遂に出た!税務署お墨付きの民間による暦年贈与サービス登場

みなさんは『連年贈与』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

財産を贈与した場合には贈与税が課税されますが、一定の金額までの贈与については税金をかからないようにしています。

それを『基礎控除』といい、その金額は一年間で110万円です。

この110万円の基礎控除は、全ての国民に平等に与えられており、その年に贈与を受けなかったとしても翌年以後に繰越すことはできません。

相続税対策の基本は、財産を上の世代から下の世代に対してローリスク、ローコストで計画的に移動させるということに尽きます。

そのためにもっとも多くの方が実践されているのが、この基礎控除の範囲内で毎年繰り返し行う預金の贈与です。

この毎年行う贈与のことを『連年贈与』といいます。

110万円以下の贈与の場合、本来贈与税はかかりませんが世間では連年贈与による課税を心配する声があります。

その理由が国税庁タックスアンサーにあります。>こちら

Q 親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。

A 各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。
ただし、10年間にわたって毎年100万円ずつ贈与を受けることが、贈与者との間で約束されている場合には、1年ごとに贈与を受けると考えるのではなく、約束をした年に、定期金に関する権利(10年間にわたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかりますので申告が必要です。

Q&Aにあるとおり、贈与することとした金額が予め当事者の間で約束されており、その受渡しの方法として基礎控除以下、つまり110万円以下の金額に分割して連年にわたって贈与したとしても、それは贈与税がかかりますという話です。

そのため世間では、毎年所定の時期に110万円を贈与した場合には、税務署から課税されてしまうのではないかという心配がありました。

そんなときに現れたサービスがこちら、その名も『暦年贈与サポート信託

このサービスをリリースしたのは、三井住友信託銀行です。

サービス内容も、その名のとおりの商品となっています。

5年間にわたってその都度贈与者と受贈者の贈与契約書の締結をサポートし、贈与契約にしたがい口座間の資金移動を行うという大変シンプルな内容です。

費用は年10,800円(税込)となっています。
つまり5年間で54,000円(税込)となります。
※一定の場合には手数料が無料となります。

このサービスの最大のポイントが、サービスのリリースにあたり税務当局に対して『事前照会』を行い、贈与税がかからないことについてのお墨付きをもらったことにあります。

【国税庁文書回答】
暦年贈与サポートサービスを利用した場合の相続税法第24条の該当性について

このサービスは、その内容から『5年間の契約期間中に定期的な贈与』が行われることが想定されるため、サービスの利用開始時に定期金給付契約に関する権利の贈与が行われたものとして、贈与税がかかるのではないかという疑問が生じます。

しかしながら、このサービスは以下の3つの点から連年贈与の課税を受けないと判断されました。

1.サービスの申込みによって贈与契約が成立するものではない
2.贈与の都度、贈与者・受贈者間の贈与の意思確認を行い、贈与契約の成立を証する贈与契約書を作成する
3.贈与資金の払出し・振込はサービス契約期間中の各年に締結される贈与契約の履行として行われる

今回の事前照会の回答から連年贈与による課税をうけないためのポイントが明らかとなりました。

そのポイントとは、毎年、その都度贈与契約書を作成することの一点であると結論づけることができます。

しかし、その場合にも契約書の作成など日付を変えるだけなので、後からさかのぼって作成したものでないかと税務署が言ってくることも考えられます。

そこで、毎年その都度贈与契約を行っていることを公的な機関で証明してもらう方法があります。

それが『確定日付』です。

確定日付とは公証人によって付され、その当日(文書を持参した日)現在その文書が存在していたことを証明する効力があります。

最寄りの公証人役場に、作成した契約書を持ち込むだけでOKです。

手数料は一通700円と、とてもリーズナブルです。

それであるならば何故このようなサービスができたのか?
ここに暦年贈与による節税の最大の問題があるのです。

それは、“忘れる”です。

一度忘れてしまった贈与は前年に戻って契約書を作成したことにする訳には行きません。
それでは年内の確定日付をもらうことができないからです。

そのように考えると、今回取り上げたサービスを使うことも決して悪い選択肢ではないように思います。

中小企業の稼ぐ力とは?

今年も中小企業白書が公表されておりますが、これを目にされる方も少ないと思われますので、ここで少し取り上げたいと思います。

ざっくりとした内容は下記のとおり。

 1.現状分析
  我が国経済の動向
  中小企業・小規模事業者の動向
  中小企業の生産性
 2.稼げる中小企業の取り組み
  生産性向上のためのIT活用
  売上拡大のための海外展開
  稼ぐ力を支えるリスクマネジメント
 3.中小企業を支える金融
 4.中小企業の稼ぐ力

  稼げる中小企業の特徴分析→中小企業の稼ぐ力を決定づける決定力

この内容を見る限り、普段から日経新聞でも読んでいれば済んでしまいそうな気がします…。

そして、結論としては、2016年版の中小企業白書概要の最終ページに、『中小企業の稼ぐ力 まとめ』がありますので、これに目を通せば中小企業庁が考える中小企業の稼ぐ力が分かります。国が声高に叫んでいる内容と全く同じです。

【中小企業の稼ぐ力 まとめ】
1.稼げる中小企業の取組

・2016年版中小企業白書では、中小企業の稼ぐ力に注目。稼ぐための取組は様々だが、そのうち、IT投資、海外展開、リスクマネジメントの3点を分析した。
・こうした取組を行い、稼いでいる企業には、経営者が(1)ビジョンを明示し、(2)従業員の声を聞きながら、(3)人材育成、(4)業務プロセスの高度化などを行うことにより、さらに生産性の向上につなげているという 共通点があった。また、共通の課題として、人手不足があった。

2.中小企業の成長を支える金融
・無借金企業の割合が増えているが、適度な借入れのある企業の方が収益力がある。
・成長投資を行うために必要な資金供給元となるのは金融機関。
・金融機関借入に当たっては現在の財務内容や資産余力などが評価されている。

→ 事業性評価に基づく融資を実現するためには、金融機関側は、他の支援機関と連携した支援を行う姿勢への転換が、企業側は、事業計画等を積極的に金融機関に伝えることが重要。

3.稼げる中小企業の経営力
・低収益企業は投資に保守的な傾向が見られるが、高収益企業は、計画的かつ積極的に投資を行い、リスクへの備えも行っている。
・経営者が交代していない企業より、経営者が交代した企業の方が収益力が高い。

まず、1.については、流行のビジネス書でも書いてありそうな内容ですが、現実問題として、これらに取り組んでいる中小企業とそうではない中小企業では成長性に差が出やすいように感じます。

なぜなら、ビジョンを明示することも、従業員の声を聞くことも、人材育成に力を入れることも、結局は人材を集め運用するために重視するという近年の傾向であり、少しでも人材不足を解消しようという試みです。近年叫ばれている生産性の重視も、日本においては人材不足から語られるのが情けないところですが、やはりこのようなことに取り組んでいる企業というのは成長に意識的な企業が多いのです。

ただし、このような取り組みを続ける中小企業が稼げているかどうかは別です。しかし、このようなことでもやらないと人が集まらないのだから、そうでもしないと稼ぐことすらもできないという感じでしょうか。人余りの時代であれば、このような取り組みが「稼ぐ取り組み」として取り上げられるようなこともなかったように思われます。

次に2.です。2016年の中小企業白書によると中小企業全体の35.4%が無借金だそうです。感覚的には、そこまで無借金企業が多いのか疑問を感じますが、確かに一昔前よりは増えている気がします。

そして、無借金企業の中でも下記のようなケースがあります。
1)借金する必要がない程お金が余っている企業
2)借金もないが、お金も少ない企業
3)そもそも、借金をしないように経営している企業

1)は、良い時代も悪い時代も乗り越えてきた優良老舗企業の典型的なパターン。このような企業の悩みは、中長期的な方向性が打ち出せないこと…。お金もあるし、利益も出ている、経営に困ることはない。しかし、お金の使い道がなく、次の成長軌道に乗せることができないと悩まれている二代目、三代目の経営者が意外に多いのです。現状を維持していくことも大切なのですが、やはり何かを成し遂げたいと思われるようです。実際に成長軌道に乗った企業は、投資資金として借入も行いますので、ここの分類には入ってきません。

また、内部留保が飛び抜けて多い(=自己資本比率が異常に高い)企業は、意外と近年の収益性が低い傾向にあります。多すぎる借金というのは考えものですが、やはり適度な借金があるというのは成長性を重視する企業に多いため、軌道に乗っている場合には収益性も高くなる傾向にあります。このバランスが難しいところ。

なお、2)と3)は無借金とはいえ、小規模にとどまっている企業が多いため、成長という意味では見込めません。

無借金である最大の理由も、「お金の使い道がない」点にありますが、焦ってお金を使って失敗する必要は全くありません。3.にもつながりますが、後継者にお金を託すという方法もあります。

最後に3.です。結局は、国が「成長するために投資しなさい!」と言っているようなものです。経営者の交代というのは、投資のきっかけにもつながるため、収益性が上がる可能性が高くなるということなのでしょう。

最近ご相談が多いM&Aにおいて、「自分の手を離れた方が会社が良くなるのではないかと考えてしまう…」と口にされる経営者が多いのも事実。ただし、最も経営が安定している中小企業の経営者の年齢層は、60歳代という統計上のデータもあります。このような60歳代の経営者から事業承継を受けた若い経営者が多いために、「経営者の交代=収益力が高い」という結果につながるのは間違いありません。

以上、稼いでいる中小企業の特徴という意味では、中小企業白書がまとめる結論も一つの型なのでしょうが、国が誘導したい方向性と同じなのが少し嫌な感じです。中小企業白書と言いつつ、大企業でも全く同じ方向性でしょう。

中小企業白書に対して少し批判的なスタンスでお伝えした部分もありますが、このような統計データや中小企業の全体的な動向も参考になる部分がありますので、自社の経営と比較して、改めて方向性を模索されてみてください。

中小企業も大企業も、周りと同じ方向を見ていたら突出して稼ぐ事などできません。その中でも、中小企業だからこそ、大きく外れたやり方を模索出来るという強みがありますので。

税法≠実務=信頼関係

税法では認められていないにも関わらず、実務(税務調査)では問題になることがない。
もちろん、そんなことは本来あって良いわけはありません。しかし、実はそんなに珍しいことではありません。

例えば個人事業者の必要経費。自宅を仕事場としている場合、自宅の水道光熱費のうち、何割かを経費として計上することは、ごく当たり前のように行われています。

個人事業者:「自宅で仕事をしているので、自宅の電気代や通信費は経費にできますよね?」

税理士:「そうですね、さすがに全額は無理ですけど、だいたいどれぐらいを事業で使っていらっしゃると考えていますか?」

個人事業者:「うーん、通信費に関しては、固定電話はほぼ使っていないし、妻も子供もインターネットはしませんので、8割くらいですかね・・・電気、水道代は、だいたい3割といった感じですかね」

税理士:「そうですか、少し多い気もするので、安全なところで通信費7割、電気、水道は2割くらいにしておきますか…」

こんなような会話、みなさんも経験あるのではないでしょうか。
実務では、ごくありふれた光景ですが、この会話、税法的には完全に間違いです。
さて、では税法に従うと、さっきの会話の流れはどうなるでしょうか?

個人事業者:「自宅で仕事をしているので、自宅の電気代や通信費は経費にできますよね?」

税理士:「はい、できることはできますが、仕事に必要な部分を明確に分けることはできますか?」

個人事業者:「いやぁ・・・明確にって・・・そんなの無理ですよ」

税理士:「じゃあ経費にすることはできないですね。必要経費にできるのは“業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合”と法律で定めらていますから」

個人事業者:「そんなぁ・・・」

この税理士の言うことは間違っていません。法律には本当にそのように書かれていますので、必要部分を明らかに区分できなければ、本来必要経費に算入することはできないはずなのです。

しかし、必要経費に算入する割合が問題になることはあったとしても、明らかに区分できていないことを理由に必要経費に算入すること自体を認められなかったといったことは、経験上ありませんし、聞いたこともありません。

税務調査において、「じゃあ、5割部分は認めますので、残りの5割は自己否認して修正してください。」といったことを調査官が持ちかけてくることさえもありあます。

つまり「税法では認められていないことが、実務(税務調査)では認められている」ことが少なからずあるのです。

「確かに税法上、そうなってはいるが、実際にそれで課税されたという例は聞いたことがない」
こうしたことは税務署OB税理士や経験豊富な税理士ほど、よく知っています。
「法律上はアウト若しくはグレ-だけど、実務的にはたぶんセーフ」そんな感じです。

私たちは法律家であると同時に実務家でもあります。専門家として職業倫理から著しく外れるような内容でなければ、時には杓子定規になりすぎずに、お客様にとって有利な情報を経験値としてお伝えすべき時もあります。

しかし、実務上は問題になる可能性が低くても、リスクがあるのであれば、そのリスクはしっかりとお客様にご理解いただく必要があります。

そうした時に何よりも大切なのは、お客様との「信頼関係」です。

私は職業柄、様々な場所で、初対面の方に「なにかすごい節税方法がないか?」というようなことをよく聞かれます。しかし、まだ信頼関係の築けていない相手に際どい節税方法を教えることはありません。納税者にとってリスクがある節税方法は専門家にとってもリスクがあるからです。お客様のことを信頼していなければ、リスクは踏めません。

言い方を変えれば、経営者として1円でも多くのお金を残そうと本気になるほど、信頼のおける顧問税理士との良好な関係性が重要になってくるのかもしれません。それにはもちろん皆さまだけでなく、税理士の努力も多大に必要です。

今年も「顧問税理士を変えたい」といったご相談が後を絶ちません。

自戒の念を込めてここに問います。

みなさん、顧問税理士と良い関係性を築けていますか?

舛添前都知事と中小企業のタックスプランニング

ひと悶着ある中で、サッと辞めてしまわれた舛添前都知事。
最後はお金に汚い政治家として退場させられました。
「会計責任者に任せていたから…」というのは、舛添さんだけではなく政治家の決まり文句です。領収書等を会計責任者に直接渡していたのであれば、ご本人に意図があったことは間違いありません。
しかし、舛添さんの一連の報道を見ていると、どうしても頭に浮かんでしまうのが、「東京都が民間企業であったとしたら?」ということ。
海外出張が高額に…。
社有車で別荘に…。
観光ホテルで会議をしたから、その領収書を経費に…。
クレヨンしんちゃんのマンガを経費に…。
もちろん、舛添さんのケースが正当化される訳ではなく、民間企業でも正当化される訳ではありません。
ただ、見解の相違という表現が用いられることがあるように、表面的な事実だけを捉えて、全てがダメだという訳ではありません。
クレヨンしんちゃんのマンガを経費で処理できないということはありません。
合理性があれば問題ないのです。
企業における経費性というのは、経済活動の一環として合理性があるかどうかがポイントです。舛添さんの場合も政治活動として合理性があるかどうかが判断の分かれ目だったはず。
舛添さんの問題を企業の経済活動として考えれば、おそらく経費として否認対象にはなりにくいかと考えます。調査をされた弁護士も、政治資金の使途に法的な制限がないことを挙げて、違法とは言えないということでした。今回はあくまで政治問題として退場させられただけです。
(「見解に相違」はあるでしょうが…)
もちろん、これらを経費で処理せず、個人で負担する方もいらっしゃるでしょう。しかし、これは考え方の違いです。個人で負担するのが善で、経費で処理するのが悪という訳ではありません。経済活動に倫理を持ち込むと少し厄介です。
経費として処理できるものを個人負担する。
個人負担すべきものを経費として処理する。
この二つは全く別の話です。
では、どこを判断基準にするのか?
と問われれば、我々は「タックスプランニングです」とお伝えします。
特に、中小企業においては、会社のお金とオーナー社長のお金は一体であると考えます。会社はすごく儲かって、お金もたくさんある。しかし、オーナー社長個人は借金もあるし、お金がない、という状態は健全ではありません。
もちろん、会社の問題と個人の問題は別と考えるのは当然です。しかし、個人の問題が会社の問題につながるのが中小企業の経営です。逆もまた然り。
例えば、自社株式に対する多額の相続税が払えなければ、その会社や事業はオーナー一族の手から離れる可能性があります。そのとき、従業員の雇用や取引先はどうなるでしょう?
会社には全くお金がなく、今にも潰れそうだが、オーナー経営者個人は生活に困らないほどのお金がある。このような状態であれば、そもそも会社を継続する必要もありません。そのとき、従業員の雇用や取引先はどうなるでしょう?
すなわち、中小企業においては、会社とオーナー経営者の財布を一体と考え、より多くのお金が手元に残るようタックスプランニングすることが必要です。
経費性があるものは極力経費として処理することが、タックスプランニングに資するのであれば、そのようにされることをお勧めしています。役員報酬の金額を決める際も同じことが言えます。
ただし、タックスプランニングを無視する場合もあります。それは、企業の規模拡大や成長投資を継続的に図る場合です。このような時期はとにかく会社にお金が必要です。会社でより多くの利益を出し、会社で納税し、内部留保を積み上げ、より有利な条件で借入れを行い、継続的な投資が必要です。
多額の法人税を納めたくないから、タックスプランニング上有利だからと過度な節税を行ったり、役員報酬の無理な引き上げを行うことは、会社の成長資金を奪うことになります。
そもそも、タックスプランニングは十分な内部留保が積み上がった会社が行うべきものと言えます。
舛添さんの報道を見聞きして、ご自分の経費の使い方について内心穏やかではなかった中小企業の経営者もいらっしゃったのではないでしょうか(苦笑)
国には、倫理性が高い方には税金を少なくするという考え方はありません。税金を課すべき事由が生じたときに課税します。従いまして、例えそれがクレヨンしんちゃんのマンガであっても、経費として処理すべき事由が生じたときに経費として処理するのは、否定されるべき行動ではありません。
そうだからといってやり過ぎてしまえば、ご自身の首を絞めることになりますので、タックスプランニングを考慮しつつ、現在の状況に合せたご判断を行っていただければと考えます。
今回の舛添事件は、中小企業のオーナー経営者にとって、非常に参考になる事例ですね。

『相続対策』を口にする人は安易に信用しないでください

相続税の最高税率が上がり、基礎控除が引き下げになってから1年半が過ぎ、経営者や資産家の中には相続税の心配をされている方が多くいらっしゃいます。
そんな方々の不安につけ込んだ出来事が私の周りで散見されていますので警鐘を鳴らすためにお話いたします。
私が被害と認識している事案での加害者は次のとおりです。
・開発会社・建設会社
・銀行
・生命保険会社
・税理士・コンサルタント
最初に申し上げておきますが、ここにあげた業務に携わるすべての方が加害者であるということでは決してありません。
その中でも最近目に余るのが銀行です。
日銀のマイナス金利政策によってダブついた資金を企業や一般向けに貸し出すことで利益をあげようとしています。
昨今、銀行では貸付できるところがあれば少額でもとにかく貸したいという状況があります。
ある会社のケースについてお話しいたします。
その会社は、社長からの多額の資金を借りており、その結果、社長の相続財産の中に貸付金が入ってくることによって相続税が発生するという懸念がありました。
貸付金については相続財産に含まれ、相続税の課税対象とされるものの、多くのケースでは会社からの返済が期待できないため『負の遺産』と呼ばれています。
事例の会社の場合、社長の他に銀行からも借入金がありましたが、現預金が銀行借り入れよりも多額にあったため、実質的には無借金の状態にありました。
業績も安定していたため、私は銀行借り入れについて一括繰り上げ返済をすべきだとの助言をしました。
私の話を受けて社長が銀行担当者に話をしたところ、相続対策として銀行借入金を使って社長への貸付金を返済してはどうでしょうか?という提案をされたというのです。
相続財産に現預金がなく、納税資金の手当てに苦慮する状況であればその話も一理ありますが、社長へ貸付金を返済しても、貸付金が現預金に代わるだけで相続税の引き下げには全く影響はありません。
今回の事案では、社長からの貸付金は相続後においても会社から返済も可能であるため、相続後に納税資金分を返済することも可能な状況でした。
それにもかかわらず、銀行借入金をそのままにして…というのは銀行に対して利息を払っているだけで、会社にとっては何のメリットもありません。
銀行というよりも担当者の自己中心的な私見です。
同様の事例が、ある資産家についてもありました。
相続対策として、大手デベロッパーからアパート経営を勧められ、すでに何棟かの物件を所有されているオーナーがいらっしゃいました。
アパート経営による相続税節税についても問題は多いのですが、今回はその話は置いておきます。
土地は自己所有でしたがアパートの建設資金は、全額銀行からの融資を受けていました。
金利は2%弱で、今の金利情勢からは比較的高い金利であると言えます。
そんな中で、遊休地が非常に有利な条件で売却できたことから手元に使う予定のない資金が多額に入ってきました。
先程の事例と同様に、私は銀行への繰り上げ返済をすべきとの助言をしました。
オーナーがその話をしたところ、やはり銀行の担当者から「相続対策のためにそのお金は手元に置いておいてはどうか?」と説得され返済できなかったというのです。
いずれのケースも相続対策と言われた人はもともと相続税に不安も持っているため、よくわからないままに銀行の助言を受け入れざるを得ませんでした。
このようなケースでは、私は次のように銀行の方に話をするようにアドバイスさせていただいています。
「顧問税理士からの指導で返済するように言われました」
「返済について意見がある場合には、直接顧問税理士が話を聞くと言っていますが直接お話しをしていただけますか?」
銀行とは良好な関係を築いていきたいという社長のお気持ちはよく理解できます。
そんなときには、是非私を矢面に立たせてくださいと伝えています。
これは決して予防線を引くということではありません。
私とて、知識も経験もまだまだ至らない部分があります。
私が知らなかったことでお客様の利益を逸することがあってはいけませんので端から銀行の助言を否定するというものではありません。
私を説得してでもお客様のためになるという信念をもった銀行員に是非お会いしたいものです。
また、税務署だけでなくこんな話にくい場面でも、税理士を上手に使っていただきたいと私は思っています。
もっともらしい相続対策という言葉には耳を貸さないようにご注意ください。

改めて考えてみる。自計化なのか、外注なのか。

基本的には結論が出ている問題です。
自計化(会計ソフトへの自社での入力)が望ましいと…。
ただし、いつも付きまとうのは費用対効果の問題です。
自計化は分かるのだけれども、新たに経理担当者を雇ってまで行うことなのか?
あるいは、経理担当者が会計ソフトに入力する時間があるのであれば、他の仕事を手伝って欲しいと思うのはおかしいことなのか?
そのような流れで、経営者自ら会計ソフトに取引を入力している中小企業もまだまだ見受けられます。
自社で業績を把握できるのは大切だけれども、外注先である税理士事務所が適時適正に処理してくれれば業績は把握できるし、そもそも経理担当者の処理が正しいとは限らない。そうであるならば、外注しよう!というのは理に適っています。
では、自計化とは本当に望ましい事なのでしょうか?
自計化に話を限定した場合、求められるのはあくまで会計ソフトへの入力。
ある程度の規模の会社になると、経理担当者が必要になってきます。パートスタッフは時間が限定されるため何でもやっていただくという訳には行きませんが、社員の場合は、基本的に何でも任せたくなります。
どうせ給与は固定なのだから、外注して外注費を支払うくらいなら、内製化したい。つまり自計化もしたいという消極的理由は否めません。
年商5億円~10億円程度になると、そもそも取引量が多くなってくるため、私どもにも「経理は何人程度が好ましいのか?」という相談が多くなります。
以前、縦割りの弊害ということをお伝えしましたが、経理は比較的分断された部署のため、人数が多くなりすぎると不要な仕事が増えやすい傾向もあります。他の部署から仕事を押し付けられるのも経理や総務が中心です。他の部署と共有される情報も、請求書等の紙ベースが多いです。
そもそも、経理や総務は雑務が非常に多く、適正人数というのは会社ごとの雑務量に応じるため、簡単に答えはでません。
また、年商数十億円という会社でも、会計ソフトへの入力は派遣社員や外注というのは珍しくはありません。データ入力としてパターン化されている訳ですから、経理からデータ入力を切り離した方が効率が良い場合もあります。
他の経理の業務としては、現預金の入出金管理、請求書、給与や総務関係なども兼ねるケースが多いです。ただし、中小企業においては、振込みの最終承認はあくまで経営者やその親族となるケースが圧倒的です。ここまで経理担当者に任せてしまうと横領の危険性が高まるからでしょう。もちろん、任せてしまった方が良い場合もありますが、判断が難しいところ…。
では、中小企業の経営者は、経理担当者に何を求めるのか?
いわゆる経理としての経理担当者なのか、
経営者の補佐としての経理担当者なのか。
もちろん、経営者は後者を求めます。
しかし、現実問題として後者としての仕事ができる経理は、全体の数パーセントというところでしょうか…。
そして、後者の仕事をできる環境にある経理担当者というのは本当に一握り。経営者は後者を求めますが、他の仕事に忙殺されて、とてもそこまで手が回りません。結局、経営者から管理指標を出すように言われた経理担当者は、税理士事務所に助けを求めます。
先ほど、自計化に話を限定した場合、求められるのはあくまで会計ソフトへの入力とお伝えしましたが、経営者の補佐となると、入力された会計データを基に分析し改善を提言できる人材です。
これができる経理担当者がいるのであれば、やはり自計化は必須です。しかし、単に会計ソフトへの入力を行い、試算表を出力するだけであれば、それは誰が行っても変わりません。
また、自計化と外注の基本的な違いは、会計データの主導権がどちらにあるのかという点につきます。外注という場合は、基本的に税理士事務所側にデータがあり、会社は結果である試算表を受けとるだけ。自計化の場合は自社にデータがありますが、基本的には経理のパソコンに入っています。
従って、経営者のパソコンに会計ソフトが入っており、自身でデータを確認するするというケースは稀です。そうなると、自社の経理のパソコンに会計ソフトが入っていようが、税理士事務所のパソコンに入っていようがあまり関係がなくなります。
さらに言えば、クラウド型の会計ソフトが増えてきたため、経営者でも自由にアクセスできる環境にあります。
経理担当者による不完全な入力で税理士事務所に補完してもらうよりも、完全な外注で完全な入力をしてもらい、経営者が直接会計ソフトにアクセスして確認するという方法もあります。
振込みや入金管理なども、クラウド型の会計ソフトとネットバンキングが直結し始めているため、わざわざ別管理しなくてもよくなってきました。さらに給与ソフトもクラウドなら同様です。
ここまでお読みになった皆さま、
経理担当による自計化は不要になってきているのでは?とお感じではないでしょうか。
お察しの通り、自計化=善、外注=悪、という考えは古くなってきました。
もちろん、業種や規模に応じますので単純には言えませんが、一昔前より、外注の方がむしろ好ましいという中小企業は増えているはずです。
特に創業したての会社であれば、この構造のままある程度の規模まで成長できると思います。
経営者の補佐として経理担当者の役割を求めるのであれば、まずは経理担当者の仕事を明確に定義する必要があります。定義された仕事をこなすのが最優先で、そこに会計ソフトへの入力を組み込むのがよいのかどうかは、その余力があるかどうかです。
比較的規模が大きくなってくると、財務担当者が必要だなんて話が出てくる場合があります。業種にもよりますが、基本的には年商数十億円規模でも必要ないかと考えます。ただし、経理の仕事を明確に定義するのが大前提です。
繰り返しますが、自計化が好ましいのは間違いありませんが、企業規模が大きくなっても自計化以外の選択肢は取り得るということです。外注しているのは後ろめたいと思われる必要もありません。
特に、経理の仕事もAIに駆逐される可能性が非常に高くなっています。より重要な仕事へのシフトを考えた方がよさそうです。

勤めてなくても退職金!?

以前、このメルマガで社会保険料削減案として企業型の「確定拠出型年金制度」をご紹介させていただきました。企業型の確定拠出型年金は中小企業においてネックの退職金制度の導入と社会保険料の削減に効果を発揮することは以前お伝えした通りです。
さて、この確定拠出型年金制度、ご存知のように個人型もあるのですが、先月5月24日に個人型確定拠出型年金の対象者を来年から大幅に増やす改正法が国会で成立したことはご存知でしょうか?
401kとも言われるこの制度。401kと聞くと、なんとなく耳にしたことがあったとしても、制度をきちんと理解している人はかなり少なく、その節税効果の大きさとは裏腹に加入者はまだまだ少ないようです。
これを機に制度の概要と改正内容を理解して、加入を検討してみてはいかがでしょうか。
個人型の確定拠出型年金制度は、自ら掛け金を積み立て、金融商品を選んで年金資産を運用した結果を老後に受け取るといったものです。
現在は企業年金のない会社の会社員と自営業者などが加入の対象で、最大の利点は掛け金全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減される点です。
例えば課税所得500万円の会社員が、掛け金の年間上限額の276,000円を拠出した場合、年間82,800円の節税ができます。
また、なんと運用期間中の運用益に対して税金は課されません。運用益は全額、運用資産に組み入れられるのです。
そして原則60歳からとなる給付金を一時金として受け取った場合には退職所得とみなされて退職所得控除が適用されます。
具体的には、掛金を積み立てた年数が退職所得控除計算上の「勤続年数」として扱われます。退職所得控除の額は、勤続年数20年までは1年につき40万円、20年を超える年数は1年につき70万円を掛けたものの合計金額となり、且つ、それを上回った部分についても課税所得はその2分の1となります。
仮に38年間積み立てた場合、40万円×20年+70万円×18年=2060万円の退職所得控除が適用されることになります。
つまり、課税所得500万円の会社員が、掛け金について所得控除を受けて毎年82,800円の節税を実現しながら、その掛け金による運用益が出てるけど税金はかからず、長年運用も上手く行き、60歳になって38年かけて積み立てた運用益も含めた金額2,000万円を受け取ったけど、退職所得控除の適用で税金は0円!なんてことが実現可能なわけです。(現在の税制下での試算です。)
これだけ聞くと夢のような制度ですが、管理手数料や信託報酬などもかかりますし、選ぶ金融商品によっては、もちろん元本割れのリスクもありますので、どういった商品で運用するか、商品選びや金融機関選びは慎重に行う必要があります。
しかし、管理手数料が安い商品もありますし、運用商品は元本割れしない定期預金などを選べば、節税の恩恵を受けつつ確実に老後資金を蓄えることが可能です。
そして、今回の法改正により個人型の確定拠出型年金制度が公務員や主婦、企業年金のある会社の会社員なども加入できるようになります。対象者の大幅拡大です。
公務員や企業年金のある会社の会社員にとって朗報であることは間違いありませんが主婦にとってはどうでしょうか?
主婦で所得のない人は加入したとしても掛け金の所得控除を受けられないので、一見メリットは無いように見えます。
しかし、しかし、この制度、掛金を積み立てた年数が退職所得控除計算上の「勤続年数」として扱われる仕組みのため、全く働いたことのない主婦でも60歳以降、一時金で受給する際には、退職所得控除の適用対象になり、勤めたことがなくても退職所得控除の恩恵が受けられてしまうのです。
これにより結婚後、働くことの無かった主婦が個人型の確定拠出型年金に30年間拠出した場合でも、退職所得控除により1500万円が税金の対象から外れることになり、これだけの金額を実質的に非課税で運用できることになるのです。
繰り返しになりますが、確定拠出型年金を扱う金融機関や、金融商品によって手数料や扱う金融商品が異なり、選ぶ商品によっては投資リスクが高くなりますので、金融機関選び、商品選びは慎重にならなければなりません。
しかし、そこを気を付ければ、大きな節税効果を享受しつつ老後に備えることができる制度であることは間違いありません。
今回の法改正を受けて、個人型の確定拠出型年金に算入する金融機関が増えることが予想されますし、商品のラインナップも今よりも増えるでしょう。
金融機関の動きにアンテナを張りつつ、加入を検討されてはいかがでしょうか。

マイナス金利のため、生命保険契約はお早めに?

今年の1月、マイナス金利が導入され、4月以降、一時払い終身保険の販売停止が起こるとお伝えさせていただいたのが3月。
一時払い終身保険は利回りが良いため、保険機能よりも貯蓄機能として利用されることが多い商品でした。
しかし、一時払い終身保険を法人で契約することは少ないため、法人においては関係のない話でした。
ところが、週刊東洋経済(2016.4.23)に以下のような記事が出ていました。
「このまま超低金利が続けば、17年4月には一時払いではない平準払い(月払い・年払い)保険についても標準利率が現在の1%から0.25%まで急落する・・・」
これを結論からお伝えすると、以下の二点です。
2017年4月以降の新契約から、
 (1)保険料が上がる(1~2割程度)
 (2)返戻率が下がる
この場合、保障重視の掛捨て保険については影響が少ないと思われますが、法人契約にてよく用いられる長期定期保険や逓増定期保険は返戻率重視のため、大きな影響を受けます。
(個人契約に多い終身保険等も同様に大きな影響を受けます)
つまり、退職金の準備などで、一定の期間払い込む予定の保険については、今までよりも保険料が高くなりつつ、解約時に戻って来るお金は少なくなるということです。
これは、既に契約している保険については影響を受けません。2017年の4月以降に契約する保険から適用されることになります。
「だからすぐに保険を契約した方がよいです!」
というのは保険会社の理屈ではありますが、実際に退職金準備等で生命保険の利用を考えていらっしゃる企業があれば、来年の3月末までに契約してしまった方が良いかもしれません。
長期間に渡る契約のため、パフォーマンスには大きな差が出ます。
契約日が一日ずれるだけで、保険料が1割上がり、返戻率が5%下がるとしたら以下のようになります。
・年間保険料 100万円 → 110万円
・10年後の返戻率 95% → 90%
・10年後の解約返戻金 950万円 → 990万円
・戻ってこない保険料 50万円 → 110万円 = 損失額 60万円
おそらく、最低でもこの程度はパフォーマンスが下がります。
これから保険会社や保険代理店も、「一年後には間に合いませんよ!」と急かすように決算間際に大型の契約を提案してくるはず。
「これがラストチャンスです!」と。
決算間際で検討の時間が少なくなると、この損失額に惑わされ、必要以上に大きな保険に加入しかねません。
生命保険も使いようですから、契約をご検討の方は、保険会社や保険代理店からの営業を受ける前に、必要な額を算定してください。
これが過剰な保険契約から会社を守る有効な手立てです。
当社と提携している総合保険代理店も、一年後には生命保険ではなく損害保険に力を入れると言っておりました(笑)

ここがわからなきゃ裁判に勝ってもそのお金回収できませんよ!

先日、お客様から「(売上)代金が回収できないんだけど何かよい方法はありますか?」とご相談をいただきました。
20代の頃の私は『内容証明郵便』や『少額訴訟』、『支払督促』といった裁判所の手続きをご案内していました。
これらの手続きを行った結果、支払いを受けられたお客様がいらっしゃったことは今思えばとても幸運なことであったと思います。
これらの手続きをされることに慣れていない相手であれば十分効果はあります。
しかし、支払いが滞る債務者は得てして督促系の手続きに慣れているか、もしくは、余裕がなさ過ぎて書類が送られてきても無視されてしまう傾向があります。
また、自分の言い分が正しいことを裁判所に認めてもらい、あなたが悪いのだから「支払いなさい!」と言ってもらっても相手がそれに従わなければ意味がありません。
どれだけの方がご存知か分かりませんが、例えば売上代金を請求したり、貸付金の返済を求める裁判などで『勝訴』しただけで、当然に支払いを受けられるということはありません。
そこで、このような場合には裁判所を通じ『強制執行』という手続きをとり、強制的に回収を行わなければ、判決を受けた意味がありません。
つまり、『強制執行』をするための判決と言っても過言ではありません。
『強制執行』には次のようなものがあります。
1.債権執行
預金債権や売掛債権
2.動産執行
自宅や会社にあるモノや現金
3.不動産執行
その名のとおり土地・建物
中でも、もっとも回収に適しているのが銀行預金口座の差し押さえです。
そこで銀行預金口座の差し押さえについて詳しく話をします。
銀行預金口座を差押さえるためには、裁判所に対して一定の書面を提出する必要がありますが、時間もかかり面倒なため、弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
手続きを弁護士に依頼するのであれば、私たちは何をする必要があるのか?という疑問があると思います。
実は預金の差押えをするためには、差し押さえるべき預金を特定するために必要な事項を記載して申立てなければならないことになっています。
『どこの銀行の何支店に口座があるのか?』ということです。
これがわからなければ弁護士に依頼しても効果的な回収ができません。
取引がありそうな近くの銀行に対して片っ端から差押えをかけることも可能ですが、無駄な費用がかかるだけでなく、先制攻撃に失敗し相手に動きを察知されれば、その後の回収は困難となってしまいます。
重要なことは、債務者の銀行預金口座を事前に調べ強制執行可能な財産の目星を付けたうえで、『少額訴訟』や『支払督促』の判決を得るということです。
預金を特定するために必要な事項とは、銀行については支店名、ゆうちょ銀行については貯金事務センターです。
口座番号や記号番号は必要ありません。
しかし、裁判の段階になってから債務者が口座を持っている銀行名と支店名を情報開示することはありません。
そこで、裁判の段階になってからできる調査方法をご紹介します。
ただし、これらは弁護士に依頼する場合には弁護士がすべて行います。
1.ホームページや会社案内
会社概要のページに取引銀行として銀行名・支店名を開示している場合があります
2.民間調査会社に依頼
3.会社や社長自宅の不動産登記簿
不動産に抵当権・根抵当権が設定されている場合、登記簿に記載され、その情報の中には融資をした取引銀行の銀行名・支店名が記載されています。
4.弁護士会照会
弁護士会から銀行に対して債務者の預金口座等を照会するという方法ですが、個人情報を理由に断る銀行が多いです。
5.財産開示制度
裁判所が相手方の財産の開示を要請するという手続きです。
裁判所の命令によって債務者を裁判所に呼び出し、宣誓のうえで債務者に自己の財産について話をさせるものです。
ここに弁護士業務推進センターが実施した「財産開示手続に関するアンケート」の結果があります。
これによれば手続を行ったが、債権を回収できなかったとの回答が75%に上っており、実効性が懸念される制度であることがうかがえます。
いずれの方法によっても事が起きてからの情報取得は難しいと言わざるを得ません。
そこで取引を始める前に形式的に『企業情報開示』を求めることが有効な方法となります。
それでも中には預金口座の開示に抵抗される会社もあります。
その場合には『営業保証金』を預かる方法が有効です。
ただし、ここでいう保証金は「何百万もの現金を差し入れてもらってください」ということではありません。
形式的で結構ですので数万円から十万円程度の保証金を一時的に預り初回の代金決済後に返金させていただきますという形を取ります。
保証金返還時には「手数料は当社で負担いたしますので取引口座をいくつか教えていただけませんでしょうか?」と聞いてみてください。
何の疑いもなく取引口座を教えてくれます。
取引口座を押さえただけではまだ不十分です。
いざ差押えをしようとした時に、口座にお金が残っていなければ意味がないからです。
そこで次の情報も『企業情報開示』で入手できるとベストです。
・主要な取引先はどこか?
・入金日はいつか?
・給料日、支払日はいつか?
これを把握することで入金日から給料日、支払日までの間に差押えをかけることができ、多くの回収を期待することが可能となります。

中小企業でも陥りやすい縦割りの弊害

縦割りの弊害と聞けば、皆さまも十分ご理解されていると思われます。
一般的にはお役所をイメージされるのではないでしょうか。
ただし、どんなに小さな組織でも縦割りが起こる可能性はありますし、少人数の中小企業も例外ではありません。具体的には、職能別、活動拠点別、事業部別などのセクションが該当します。
社員数の増加に伴って、自然とそのような形になるのは当然のこと。
そして、各社員の役割分担が明確となり、セクション別に行動するようになる。さらに、セクション間で仕事や情報の共有が希薄となり、他のセクションの仕事に理解を示さなくなる…。
もちろん、そのための調整機能として会議というものがありますが、例えば事業部制が進むと業績管理も事業部別となるため、他の事業部のことを気にしていられなくなります。事業部の責任者は自身の事業部の業績で精一杯…。
とはいえ、実際に経験された方もいるかと思いますが、事業部制の組織を進めていっても、ある事業部が人材不足や業績不振に陥ると、「一つの会社なのだから事業部に捉われず協力しよう!」という号令の下に、全社協力体制が敷かれます。
そして、落ち着いた頃には、また元の体制に戻る。
この繰り返し。
最近、当社のお客様の規模も少しずつ大きくなっており、組織内部のご相談を受けることも多くなりました。そこですぐに気付くのが、事業部ごとに別々に運営されているために起きている問題です。
やはり内部にいると見えない。しかし、外から見ると一目瞭然。
組織が大きくなった頃には、経営者自身も各事業部の細部には目が届かなくなるため、縦割りの弊害が起こっていることさえも気付かず、問題を抱えたまま経営を行わざるを得ません。
分かりやすい例を挙げると、下記のようなもの。
・本来であれば同一の業務を、セクションごとに別々に行っている。
・ある事業部で困っていることが、他の事業部では簡単に行われている。
・営業部は忙しそうにしているが、総務部は余力がある。
・事業部ごとに過剰に競い合い、協力しない。
CMなどで名刺情報の共有ソフトが盛んに流れていましたが、社員ごとに抱えている情報が共有されていない典型例です。
大企業ではよく聞く話です。最近の三菱自動車で起きた問題も、開発部門において不都合な情報がブラックボックス化されていたために起きました。
有名な話ですので皆さまもご存知かと思いますが、アップルは事業部制組織を採用しておりません。あれだけの規模の企業で、製品別に責任者がおりません。職能別の組織形態を採用しております。
もちろん、これはスティーブ・ジョブズという経営者が、事業部というセクションを破壊して、職能別に横断的に指示を出していたからこそ可能な芸当です。ワンマン経営者による中小企業的な経営です。
後任のティム・クック体制のアップルに適した組織かどうかは分かりません。
中小企業においても、組織体制を構築するという名のもとに、事業部制を採用する企業が増えてきましたが、とにかく気を付けなければならないのが、これまで述べた縦割りの弊害です。
「分かっている」と、おっしゃる方が多いでしょうが、事実、ある程度の規模を越えた組織においては、縦割りの弊害が存在しない組織などありません。むしろ、自社には縦割りの弊害があるという前提で、組織を見直す必要があります。
特に人材難の中小企業において、縦割りにより隠れた労働力があるかもしれないという可能性は見過ごせません。
また、経営者のタイプによっても、現在の組織体制が合致しているかどうかの見直しも必要です。
中小企業ですから、ワンマンが悪いとは思いません。ワンマンであるにもかかわらず、無理に事業部制を導入して責任者を置き、責任を持たせて運営させるのは、縦割りの弊害を助長しやすいのではないかと考えます。
そうであれば、事業部別ではなく、アップルのように職能別組織にして、組織一体として経営者自ら横断的に指示を出していく方が好ましいかもしれません。
あるいは、調整型の経営者であれば、事業部制を採用し、各事業部で協力できるよう自らバランスを取って経営していくのが好ましいかもしれません。
要は、事業部別でも、職能別でも、活動拠点別でも、組織一体として情報共有と行動ができれば問題ないのです。
組織図がある中小企業も多いかと思いますが、まずは組織図と構成員を確認し、それぞれが同じような仕事をしていないか、共通利用できるリソースはないか等をよく見直す必要があります。
私どもも、二十数名で、二社、二拠点、事業部という形式では三つほどあります。そこで苦心するのは、可能な限り、組織全体で共有できる事項を増やすことです。
問題が共有できれば、横断的に解決できる問題があるのではないかと考えるからです。
事業部制を取り入れれば、「組織」という感じがして、満足感はあるでしょう。ただし、そこから始まる弊害の把握にも努めてください。
私たちは大企業ではありません。中小企業です。経営者次第で組織に柔軟性を持たせられることが強みです。
事業部という縦の組織と、職能別という横の組織、これらを上手くクロスさせ、情報を共有し、縦割りの弊害を排除しましょう。