厳冬の時期のトランスフォーメーション

「あそこの会社、激減した売上を維持するために広告費を3倍にしたらしいよ」

最近、当社のお客様の競合のお話を伺いました。
当社のお客様の広告費は昨対比で6割減になっている状況においてです。

その競合企業はもともと利益が出ていません(信用調査で確認済み)。利益が出ていない企業が売上を維持するために広告費を3倍にするとは信じ難い話ですが、日本で本格的にコロナ禍が始まって9カ月程度が経過した今、このようなことまで起こっていました。

それを可能にしたのは国が面倒をみたお金です。

制度融資、雇用調整助成金、持続化給付金、家賃支援給付金、各地方自治体の支援金など、想像以上に中小企業の体力を温存させました。むしろ売上が前年同月比50%以下となることを願ってしまうような状況です。

粗利益をそっくりそのまま補填できた会社もあったことでしょう。もともと経営が苦しかった会社はコロナ禍で儲かったと言えなくもない。それほどの支援が行われたのです。

この企業のように、国のお金でお客様を買っている以上、国が面倒を見なくなればお客様も買えなくなるという事実を忘れてはいけません。

では、これほどの猶予を与えられた期間を皆さまはどのように使われましたか?

GoToキャンペーンが開始された夏ごろから気を緩め、何とかなると期待に変わっていたのであれば、皆さまの会社はコロナ前と何も変わっていないはず。中小企業がwithコロナなんて言っていたら遠からず潰れてしまいます。

事実、来年の宿泊予約はGoToトラベルの期限を境に全く異なる状況です。GoToはあくまで一次的なカンフル剤であり、アフターGoToは暖春ではなく厳冬です。

ワクチンなどが提供され始めれば医療費の助成が中心になり、消費喚起策は縮小されるでしょう。

極めつけは、この冬季賞与から始まる本格的な収入減少。テレワークで残業代が少なくなり、賞与がカットされ、昇給も期待薄、転職先も多くはない…。特別定額給付金も含めた年収ベースで考えれば、来年から収入が大きく減少する消費者が多数となるのは間違いありません。

つまり、消費者心理を凍り付かせる環境がそろってきました。これが最低でも数年は続きます。その理由がコロナであろうが何であろうが、収入が下がれば消費も下がるのは変えようがない事実です。

そのような状況が迫っている以上、これまで価格で勝負していた企業はどんどん厳しくなります。いままで購入してくれていたお客様はより安さをもとめて移動します。価格に比例して価値が見合わない商品またはサービスを提供していた企業も同様です。

ちなみに、冒頭の企業は価格勝負の企業ではないと言われています。コロナ前の売上を求めて過剰反応したとしか思えません。それでも今までと同じような売上を維持しようとすれば莫大な固定費が掛かります。

コロナ禍にかかわらず、お客様を厳選していない企業は、お客様から厳選されてしまいます。このような時期に逃げていき、状況が落ち着いても戻って来ないお客様はそもそも私たちのお客様ではなかったということです。

皆さまがお客様を厳選することに躊躇を覚えるのは、やはり売上が下がるという恐怖感…。実際に売上が下がることも多いでしょう。

お客様を厳選することによるメリットは何なのか?

それはデジタルトランスフォーメーションならぬ、収益構造のトランスフォーメーションです。お客様を厳選すると行動が変わり、その行動によって掛けるべき固定費が変わり、そこから上がる粗利益も変わる。

収益構造はお客様によって変わります。お客様を厳選すれば、あとは売上の最大化に尽力するだけ。一点集中は強力な武器にもなります。

もし今後もお客様を厳選しなかったら、体力不足の中小企業は国の延命措置にすがるしかありません…。それは会社経営ではなく、国民の雇用維持のために国に経営させられている器でしかありません。

これから厳冬の時期に入りますが、収益構造のトランスフォーメーションは確実に進めていってください。むしろお客様厳選の効果が目に見えて分かる時期でもありますので。

あらゆる慣習や当たり前を疑い、商売を根本から見直してみる

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、バイオマス由来の材料を配合していることから本来は有料化の対象外である自社のレジ袋について、10月1日からデザインやサイズを新しくしたうえで有料化(20円)することにしました。

また、新たなチケット価格戦略として、繁閑に応じて価格を変える「ダイナミックプライシング」の導入、アトラクションに待たずに乗れる「ファストパス」の有料化なども検討しているとのことです。

2021年3月期決算が通期で初の営業赤字となる現実味が増し、今後も入場者数など多くのことがコロナ前に戻らないことを前提に考える必要がある以上、様々なサービスを有料化できるように変えていこうとする動きは当然のことと言えます。

今年も残すところあと1月半となる今、年が明ける前に業界慣習や常識などを一切取っ払って皆様にも改めて自社の商売について考えてみて欲しいのです。

先月末に朝日新聞の全国版で紹介された、行列ができるサンドイッチ店の経営者と先日話をさせていただく機会がありました。

自店での販売に加えて全国展開する大手総合スーパーなど約50店舗に商品を卸しているこのお店は、全ての商品をスーパー側が買い取る「買取仕入」にて卸しています。

在庫リスクを負いたくないスーパー側は、商品が売れた場合に生産者がスーパーに販売手数料を支払う委託仕入やお客様へ販売できた分だけをスーパーが仕入れる消化仕入での契約を望み、商品を置いて欲しい生産者側は多くの場合それを受け入れてしまいます。

しかし、絶対に買取仕入でしか商品を卸さないというこの経営者はその理由をこう話してくれました。

「商品をスーパーに置く以上、売るのはスーパー側の仕事のはずです。在庫リスクを負わない委託仕入や消化仕入で契約すると、彼らは真剣に売ろうとしない。そんなのおかしいじゃないですか。」

サンドイッチ店を経営する以前、20代半ばに大手ゼネコンを退社し、歌手を目指しアコースティックギター1本を手に地元のバーで歌うことから始めたこの経営者。
最初から「500円でも1000円でもいいので、お店から必ずギャラをもらうようにしていた」そうです。

理由は「タダで歌を聴かせるのはおかしいし、少額でもギャラが発生することで歌う側にも仕事としての責任が生まれる」から。

ギャラどころか演者がライブハウスに出演料を支払い、チケットを自ら手売りするのが「当たり前」の業界慣習に逆らって、自らの「そんなのおかしい」という感覚にしたがって行動した彼は数年後、キャパシティ1000人規模の地元ホールを満員にしています。

人口減少社会withコロナ禍にあって、多くの前提条件が崩壊してしまった今、過去の「当たり前」は何の意味も持ちません。

まずは業界や自社で当たり前と考えられていることを書き出してみてください。

きっとその中に「おかしいのではないか」と感じることがあるはずです。

内側にいると、疑うことすらしなくなってしまう慣習やしきたり。
そうしたものに囚われることなくフラットな頭で考えてみて欲しいのです。

実現の仕方を考えるのはそのあとです。

来年以降、コロナ禍を生き抜くためのヒントが見つかるかもしれません。

待遇格差問題

同一労働同一賃金に関連して注目されていた最高裁の判決が立て続けに出されました。

皆さまもご存じのことかと思われますので詳細は省きます。
結論としては以下のとおり。

  • 元アルバイトが賞与の支給を求めて提訴 → 不合理な待遇格差ではない
  • 元契約社員が退職金の支給を求めて提訴 →      〃
  • 現契約社員が手当と休暇を求めて提訴  → 不合理な待遇格差である 

不合理な待遇格差と判断された日本郵便の件は頻繁に取り上げられていたものであり、労使ともにおかしいと判断していた部分もあるので、順当な判決です。

そして、判決の中で強調されていたのは『個別事情に基づいての判断』であり、個別事情が変われば異なる判決もあり得るという点です。

個別事情だらけの中小企業については2021年4月から同一労働同一賃金のルールが適用されます。

待遇格差について求められるのは、これまた中小企業が苦手とする『説明責任』

「見てわからないか? 考えればわかるだろ!」

と非正規社員にパワハラをしても意味はありません。

働き方改革なんてものはコロナ禍で吹き飛びましたが、景気の後退局面の中で、いち早く待遇が良い会社に転職しようという流れができてもおかしくはありません。

同一労働同一賃金…それこそ中小企業の個別事情を踏まえれば何てことはない代物ですが、新型コロナで過剰反応する方々と同一労働同一賃金で過剰反応する方々は同じ人種かもしれない…ということは肝に銘じておくべきです(暴言で申し訳ありません)。

「あいつ、全然仕事していないじゃん」

と陰口を叩かれている正規社員がいれば待遇格差問題を助長しますし、非正規社員の待遇が悪いのではなく、仕事をしていないと思われている正規社員の待遇が良すぎるのかもしれません。つまり、厚遇されていると思われている正規社員が一人でもいれば、それだけで問題になり得ます。

したがいまして、中小企業でも事実に基づく待遇格差は明確にしておく必要があり、これをやっておかないと痛い目に遭うかもしれません。

経営者は「お金の問題なのか?」と思うでしょうが、事実『お金の問題』です。

中小企業にとって一番の悩みどころは、これらを就業規則や賃金規定で表現しきれるものでは無いという点です。もちろん個別事情なんてものを表現できるわけはありません。

それでも説明責任を果たそうとすれば、以下のような形でシンプルかつ明確にするのも有りだと思われます。

中小企業であれば雇用者を正社員かパートタイマーに二分できるでしょう。つまり、正社員に対して求めることを明確にし、パートタイマーには求めていないことを明確にする。ここに職務ごと(営業、現場、経理など)の内容を追加すれば、ほぼ説明できると考えます。

むしろこのような資料をもって、正社員に対して求めることを伝えることの方が重要なのではないかと考えます。

さらに、このように具体的にまとめていければ、結果として就業規則の服務規律などに盛り込んでいけるものも出てくるはず。

同一労働同一賃金は口頭で説明できるようなものではなく、複雑で細かすぎる説明資料を作れば運用できません。

問題は待遇格差ではなく、非正規社員が限られた時間で懸命に仕事をこなしているのに、正規社員が残業しながら漫然と(あるいは残業もせずに期限も意識せず)仕事をしているのではないか?という点に尽きます。

当然ですが、雇用形態にかかわらず、同じ時間で同じ内容の仕事と責任を求めているのであれば、待遇格差はなくすべきです。

同一労働同一賃金のルールも視点を変えれば社内の業務改善につながるものであるということは念頭においてください。

大幅値上げの火災保険、年内に必ず見直しを

ここ数年、頻発している自然災害による保険金支払額の急増を受けて、来年2021年1月より損保各社の火災保険料が「一斉値上げ」となることはご存知でしょうか。

法人・個人所有にかかわらず、ご自宅・マンション・ビル・工場など全ての物件が対象となる今回の値上げ。その値上げ率がかなりのものとなっています。

2018年7月 広島県、岡山県、愛媛県などに甚大な被害をもたらした集中豪雨。
2019年8月 長崎県から佐賀県、福岡県までの広範囲に及ぶ集中豪雨。
2019年9月 関東甲信地方、東北地方に甚大な被害をもたらした過去最強クラスの台風。
2020年7月 熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨。

記憶に新しいここ3年だけでもこれだけの災害が起きていますので、保険料の値上げは仕方ありません。とはいえ、これだけの上げ幅ですので、なんとか値上げが実施される前に対策を打っておきたいところです。

契約年数と満期の時期によって考えられる対策をまとめましたので、自社の契約内容に応じて確認をしておきましょう。

ポイントは値上げ前の「2020年12月31日までに長期年払契約の火災保険に入る」ことにあります。

ケース④のように既に長期の保険契約を結んでいて満期が2025年以降であれば、現契約を続行することが有利となりますが、1年契約又は長期契約であっても2021年1月1日以降に満期が来るようであれば、現在の契約を年内に一度解約し、同日付で新たに長期契約で入りなおすことを検討します。

1年契約の年間保険料100,000円の火災保険に入っていた場合、仮に2年おきに20%値上がりした場合には5年目には172,000円まで保険料が上がることになりますが、5年間の年払い契約であれば、契約時の保険料を5年間キープできることに加えて5%~10%程度の長期契約割引が適用され、その差は5年間で最大250,000円程にまでなります。

ちなみに今回の値上げは2018年までの台風損害による保険金支払い増加を受けて実行されるものであり、2019年2020年の豪雨・台風や、この先に起こる災害を受けての値上げが今後も実施されるであろうことが確実視されています。

また、現在の契約を一度解約しても日割または月割での解約返戻金が受けられますので、新契約も同一の保険会社を選ぶ場合は解約によるロスはほとんどありません。

こうした提案を保険代理店の担当者がしてくれればよいのですが、残念ながら、なかなかこうした方法を積極的には教えてくれないのが実情です。

倉庫や工場など複数の物件を持っている企業にとっては特に、何も対策をしなければ、かなりのコスト増になることは間違いありません。

これを機に必要な補償がきちんとカバーされているかを含めて、現在の契約内容を改めて確認し、できる対策は年内に講じておきましょう。

利益はどこへ消えた?

一昔前、「チーズはどこへ消えた?」という本が一世を風靡しました。

誤解をおそれずざっくりまとめてしまうと、
変化は起きる、変化を予期せよ、変化を探知せよ、変化に素早く適応せよ etc.

皆さまもこの本のタイトルのように考えることがあるのではないでしょうか。

「あのとき出した利益、あれだけあったお金…どこへ消えたのだろうか?」

いま、このコロナ禍で再スタートとお考えだとしても、皆さまの過去の利益やお金がどこへ消えたのかを十分認識されていないのであれば、また同じことを繰り返す可能性があります。

もう二度と繰り返したくはない。

と思っていても、繰り返してしまうのが人間です。それでもできるだけ繰り返さないような防波堤はあって然るべき。

「利益がどこへ消えたのか?」と振り返るには、やはりその形跡を追う必要があります。そして、会社経営のお話なので決算書で追うのが一番分かりやすい。

しかし、単年の決算書を見返しても、ほとんどの方は分からないと思われます。そこでお勧めするのが過去の決算書の数字を並べた表を作成すること。

決算書は主に貸借対照表と損益計算書がありますが、この二つは対になっています。対になっているのですが、別々のものとして認識されていることが皆さまを混乱させる要因になっています。

従いまして、貸借対照表と損益計算書は合体させて眺めてください。そして、不必要な情報は消してしまえばいい。

例えば以下のような感じ。これなら税理士などのプロに頼まなくてもできるはず。
できれば10年。これだけ並べれば傾向は分かると思います。

これは棚卸資産が最重要の会社のサンプルデータであり以下の傾向が読み取れます。

  • 稼いだお金が棚卸資産に化けているという事実
  • 資金繰りを楽にするのであれば仕入を止めて棚卸資産を減らせばよい
  • 仕入のチャンスを逃さないのであれば借金をしてでも仕入れるべき

このサンプルの会社は自社の傾向を十分に理解していますし、このままブラッシュアップすると決められています。ただし、寄り道したくなることだってあります。そこで辿ってきた道を何度も見返すことにより迷いなく進めるようにしておきます。

また、その会社および経営者の性格に応じてどの項目が傾向を表すかは異なるため、その傾向が分かるものを探して並べる必要があります。

そこから何が見えるのか…成功の傾向か、失敗の傾向か。そして、この1~2年はどのような傾向で、今後どのような方向に進んで行く予定だったのか?

そこからのコロナ禍…。

過去の利益やお金の消え方から、今後進もうと考えている方向性が過去の傾向と同じ轍を踏んでいないかどうか?

まず、これを知ることが重要です。

もちろん「消えた先」が分かっており、それが健全な消え方であれば何ら問題ないでしょう。例えば「確かに会社から利益とお金が消えている。しかし、それは役員報酬として受取り、きちんと現預金として残っている。そして、いつでも会社にフィードバックできる」という傾向。そのような場合は表の欄外に個人の預金を付け加えてください。

もし、以下のような傾向が出てしまったら、その原因をよく噛み締め、同じ轍を踏まないように注意してください。

  • 利益が消えただけで、その行き先が何も生み出していない ⇒ お金の浪費
  • そもそも利益が出た形跡がない ⇒ 時間の浪費

例えば、恥ずかしながら当社と私のお話をさせていただくと…。

当社は構造的には非常にシンプルな労働集約型のサービス業です。設立からの傾向を見れば、良くも悪くも売上高と人件費が連動していることが分かります。

この点は今後の基本的な方向性を定め、連動性を切り離すことで覚悟を決めました。コロナ後でも方向性は変わりません。

あとは生産性を追及するあまり、そこに時間とお金を突っ込み浪費に終わったという傾向です。いまなら笑えますが完全に矛盾しています。ですから、私の個人的な関心からくる独りよがりを組織に求めるのは止め、いまは生産性の追求に時間とお金を掛けないと決めました。

自社の(経営者の)傾向を抑え、利益の形跡を追うことができ、やることが明確になる。

これは素晴らしいことなのですが、逃げ出さずにまっすぐ進まなければならないのはとても辛い! 消えた利益を探さないのは逆に楽なことです。

歴史に学べとはよく耳にしますが、会社の、そして皆さまの足跡から学べるものも多いと考えます。

手法としてはとてもシンプルなのですが、是非一度試してみてください。

給付金現場の混乱

5月の緊急事態宣言の延長などにより、売上減少に直面する事業者を支援する「家賃支援給付金」の申請受付が7月より始まっていることは、皆さまご存知のとおりです。

今回のコロナ騒動に関連した各種支援金や助成金を巡る現場の混乱ぶりが多く報じられてきましたが、「家賃支援給付金」についてもやはり混乱が生じています。

経済産業省がHPで「対象外」と明示している事例の中に、「給付対象」となり得るものがあることが分かったのです。

これから申請する企業はもちろん、既に申請済みの企業も申請漏れがないように正しい理解をしておきましょう。

「家賃支援給付金」は、5月から12月の売上高について1ヶ月の売上高が前年同月比▲50%以上または、連続する3ヶ月の合計で前年同期比▲30%以上となる事業者を対象とし、事業のために支払う地代家賃について最大600万円の給付を受けることができるという制度です。

しかし、地代家賃のうち従業員に転貸している「社員寮・社宅」については、給付の対象外であることが経済産業省のHPの、よくあるお問い合わせに記載されています。   

Q4.社員寮・社宅については給付の対象となるのか?


  • 法人が社宅・寮に用いる物件を賃貸借契約等に基づいて借り上げて従業員を住まわせ、当該物件の賃料を当該法人の確定申告等で地代・家賃として計上しているのであれば、原則として給付対象となります。他方、賃貸借契約に基づいて従業員に転貸している場合は対象外となります。
出典:経済産業省HP (一部加工)

通常、会社で社宅を借り上げて役員や従業員がそこに住む場合には、給与課税を避けるために固定資産税の課税標準等をベースに計算する「賃貸料相当額」などを役員や従業員から徴収し、いわゆる「転貸」の形にしていることがほとんどです。

そのため、役員や従業員から賃料を徴収している社宅家賃については給付金の対象外であると考えられ、「家賃支援給付金 コールセンター」に問い合わせても「1円でも賃料を徴収しているようであれば、対象外である」との回答がなされていました。

しかし、日本税理士会連合会が過去の最高裁判例を根拠に、1円でも賃料を徴収している社宅家賃については給付金の対象外だとするコールセンター等の回答は誤りであると明言し、実際にコールセンターの対応が変わったのです。

過去の最高裁判例によれば、例えば家賃の1/2の賃料を徴収している場合については、近隣地域の相場を踏まえた「世間並みの家賃相当額」を徴収しているとは考えられず、賃貸借に基づき「転貸」していることにはならないため、家賃と同程度の賃料の徴収を行っているような場合以外は給付の対象と考えるべきだというのが日本税理士会連合会の見解です。

実際に、既に社宅を外して申請済みの企業が、私からこの情報を得てコールセンターに再度問い合わせたところ、「対象になると考えられるので再度申請し直して欲しい」との回答を得ています。

今回のコロナ禍で政府が出している様々な支援策は、スピードを優先していることで要件などが後からコロコロと変わる傾向があり、申請を受け付ける現場でも、大分混乱している様子が見られますので、申請する側も常に情報を注視していかなければなりません。

コロナ禍はまだしばらく続きます。

こんな時こそ冷静に正しい情報を集め、受けられる支援や救済策は漏れなく受けていきましょう。

損益分岐点売上高、再考

最近、損益分岐点売上高についての言及をよく見かけます。

コロナ禍で売上高が減少している中、今後もそう簡単には回復しないとなると当然かもしれません。

「経営は売上高ではないのだよ!」と頭で分かっていても、誰もが売上高から考えてしまう。そして「せめて赤字は回避したい!」となると、分かりやすい指標でもあります。

【損益分岐点売上高】

    計算式 : 固定費 ÷ 限界利益率

《例 示》

  • 固定費   1億円/年
  • 限界利益率 50%
  • 損益分岐点売上高 ⇒ 2億円

もし皆さまの会社の手元資金が潤沢で、じっくりと収益性を上げていくという余裕があれば、損益分岐点売上高から考えるのもよいでしょう。

しかし、手元資金に不安があるのであれば「収支分岐点売上高」で考える必要があり、その場合は「ざっくりとした資金繰り」も考慮できます。

【収支分岐点売上高】

    計算式 : (固定費 + 借入金返済額) ÷ 限界利益率

《例 示》

  • 固定費     1億円/年
  • 借入金返済額 1千万円/年
  • 限界利益率  50%
  • 収支分岐点売上高 ⇒ 2億2千万円

厳密にいえば、固定費にはお金の支出が伴わない減価償却費があったり、税金や分割払いなど借入金の返済以外にも費用外支出はありますが、通常はこの計算式で十分だと考えます。

しかしどうでしょう…例示では借入金返済額を考慮しただけで分岐点となる売上高が10%増えました。つまり、資金繰りも含めた経営全体で考えるのであれば、損益分岐点売上高に意味はありません。

そして、現在売上高が激減している新型コロナ直撃業種を除けば、経済活動停滞に伴う平均的な売上高減少割合は10〜20%程度と仮定できます。

仮に今まで収支分岐点にあった企業の売上高が今後20%減少すると、その限界利益に相当する現預金を失います。

(2億2千万円 ✕ 20%) ✕ 50% = 2,200万円

この会社が新型コロナの制度融資で5,000万円を借り入れ、3年間の返済猶予を行ったとしても、売上高が元に戻らない限り3年持たずに現預金がコロナ前を下回る…。

当然ですが、返済猶予が終了する3年後には収支分岐点が上がり、借り換え、借り換え…と永遠に収支が均衡しないかもしれません。

もちろん1年で収支を均衡させる必要はありませんが、長期にわたるのであれば根本的な対処を早める必要があります。金融機関が3年後に手を差し伸べてくれると考えてはいけないというのは今までお伝えしてきたとおり。

たとえば収支を均衡させていくため、売上高以外の要素での改善を行おうとすると…

【前提】

  • 収支分岐点売上高から20%減 ⇒ 1億7,600万円

【これを限界利益率だけで補填してみる】

  • 必要となる限界利益率は62.5%(50%から12.5%の増加が必要)

【これを固定費だけで補填してみる】

  • 掛けられる固定費は7,800万円(1億円から22%の減少が必要)

皆さまの会社ではどちらが改善しやすいでしょうか?

もちろん現実解としては2つの組み合わせです。1年だと確かに難しいのですが、3年あれば何とでもなる数字であることは数多くの事例を見てきました。

そこで、2~3年前に過去最高の売上高を計上したお客様が何社かありましたので現状を確認してみます。数字を丸めていますが、以下の増減比率は実際の数字です。この7月までの年計データのため新型コロナの影響も大きく受けております。

【A社】 売上高10億円企業

  • 売 上 高 ⇒ 3年前に比べて10%減少
  • 限界利益率 ⇒ 3年前に比べて 2%増加
  • 固 定 費 ⇒ 3年前に比べて17%減少

【B社】 売上高2億円企業

  • 売 上 高 ⇒ 2年前に比べて35%減少
  • 限界利益率 ⇒ 2年前に比べて 8%増加
  • 固 定 費 ⇒ 2年前に比べて 3%減少

ケースバイケースですが、基本的にはサイズが大きめの企業ほど固定費を下げる余地が大きく、サイズが小さめの企業ほど限界利益率を上げやすいことが分かります。

限界利益率の増加と固定費の削減は売上高がピークに達した時から取り組んでいた結果です。皆さまも経験があるのではないかと思うのですが、売上高のピーク時は本来危うい状態にあります。当然利益も出るのですが、勢いがある故に荒っぽく過剰さが伴っているので、損益分岐点売上高も上昇しています。

したがって、売上高がピークに迎えたときこそ収益性の改善に取り組まなければなりません。これを怠ると「預金残高 ≦ 借入金残高」という状況が延々と続いてしまいます。この2社も次の段階に進むために「売上高は現状が限界」とみなしてその時点での課題解決に動き始めました。

幸いこの2社は新型コロナ以前に収支分岐点売上高が大幅に下がっておりましたので、現在も赤字に陥らず、収支分岐点売上高もクリアしています。

そして当然ですが、収支分岐点売上高が下がれば資金繰りは格段に楽になります。金融機関もその努力を買います。

また、最大の恩恵は稼働率の減少です。収支分岐点売上高が下がって、稼働率も下がる。過剰さが消えた状態で増加する売上高はまさに利益と資金の源泉です。

ちなみに、収支を均衡させるために既存の借り入れもすべて返済猶予を行うという選択肢もあります。ですが、これは問題の先延ばしだということは皆さまもご存じのとおり。

もちろん、いまを乗り切るために1年限定というのはアリですが、これに慣れると他の改善が遅れてしまいます。

以上、損益分岐点売上高の言及を見かけても「なるほど」で終わらさず、先の先まで思考を進めて今後に備えてください。

コロナ禍ですが税務調査の時期、到来

本来であれば税務調査本番の時期です。

先月10日は税務署の定期人事異動発令日であることから、7月から書類審査が始まり、例年であれば9月頃から税務調査が本格的に実施されます。

さて、現在のコロナ禍にあって、税務調査はどのように実施されるのでしょうか。

税務専門誌の国税庁への取材によれば、納税者から口頭等で明確に同意を得られた場合において税務調査をするといった、納税者の状況にも十分配慮したうえで、税務調査は進められるとのことです。

令和2年7月~令和3年6月事務年度における当面の調査方針

  • 納税者の個々の事情等を十分に考慮
  • 納税者の明確な同意があれば調査を実施
  • 企業がテレワークを実施している場合、必要に応じて調査官と相談し、担当者の出社日等に合わせてスケジュール調整。調査対応のためだけの出社は求めず。
  • 所得税、法人税、消費税、相続税等で同じ対応
※出典:税務通信 3610号

日本の現状を鑑みれば、おそらくは実地調査に入る前の机上調査の段階で、税務署はいつも以上に入念な検討を行い、実地調査が行われるのは、高確率で申告漏れなどが疑われる事案に絞られることが予測されます。

そのため、通常の企業についての実地での税務調査は、申告漏れなどが強く疑われるケースを除いて、当面の間はかなり減ると考えていいでしょう。

ただし、「巣ごもり需要」によって業績が急激に伸びている業種については、今後、重点業種として狙われていく可能性があるので注意が必要です。

いずれにしても、コロナの影響による売上減少と闘いながら、感染者を出さないように最大限の注意を払って経営を行っているところに、素性の知れない調査官を会社に入れることは極力避けたいところです。

私が顧問税理士であれば、明確な理由が示されない限り、現状、特に東京での税務調査は断りますし、受けざるを得ない場合には、抗議の意味も含めて外に机を出して、そこで調査をしてもらうくらいのことはします。

知っておいていただきたいのは、今回に限らず、もともと任意の税務調査については、こちらの事情に応じて日程調整、交渉を行うことができるということです。私は場合によっては調査日数の交渉さえもします。

特に今年度については「納税者の明確な同意があれば調査を実施」するというのが、国税庁の基本方針のようですので、感染拡大防止のための策を講じて懸命に営業を行っているところに、いつ何処に呑みに行っているかも分からない調査官を自社に入れるのは不安だとの理由で調査の無期延期を主張するのは当然のことです。

例年であれば、税務署から税務調査の電話連絡が顧問税理士に入りだす頃です。

万一、このコロナ禍にあって税務調査の連絡が来た場合には、この状況下で調査を行う理由を明確に示してもらい、それがない場合には無期延期を願い出るなどの対応を顧問税理士にきちんと取ってもらうようにしましょう。

税理士の機能不全

中小企業の経営状態・財務状態を確実に把握できる「ポジション」に立てる外部関係者は税理士です。

断言します。

税理士は税の専門家ですが、経営の専門家ではないと言われます。当然、資金繰りの専門家でもありません。

しかし、事実を把握するという点に関して専門は無関係。

専門家ではなくても、起こっている事実に対していち早くアクションを起こせれば問題の80%は解決します。

経営者であれば当然アクションを起こすでしょうが、何をどのようにという意味においてその質が変わります。

だからこそ税理士が強力な武器になる。

そのようなポジションにいる税理士が実際に事実を把握し、それを重要な問題と捉えて経営者と共にアクションを起こす…。このような税理士とお付き合いしている中小企業の生存率は極めて高いと思われます。

コロナ禍のような未曾有の危機が訪れたときにある程度面倒を見てくれるのは国。生存に必要なお金を貸してくれるのは金融機関。そして、そのような危機が訪れる前に準備ができるのは経営者と税理士です。

これが今回のコロナ禍においても中小企業の生死を分けた可能性がある言っても過言ではありません。

税理士が強力な武器になるための必要条件を挙げれば以下のとおり。

  • 税理士が、お客様に起こっている事実を常に把握すべきと考えている
  • 皆さまが、事実を把握できるようなレベルの仕事を税理士に依頼している
  • 税理士に、事実を把握できる能力がある
  • 税理士が、把握した事実を無視しない

「いやいや、税理士に多くを求めすぎじゃないの?」

そのとおりです。

ですが、求めてみないとその税理士の覚悟は分かりません。

「私にはそこまでできません…」と言われたら、次善の策を検討するのが経営者の仕事です。中には「私にお客様の背中を預けてください!」と言い切ってくれる税理士がいるかもしれません。

ここで本当に背中を預けられるかどうかを見極めるのは皆さまの仕事です(私に任せてください!と言いつつ、1年後に平気で転職する担当者が腐るほどいます)。

私どもは、このコロナ禍で税理士が機能していない現実を改めて認識し、残念な気持ちでいっぱいでした。

毎度の例えが飲食業で心苦しいのですが…税理士が飲食業のお客様からいただいている報酬は全業種で最低クラスです。規模が比較的小さい・手間も掛からない点も関係していますが、それでも最低クラスです。

税理士業もビジネス。報酬が極めて低いお客様の仕事は、いかに業務効率を上げるか「だけ」を考えます。お客様に起こっている事実にアプローチするという「とても手間が掛かる仕事」をボランティアでやる余裕はありません。

つまり、税理士が有効に機能しない理由の一つに報酬の低さがあります。コロナ禍で大打撃を受けた代表格である飲食業が典型であり、税理士も「お客様に何かがあったとき、どのようなことが起こるのか?」という準備を行っていませんでした(それは受け取っている報酬からは業務範囲外だと考えていたことでしょう)。

その報酬の低さから、経営者は税理士に何も期待をしていないし、税理士も何かを期待されているとは考えていない…このような構造から起こった悲劇の一面があると考えます。

なお、最近は「なんちゃってコンサルティング」を行う税理士が増えてきましたが、その主な動機は低い税理士報酬のカバーと自分たちの仕事がなくなっていくという危機感からです。残念ながら、本当にお客様のことを考えた末のサービスではありません。

このような動機から始まったコンサルティング業務がどのような結果を招くか…。さらに効率性を考えた「なんちゃってコンサルティング」がどこまで長続きするか…。

税理士が効率を追い続けることは必然です。AIに仕事を奪われる職業の筆頭格です。

だからといって、お客様に起こっている事実を把握しようという税理士が増えるわけではありません。コンサルティングを行おうという税理士が増えても、必要条件を充たすかどうかは別問題です。

それでも経営者の皆さまは、今後どのような税理士と、どのように付き合っていくのかを真剣に考える必要があります。

例えば、私どもが真剣にお客様とお付き合いする覚悟として、必要条件以外にも以下を守ることにしています。

  • お客様と同エリアの同業種の企業(つまり競合企業)とは契約しない
  • お付き合いするお客様の数は制限する
  • セカンドオピニオンにて一定期間お付き合いをして、
    お互いのことを理解した後でないと顧問契約は結ばない
  • 役員が必ずお客様を担当して、中長期的に最善となるサポートのみを考える

お分かりのように、この覚悟により私どもが犠牲としているものがあります。それ故に、お客様からいただく報酬も業界相場からはだいぶ高く設定しています。

たかが税理士、されど税理士。

「雨の日に傘を貸さない金融機関」とは言われますが、十分な報酬をいただいていない税理士については「ずぶ濡れになると分かっていても、それを伝える義務がないと考える税理士」と言えるかもしれません…。

少なくとも私どもは「コロナ禍で経営が大変ですね…。今ならこのようなお手伝いをさせていただけますが、そのためにはこの程度の報酬をいただかなければなりません」とお伝えしたくはありません。

金融機関も税理士も、皆さまの付き合い方次第です。

コロナ禍で改めて税金を考える

私は節税だけを目的とした生命保険の加入や航空機リースといった、いわゆる節税商品をお客様に勧めることは、一部の例外を除いて基本的にありません。

節税(税の繰延)商品をお勧めしない最大の理由は「優先すべきは現金での内部留保」と考えているからです。

節税商品をお客様に勧めない私に、ある税理士はこう言います。
「それはお客様のことを本気で考えていない証拠だ」

その税理士いわく、生命保険やオペレーティングリース商品によって税金を繰延べつつ、換金できる資産を手にしておくことが、リーマンショックや東日本大震災のような急激な景気変動に耐えるための絶対条件とのことでした。

さて、この税理士に勧められて節税商品を購入した企業は現在、どのような状況にあるのでしょうか。

節税保険に加入した企業は、コロナ禍に解約返戻率が高い時期がちょうど到来し、解約返戻金を手にすることができたのでしょうか。

残念ながら返戻率がまだ低い時点であった場合、解約返戻率がマックスになるその時まで、コロナ禍以降も高い生命保険料を支払い続ける余力はあるのでしょうか。

そもそも節税保険として機能するだけの利益をコロナ禍以降も出し続けることができるのでしょうか。

オペレーティングリース商品を購入した企業は、コロナ禍でもリース先が倒産することなくリース収入を得られているのでしょうか。

旅客需要が激減する中、航空機を売却して想定した利益を得ることができるのでしょうか。

「まさかこんなことが起こるなんて、誰も予測できなかったのだから仕方ない・・・・」

本当にそうでしょうか。

確かに新型コロナウイルスの出現によって経済が止まるなどということは、誰にも予測ができませんでした。

しかし、毎年のように予測できない何かが起こることは経営では常です。
ここ数年、気候変動や災害による損害は想定を超え、想定外であることが想定内になってきています。

このような予測不能なリスクが多い現代に中小企業経営を行う私たちにとって、失敗する可能性をいかに低くするかは非常に重要です。

そしてそれは、決して難しいことではありません。

基本に忠実に行動し、自らがコントロールできない要素を限りなく排除することで失敗する可能性はかなり下がるはずです。

しかし、少なくない数の経営者が「節税」という言葉の誘惑に負けて、コントロール不可能なリスク資産を自ら抱えてしまいます。

「この商品を購入すれば今回の決算ではこれだけの納税額が減り、〇年間、〇円ほどの経常利益が出れば合計でこれくらいの税メリットが享受できます。リース商品は毎月〇円のリース収入が入り、最後に〇円で売却すればこれだけ儲かります。」

単なる税の繰延べでしかない節税が過大に評価され、リスクはいつでも過小に評価されているのです。

「この商品を購入すれば確かに今回の決算ではこれだけの納税額が減りますが、購入によって当然手元のキャッシュは減ります。この先、〇年間、毎期利益が出なかった場合は税メリットが出ないうえに、毎期キャッシュフローを圧迫します。リース収入が入り続けるかは分かりませんし、修繕費がかかれば利回りはかなり下がります。最後に確実にこの金額で売却できるとは限りません。」

税金は経営にとってコストの1つです。

コストである以上、無駄は削り、できる節税策は漏れなく行わなければなりませんが、いわゆる節税商品と呼ばれるもののほとんどが、税金を繰り延べることと引き換えに、本業以外の不確実なリスクを未来に抱えることになることを正しく理解しなければいけません。

今、多くの中小企業経営者が「内部留保による手元キャッシュの最大化」が何よりも重要であることを実感させられているはずです。

そして、コロナ禍における給付や無利息融資などの国の大盤振る舞いは、この後必ずや「増税」という形で回収されます。

私を含め、誰もが税金はできるだけ払いたくありません。

しかし、内部留保をキャッシュで貯めるには、利益を出して税金を払う以外の方法以外は基本的にないことを、今、改めてしっかりと認識しておかなければなりません。