固定か、変動か

費用の性質に、固定・変動があることはご存じのとおり。
いわゆる、固定費と変動費です。

同じように、売上高を分けて考えることができます。

私どものような税理士業界は典型的な固定性売上のビジネス。拡大に意欲的、または創業間もないというケースは別ですが、基本的に8~9割の売上高は固定しており、顧客の増減、およびスポットの仕事で変わる程度。増減が極めて緩やかということです。

「税理士は固定収入だからいいよね…」と、よく言われてはきましたが、コロナ禍の影響を受けにくい代わりに、何かをきっかけとして大きく減少すると簡単に戻すことができません。

もし、コロナ禍で税理士事務所の売上高が半減したら、最後は人員整理に踏み切らざるを得ないでしょう。雇用調整助成金でその場をしのいでも、コロナが収まればお客様が戻ってくる…というビジネスではないからです。

つまり、固定性という安定と引き換えに “復元力”がとても低い。復元力が低いにもかかわらず固定費を維持することは危険ですが、実際に固定費を半減させたら復元力は完全に失われます。固定制売上と固定費比率の高さは基本的にセットです。

ただし、例外もあり、「飲食業特化型」税理士事務所が挙げられます。
(税理士業界も特化型が流行りです)

「飲食業特化型」には明確な理由があり、それは仕事をパターン化できる楽な業種だからです。比較的規模も小さいし、複雑な税制を使う必要もありません。パートスタッフ・外注だけで回すこともできる薄利多売モデル。仕組みがあれば、雪だるま式に顧客を増やすこともできます。

そのような事務所がコロナ禍でどのようになっているのかは分かりませんが、売上高が急減していてもおかしくはありません。ただし、労働力も変動費化できているはずなので潰れることもないはず。そして、コロナが収まれば、また顧客を増やしていくでしょう。復元力は非常に高いと言えます。

つまり、固定性売上と思われるビジネスでも、得意先次第で変動性売上と化す可能性があります。当然、費用も変動費化しておくことが必要です。

売上高の変動幅が大きいということは、それだけ顧客が離れやすく、戻りやすいビジネスを行っているということが分かります。

この困難な時期、固定性売上に憧れる企業も多いとは思われますが、税理士のような独占業務を扱う専門職を除けば、固定性売上(=離れにくい顧客)は企業としての地力が求められます。地力が求められるということは簡単に売上高を増やすことが難しく、固定費比率も高くなる傾向があります。また、固定性売上の方向に舵を切ったら、簡単に止めることもできません。

結局、問題となるのは、売上高が変動することではなく、コロナ禍のような外的環境が改善しても売上高が戻らない、つまり「得意先を持っていない企業」という現実です。

この2年…。自社の売上高の源泉が、どのような顧客属性に応じているのかを気づかせてくれました。従って、この事実を踏まえず、次に向かうことは危険です。

次に日本を揺るがす外的環境の変化が起こったとき、頼みの綱が得意先ではなく、公的なセーフティーネットということであれば、コロナ禍から何も学ばなかったということになるからです。

事業承継について考える

先月公表された令和3年度税制改正大綱で、事業承継税制の特例措置が令和9年12月末までの適用期限をもって延長しないことが明記されました。

ご存じのように、これは中小企業の株式を贈与又は相続等で取得した場合の贈与税・相続税について100%の納税猶予が受けられる制度です。適用を受けるためには令和6年3月31日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。

ここで制度の詳細と適用の是非について論じることはしませんが、年齢的にも事業承継は、まだまだ先のことだと思っている方にこそ考えるきっかけにしていただきたいのです。

この税制を実際に使うかどうかは別として、とりあえず納税猶予の権利を得ておくために特例承継計画を提出していただくケースには共通点があります。

お子さんがいらっしゃるものの、後継者が決まっていないことです。

時代と言っていいのだと思います。昔と違い、多くの経営者が「子供には子供の人生がある」と考え、子供には自分の好きな道を進むようにと育ててきています。

ましてや世の中の変化のスピードが信じられないほど早くなり、3年後どころか来年すら見通しづらい経営環境です。子供に事業を継がせていいのか迷う気持ちも分かります。

しかし、経営者が50代半ばほどに差し掛かり本気で事業承継について考え出すころ、事業が比較的順調であればなお、その想いには変化が現れます。

株式の問題などを含めて社員への内部承継が実現困難であることを悟り、M&Aという選択肢も視野に入れ始めるも、「できれば我が子に継いでもらいたい」そう考え始める経営者が多いのです。

とはいえ昔と違い、この時点で子供への「洗脳」は全くできていません。
急に跡継ぎの話しをされても、子供の方は心の準備も何もできていないため、ことは簡単には進みません。無理もないことです。

もう1つの選択肢であるM&A市場はコロナ過を受けて活況です。しかし、コロナの影響を受けて業績を落としたことをきっかきに売却へと舵を切る「売り時を見誤った」企業が多く存在することもあり、市場は完全なる「買い手市場」です。

こちらが急に売りたいと思ったからと言って、その時には売れるとは限りません。
当たり前のことですが買い手にとって魅力に感じる事業・財務・タイミングでなければ買い手の手が上がることはないのです。

我が子への承継も、M&Aも決して一朝一夕にはいきません。
必要なのは経営者の覚悟と、それを受けての明確な行動による入念な準備です。

前回の税制改正大綱で見直しが明言された相続税・贈与税の一体課税については「今後、本格的な検討を進める」との記述にとどまりましたが、ここにメスが入れば事業承継計画にも少なくない影響があることは間違いありません。

思い通りに進まないことが起きるからこそ入念な準備が必要であり、それに要する期間を考えれば、事業承継は誰にとってもそれほど先のことではないはずです。

もし、本心が我が子への承継を望み覚悟を決めたなら、時代に逆らったっていいのです。

リスキリング

リスキリング(学び直し)というワードが賑わっています。

今月発表された令和4年度の税制改正大綱。かねてからの報道のとおり賃上げ税制がメインとなりました。賃上げ税制には教育訓練費も含まれます。

教育訓練費を10%以上増やせば税金を減らすという措置ですが、関連する税制は10年以上前から存在しています。しかし、中小企業において有効に使われることはありません。

それもそのはず。中小企業の教育訓練は経営者、および一部の幹部社員が中心。一般社員にはあまり使われません。そうなれば教育訓練費が大きく増減することはないからです。

では、それが悪いのか?

もちろん悪くはありません。仕事と教育はトレードオフ。新人社員ではない限り、教育に時間を割けば売上高は下がって当然。スターバックスでは店舗を数時間一斉休業して研修が実施されることがありますが、それにより失われる売上高は数十億円とも言われます。

逆に、売上高が下がらない、あるいは効果測定ができないくらいの教育訓練は“本当に有効に機能しているのか疑問”だと言わざるを得ません。売上高に直接関わらない社員についても同様です。

一人一人の社員がフル稼働することが前提で成り立っている中小企業では、休みを削ってでも仕事と研修をこなす覚悟がある層にしか、継続的な教育訓練は成り立たないと考えます。

「うちは一般社員にも十分な時間と費用を使っている」

という中小企業は、きちんと効果測定をされてみれば良いと思います。経営者も自己満足で時間とお金を使うべきではなく、トレードオフが発生していることをよく理解すべきです。なお、トレードオフが発生していないように見えるのであれば、さらに危険です。

「この研修について来れないのであれば自主退職を勧めます…」

大企業は今後も教育訓練を拡充していくでしょうが、もともと大量採用・大量退職が根底にあるため、教育訓練は合わない社員の退職を促す暗黙の仕組みとしても機能させています。

なお、「リスキリング」=「デジタル化対応」という脈絡で説明されることも多いですが、これまでのホワイトカラーを「新ホワイトカラー」or「旧ホワイトカラー」として選別し直す方法です。旧ホワイトカラーの退職を促すという意味もあるでしょう。

社員教育に時間とお金を浪費し、売上高が上がりも下がりもせず、さらには社員の新陳代謝も起こらない。みんな一緒に年齢だけ重ねていく…。その次につながらず、まるで意味がありません。

リスキリングは自社にとって本当に必要なものを行うべきであって、それについて来れない人は自主的に退職してもらうくらいの覚悟が必要です。血肉にならないようなリスキリングに意味はなく、中小企業にそのような余裕はありません。

広く一般社員にまで行うのであれば、社員の新陳代謝を促す仕組みとして行うべきであり、さらに上のレベルの教育訓練を施すのは自主的に学びを求めてくる社員に対してのみ。給与が爆上がりしなくとも、社員自身にとって意味ある学びの機会を与えられていると感じれば必ず付いてきます。

これがリスキリングの本来の目的だと考えます。

これができないのであれば、経営者、および一部の幹部社員のマンパワーで仕事をこなせばよいのです。

繰り返しますが、何も悪くありません。

変化

税理士業界周辺が揺れています。
ここ1~2カ月の間に顧問税理士から聞いた方も多いはずです。

「来年1月から電子帳簿保存法が改正されます」

電子帳簿保存法については、1.電子帳簿等保存、2.スキャナ保存、3.電子取引の3つに分かれ、任意適用であるスキャナ保存などについて要件が大きく緩和される一方で、義務化となる電子取引のデータ保存が大きな波紋を呼んでいます。

多くの方が既にご存じの内容かと思いますので、ごく簡単に要点だけをまとめておきます。

  • 来年、令和4年1月1日より改正
  • 電子データで受け取った請求書や領収書などのデータ(PDF等)は電子データでの保存が義務となる
  • 今までのように電子データを紙に印刷しての保存は認められない
  • データの訂正削除履歴が残るシステムで保存するなど満たすべき要件がある
  • メールで受領した請求書等のデータ、インターネットで備品等を購入した際にダウンロードした領収書、クレジットカードの利用明細書データなどが対象となる

紙で受け取った請求書や領収書は今まで通り紙で保存すればよいのですが、データで受け取ったものはデータでの保存が義務となり、取引日や取引金額、取引先で検索をかけられる状態での保存が求められています。

従業員が個人のアカウントで購入した備品や、役員個人のクレジットカード利用分なども、証票が電子データであれば全て対象となり、経費精算の際にそれらのデータを経理に集めて保存する必要がありますので、なかなか厄介な改正です。

しかも、これは所得税法、法人税法のお話しで、現行の消費税法では来年1月以降も原則、電子データで受け取った請求書等は紙に出力して保存しなければいけないというから、訳が分かりません。

正直、全ての中小企業が来年1月から完璧に対応できるとは思っていませんが、法改正である以上、対応しないわけにはいきません。

しかし、最近見聞きするのが「大変だから、電子帳簿保存法から逃げるべき」と語る一部の税理士などの専門家の存在です。

メールで請求書を送ってくる取引先には来年以降は紙で送るように求め、ネット通販でも紙の請求書を同梱してもらいましょうと言うのです。

法人税と消費税の取り扱いが異なるため、結果として電子取引に関しては、紙とデータ両方の保存が必要になるうえに、システム対応が追い付いていないため、現時点では大変だと感じるのは確かです。

しかし、令和5年10月からインボイス制度が開始すれば電子インボイスが普及し、中小企業であっても少し気の利いた企業であれば、請求書は電子インボイスでのやり取りに変わっていくであろうことは想像に難くありません。

そうなれば、電子インボイスなどのデータを会計ソフトに流し込むだけで基本的に仕訳は自動化され、経理作業が省力化されていくことは目に見えています。

もちろん最初は少々大変かもしれませんが、電子取引がまだまだ少ない今だからこそ、数年後の本格運用に備えて慣れるためのよい練習になると思うのです。

経費精算等についても効率化を見据えてルールを見直す良い機会になるはずです。
例えばアマゾンでの備品購入については全て法人アカウントで行うようにし、役員はコーポレートカードを作成すれば経費精算そのものを減らすまたは無くすことができ、電子データの保存は経理担当者に任せることができます。

数年以内に廃業することが決まっているなど特別な事情があれば別ですが、クレジットカード利用明細などは紙での郵送対応が有料となるなか、流れに逆らって紙での保存に固執するなど、正直あり得ません。

この1カ月、多くの会計ソフト会社がソフト利用者に対して、今回の改正要件を満たすシステムを無料か比較的安価で提供することを続々と発表しています。

そのため自社で使用している会計ソフトで提供されるサービスを利用すれば、それほど手間なく対応ができるとともに、進みゆく電子化対応への第一歩を踏みだすことができます。

変化には大きなストレスが伴います。
しかし、後退しての一時しのぎは何も生みません。

変化を恐れず、対応していきましょう。

【追記】
今月公表される2022年度税制改正大綱で、電子帳簿保存法に2年の猶予期間を設ける旨の報道が12月6日の日本経済新聞の記事でなされました。

着手金の重要性

先月、M&Aの自主規制団体「一般社団法人 M&A仲介協会」が設立されました。
(M&A仲介を主に行う上場企業5社が中心)

そもそもM&A仲介は誰でも行えます。取引の性質は不動産仲介に近いものがありますが、宅地建物取引士のような国家資格は不要です。現在、中小企業のM&A仲介業者は約370社とのこと。

当社もM&Aのお手伝いを行っておりますが、仲介業者としてではなく、M&Aを希望されるお客様のアドバイザーとしての役割です。中小企業のM&Aにおいて、アドバイザーの役割を担うのは税理士事務所(またはメインバンク)が多いのですが、半数以上の税理士事務所は仲介業者に紹介しておしまい(紹介料だけもらっておしまい)。お客様の交渉には踏み込まず、オーナーが変わっても顧問税理士としてそのまま残ることを希望します。

当社はお客様が売手としてM&Aをされる場合、譲渡後の契約解除を前提とさせていただきます。売手であるお客様のアドバイザーとして買手側とタフに交渉する以上、買手である新しいオーナーの下で顧問税理士になるなど利益相反も甚だしいと考えるからです。売手のお客様は初めての経験ですし、手慣れた仲介業者と買手のペースに乗せられて、あっという間に終わってしまいます。

M&Aは、買手(主に中堅企業、大企業)が取引を繰り返すのに対して、売手は1度きり。仲介業者が得意先である買手と癒着するとどうなるか…。自主規制と自ら名乗るくらいですから、皆さまもM&A仲介業界が抱える問題について想像が及ぶことでしょう。

皆さまの下にも、さも何かありそうな感じのDMやメールが届くのではないかと思われますが、オファーの99%は撒き餌です。くれぐれも「とうとう自分に!」とは思わないでください。

さて、それなりの規模のM&A仲介会社でM&Aを行おうとすると、着手金が必要となります。ただでさえ仲介報酬は高額だと言われている中、着手金まで払わないと動いてくれません(基本的に100万円~200万円)。

しかし、近年は仲介会社の競争が激しくなり、報酬相場が下落するとともに着手金も不要になってきました。件数を増やすためには報酬を下げ、着手金を無くすというのは一つの選択肢です。

ですが、これまでの私どもの経験から考えると、着手金無しは大いに疑問があります。着手金がなくなれば、買手・売手ともに「お試し」程度で手を出し始めます。実際、着手金を無くす業者は多いのですが、その分、破談になる確率が跳ね上がったそうです。

着手金ももらわず、報酬も下げる。それで仲介会社の質が上がる…とは誰も思わないでしょう。より無難な仲介が増え、仲介会社は買手側に寄り添っていきます。損をするのは売手だけ。

分かりやすく言えばこういうことです。

  • 報酬を下げる → 何かを省く
  • 着手金が無い → 急いで動く必要がない、責任もない

その結果、M&A後も問題が残る…。
今回はM&Aのケースでお伝えしましたが、これはどの仕事でも同じはず。

基本的にお金と質は比例します。本来、着手金(前金)をしっかりもらわないといけない仕事でも、遠慮したり、仕事を取りたいがためにもらわないケースを見かけます。

着手金は責任ですし、迅速に動きはじめるトリガーです。

「お客様の負担になるから…」

中には、このようにお考えの方がいらっしゃるかもしれませんが、その分、自らが負担を負っているはずです。それが本当に正しい取引でしょうか? 責任逃れの言い訳にしていないでしょうか?

自主規制が自己防衛になっては意味がありません。

M&A仲介業界には規制して欲しいものが数多くありますが、お金のハードルを下げることによって質を下げることだけは行って欲しくはありません。

会社はモノではないのです。
質を担保してもらうためにも、もらうべきものはもらっていただきたい。

そして、これは全ての仕事に言えることではないでしょうか。

お客様を選ぶ

新橋で居酒屋を経営する女将が出版した本を紹介するネット記事を読みました。
コメント欄は大荒れ、さながら大炎上です。このお店に行ったことがあるなしに関わらず、その多くが、このお店の姿勢を批判するものでした。

しかし、私は全く別の感想を持ちました。
「うまいことスクリーニングしたなぁ」

本も買って読んでみました(藤嶋由香『一緒に飲みたくない客は断れ!』ポプラ社)が、著者の女将が言うところの「非常識な居酒屋経営術」は、至ってまとも。まずはこのお店の基本的な考え方の一部をご紹介します。

  • 居酒屋という心のやすらぎの場を提供するために、お店ではまず「お客様を選ぶ」
  • お店を本当に愛してくれる少数のファンさえいれば、多くのお客様を集める必要はない
  • その数は100人でよく、100人であれば顔や名前、いつもどんな料理を食べるのか分かり、お客様が満足するサービスができる
  • 良質なお客様を大切にし、大切なお客様だけを選び、もっと幸せにする

そして、お店が実行しているのが次のことです。

  • 本当に美味しいものを、心も寄り添えるサービスとともに適切な価格で提供する
  • 安売りはしない
  • 基本的に2軒目以降のお客様、おなかいっぱいのお客様にはご遠慮いただく
  • 4名テーブルは2名でなく4名で利用いただき、5名だけど空席を待つなら4名席でいいというお客様をお通しして回転を高める
  • 2時間制を徹底する

口コミなどを見ていると、ご利用いただく時間、テーブル人数の徹底ぶりや価格に関して少なくない不満がつづられている一方で、味に対する評価は高く、常連客を中心とした多くのファンがいることも分かります。

女将は言い切ります。
「ご理解いただけないお客様には二度と来店していただかなくて結構だと思っています。」

居酒屋で飲食する全ての人をお客様だとは考えていないことを公言してしまったこのお店には、結果として以前にも増して多くのアンチが存在しています。もちろん、そのこと自体は嬉しいことではないでしょう。

しかし、お店が歓迎しないお客様は、これまでよりもさらに来なくなり、スクリーニングは大成功なはずです。

きっと、今日もこのお店に来店するのは、その方針を理解し「他の居酒屋より少し高いお金を払って、他では食べられない正真正銘の朝締めの肉をたくさん食べて飲んで2時間でパッと帰りたい」ファンの皆さま、お店にとって良質かつ大切なお客様です。

安売り⇒質の良くないお客様が増える⇒スタッフが疲弊する⇒利益が出ない⇒お客様をもっと増やそうと安売り⇒質の良くないお客様がさらに増える⇒スタッフがさらに疲弊する⇒・・・

このありがちな無限ループから抜け出すには、まずは自社にとっての「お客様の定義と選別」ができていなければなりません。

一方でお客様を選ぶには経営者はもちろん、スタッフにも覚悟が必要です。

私が通勤で毎日前を通る、この居酒屋さん。今夜も常連と思しきお客様で一杯です。

「賃上げ」の中身

政治の混迷をよそに、例年どおり税制改正の議論が進んでいます。
岸田首相が発言を繰り返しているのは、期待が高い「賃上げ」…の税制。

人件費関連の法人税制は10年近く続いていますが、これらは景気の拡大期には有り難いものの、停滞期では恩恵を受けにくいものです。

税率についても言えますが、近年の税制は大企業向けのメニューが拡充されてきました。中小企業が大事と口にはされますが、政府にとって頼りになるのは大企業であることは間違いありません。まだ詳細は分かりませんが、改正されるであろう賃上げ税制についても大企業に対するアメが狙いだと思われます。

そもそも人件費の税制は、原則として給与総額を増やす必要があり、インパクトがあるのは新たな雇用です。

例えば、給与総額1億円の会社が3%の賃上げをすれば300万円の増加ですが、社員を1人増やしても300万円以上は増加するはず。

既存社員の給与はできるだけ上げたいのだけれども、「現実問題としては人手を増やしたい」というのが経営者の本音。

賃上げと人数の増加を両立できる中小企業には頑張っていただきたいのですが、このように多くの中小企業にとってはトレードオフです。

売上高が「単価」×「数」であるように、給与も「単価」×「数」。
これまでも、数は無理せず、単価のコントロールが鉄則という点を繰り返しお伝えしてきましたが、これは給与についても同じです。

単価でもある「1人当たり付加価値」という指標は一般的になってきましたが、「1人当たり人件費」はまだまだ重視されていません。

「1人当たり付加価値」を増やしていきたいのであれば、「1人当たり人件費」も当然増やしていくべきです(役員報酬は別扱い)。この二つの指標にギャップが出始めると社員の離職にもつながります。

単純化して考えれば、会社全体の利益との関連性は以下のとおり。

年収の高い上場企業ランキングをご確認いただくと、最上位層は比較的少人数、かつ歩合給の企業が中心です。上記で言えば、典型的な(A)で、当然一人一人の仕事は大変なはず。

社員数の増加は、売上高の増加が必須になります。拡大期においては数も重要になりますが、単価はおざなりにされやすいのも事実。そして、社員数が増えれば増えるほど、そして若い社員を採用すればするほど、1人当たり人件費は下がって行きます。

1人当たり人件費は、短期的には下がった方が利益を出しやすくなりますが、長期的には生産性を悪化させる可能性があります。

これが伸び悩んだり、下落傾向が続くと、優秀な方が辞めていく場合もあります。もちろん、メリハリを付ければよいのですが、人数が増えるとそこまでメンテナンスが追いつきません。典型的な中小企業のジレンマであり、伸び悩む要因です。

「いや、それでも人数が足りないから仕方がないんだよ」

本当にそうでしょうか?

副業、副業と言われる世の中です。皆さまの主観的な印象よりも社員に余力がある可能性があります。つまり、「給与を上げてくれるならもっと仕事をしますよ」という社員は意外に多いはず。

「給与が上がれば仕事をする? そういう意識自体がありえない…」

そのとおりです。
それでも、それが、現実です。

1人に2人分の仕事を割り振るのは困難ですが、10人に11人分の仕事を割り振るのはそれほど難しい訳ではありません。

世間的なトレンドは、労働時間を減らし、休みを増やし、給与も福利厚生も増やすことのようですが、そんなことは、今それができる企業にやらせておけばよいのです。永遠に続く訳はなく、必ず限界が来ます。

仕事量と給与はトレードオフ。やってもらった分を払う。もっと仕事をしてもらいたいのであれば給与も上げればよく、社員の意識が受動的か能動的かは関係ありません。労働時間は仕事量を増やしながら仕組みで改善して行くしかありません。

これが、中小企業の「賃上げ」の本当の中身ではないでしょうか。

もし、社員が馬車馬のように働いているのに、それでも儲けが出ないのであれば、それは経営者の責任です。

中小企業の原理原則は、今も昔も変わりはありません。

無税の生前贈与

毎年恒例、税制改正論議が活発になる季節がやってきました。

今年の注目は、昨年の税制改正大綱で本格的な検討を進めることが明言された贈与税の暦年課税制度の見直しです。

もし仮に暦年贈与に大きなメスが入れば、中小企業経営者や資産家とそのご家族は財産の承継計画の見直しを余儀なくされてしまいますので、今後の改正動向には注意していきましょう。

そして、節税を目的とした生前贈与ができなくなる可能性がある今だからこそ、あらためて目を向けていただきたいことがあります。

それは両親の記憶を受け継いでおくこと。
「目に見えない財産」の承継、これも立派な生前贈与です。

両親の生い立ちや出会い、起業の経緯や過去の失敗談などの記憶を受け継ぎ、その生きざまを知ることは自分自身を知ることに他なりません。

しかしながら、両親と新旧経営者として対峙してきた2代目経営者の場合、両親との間に通常の親子関係とは異なる溝が生じてしまっていることが少なくなく、そうなると、よほど意識的にならないかぎりは、そうした機会を持つことができなくなってしまいます。

また、特に仲が悪くなかったとしても男同士であればなお、照れくささも手伝って両親がたどってきた歴史についてあらためて聞く機会など、なかなか持てないのが普通かもしれません。

しかし、両親がこの世を去った後では、どれだけ後悔してもこの財産だけは決して承継できないことを、きちんと認識しておいてほしいのです。

不動産や預金などの財産の承継も大切ですが、それと同じかそれ以上に「目に見えない財産」である両親の記憶の承継だって大切だと私は思います。

もし、まだ両親がご健在であるならば、ぜひたくさん話しを聞いておいてください。
きっと、ご両親は照れくさそうに、そして嬉しそうに語ってくれるはずです。
いつか必ず、あの時、聞いておいて本当に良かったと感じる時がきます。

お子さまがいらっしゃる方は、昔話をたくさん語ってあげてください。
受け継がれていく目には見えない財産が、いつか必ず我が子を助けます。

別れは明日来るかもしれないのです。

売り時の準備

各商品・サービス、不動産、会社…。

経営環境が変わり、これまで売り手有利だったものまでが買い手有利になり替わってきました。

M&Aは典型で、市場自体は活況であるものの、コロナ前からガラリと変わって今は買い手市場です。「買わせてください!」という買い手のスタンスが、「買ってあげてもいい…」に変貌を遂げます。

急ぐ必要がなければ「こっちからお断り!」となるのですが、いつ業績が回復するか分からない状況では、日々企業価値が減少する可能性があります。

また、残される社員のことを考えると、なるべく良い状態で良い相手にという判断が入らざるを得ません。

私どもがこれまでお手伝いした中では、企業価値がピーク時から半分程度になったケースがありました。ピーク時に譲渡を見送られたのは「残される社員のことを考えて…」という経営者の温情です。しかし、結果として譲渡せざるを得なくなり、社員は影響を受けないよう配慮されたものの、経営者の取り分は半分になりました。

売り時というものがありますが、売り時を掴むのはとても難しいことです。「よし、売ろう!」と思っても、それがピークかどうかは別問題であり、経営環境、社員や取引先などからも大きな影響を受けます。

「売る準備をしておく」と言葉にすると、あまり良い印象を受けないかもしれませんが、事業承継が前提であれば会社は必ず売られます。親族に贈与・相続させるにしても0円(税金は別として)で株式を売ったことになります。それが他人(知人または社員、並びにM&A)だから金銭の授受が発生するというだけ。

誰に売るにしても、その会社には常に時価が付いています。これは相続税評価額のことではなく、客観的な評価額です。

そして、今後の経営環境を考えると、株式を親族に贈与・相続させることを前提とした評価(相続税評価)ではなく、株式を他人に譲渡することを前提とした評価(時価評価)で考えていく必要があります。

だからといって、M&Aを勧めるという訳ではありません。しかし、親族による承継の比率は年々下がっており、M&Aすらさせてもらえない状態の会社が圧倒的に多いのが現状です。もし、皆さまが自社を廃業させたくないのであれば、長期的な計画を持って、誰かに売れる価値を持った会社にしておくことが経営者としての役割ということになります。

他人が欲しがるほどの会社であれば、親族も承継したくなるでしょう。他人が興味を示さないような会社を、親族に承継させるのが良いのか…とも言えます。

つまり、誰かが買いたくなるような会社にするためには準備が必要であり、価値を高めておくほど買い手が多くつきます。親族が手を上げれば1番手の買い手候補です。

なお、中小企業の時価は上場企業と異なり、過去と現在が全てです。スタートアップのような将来性を考慮されると考えてはいけません。つまり、時間を掛けて価値を上げていくだけです。

財務、人材、設備、技術、権利関係、取引先…。
整備すべきものはたくさんあります。

一般的な中小企業であれば、経営者が50歳前後から10年程掛けて、売る準備をするのが良いのではないかと考えております。60歳になったら売るという訳ではなく、その時に売る準備が整っているのであれば、そこからさらに10年経営するのは難しくないからです。じっくり時間を掛けてタイミングを見計らい、親族承継やM&Aという選択肢で売り時を掴みます。

もちろん、3年、5年でも形は作れるでしょう。しかし、企業価値がいきなり跳ね上がるなんて夢を見てはいけません。10年掛けて、コツコツ企業価値を高めていく取り組みが、結果として事業承継の成功率を高めます。

計画を立てながら経営をするのは苦手だという経営者は多いですが、事業承継は経営者の最後の仕事です。サラリーマンの退職とは訳が違います。これを計画せずして行うなど考えられません。

経営者は誰しも最後に会社を売るのです。
誰に売るかは考えず、売り時に価値を最大化できるよう計画的に準備を進めてください。
準備を進めるとともに、覚悟も決めてください。

価値の高い、魅力ある会社になれば、自ずと後継者が現れます。
それが結果として、親族・社員・取引先にも喜ばれることになります。

最後はどうなるかは誰にも分かりません。ですが、誰もが継ぎたいという会社にしておくことは誰にとっても損はないはずです。

インボイス制度に備える

2年後の令和5年10月1日から消費税のインボイス制度が始まることに先立ち、いよいよ来月から適格請求書発行事業者の登録申請手続きが開始されます。

現行の制度では外注先や仕入先が消費税の免税事業者でも課税事業者に対して支払った場合と同じ処理が可能ですが、インボイス制度が始まると登録事業者以外への支払では原則、消費税分を納税額から差し引くことができなくなります。

簡単に言えば、登録事業者になっていない外注先や仕入先に現在と同額で支払をすれば、その支払額の概ね6~8%程度、皆さんの会社の納税額が増えてしまうのです。

理屈としては、売上高が1000万円以下で消費税の免税事業者である外注先等にも登録事業者になってもらうように促し、さもなければ今後は取引しないと言えばいいだけですが、現実はそれほど単純ではありません。

地方においては特に、地元の外注先や仕入先が個人事業の消費税免税事業者で、今でも手書きの請求書・領収書でやり取りしているということが珍しくありません。

こうした事業者にも登録申請を行ってもらえばいいのですが、例えば直接の仕入先である農業を営む高齢者に対して消費税の申告納税義務を強いたうえで、仕入れの都度、適格請求書(インボイス)の発行を求めることには現実的に無理があります。

それでも2年後にはこの制度が始まってしまう以上、フリーランスなど小規模な事業者と取引がある企業は、これに備えておかなければなりません。

欠かすことのできない小規模な外注先、仕入先等が2年後に登録事業者にならなくても、今まで通り取引を続けることを前提とした場合に考えられる対応は2つです。

(1) 自社の税負担が増えてしまうことを受け入れる。
(2) 登録事業者にならない取引先には、インボイス制度開始後は消費税相当額を
  支払わないことを話しておく。(実質、値下げの交渉)

自社にとっては(2)を選択すれば、納税額が増えることはありませんが、免税事業者である取引先にとっては単純に売上・利益の減少となってしまいます。

いずれにしても、登録申請が始まるこのタイミングで取引先にそれとなく登録予定の有無について確認を取るとともに、インボイス開始後の影響を視野に入れて、今後の外注・仕入価格の改定に気を配った対応を考えておく必要があります。

業種によっては、小規模事業者との取引が不可欠であることが少なくなく、地元で共存していくためには杓子定規に登録申請を強いることも、値下げを強いることもできない場面が多々あることは想像に難くありません。

制度開始直前での交渉等は取引先との信頼関係を壊してしまいかねません。
自社に起こる影響を今から理解し、しっかりと意図を持って準備をしておきましょう。