎖するのは簡単です。もともと不採算だったのですから切って捨てればよいだけ。DXを推し進め、人員整理も行われるでしょう。

私たちは中小企業です。

私たちは、コロナ禍に関係なく、不採算店舗や不採算事業を持ち続ける余裕はありません。分が悪いと判断した時点で撤退を決断しなければなりません。

私たちは、所有と経営が同一ですので他責ができません。失敗をすぐに認める必要があります。言い訳は新たなアイデアの芽を摘んでしまいます。V字回復なんてものは100に1つです。

私たちは、本業、あるいはこれから育てていく事業に惜しみなくリソースを投入し、クオリティを上げ続けなければなりません。そして、そのクオリティからの評判を順回転につなげ、無理なく売上増加を果たしていく必要があります。

大企業が今までの7割の売上で利益が出るようにするというのは、結局リストラに過ぎません。大量生産と大量販売は変わらず、とにかく店舗や拠点を減らし、人と人との接触も極限まで減らす。しかし、それで収益性が改善するかは別の問題です。

私どもが以前から繰り返している「売上が半分になったら?」という問い掛けは、リストラの話ではありません。売上が半分になっても生き延びるための生存戦略です。

あくまで私のイメージでお伝えしますが、中小企業の効率化を一言で表現すれば「純化」です。職人が作品の制作過程で過剰なものを削ぎ落とすイメージでしょうか。

コストは「過剰なもの」から発生します。過剰さが出たら間髪入れずに削ぎ落とす。無駄なコストを削ぎ落したら不足しているコストに振り向ける。これを継続的に行うことが中小企業の効率化(全体最適とも言います)だと考えます。風向きが悪いときに一気に行う大企業の効率化とは全く異なります。

ここで、中小企業の皆さまはリソース不足を嘆きます。

「戦い方は分かった。大企業が行っているようなことをやっても意味がない。ただ、私たちには良い人材がいない。人材がいないから戦いに挑めないのだ…」

と、皆さまは「良い」人材を欲しがります。
どのような人材が良い人材のか?と尋ねると…。

地頭が良くて自分の考えで動き、素直で勤務態度も良く、ホウレンソウは淀みない。おまけに前職でこのような経験をしている…(ここまでで皆さま苦笑いだと思います)。

でも、よく考えてください。大手アパレル店や大手飲食店は、それほどすごい人材がそろっているのでしょうか? マクドナルドやスターバックスに応募するアルバイトは皆優秀なのでしょうか?

皆さまも十分ご承知のとおり、優秀なのは業務フローやマニュアル(仕組み)です。

人材はお金と両翼のリソースではありますが、仕組みという武器(兵站)を持たせて効果を発揮します。たとえれば機関銃を持った大企業の人材に対して石つぶてを持った中小企業の人材…。そもそも勝負になりません。

つまり、大企業で働く人材は社員でもアルバイトでも、戦うために十分な武器を与えられています。これに対して中小企業の人材に武器は与えられていません。中小企業は先輩社員からの教えが主で、業務フローやマニュアルは「これを見て仕事をこなせるようになる人がいるのか?」というような代物です。さらに仕組み化すらできないような複雑な仕事を求められている場合も多々見受けられます。

言い方は悪いのですが、中小企業では何も考えずに仕組み通りに仕事をこなしてくれる人材が必要なのです。つまり、大企業の人材の使い方と何も変わりません(大企業で働く方々がマニュアル人間と言っているわけではありません…)。そして、マニュアルに落とし込めるようなシンプルな仕事にしていかなければなりません(純化です)。

従いまして、人材に関しては、むしろ大企業のやり方を模倣してください。

中小企業である私たちが、自社で「教育」をできると勘違いしてはいけません。仕事ができる人は最初からできるし(数は少ないですが皆さまが求める人材ですね)、それ以外の人は教育が害になる可能性が高いです。

経営の方向性に関しては大企業や競合が模倣できないことを実行し、人材に関しては大企業を模倣する。

言葉にしてみればシンプルです。
ですが、これに取り組んでいる中小企業はごくわずかです。
そして、これができている中小企業が高収益であるケースをたくさん見てきました。

私たちは中小企業です。

できること、できないことを明確に分けて経営を行う必要があります。

コロナが教えてくれる、見たくない現実に目を向ける

先月15日、東証一部上場のアパレル大手レナウンが、子会社によって民事再生を申し立てられました。

コロナ倒産と報じられたレナウンの財務状況を東証一部に上場した2004年当時から追ってみると、既に10年以上前から経営が成り立っていない現実と、それでもゾンビ企業として生き永らえてきてしまったレナウンの姿が鮮明に映し出されていました。

レナウンの経営破綻は最終的にコロナが引き金になったのかもしれませんが、決してコロナが原因で起こったことではありません。コロナはレナウンの事業が以前より成り立っていないことを暴いてしまったのです。

レナウンに限った話ではありません。
新型コロナウイルス感染症は、コロナ以前の経営では多くの中小企業が生き残ることができないことを暴いてしまいました。

今回のコロナの出現をポジティブに捉えるとすれば、経営・財務に直結する問題はもちろんのこと、今までやり過ごしてきた、私たちの周囲にある様々な問題を浮かび上がらせてくれたことです。

ある企業ではテレワークをきっかけに、会社からの指示、決められたルールが徹底して守られていない事実が明らかになりました。

ある企業では数字が乱高下したことで売上管理システムに重大な欠陥があることが発見されました。

ある企業では長年決断できずにいた後継者問題の一歩を進めるきっかけになりました。

自宅で過ごす時間が増えたことで、家族、夫婦の問題に直面することになった方も多いはずです。

存在には気づいてはいても、手付かずの問題。
存在に気がつかないふりをし、目をそらしてきた問題。
存在に気がついていない問題。

コロナをきっかけに浮かび上がった問題の多くはコロナ以前からあった問題のはずです。

「自社の問題点を問題点として認識できる能力」。経営者にとって重要な能力の一つです。

人は日常的に起きる何か小さなできごとの奥底に、実はどんな問題が潜んでいるかなど、いちいち考えません。

しかし、経営においてはこれがとても重要です。

些細なできごとに内包される問題の存在に気が付けるか否かは、後の勝敗を大きく分けることになります。

今回、多くの中小企業経営に甚大な被害を与えている憎きコロナは、私たちに見たくない現実に目を向けるためのヒントもたくさん与えてくれているはずです。

コロナをきっかけに自社で起こった、あらゆることに敏感になってください。

そこに潜む問題に目を向け、正面から向き合うことができるか否かが、アフターコロナを生き抜くためのカギになるかもしれません。

加速する世界

新型コロナにより自粛を余儀なくされ、活動が再開された現状というのは、以前とは異なる世界です。

たとえば飲食店の座席は間引きされて半分程度しか座れません。しかし、未来のどこかでお客様が半分しか入らないという状況が到来してもおかしくはないはず。

いまはその未来にまで一気にワープした世界を体験しています。そこから徐々に現在まで戻りつつありますが、新型コロナ以前の世界までは戻れません。

いま体験している、お客様が半分しか入らないという状況…。では今後、飲食店はテイクアウトや宅配を増やせばよいのでしょうか?

もともとお店で提供されていたものを、テイクアウトや宅配で食べても美味しいと感じないのは皆さま共通の認識のはず。その上、宅配はウーバーイーツを中心にプラットフォーマーが大きな利益を持っていきます。

味の評価は落ちるし、利益も取れない…。

そもそも新型コロナ以前、飲食店の傍ら、テイクアウトや宅配まで手掛けて儲かっていたお店はどれほどあったのか?

残念ながらほとんどありません。儲からないのに、それでも周りがやっているからやるということが常態化していました。

さらに、宅配「専業」の代表格である宅配ピザは儲かっていたのか?

残念ながら儲かっていません。
業界首位のドミノピザが何とか利益を出していたという程度です。

つまり、飲食か、テイクアウトか、宅配かではなく、上手くポジションを取れるお店のみが利益を出せるというシンプルな事実。

とても残念ですが美味しいお店が生き残るわけではありません。

新型コロナは、皆が同じようにやっていることを同じように、しかも丁寧にやっても儲からないということを改めて気付かせてくれました。

いま過分なほどに行われ、まだまだ止まない国の支援は、前年よりも売上が下がっていることを前提としています。

売上の底である当年に比べて、来年の売上が下がるのでしょうか? 売上が前年比で下がらなくなる1年後、基本的には国の支援は受けられなくなると考えてください。もし、1年後、自社の状況が改善していなければ金融機関の対応も淡泊になってきます。

そして、問題は「いま」だけではありません。

最大の敵はコロナ渦でさらに加速しそうな人口減です。ときどき災害も起こります。

ダメ押しは、早ければ3年後以降に行われると考えられる「容赦できない増税」。所得税、相続税と少しずつ上がるでしょうが、焼け石に水。本丸はやはり消費税。いつになるかは分かりませんが、当初想定していたよりもかなり早く消費税率15%以上が実現しそうです。
(もし増税を口にできない状況だったら日本経済は死んでいます)

新型コロナが無ければ、多くの企業は地獄に向かいながらも自転車をのんびりこいでいる状態でした。地獄に向かっていることに気付いていても、止めることはできませんでした。

しかし、世界は一気に加速しました。
すでに地獄に足を踏み入れています。
地獄に来てしまったからには、転がるスピードは今までの比ではありません。

いまの状態のまま、売上から経営を考えてはいけません。絶対に。

新型コロナで一つ良いことは、経営者を強制的に立ち止まらせ、自社の行く末について考える必要性を気付かせ、考える時間を与えたことです。

繰り返しますが、飲食店の例のように、周りと同じことをやってもダメなのは皆さまもお気付きのとおり。ただ、誰をお客様とすべきか?という点について明確になっている企業は驚くほど少ない(これもしつこく繰り返しています)。

「私たちのお客様は誰か?」を本当に明確にしたときに、売上の規模が決まります。もしかしたら、1億円が限界かもしれないし、100億円まで届くかもしれない。それに比べれば、新型コロナの影響により一時的に売上が下がる、上がるなんてどうでもよいことです。

あとは、明確となったお客様と出会い、継続的にお付き合いすべく仕組みを整え、競合よりも早く実行するだけ。

収益性の向上を図るというのは、技術的な部分(私どものような立場からの技術という意味)もありますが、そのほとんどはお客様を明確にするというところから始まります。

世界は加速しています。

しかし、売上をいち早く戻すことを優先する前に、考える時間があるいまこそ、一度立ち止まってください。

売上が元に戻ってしまったら、何かを変えることは逆に難しくなりますので。

今こそ真の働き方改革を

「ブラック企業」「同一労働同一賃金」「働き方改革」。

本質を理解することなく、これらの流行語をただ振りかざす社員に、ここ数年多くの中小企業経営者が悩まされてきました。

さらに人口減少による採用難が拍車をかけ、転職すれば給与が上がる異常なまでの超売り手市場は、権利意識ばかりが強い労働者を数多く生み出すことになってしまいました。

しかし、今回の新型コロナウイルス感染症によって既に潮目は変わり始め、採用市場が明らかに今までとは違った動きをしだしています。

そして、賢明な労働者は気付き始めているはずです。

「いつ何が起こるか分からない時代。労働時間が短くても雇用と給与を守ってくれない会社にはいられない」

異常なまでの売り手市場が是正され採用市場の潮目が変わり始めた今こそ、私たち中小企業は真の働き方改革を実行しなければなりません。

マスコミ報道に多くの責任がある気がしますが、労働者を中心に多くの人が働き方改革そのものを勘違いしています。

AIやシステム等の活用によって残業を減らすことができたとしても、それ自体、他社との差別化にはなり得ませんので、会社に適正な利益を残すことはできず、結果として今回のような有事に社員を守ることもできません。そんなもの、働き方改革でもなんでもありません。

収益構造を変え、低稼働でもしっかりと利益を確保できるように改革すること、つまり高単価、高付加価値によって低稼働を実現することこそが真の働き方改革です。

口で言うのは簡単ですが、他社よりも高い価格で高品質なサービスを提供し続けることは並大抵のことではありません。

経営者だけでなく、社員自身が意識を変え、高価格をいただくプレッシャーに苦しみながら、高付加価値を提供するために必死に取り組まなければ、働き方改革を実現することなどできないのです。

やるべきことはシンプルです。

  • 全ての仕事の棚卸をし、1つ1つ本当に必要な業務かどうかを見直す。
  • 客観的数字を根拠に売上ごと(顧客ごと)の分析を行い(役務型の売上の場合、正確な時間集計を行う)、利益は適正に出ているか、値付けは適正か検証する。
  • 値付けは「もらえる金額」ではなく「もらいたい金額」に近づける。
  • 利益が出ていない仕事、少ない仕事で、値上げ等で収益改善できないものはやめる。

当たり前だと思うかもしれませんが、これらを本当にきちんとやっている中小企業は実に少ないのが現実です。

売上を選ぶことで売上高が減少しても利益が変わらない、もしくは上がる。
売上高が下がることで生産性が上がり、労働時間が短くなる。
これが働き方改革の本来あるべき姿です。

おそらくまだ当分の間、新型コロナウイルス感染症が経営に与える影響は続き、多くの業種でビジネスモデルの変革が必然的に求められることになります。

真の働き方改革を実行することが、人口減少社会withコロナへの備えの1つです。

今が実行する最後のチャンスかもしれません。

これで明確になった中小企業の課題

今回の新型コロナウイルス感染症は、中小企業がどれだけ自転車操業であるかを大っぴらに暴いてしまいました。

誰もが薄々気付いてはいても見て見ぬふりをしていた致命的な事実です。私は報道などで国の支援に文句をいう経営者の声を聞くたびに胸が痛くなります。

「数カ月すらもたないのか…」

会社がもたないということは、経営者個人ももたないということです。会社にお金が無く、経営者にもお金が無い。リスクを負って経営をしているにもかかわらず貯えがない…。

もちろん各々状況は異なりますし、このような時期に言い方は悪いのですが「経営者としての自覚が足りなかった」そう感じてしまいます。

冷静に考えれば今回の国の支援レベルは異例の規模です。政府のやり方がまずかったのは事実ですが、現時点までの被害だけを考えれば、政府の打ち手が良くても何も変わらなかったでしょう。

国にも責任はありますが、中小企業も社員を雇っている以上、責任が伴います。

採用面接で「うちは新型コロナのようなことがあったら3カ月もちません。休業手当も十分に払えません」と伝えたら、その方はその会社で働こうと思うでしょうか?

大企業に就職しようとする今どきの学生はその企業の財務諸表くらいは確認するでしょう。しかし、求職者が中小企業の財務諸表を事前に目にすることなどありません。そもそも公表されていませんし、公表したら不安にさせるだけです。

黒字・赤字はそのときの状況によるため二の次の判断になりますが、はっきりお伝えすると「お金を持っていないのは経営における『罪』」です。それで雇用を確保しようと国に文句を言うのはあまりにも浅はかです。

特に今回大きく取り上げられている飲食業は、支払いよりも入金が先にある商売です。それで月末の支払いに支障があるというのは、そもそも純粋な手元資金が無かったという事実を示しています。

また、比較的若い世代の経営者は借入れを好まない傾向にあります。「借入れをしないで済ませよう、利息負担は避けよう」というあまり、手元資金が最小化されています。

借入れたお金は使わずに持っておいてよいのです。利息は経営の損害保険料です。経営ではお金を持っていることが『正義』です。

たとえば、新型コロナが流行する前では花形だったスタートアップ企業。ご存知の方も多いと思いますが、基本的に大赤字です。大赤字はこれからの期待を裏付ける勲章と誇りに考えているとすら感じます。

そして大赤字を補填するために資金調達を繰り返します。従って、このような企業はお金が全てです。赤字か黒字かは関係ありません。

しかし、スタートアップ企業もこのような事態になると資金調達に苦労しますので、今後は大赤字を続けるわけにはいかないでしょう。投資する側もリスクを負いきれなくなる以上、当然です。これがスタートアップ企業の最大の問題点です。

それでは「中小企業はどの程度のお金を保有しておけばよいのか?」という点について。

私どもの立場上、お客様の生命保険の必要保障額を算定する場合があります(節税保険ではありませんよ)。

この生命保険の必要保障額は「経営者が亡くなったら、その会社にはどの程度のお金が必要になるのか?」という視点です。

その際に検討が必要な要素は以下の三つ。
 ・借入金の返済が可能か?
 ・売上高が0円になると仮定して何カ月分の固定費を確保しておくべきか?
 ・死亡退職金をどの程度見込んでおくか?

これらの要素と現在の手元資金を考慮した上で必要保障額を算定します。

そして「どの程度のお金を保有しておけばよいのか?」という質問には、この2番目の要素が当てはまります。つまり、売上高が0円でもどの程度の期間、会社を維持できるかという点です。

結論からお伝えすれば…

確保すべきは固定費1年分。

これが難しいのであれば人件費と地代家賃の1年分です。最低でも人件費と地代家賃の1年分のお金を常に維持できれば、新型コロナのようなことがあっても経営は成り立ちます(報道で繰り返されているのもこの二点に集約されています)。この原資は借入金で構いません。

アフターコロナはここから経営を考えましょう。

今は借入れ時です。過剰に借り入れ可能です。誰も文句を言いません。今が最大のチャンスです。

お金が先。利益は後。これが期限の利益です。

期限の利益を活かして業績の改善に取り組み、そして銀行と上手に付き合っていく。これが中小企業を正常化に導く鉄則です。

しつこいくらいに繰り返します。

まず、手元資金を最大化する。
期限の利益を得た上で、収益性を向上させる。
それにより自己資本比率を高めていく。

簡単ではありませんが、シンプルに考えてください。
時間はかかりますが、これ以外にはありません。

アフターコロナに行き着くまでに・・・

想像の上を、さらに大きく超えてきた…。

それが皆さま共通の認識ではないでしょうか。

すでにアフターコロナについて語られていますが、そこまで行き着く中小企業がどの程度あるのだろうか…それが私どもの認識です。

日本の中小企業で働く方は約3,000万人。

このメールマガジンをお読みになられている方の多くは中小企業の経営者または経営に関与されている方だと思われます。

現状は完全に戦場です。
皆さまは今まさに重大な決断を行われている最中のはず。

後方(国)から支援物資(制度融資、助成金など)を送り続けると約束はされていますが、支援物資が届くまでには時間が掛かります。量にも限度があります。まさに持久戦です。

支援物資では半年が限度と考えられるため、新型コロナウイルス感染症が流行する前でさえも四苦八苦されていた中小企業の最終的な帰還率はかなり低くなるはずです。

もともと余剰物資(お金)を持っていた中小企業は、さらなる支援物資を得て持久戦を耐え抜き、傷付きながらも戦場から撤退できるでしょう。

もちろん、業種業態・地域により現時点での新型コロナの影響の及び方はまるで異なります。地方はまだ様子見かもしれません。しかし大都市圏および観光地の被害は甚大です。

そして、このたび失われた物資は永久に戻ってきません。傷付いた中小企業は国からの支援物資によって穴埋めしなければなりません。

「手元資金がすべて」

経営者なら誰もが分かっていることです。
ですが今回ほど身に沁みる時はなかったことでしょう。

生き残って事業を続けるのであれば、とにかく無駄な荷物(不要・不急の固定費)を今すぐ捨てるべきです。少しでも身軽になって、少しでも多くの物資を持ったまま戦場から離脱してください。

不要・不急の固定費と判断された中に人件費が含まれていたら…。それはもう仕方がありません。不要な人件費があったということは「不要な事業」があったということです。これまで不要な事業をだましだまし継続していた経営者の責任です。

これで日本中の労働者が気付いたはずです。
平時に給与をたくさん払ってくれる会社よりも、非常時に雇用と給与を守ってくれる会社に身を置くべきだと。今後は人材も大きく動き出します(既に動き始めています)。

繰り返します。

「手元資金がすべて」

復興(あえてこう表現します)が始まったとき、どの企業も疲弊しています。疲弊していても、お金がある企業からいち早く動けます。復興時はスピードが全てです。

疲弊している同業を横目に、皆さまはいち早く日常を取り戻す必要があります。

「いまの売上がない」ということで、焦って不要な事業または不急の仕事を始めないでください。同じことが繰り返されてしまいます。復興時の本業のみにお金とエネルギーを集中させてください。

もし、自社の売上がお客様にとって「不要・不急な固定費」の対象であったとしたら…。それはもう仕方がありません。中小企業が原理原則とすべき、高付加価値の事業からずれていたということになります。

今回の件を糧に、復興時に備えて今からでも自社の事業を再定義してください。

新型コロナ戦争はまだまだ続きます。
国もさらに支援物資を送ってくるでしょう。
支援物資を確実に受け取り、不要・不急な固定費は今すぐに捨ててください。

まずはアフターコロナに行き着くことが重要です。

今、自社株の異動を考える

家電量販店最大手のヤマダ電機は新型コロナウイルスの影響で株価に割安感が出てきたことを勘案し、株主還元の強化や資本効率の向上を図るために、500億円を上限に自社株を取得することを4月1日に発表しました。

新型コロナウイルス騒動の収束が未だ遠く見えず、経営にも大きな影響が出ているところですが、この機会を利用して検討していただきたいことがあります。

それは自社株式の異動です。

事業承継における株式の問題は、特に業績の良い中小企業にあっては切実です。
100%の納税猶予を受けることが可能な事業承継税制などもありますが、実務上多くの問題があり、簡単には使えないのが実状です。

ご存知のように今回の新型コロナウイルス騒動で、現在、上場株式の株価が大きく乱高下しています。
こうした状況に至るそもそもの原因が違いますので単純に同じものとして捉えることはできませんが、リーマンショック時、非上場株式の評価計算に使用する類似業種批准価額が信じられないほど下がり、私たち中小企業の自社株評価額も総じて下がることになりました。

そうです、今回の騒動によって類似業種比準価額が大きく下がることで、自社株評価額も大きく下がることが期待されるのです。

株価評価に使用する類似業種批准価額は例年、1~2月分が6月中旬前後、その後2か月分ずつ、3~4月分が7月中旬前後、5~6月分が8月中旬前後に公表されています。

つまり、実際の株式異動時期においては類似業種批准価額が公表されていないため、タイムリーに税務上の評価額を算定することができず、株価が最も下がる時期がいつになるかを今知ることはできません。

しかし、いずれにしても幅広い業種において4月以降の類似業種批准価額が下がり、自社株の評価額が下がる可能性が非常に高く、ここから数か月の間を、自社株式を異動する時期として検討する価値はおおいにあるのです。

今回の騒動で業績に大きなダメージを受けている企業が多いと思いますが、事業承継を見据え、株を異動するチャンスと切り替えることも重要です。

対症療法と原因療法

ついにはオリンピックまでも吹き飛ばしてしまった新型コロナウイルス。

事態が収束しても、すべての経済活動を「再開」で済ませられるような状況ではなくなりました。その間に潰れていく企業は増加し、自粛モードが続けば停滞期間が長期に渡ることも考えられます。

以下の図表は現在も申請が殺到している雇用調整助成金の過去の実績データです。

(労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究報告書No.187、6ページ)

リーマン・ショック後に突出して支給が行われ、その後に東日本大震災も発生、最終的には4~5年間は影響があったことが分かります。

次に同期間の完全失業率と有効求人倍率の図表です。やはり元に戻るのに同程度かかっています。

(労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究報告書No.187、5ページ)

雇用調整助成金の主な支給要件には「直近1ヵ月の売上高が前年同期に比べて10%以上減少」というものがありますが、あくまで一時休業を行った場合に支給を受けることができるというだけであって、売上高が10%以上減少しているが一時休業するほど暇ではない・余裕がないという場合は申請できません。

そして、今回は全国的、かつ幅広い業界に影響を与えており、雇用調整助成金の支給を受けない企業においても10%以上の減収は当然のごとく発生するはず。

これが3ヵ月程度の10%減ではなく、リーマン・ショック時のように4~5年間も影響を受けるようであればどうしていくべきなのか…。

普通に考えたら制度融資や返済猶予を中心とした国の支援で乗り切るしかありません。世の中にあふれている情報も対症療法がほとんどです。しかし、対症療法だけで乗り切ろうとするのはとても危険だと考えます。

それは新型コロナウイルス発生前の売上高を完全終息後にも維持できるのか?という点が抜けているからです。

「そもそも発生前にも十分な利益が出ていたのか?」、「そもそも無理して経営していたのではないか?」。

つまり、今回は新型コロナウイルスにより強制リセットを強いられましたが、これを機会にいま一度自社の売上高と固定費の構造を冷静に分析してみるべきです。

売上高を維持できないにもかかわらず、今後も固定費を維持しようとすれば無理が生じます。例えば売上高が現在よりも20%減となれば以下のように固定費を変えなければなりません(なお、限界利益率を上げるというのは鉄則ですが、大幅な固定費の削減は外注比率を増加させることにもつながるため、あえて限界利益率を下げています)。

「固定費を30%下げることなど不可能…」

そのとおり、実際にできる企業は数少ないでしょう。しかし、「売上高が半分になったら?」という話と一緒で、「固定費を30%下げたら?」というところから検討を始めないと大きな赤字を垂れ流すことになります。

新型コロナウイルスの影響が大きい中小企業にとっては対症療法で何とかなるレベルではありません。しかし、国は対症療法を進めてきますし、その対症療法も受けなければなりません。

しかし、同時に原因療法も模索してください。

自社の経営状態が改善しないのは、「新型コロナウイルスの影響ではなく、対症療法を繰り返した結果であり、原因療法に手を付けなかったことだ」と自覚する。

これがすべてだと考えます。

それでもまだ原因療法に手を付けられないのであれば、まだ心のどこかで景気が良くなることを願っているのではないてしょうか?

備えとしての借入

新型コロナウィルス騒動によって、ある日突然、何が私たち中小企業を襲ってくるか分からないことを多くの経営者が実感させられています。

こんな時、最も重要になって来るのは資金繰りです。
もともと資金力の乏しい私たち中小企業においては特に、こうした局面で一気に深刻な事態に陥ってしまう可能性があります。

設備や人材その他について投資を行いながら事業を運営し、不測の事態にも備えておかなければならない私たちは、銀行からの借入を上手く活用していかなければなりません。

今回は、私が普段からお客様にお話しさせていただいている、借入についての基本的な3つの考えをお伝えさせていただきます。

【必要なくても借りておく】
今回のような不測の事態の際に最も重要になってくるのは手元の自由になるお金です。
あえて極端な物言いをしますが、経営をしていると起こる様々な問題の多くは、お金で解決することが可能であり、お金があることで確実に打ち手が増え、状況に応じた適切な判断を行うことが可能になります。
平時において資金繰りに特に問題がない状況でも、借入によって、常にある程度資金にゆとりがある状況を作っておくことは経営において非常に重要です。

【利息は保険料】
現状の資金繰りに問題がないのに借入をしたら利息がもったいない。
そう考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、余剰資金確保のための利息は、不測の事態に備えて手元にキャッシュを置いておくための「保険料」だと私は考えています。
しかも、利息は全額損金になります。
1,000万円の資金を1%の利率で借りた場合、利息が損金になり税金が減ることを加味すれば、実質の負担は年間で6~8万円、月額5,000円~7,000ほど。
キャッシュ=血液である企業にとって、利息は保険料以外のなにものでもありません。

【借入の返済期間はできるだけ長くする】
「期限の利益」。
私たちは借入をすることで、これを手に入れます。
〇年間、借りたお金を返さなくていい利益です。
これだけ低金利の時代においては特に、期限の利益は最大限に生かさねばなりません。
繰上げ返済はいつでもできます。
原則、「借入の返済期間はできるだけ長い期間で」が正解です。

今回の件ではセーフティネット貸付など資金繰りに関しても政府が支援を始めていますが、当然手続きが必要で、着金までにはある程度の時間を要します。

次に起こる不測の事態の際にも政府の支援があるとは限りませんし、仮に支援があったとしても、手続きをして着金を待つ時間的余裕などないかもしれません。

私たち中小企業はいつでも不測の事態に対応できるように、平時から自由になるお金をある程度手元に置いておくことが重要です。

これを機に改めて「備える」という観点から手元のキャッシュが十分であるか検討してみてください。

他力による一本足打法

瞬間風速としては、リーマンショッククラスの影響が出ている新型コロナウィルス。

直接的な被害から始まった観光業及び製造業のみならず、飲食業・小売業並びにサービス業と幅広い業種に被害が広がっています。

残念なことですが、自転車操業を繰り返していた企業についてはこの春に掛けて倒産が相次ぐことでしょう。倒産までは行かなくとも内部留保が薄い企業については早急に資金手当に動いていただくことをおすすめします。

3月3日時点において公表されている政府支援策は以下のとおり(一部重複しています)。

1.経済産業省ホームページ
日本政策金融公庫等の支援機関相談窓口と、関連する補助事業を紹介する専用コーナーです。

2.中小企業基盤整備機構ホームページ(J-Net21)
各都道府県における金融支援の対応等が掲載された専用コーナーです。

5.日本政策金融公庫による主な融資制度

*TKC ProFIT EXPRESS(令和2年2月26日・28日、3月2日・3日付)より引用

昨秋の台風被害の際、このメールマガジンでも書かせていただきました。

「売上が半分になったらどうなるのか?」

しかし、今回は半分どころか8~9割の売上が飛んで行ってしまうという凄まじさ…。ブラックスワンが、実際に起こるとこのような事態にまで発展します。

何度も繰り返しますが、「売上が半分になったらどうなるのか?」

やはりこの問い掛けは常に行わなければなりません。今回は中国依存、インバウンド依存の企業が致命傷を負っています。

もちろん中小企業は選択と集中が重要です。業種特化、地域特化、特定顧客特化は当然の戦略ですし、効率も上がります。従って、中国特化、インバウンド特化が悪い訳ではありません。

しかし、今回倒産していくであろう企業は「他力」による一本足打法を行っていたはずです。中国「特化」、インバウンド「特化」ではなく、中国「依存」、インバウンド「依存」。ただ流れてきた売上を捌いていただけの他力です。

選択と集中による特化とは「自力」による一本足打法を指します。誰かに支えられながら一本足で立っている企業と、自力で一本足で立っている企業では中身がまるで違うのは皆さまもご理解いただけると考えます。

自力で一本足で立つにはリスクも織り込む必要があり、そのリスクすらも強みに変えていかなければなりません。それだけ覚悟が求められます。

ただ流れてきた中国からの旅行客を受け入れていただけのホテルはすぐに潰れ、自力で中国の販路を開拓していたホテルは耐えられる可能性が高まるでしょう。なぜなら、自力とは自社で考えてすぐに動ける状態を指すからです。

そして、皆さまも聞き飽きたであろう財務の重要性。危機を未然に防止するために必要な資金は保有し続けなければなりません。

「売上が半分になった。早く借りなければ…」では致命的に遅いのです。

自力による一本足打法とその足を支える財務体質の強化。極端に言えば、中小企業はこれができれば他に言うことはありません。

体重が重ければ(抱えるものが多ければ)それを支える足(財務体質)は太い必要があり、体重が軽ければ(抱えるものが少なければ)それを支える足(財務体質)は細くても問題ありません。

これから1~2年かけて徐々に退場していく企業が増えると予想されていましたが、ここで一気に強制退場が始まります。しかも国を挙げて盛り上げていた観光関連から…。

セーフティネット保証だけで何とかなるとも思えませんので、政府はリーマンショック時のモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)クラスの支援策を行うのか、それとも近年の傾向でもあったゾンビ企業は撤退という方針を貫くのか…。業種によって偏りがあるでしょうが、中小企業にとってこれから数ヶ月が正念場です。

皆さま、まずは守りを固めて、荒野になるかもしれない市場を攻略する体力を残しておきましょう。

そして、他力に頼る経営を行っているようでしたら、いち早く自力に脱皮できるよう動いてください。