私がある従業員の方に「あなたはどうしたらもっと仕事で成果を上げられますか?」と質問したところ「30万円貰ったら私もっと頑張って仕事をします!」と言われました。
皆さんは、この言葉を聞いてどのように感じられますか?
「給料が低くては将来が不安で仕事に打ち込めない」という方がいます。
「こんなことを言う従業員はとんでもない」という方がいます。
「仕事はお金でするものではない」という方がいます。
「会社があっての給料じゃないか」という方がいます。
「生活あっての仕事だ」という方がいます。
どれもそれぞれの立場から考えた場合『一理ある!』と言えます。
私は、税理士という仕事柄、経営者の悩みを聞くことは多いのですが、多くの経営者は「会社があっての給料じゃないか」と口にされます。
これはお分かりのとおり、経営者の視点にたった考えです。
しかし、これが経営者の本心ではないことは、皆さんが一番ご存じでしょう。
もしも、従業員の方でこのメールマガジンを読まれている方がいらっしゃれば、これから私が言う言葉に驚かれるかもしれませんが、経営者の本音を一つ正直に申し上げます。
それは『みんなに給料を沢山払ってあげたい』という気持ちを常に持っているということです。
それでは何故給料を安易に増やさないのか?
それは、将来への不安があるからです。
ここでいう将来への不安とは、経済的な不安もさることながら、それだけを意味するものではありません。
給料を増やしたら、この従業員は一生懸命に仕事をしてくれて業績があがるのか?という問題があります。
・業績が上がらないから給料を増やせない
↓
・給料が安いから仕事に意欲が出ない
↓
・仕事に意欲がないから業績が上がらない
↓
・業績が上がらないから給料を増やせない
この悪循環のサイクルのどこかにメスを入れなければ、現状を打開することが出来ないことは分かっていても、それをどこからどのようなタイミングで行うべきかが重要です。
そんな経営者の弱みに付け込んだともいえるアベノミクスによる政策が出てきています。その代表的なものとして『ものづくり補助金』と『所得拡大促進税制』があります。
現在、公募されているものづくり補助金は基本1,000万円の支給額のところ、一定の給与増加があった場合には3倍の3,000万円まで増額して支給されます。
また、平成29年度税制改正では一定の給与増加があった場合の税額控除額が増額されました。
そのため、給与を増やしてもその分補助金が貰えるなら、もしくは、節税になるのであれば給与を増やしてもよいと考える経営者は少なくありません。
所得拡大を目的として定められた政策ですので、それを積極的に利用することは、何ら間違ったことではないと思います。
しかし、丁度いい制度があるのだからこれを使わない手はないでしょ!とばかりに半ば『割り切り』によって、安易に決めてしまわれる方がいらっしゃいます。
しかし、何故かこのような投げやりともとれる安易な決断が、決してうまくいくことがないという事実を経営の現場で多く目にしています。
それが何故なのかという明確な理由は今の私にはわかりませんが、それでもひとつだけ確信をもって言えることがあります。
『考えることから逃げ出した結果には幸せは訪れない』
ということです。
さて、30万円貰ったら頑張ります!という従業員とどう向き合って行きましょうか!
皆さんならどう向き合いますか?
投稿者: aapsmaster0303
税制改正、“まとめ”
12月8日に、平成29年度の税制改正大綱が発表されました。
今年もサプライズがなかったため、事前に報道されていた内容がそのまま収まったという感じです。
配偶者控除の見直しについては長々と説明がありましたが、また複雑な制度になったな…という印象です。
平成30年以降、年収1,120万円を超える方で、配偶者を扶養にされていた場合は増税となります。
今回見直しが行われた配偶者控除の収入分岐点150万円の基準は、時給1,000円で1日6時間、週5日勤務した場合の年収144万円を目途にしているということ。これは240日勤務するということになりますが、土日祝日や盆正月を除いた全日勤務するということです。
240日勤務というのはハードルが高いですし、今まで15時まで勤務していた方が16時に伸びたとしても、政府が目指す労働力の確保や生産性の向上につながるかは疑問があります。特に事務職においてはむしろ生産性が落ちる可能性が高いのではないかと思われます。
ちなみに、平成25年から段階的に年収1,000万円以上の方の給与所得控除額が減額(平成29年にて最終確定)され続けています。この増税が終わると思ったら、平成30年も増税です。
そして、今後も引き続き高所得者の所得税の増税を検討していくと”宣言”しています。この高所得者の基準が年収1,000万円前後に置かれているのは間違いありません。1年で税制を抜本的に改正するのは困難なため、今後も年収1,000万円以上の方の増税が当面行われ続ける可能性が非常に高いということです。
この点、年収1,000万円から1,500万円程度の世帯はますます厳しい環境になると思われます。
増税の影響をもろに受ける下限の年収区分であり、児童手当のカットや高額療養費制度も自己負担限度額が上がったりと、マイナス側面が大きいと言えます。
消費意欲が旺盛なのもこの年収世帯区分の特徴なので、お金が残りにくいブラックゾーンなのではないかと思われます。税負担や経済への貢献度を考えると、報われない層でしょう…。
当然、中小企業の経営者は、この辺の区分の収入の方が非常に多いため(月額100万円というのが一つの目途のため)、厳しいと言わざるを得ません。
また、散々言われていることですが、中間層の減税財源を高所得者に転嫁して中間層の影響を緩和したところで、そもそも中間層の収入が増えなければ意味がありません。
その上で、またしても「従業員の給与を上げてね!」税制(所得拡大促進税制)が強化されました。
「中小企業の経営者の皆さま、あなたの税金はちょっと上がっちゃうけど、従業員の方々の税金は下げてあげるね。それと、従業員の給与を上げたら、法人税は下げてあげるから、がんばってね!」
ということです。
以前から、中小企業のオーナー経営者の個人資産と法人資産のバランスは非常に重要とお伝えしてきましたが、個人への課税が強化される今後の流れから、さらに注意が必要です。
ただし、今回の税制改正で、オーナー経営者向けのメリットがある改正もありました。それは、取引相場のない株式(中小企業等の株式)の評価の見直しです。
内容は下記のとおり。
・類似業種の上場株式の株価について、現行に課税時期の属する月以前2年間平均を加える
・類似業種の上場株式の配当金額、利益金額及び簿価純資産価額について、連結決算を反映させたものとする
・配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重について、1:1:1とする
・評価会社の規模区分の金額等の基準について、大会社及び中会社の適用範囲を総じて拡大する
具体的には個別に計算してみなければ影響は分かりませんが、評価額の低下を意図している部分があるため、この点は中小企業の経営者にとっては朗報となる可能性があります。
平成27年から相続税が増税され、その後は所得税の増税が続いています。今後、所得税の抜本改正で増税が実現すると、次は相続税の番。消費税増税も行いつつ、法人税だけは優遇されていく…。
中小企業のオーナー経営者ほど、国の税制改正の影響を受ける方々はいらっしゃいません。
情報格差によって納税額に大きな差が出てきますので、ご注意ください。
まとめサイトの記事の誤情報が話題となりましたが、中小企業の経営向けの情報も誤情報が非常に多いですから…。
税額控除と税理士賠償訴訟
新聞紙面で連日報道されている税制改正論議。11月15日の日本経済新聞には【中小の賃上げ 減税拡充】との記事が掲載されていました。
【所得拡大促進税制】と呼ばれるこの税制、現状の税制下でも要件を満たせば、かなりの減税効果を享受することが可能です。しかし一方で、要件を満たしているにも関わらず適用を漏らし、税理士が顧問先の会社から訴えられる事案がとても多いことは世間には知られていません。
2015年度の法人税における税理士職業賠償責任保険の支払い事故原因では2位以下に圧倒的な差をつけてのダントツ1位となっているのです。
適用漏れが起こる原因としては、「そもそも税理士事務所の担当者がこの税制を知らなかった」「税制は知っていたが、うっかり適用を忘れてしまった」「適用要件の解釈ミス(計算ミス)」などが考えられます。
もちろん、こうした優遇税制の適用が受けられるのにも関わらず、その適用を漏らしてしまったケースの多くは税理士に責任があります。
しかし、もし皆さんの頭の片隅にこの税制の知識があったなら、たった一言、税理士に確認をするだけで、払う必要のない税金を支払う破目になった挙句、訴訟という多大なストレスのかかる案件に時間やお金を使うという最も不幸な事態に陥らなくて済むかもしれません。
この税制が今度の税制改正で拡充されれば、税額控除の恩恵はさらに大きくなります。
是非この機会に、この税制の概要を理解し自社を自らの手で守りましょう。
大きく要件は3つです。
(1)今期に支払った給与額が、基準事業年度(3月決算の会社は平成25年3月期)に支払った給与額より3%以上増加していること。
(2)今期に支払った給与額が前期に支払った給与額以上であること。
(3)今期の1人当たりの月平均給与が前期の1人当たりの月平均給与を超えていること。
※上記の給与には役員及びその関係者に支払ったものは含みません。
実際には、もう少し細かい要件がありますが、ここではあくまでも制度の概要をザックリと知っていただくことを目的としていますので、細かい要件や説明は省きます。
「うちの会社も使えるかも」ということに気が付いていただき、顧問税理士に確認を取るということが重要です。実際に要件を満たしているかは顧問税理士に計算してもらいましょう。
さてさて、実際の税額控除額の計算です。
(今期支払った給与額)-(基準事業年度に支払った給与額)×10%=税額控除限度額※
※ただし法人税の20%まで
現在であれば基準事業年度は3期前の事業年度になりますので、3期前より1000万円、2000万円給与支払額が増えていれば、100万円、200万円の税額控除が受けられることになります。
さて、再び税制改正論議に戻ります。現在は上記のように基準事業年度より増加した給与の10%が税額控除の限度ですが、これを2倍の20%まで引き上げることで調整に入っているとのことです。
これが決まれば、1000万円、2000万円給与支払額が増えていれば、200万円、400万円の税額控除が受けられることになります。
どうでしょうか?とても大きな税額控除だと思いませんか?
もし、この適用が漏れたら・・・大損です。
実際に適用できるか否かの細かい要件は専門家に任せておけば良いですが、自社を守るためにも、制度の概要くらいは知っておいて損はないと思います。
「そういえば、今期はだいぶ人件費が増えてるから、なんか使える税額控除があったんじゃなかったでしたっけ?」
顧問税理士へのこの一言が自社を守るのです。
※この原稿を書いたあと、12月8日に与党税制改正大綱が発表されました。
これによれば、賃上げ率が2%以上である場合には、合計で22%の税額控除を受けられるようにするとのことです。
賃上げを行う中小企業にとっては、ますます有利な税制になりそうですので、くれぐれも適用漏れのないように注意しましょう。
労災事故から改めて考える、中小企業の労働環境
電通の労災事件は、中小企業の今後の労務管理にも大きな影響を与えると思われます。
保険会社には、労災事故に伴う使用者賠償責任の保険の問い合わせも増えているとのこと。
過大な残業時間による労災事故…。
元社員あるいは現社員からの未払い残業代請求…。
国が規制を強める可能性があり、弁護士がこれを契機に未払い残業代請求を煽る可能性もあります。
『弁護士のテレビCMがニガニガしくなる時代がやってくる!』
と、当社も6年以上前に未払い残業代請求対応セミナーを開催しました。当時でもセミナーの大きな反響に驚きましたが、近年の労働時間短縮、生産性重視、配偶者控除廃止の議論などの流れから、より現実的になってきたかもしれません。
少なくとも8割以上の企業は、自社の労働環境に危機感があると思われます。ただし、これらを解消したくても、慢性的な人手不足が解決できない限り、手の打ちようがないというのが本音でしょうか。また、残業代を全て支払っていたら経営が成り立たないと思われる方も多いはず。
未払い残業代対応セミナーでも、残業代については就業規則や賃金規程の見直しなどで、ある程度の解消はできるとお伝えしましたが、労働時間短縮の根本的な解決にはなりません。
そして、結局のところ、労働時間短縮について本気で取り組んでいる中小企業はほとんど見かけません。
業務拡大、人手不足、コンプライアンス、安請け合いなどから、むしろ労働時間は伸びる一方です。これらの解消のため、大企業を中心にテレワークが叫ばれているものの、どこまで成功するかは分かりません。むしろ懐疑的な見方をされている方が多いことでしょう。
中小企業においては、そもそも経営者自らが365日勤務しているようなものなので、従業員にも長時間労働を求めがちという事実は否めません(もし、経営者が遊び歩いているのにもかかわらず、従業員の長時間労働を放置しているようであれば、その企業の寿命は長くないでしょう…)。
従って、経営とのバランスを取りながら、経営者自ら従業員の長時間労働を改善するという明確な意思を示さない限り、実現不可能です。
誰に対しても長時間労働は絶対に良くないとは言えませんが、大半の従業員については、長時間労働は基本的に是正されるべきと考えています。
それは、長時間労働が常態化した組織が、良い結果にはつながらないことを見てきているからです。さらに言えば、多くの従業員が長時間労働を行ったとしても、それで会社の業績が良くなっていることなど少ないからです。
どちらかというと、どの企業も破綻を回避するために長時間労働を行っているような気がします。そこに改善の意図は見えません。
では、どこに問題があるのかと言うと、中小企業の管理指標に「時間」という概念が取り入れられていることが圧倒的に少ないという点です。
通常、増えた仕事があれば、減らす仕事もあって然るべきであり、あるいは人を増やすか、システム導入などで効率化を図る必要があります。しかし、仕事が増える一方で減るものは少なく、システム導入を行っても、さらに作業が増えるという始末…。
このビフォーアフターを見るために、「時間」という概念が必要なわけですが、時間の管理というと、「残業時間の管理を行う」ということで終わってしまいます。
「残業を止めよう!」と号令を掛けたところで、
「仕事が終わりません!」と反発されるのが目に見えています。
そして、仕事が終わらないと言っている社員に、時間の使い方を改善するよう伝えても、それは無理な話です。
つまり、会社としての目標管理に「時間」という概念を取り入れ、チームや個人の評価の指標にも「時間」を反映させ、それこそ時間を掛けて社内に浸透させる必要があります。
本当のところは「生産性の改善!」とすると聞こえは良いのですが、「生産性って何?」となると難しくなるので、最初は単純に「時間」とした方が良いように思われます。
いずれにしても、自社の労働環境の悪化を放置しておくと、若い世代の採用や定着率に大きな支障を来すため、そろそろ手を打ち始める必要があるのではないでしょうか?
ムダな業務、ムダな会議、ムダな研修、見直す余地はいくらでもあるはずです。
『ジャイアン的思考法』は税務署には通じない!
私が税理士を開業したての頃に出会った老夫婦の話をいたします。
その老夫婦は従業員数名を雇い、小さな会社を経営されていました。
小さいながらも堅実な経営で毎期黒字経営を続けており、役員報酬もご夫婦で2000万円弱をとっていらっしゃいました。
運転資金が心細くなったときや設備投資が必要になったときには社長である旦那さんが会社に貸し付けており、銀行からは無借金ながらも社長からの借入金は数千万円程度はあったという状態です。
そんなある時のこと、いつものように帳面を拝見しながら奥様とお話をしていました。
奥様「会社からは毎月お給料をいただいていることになっているけど、いまどのくらい貯まっているもんかねぇ?」
私 「毎月(会社の)通帳からお給料は振替えになっていますが・・・」
奥様「すべて主人が管理しているから私はいくらもらっているのかもさっぱり分からないんですよ(笑)」
と、こんな感じです。
作業が終わると社長と奥様とお茶を飲みながら話をするのがいつものパターンでした。
そこで先程の奥様からの話を社長さんに聞いてみました。
私 「社長、奥様のお給料は社長がすべて管理されているとお聞きしたのですが、失礼ながらどのようにされているのですか?」
社長「あぁ、そのときによって違うけど大体10万円程度は妻の口座に入れて残りは全部私の口座に入れてますよ」
私 「エッ!奥様名義の口座に全部入れてないんですか?」
社長「入れてないよ。会社でお金が必要になるときがあるから私の口座に入れておいてその都度会社に貸し付けているからね」
社長「今月も車を買うのにお金出してるだろ」
私 「・・・そうだったんですね」
社長「私ら夫婦なんだから妻のものは私のモノ、私のものも私のモノさ(笑)」
この話を聞きながら私の頭に浮かんだのは、昭和のガキ大将『ジャイアン』です。
ジャイアンといえば「お前のものは俺のモノ、俺のものも俺のモノ」という名言があり、これは自らの所有物は当然に自分の所有権を主張しつつ、他者の所有物に対してさえも何の法的根拠なしにその他者の所有権を否定し、所有権が自分にあることを主張するという利己的思考です。
そして、この思考のたちの悪いところは当然に所有権が自分にあると認識しているところで、『贈与』を受けているという認識が全くないという点にあります。
民法では、『贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる』(民法第549条)と規定されています。
これに従えば、ジャイアン的思考によって夫が一方的に自分名義の口座に預金しただけでは贈与とはならないとの見方をすることができます。
ところが、税務署では贈与については当事者の意思にかかわらず『事実認定』という方法によって贈与税の課税を行います。
今回の事例では、長年に渡り自分の現金が夫名義の口座に預金されていることを認識しており、かつ、口座名義人である夫が預金を管理運用し、自由に使用収益させているという『暗黙の了解』がある場合には贈与税が課税されることとなります。
仮に、それが過誤や軽率な判断によりされたものであったとして贈与税が課税される前に本来の所有者に戻されていれば課税はされないこととなりますが、その場合には、過去に遡って預金を個別に把握できることが必要となります。
従って、夫名義の口座に不規則、不定期に預け入れている場合や現金で預け入れている場合、また、会社に貸付けを行っている場合等、個別に財産の管理がされていない場合には妻の所有分を把握することができないため事後の対策をとることすらできなくなってしまいます。
問題はまだ続きます。
このような事例で会社に貸付けを行っている場合、会社の帳簿では多くの場合が夫である社長から借り入れを行ったという処理がされています。
その結果、社長に相続が発生した場合には多額の『貸付金』が相続財産として相続税の課税対象となってしまいます。
オーナーの貸付金は返済の見込みが乏しい場合であったとしても、会社が存続している限り相続財産に含まれてしまい、まさに『負の遺産』となって問題を残します。
ジャイアン的思考、はたまた、昭和初期の家長的思考を税務署が大目に見てくれることはないでしょう(笑)。
金融仲介機能のベンチマーク
以前、金融庁が金融機関の評価にベンチマークを取り入れるという内容をお伝えしました。そのベンチマークが9月に公表されておりますので、ここで改めてお伝えいたします。
まず、ベンチマーク策定の趣旨です(ベンチマーク策定の趣旨より一部抜粋。全文はこちら→「金融仲介機能のベンチマークについて」
多くの金融機関は、その経営理念や事業戦略等において、金融仲介機能を発揮し、取引先企業のニーズや課題に応じた融資やソリューション(解決策)の提供等を行うことにより、取引先企業の成長や地域経済の活性化等に貢献していく方針を掲げている。 他方、企業からは、「金融機関は、相変わらず担保・保証に依存しているなど対応は変わっていない」といった声が依然として聞かれる。昨事務年度に実施した企業ヒアリングでは、多くの企業が、金融機関に対して、事業の理解に基づく融資や経営改善等に向けた支援を求めていることが明らかとなった。 |
つまり、金融機関が掲げている方針と事業の実態が異なるので、金融庁が評価のためのベンチマークを公表しますとのこと。
そして、ベンチマークの活用として、以下の三点を掲げています。
(1)自己点検・評価
(2)自主的開示
(3)対話の実施
このうち、(1)については金融機関の、(3)については金融庁と金融機関の点についてなので省きますが、(2)については、以下のように記載されています。
企業にとっては、自らのニーズや課題解決に応えてくれる金融機関を主体的に選択できるための十分な情報が提供されることが重要であり、金融機関においては、ベンチマークを用い、自身の金融仲介の取組みを積極的かつ具体的に開示し、企業との間の情報の非対称性の解消に努めていただきたい。 |
つまり、金融機関はベンチマークによって自らの取り組みを開示してね!という訳です。これが開示されると何が変わるかというと、中小企業が金融機関を評価できるということです。
いままでは金融機関が中小企業を一方的に評価して、融資条件等を決めていました。そのため、そこには情報の非対称性がありました。しかし、これが公表されることにより、「隣の銀行の方が、しっかりサポートしてくれているではないか!」と分かれば、中小企業がメインバンクを変える行動につながります。
ベンチマークの開示については、まだまだ先で、どのようになるかは分かりません。しかし、スコアが良い金融機関ほど積極的に開示していくでしょうから、金融機関間での競争につながり、中小企業にとっても良い結果につながるかもしれません。
最後に、本題のベンチマークの内容です。ベンチマークは【共通ベンチマーク】として5項目、【選択ベンチマーク】として50項目が掲げられています。さすがにこれを全部ご説明する訳にはいきませんので、気になる方はご自身で目を通していただくとして、今回は一部を取り上げさせていただきます。(全てのベンチマークはこちら→「金融仲介機能のベンチマーク」
中小企業における融資において特に気にすべき点は、選択ベンチマークのうち、下記の部分です。
(2)事業性評価に基づく融資等、担保・保証に過度に依存しない融資 |
5.事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数 |
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6.事業性評価に基づく融資を行っている与信先の融資金利と全融資金利との差 |
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7.地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース) |
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8.地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース) |
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9.地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース) |
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10.中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合 |
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11.経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース) |
つまり、融資の際の担保や保証に関する部分です。金融機関においては、当然のように物的担保を要求し、人的担保である経営者保証に関しては神聖不可侵の領域だというスタンスです。
しかし、以前にもお伝えしたように、担保や経営者保証が外れている中小企業も増えてきました。これは、業績の良し悪しにも影響しますが、やはり金融機関ときちんと対話をしているかどうかにも影響があります。
この対話というのは幅広い意味です。例えば、試算表や決算書を渡して説明するだけではなく、自社の事業を理解してもらえるようビジネスモデルを説明したり、成長可能性や経営課題を伝えて支援を求めたりといったようなことです。
ちなみに、金融機関同士を競合させるだけでも経営者保証が外れることがあります。経営者保証を外すことを嫌がるのは、既存の借入先です。営業に来た新規の金融機関に打診を行えば、意外と経営者保証無しで融資を引き受けてくれる場合もあります。一行でも経営者保証無しの融資が実現すれば、借入金における金融機関別のシェアを変動させていき、最終的に経営者保証無しの状態に仕上げるという戦略も可能です。
そして、今後、この点がベンチマークのスコアにも影響してくるのです。
「おたくの銀行は、担保や経営者保証に関するベンチマークはどのようにお考えですか?」と、担当者を牽制し始める日も遠くないかもしれません。
しかし、同時に中小企業においても求められる点が出てきます。それが、金融機関の事業性評価に対する、経営者からの開示姿勢です。
担保も無し、経営者保証も無しで金融機関が融資を行うのであれば、決算書などの財務面だけではなく、対象企業の事業を評価する必要があります。上記でお伝えしたように、非財務面である事業内容や成長性、経営者の性格、経営課題などを評価し、融資の可否や条件を決めていくことになります。
例えば、融資を引き出すことが上手な経営者は、決算書を渡すだけではなく、今後の自社の成長可能性について、経営計画と題してプレゼン資料を作成します。これは結果として、事業性評価をしてもらうための情報を金融機関に開示していることになります。
もちろん、金融機関に対してプレゼンをしてくださいとお伝えしている訳ではありません。ただ、担保や経営者保証を外していく選択肢というのは、今まで以上に重要になってきます。その際に、金融機関に行ってもらうべきは事業性評価であり、そのためには自社の過去の結果である財務よりも、現在や将来に向けての説明が重要になってくるということです。
いままで、金融機関と中小企業の関係というのは、どちらかというと一方的なものでした。つまり、金融機関が圧倒的に上から目線か、中小企業が金融機関を顎で使うか(格付けが上位の企業がですが…)の分かりやすい関係性です。
この関係性を、事業性評価の名のもとに、自社の情報を金融機関に共有するような形で対等な位置付けに持っていきます。当然狙うポイントは、融資条件の緩和です。
これに応じられないような金融機関は、結果として評価を落としていくことにつながるため、中小企業の市場から淘汰される可能性もあります。地方銀行がこの波をまともに受けたら、単独で生き残っていくことが難しくなります。つまり、中小企業から支持される有力地方銀行に吸収されていくことになります。
以上から、皆さまの会社が、金融機関に事業性評価を求めた場合の反応が、今後のメインバンクの選定にも影響してくるということが分かります。
現時点では、このベンチマークの影響が、地方銀行のさらに地方の支店にまで波及しているとは思えませんが、これから数年という期間においては徐々に浸透してくるのではないかと考えます。
今後も金融機関からの融資が欠かせないという企業においては、金融庁がベンチマークを発表した趣旨を理解し、金融機関の動向を踏まえて対応していくことが望ましいでしょう。
違和感
毎年恒例の税制改正を控え、新聞紙面では現在行われている様々な税制改正論議の内容について連日のように報じられています。
既に感じている方もいらっしゃるかと思いますが、今年の税制改正論議、例年のそれとは少し毛色が違っているように私は感じています。
この国の考えていることが透けて見え、なんだか恐ろしいのです。
先週のメルマガでは、財務省と国税庁が脱税調査に際し、クラウドなどインターネット上に保存されているメールなどの情報を強制的に押収できる権限を認める検討に入ったことをお伝え致しました。国税犯則取締法68年ぶりの改正です。
先週お伝えしたように、これは、いわゆる『マルサ』が行う国税犯則取締法に基づく裁判所の捜査令状を得て行う強制調査事案に関する改正ですので、私たち善良な納税者が受ける所轄税務署による通常の任意調査において、クラウド上に保管されている電子メールや会計データを押収されるようなことは、今のところありません。
しかし、今年の改正論議を見ていると、既に導入済みのマイナンバー然り、この国は我々の監視を一層強めようとしていることに間違いはありません。この流れには違和感と恐ろしさを感じるのは私だけではないはずです。
実は、今回の報道に先立つこと2ヵ月前の8月にも税制改正について、もう一つ驚くべき報道がなされています。
【租税回避策に開示義務 ~財務省など、税理士に 拒めば罰則検討~】
財務省と国税庁は、企業や富裕層に税理士が租税回避のノウハウを提供し、成功報酬を受け取った場合などに、税理士にその具体策を開示させ、拒んだ場合には罰則を設ける改正の2018年度実施を目指しているというのです。しかも適正な助言も開示対象に含むというのですから驚きです。
こうした改正を論議している背景には、近年、脱税の摘発件数や金額が減少しているという事実があると言われています。これは脱税そのものが減っているわけではなく、ITの発達などによって複雑多様化する脱税手法に法律がついていけておらず、証拠の収集が難しくなっていることや、税務当局が把握しきれていない税制の抜け穴を突いた仕組みが横行していることが原因として考えられているのです。
もちろん、脱税や実態の伴わない行き過ぎた租税回避行為は認められるべきではありません。しかし、自分たちが作った法律の抜け穴を、発見した税理士に開示させるというのはいかがなものでしょうか。
抜け穴がないように、立法するのが彼らの仕事であるように、法律を守りながらも、なんとか税金を低く抑え、会社に1円でも多くのお金を残そうと考えるのが経営者と私たち税理士の仕事でもあります。
電子メールや会計データを勝手に「のぞき見」されたり、必死に考えた節税手法を開示させられ、封じ込められたのでは、たまったものではありません。
恐ろしいのと同時に腹立たしさを感じる、こうした改正の動きは、当然、今後の我々の税務戦略にも影響を与えることは間違いありません。
今年の税制改正論議は特に目が離せません。今後もメルマガをお読みいただいている皆様には随時、最新の情報をお伝えしていきたいと考えておりますのでよろしくお願い致します。
現場検証 ~税務調査~
「嫌な改正だな…」
10月10日付け、日本経済新聞朝刊の一面記事に、誰もがそう思ったのではないでしょうか。
『脱税、ITデータも調査 強制招集へ法改正検討』の見出しのとおり、今まで任意提出が基本だったメール履歴などが、強制収集の対象となるようです。
もちろん、改正が行われたとしても、全ての税務調査でメールの履歴を収集される訳ではありません。通常の税務調査は、脱税の摘発を唯一の目的としている訳ではなく、脱税の疑いもないのに、単純にメールの履歴を収集されることはないでしょう。
とはいえ、場合によっては税務調査で濫用される恐れもあり、今後出てくるであろう具体的な改正内容に注目が集まります。
私は、10年程前の税務調査の立会いで、調査官からメール内容の確認を求められたことがありました。しかも、特定の取引に関する特定のメールという趣旨ではなく、「少しメールを見せていただけないですか?」という要望でした。そのお客様は社長が経理を兼務していたため、社長のメールを全部見せてくれと言うのです。
もちろん、私はその必要性を認めなかったため、明確にお断りしました。
ところが!
少し興奮状態だった社長が、ご自身のパソコンをパッと調査官の目の前に差し出し、「ほら、怪しいメールなんて何もないよ!」とメールの画面をスクロールし始めたのです。
幸か不幸か、私からその社長宛に送信した「税務調査につきまして」という件名のメールが全員の目に飛び込んできました(今でもその場面が脳裏に焼き付いています…)
「そのメール、見せて下さい!」と、調査官が厳しい口調で社長に指示が飛びます。
そのメールは、数週間前のものだったので、私も本文の内容を覚えておらず、反射的に「ちょっと待ってください!」と制止しようとしました…が、見事にメールが開かれてしまいました。
メールの本文は、税務調査に対する事前準備や当日の対応などをまとめたもので、怪しい内容は含まれておらず(当然ですが…)胸を撫で下ろしたものの、「ねえ、山田さん。何も悪いことなどしていないですよね?」という社長の言葉に苦笑いしつつ、調査官に「はい、これでメールは終わりです」というのが精一杯でした。
これが私の長い業界経験の中で、“唯一の”そして苦い記憶のメール開示でした。この件以外はメール開示を求められたことはありません。
繰り返しますが、脱税と関係のないメールを開示する義務などありません。そして、法改正が行われても、上記の対応と大きく変わる訳ではないと思われます。
しかし、適正な方法と範囲で税金をより少なくするという努力は行われるべきであり、税理士とお客様がそのためのやり取りをメールで行うことは日常的です。
そして、メールの当事者は共通の理解がある中で、問題ないとして当然のようにやり取りをしている内容も、調査官がそれを確認すれば、「これって脱税の相談じゃないですか?」と主張してくる可能性は十分に考えられます。
また、皆さまも、「これは際どい取引…」と認識しているものもあることでしょう。もともときわどいと認識している取引について調査官から具体的な指摘があり、その取引についてメール以外の証拠がないところまで行きついてしまうと少し厄介かもしれません。取引自体に問題がないとしても、そこに動機やノリのようなものまで記載されていると、バツが悪いものです。
一つでも都合が悪いところが出てくれば、他のところは譲歩しようという心理も働くかもしれません。
そういう意味で、私どもも調査官に誤解を与えて、お客様を不利な状況に追い込むようなメールは控えなければと再認識しました。
ということで、最終的には改正内容が確定してからとなりますが、今からでも、皆さまも調査官に「脱税」と誤解を与えるような内容のメールは極力控えることをお勧めいたします。
ときどき、私どももびっくりするような内容(脱税ではありませんが)を、メールでご相談してくるお客様もいらっしゃいますので…
皆さんは保険にアレを付けていますか?
私がバカでした...。
危うく彼女の言葉に騙されてしまうところでした。
皆さんが私と同じ経験をしないように、今回は恥を忍んでお話いたします。
今回お話するのは生命保険契約、生命共済契約にオプション契約として付けることができる『年金支払特約』についてです。
年金支払特約とは、文字どおり年金で支払いを受ける契約です。
ナニを?
保険事故が発生した際の生命保険金をです。
例えば、代表者が死亡し、3億円の保険金を受け取ることとなったと仮定します。
この場合、死亡した日(一定の場合には通知を受けた日)において3億円全額を収益に計上しなければなりません。
これでは社長が死亡した事業年度の売上減少を補填することはできても、同時に多額の保険金が収益に計上されるため、税金により折角の保険金が社外流出してしまいます。
このような不合理を是正するため、生命保険協会は国税庁に対し、あらかじめ年金で受け取ることが約定されている保険契約の経理処理について質問をしました。
その結果、『平成15年12月15日、国税庁が各国税局及び生命保険協会へ見解を示した事務連絡』の回答がありました。
詳細は省きますが、あらかじめ『年金支払特約』が付加してあった保険については、年金を受け取る都度、その事業年度の収益として計上できることが明らかとなったのです。
これにより、先程の3億円に2000万円づつ15年で受け取る年金支払特約が付加されている場合には、15年間にわたって2000万円を収益に計上できることとなりました。
これこそが年金支払特約の付加による継続的な収益補填機能です。
ポイントは、保険事故(支払事由)発生前に、あらかじめ年金支払特約を付加してあることです。
保険事故(支払事由)発生時になってから特約を付加してもこのような処理は認められません。
ここで話はかわりますが、私がある時にお客様の保険契約の確認をしていると、この年金支払特約が付加されていない保険契約がありました。
ところが、その契約は生命保険契約ではなく『生命共済契約』だったのです。
生命共済契約とは、こくみん共済、県民共済、JA(農協)共済、コープ共済などがあり、生命保険とは監督官庁と根拠法令に違いがあります。
共済契約と言っても目的とするところは一緒なのだから、年金支払特約が付加できるものと思い、お客様の社長にお話し、契約手続きをした店舗に問い合わせていただきました。
すると、応答者より「生命共済契約については、年金支払特約は付加できない」との回答をされたというのです。
連絡を受け、私も直接話を聞いてみると、やはり同じように回答されました。
その回答を聞いて、私は、田舎の支店レベルではそのときの受付の担当者が何もわからずに適当に答えただけだろうと思い、すぐにその共済組合のホームページからお客様相談窓口の電話番号を調べ、電話で問い合わせをしてみました。
すぐに女性の相談員の方が親切に対応してくださいました。
先程と同じ質問をしてみると、「生命保険ではそのような取扱いがあることは存じておりますが、当組合の共済保険ではそのようなお取り扱いはありません。」とはっきりと即座に答えたのです。
私は、その落ち着いた口調と瞬時の返答から、この人が言うなら間違いないだろうと確信しました。
もちろん、以前から年金支払特約は付加できる保険会社と、できない保険会社があるとの情報も得ていましたので、そのときはさほどの抵抗もなく納得していました。
ところが、一年程たったあるとき、まったくの別件で生命保険を取り扱う大手代理店の方と仕事をさせていただく機会があり、そのときに以前の経験を話してみると、共済契約であっても年金支払特約はありますというのです。
後日、その方から共済契約の『約款』が送られてきました。
約款とは、契約のしおりのことで、契約の締結から共済金等の支払い、消滅までの取り決め等を記載したもののことです。
約款を見るとそこには『主契約の共済金の支払事由が発生する前に、共済契約者からこの特約を付加する旨の申出があった場合には年金支払特約を付加することができる』とはっきり記載されていたのです。
そこで、今度はこの約款を提示し、お客様相談窓口に電話をしてみました。
すると、数分は待たされましたが年金支払特約を付加することができるとの回答が得られたのです。
税金のことであれば根拠法令、根拠条文や資料を必ず確認するのですが、それが『共済保険』というだけで相手の言うことを鵜呑みにしていました。
皆さんは私と同じ失敗は絶対にしないでください。
その保険を紹介してくれた外交員さんや販売店の店員の言葉を鵜呑みにせず、ご自身の目で『約款』や『契約のしおり』を確かめ、すべての保険契約に年金支払特約を付けるようにしましょう。
現場検証 ~セカンドオピニオン~
皆さまが税理士にご不満をお持ちなのは十分に承知しております。
税理士にご不満がある場合、直接クレームを入れないのであれば、いきなり解約という方法で関係が終わることも多いのではないでしょうか。
当社は業界に先駆けて、10年以上前から「税理士のセカンドオピニオン」として相談を受け始めました。
最近では盛んに取り上げられるようになった医療のセカンドオピニオンも、当時は一般的ではなかったため、お客様にとっても「税理士のセカンドオピニオンって何?」というような状態でした。
当社が始めたサービスなので、とりあえず申し込んだだけというお客様もいらっしゃったくらいです。まず、何をどのように相談すればよいか分からないと…。
しかし、それでもご相談を受け始めると、どのお客様でも共通なのは顧問税理士に対するご不満でした。つまり、セカンドオピニオンのご相談の過半は、まず顧問税理士の不満から始まります。中には、当社も気を付けなければと考え直すようなご相談もありました。
税理士業界がサービス業として低レベルなのは、私自身もよく理解しております。まだまだ多くの税理士とそのスタッフは、法律と税務署を盾に、お客様よりも自らを守るような話し方がクセ付いております。
皆さまからすれば、そのような話し方をされるくらいであれば、税理士に相談するよりもAIに問い掛けた方が100倍マシなはずです。
とはいえ、セカンドオピニオンでお客様のお話しを伺って、ときどき気になるのは、顧問税理士から積極的な指導があって然るべきというお客様自身のスタンスです。
「税理士“先生”なのだから能動的であるべきであり、お客である自分達は受動的であって当然」というような感じです。
これは医師や弁護士に対する相談であっても同じではないでしょうか?
なぜ、セカンドオピニオンが成り立つのかというと、顧問税理士、主治医、顧問弁護士に対しては受動的でありながら、セカンドオピニオンに対してはお客様が能動的になりやすいからです。
「顧問税理士がこのように言っているのだが、納得できない。本当にそうなのだろうか?」
お客様自身が納得できない点を、本来相談すべき顧問税理士よりも、セカンドオピニオンに対しての方が話しやすい。しかも、現在の不満を最初にぶつけてくれる。それだけでセカンドオピニオンは成立します。
そして、中には顧問税理士には相談すらしていないというお客様もいらっしゃいます。もちろん理由は「相談してもムダだから」。
誤解を恐れずにお伝えすると、セカンドオピニオンでの相談内容自体は大したことがないことが多いのです。自らを守る顧問税理士と、その姿勢に不満を持つお客様との間でコミュニケーションが成立していないだけ。
顧問税理士が説明してもお客様が納得しない内容を、私どもが説明すると納得される場合もあります。
私どもがセカンドオピニオンをさせていただいても難しいと思うケースは、お客様からのご相談内容自体が曖昧で、私どもに何となく状況を説明すれば、解決策が出てくるとお考えの方です。
もちろん、ご相談内容が曖昧の場合は、私どもから具体的に掘り下げる質問をさせていただきますが、お客様自身が相談内容のゴールのイメージを持てていないため、話が進展しないケースも見受けられます。
そのようなお客様は、最後の解決策として、「では、エー・アンド・パートナーズ税理士法人と顧問契約をすればよいか?」とお言葉をいただくこともありますが、正直申しまして、このような場合は顧問税理士として契約させていただいても、解決できない問題かと考えております。
先日、当社グループの長年のお客様である高山さんが本を出版されました。
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この本には、2度の「がん」を経験された高山さんの闘病記が綴られています。高山さんの闘病に対する姿勢は、経営者にとって非常に参考になると考えますので、是非お読みください。
高山さんは命を懸けて闘われました。そして、大袈裟に言えば、会社経営も、「法“人”」の命が懸かっています。しかも、法人の寿命は、人間の平均寿命よりも圧倒的に短いのです。
命がある会社の相談につき、経営者が受動的になってはいけません。皆さま自身が情報をかき集め、顧問税理士に積極的に質問と相談を繰り返し、回答に納得できなかったり、顧問税理士では役不足と判断すれば、セカンドオピニオンも利用すべきなのです。
また、このまま行くと本当に危ないという経営状態であっても、「顧問税理士の仕事には納得していないけど、付き合いがあって簡単に解約できない…」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
もし、ご自身の命が懸かっていても、「付き合いがあるから病院を変えられない…」とおっしゃるでしょうか?
たかが税理士です。命までは取られません。顧問税理士ときちんとコミュニケーションを取れないのであれば、セカンドオピニオンで相談をされるべきですし、顧問税理士を変えるべきです。
高山さんのような患者は、医師に「治したい!」と思わせるはずです。私どもも同じで、「会社を本当に良くしたい!」と熱意を持っていらっしゃる経営者には、より「力になりたい!」と思うのです。
税理士業界がお客様に対する姿勢を改善すべきとともに、皆さまにもより積極的にご相談いただきたいと、業界人の一人として考えております。