節税保険の新ルール

法人向けの節税保険にメスが入ったことは、このメルマガでもお伝えさせて頂きました。

あれから2ヵ月、国税庁が4月11日に公表した改正(案)によって、既契約への遡及適用はしないことが明らかになると同時に、中途解約時の『返戻率』に応じて異なる損金算入割合を適用する新ルールを示しました。

5月10日まで意見公募(パブリックコメント)を行ってから、早ければ6月にも新ルールが適用されます。

見直し案は、段階的に損金算入割合が変化する、複雑なものになりますが、イメージしやすいように、無理やり簡便的にまとめてみました。

基本的に保険期間の経過に応じて損金算入割合が変化していきます。

ピーク時の返戻率が50%以下の商品については全額損金になりますが、ピーク時の返戻率が高いほど当初保険料の損金算入割合が低く制限されていることが分かります。

そして、保険期間の経過に合わせて損金算入割合が上がっていくことになり、最終的には前半で資産計上した部分も取崩して損金に算入していきます。

理屈はこうです。

時の経過に伴い年齢を重ねるほどに死亡リスクは高まりますので、本来であれば保険料は時の経過に応じて高くなるはずです。

しかし、実際の定期保険では保険料が一定です。これは保険期間の前半に後半分の保険料を前払いしていることに他なりません。

つまり、保険期間前半に支払う前払い保険料相当額を資産計上させ、保険期間の経過に応じて損金算入を認めるという考えに基づいているのです。

次に新ルールに基づいて、保険料を1000万円支払った時点で返戻率がピークに達し、解約した場合のシミュレーションを、こちらも簡単にしてみました。

損金算入割合が制限されることで、返戻率のピーク時に解約したとしても、キャッシュアウトの方が当然に大きくなってしまいました。
仮に解約時に何かしらの損金をぶつけて出口対策を施したとしても、③以外はキャッシュ・フローがプラスに転じることはありませんし、③は出口対策を取れればキャッシュ・フローがプラスになるといっても、その効果は少額です。

パブリックコメントを受けて、多少の調整が入ることはあり得ますが、基本的には改正(案)に沿った改正がなされるはずです。
今後、生命保険各社が新商品で抜け道探しをする可能性は高いですが、節税だけを目的にした生命保険への加入は、現状では基本的に選択肢としてなくなることになります。

節税保険には加入していても、経営者に万一のことがあった場合の必要保障額を算定したうえで、不足資金を保険で手当てし、数年おきに会社や経営者個人の状況に応じて見直しをかけるといった作業を行っている中小企業は少ないのが実情です。

今回の改正で、生命保険は本来の役割に立ち返ることになります。
生命保険に限らず損害保険もそうですが、会社の成長などに応じて絶対に随時見直しが必要です。

会社の現状に全く合わない保険に保険料を支払い続けているといったことが本当に少なくありません。
今回の改正をきっかけに、ぜひ自社の保険の総点検をしてみてください。

働き方改革で、生産性は上がるのか?

とうとう、この4月から働き方改革関連法(以下「関連法」)が施行されました。
関連法のうち、具体的なものとして以下が挙げられます。
 A )有給休暇の確実な取得
    *年間10日以上の付与に対して年間5日の消化義務
 B )時間外労働の上限規制
    *原則:月45時間・年360時間
    *例外:月100時間未満・複数月平均80時間・年720時間
   
 C )月60時間超の残業に対する割増賃金率の引きあげ
    *法定割増賃金率50%
中小企業についてAは2019年4月、Bは2020年4月、Cは2023年4月からです。
すでにお分かりのように、働き方改革で行われようとしているのは正社員の労働時間の削減です。
民間企業には任せておけないと、国が規制を強化してきました。
(公務員も状況は同じはずなのですが…)
一人当たりの労働時間を手っ取り早く下げるためには人員増につきますが、採用難と賃金増で簡単に採用できる状況ではありません。
採用が難しければ、設備投資等で労働効率を上げるしかありません。
いずれにしても、労働時間を下げるためにはとてもお金が掛かりそうです…。
これ以上のコスト負担が厳しい企業にとっては、不採算事業の撤退または特定業務の廃止が重要になってきます。不採算事業などはムダな労働時間のカタマリですから、これを無くすだけで社員の労働効率は格段に上がるはず。
とくに中小企業は選択と集中が求められています。リソースが無い中小企業にとって分散は致命的です。
そして、国は働き方改革により生産性を高めようともしていますが、規制により労働時間は削減され、生産性は上がるのでしょうか?
今回の関連法にかかわらず、複雑な規制に中小企業が対応できるはずはありません。
実務上、規制をうまく潜り抜けながら泳いでいるのが中小企業です。
新しい規制が始まっても、いたちごっこが続くことでしょう…。
しかし、規制があまり役に立たないとはいえ、世間からの圧力は無視できない時代でもあります。大都市圏であればなおさらです。結局、規制にかかわらず労働時間を削減する努力は必要になります。
なお、皆さまもお分かりのように労働時間の削減と生産性を上げることはイコールではありません。ただし、生産性が上がることにより、労働時間が少なくなることはあり得ます。
「生産性とは何だ?」
という方も多いでしょうし、その定義は一つでもありません。この生産性というあいまいな表現に惑わされ、本来当たり前に考えるべきことを考えていないというのが現実です。
たとえば、1年間の営業日数。
今年はどこの企業も休日数が多いはずですが、これを現実の問題として十分に把握していない企業が多いかと考えます。
私どもはお客様の生産性の改善を検討する際、1年間の各月の営業日数と社内外のイベントスケジュールをまとめていただくことがあります。
GW・お盆・年末年始という営業日数が限られた月はやれることが少ないのが当然ですが、この営業日数を無視したスケジュールが詰め込まれているケースがほとんどです。
営業日数が通常月よりも5日少ないのに、通常月と同じことをしようとしたらどうなるのか?
このような分かりきったことで無理が重なり、労働時間を減らすことができないということにつながります。また、自社の営業日数が少ないということは、お客様も暇ではないはず。つまりイベントやキャンペーンのパフォーマンスが悪化してもおかしくはありません。
こういう事実を「生産性が悪い」と表現したら誰にでもお分かりのはず。
誰でも考えてみれば分かることを、誰でも目に見えるようにしていない。これが根本的な原因のように感じております。
生産性を上げるという際に一番重要なのは、忙しいときはモーレツに働き、休めるときにはたっぷり休むというメリハリです。
労働時間を平準化しても生産性は上がらないという事実を履き違えると、労働時間を削減した結果として生産性も悪化するという可能性すらあります。
生産性を上げるためには、社内のリソースを具体的に目に見える形で表現し、人もお金も十分に使い切る計画を立て、実行する。これに尽きると考えます。
間違っても、国の方針に従い、労働時間の削減に全力を注がないでください!

ZOZOの中期経営計画を逆さまにしてみる

今や色んな意味で誰もが知る『ZOZOTOWN』。
その業績悪化ぶりは報道により誰もが知るところです。

2018年4月に発表した3ヵ年の中期経営計画で掲げた売上目標は、初年度から大幅未達、ZOZOの今後の経営計画に大きな影響が出ることは間違いありません。

さて、このZOZOの中期経営計画、目にしたことがない方も多いかと思いますので、確認しておきましょう。

 

ZOZOなりの理屈があってこれだけの成長を見込んだのかもしれませんが、縮小していく市場において私たち中小企業の売上高が毎年右肩上がりに成長し続けていく計画など全く意味をなさないことはもうよいでしょう。

しかし、多くの経営計画では、今が順調であればなお、来年以降も順調に売上が推移していくか、来年も同じという前提で数字を組んでいる場合がほとんどです。
しかし、そうした根拠の薄い計画の多くは残念ながら「数字のお遊び」の域を出ません。

そこで発想を変えて、今が順調なのであればなお、この先思うように数字が上がらなくなることを仮定した計画をぜひ立ててみて欲しいのです。

では、ZOZOの中期経営計画、時間の流れを逆さまにしてみましょう。
すると、今が絶好調の時、ここから3年、取扱高・売上高・営業利益が毎年下がっていく計画に変化します。

 

 

果たして、こうした推移をたどることはあり得ないことでしょうか?

・今は順調な集客方法が上手くいかなくなったら・・・
・競合他社の低価格戦略によって、顧客が奪われたら・・・
・隣町にライバルが出店してきたら・・・

考えてみてください。これらは全て実際に普通に起こり得ることのはずです。
実際、時系列を逆さまにしたZOZOの数値、ある意味、恐ろしいほど自然な衰退です。

恐れている何かが起き、それに対応できなければ、全ての企業にこうしたことが起こる可能性があるのは当然のことです。

順調に推移していくだろうという根拠のない希望的観測による計画しか立ててこなければ、実際にこうした事態に陥った時には成す術もなく退場する羽目に陥るかもしれません。

しかし、こうした事態を予め想定することで、自社の損益構造が違った角度から見えるようになり、今のうちからその時に備えて対処方法を練ることができるだけでなく、事態に先立ち別の方法によって売上高を確保する種蒔きを始めておくこともできます。

場合によっては、その時に耐え得るだけの資金を、業績が順調で金利も低い今のうちに銀行から借りて、準備しておいてもよいかもしれません。

売上高が激減する可能性のある、考えられる脅威の1つや2つ、どんな企業でも思い当たるものが必ずあるはずです。
その脅威が起こり、売上高が激減する計画をぜひ一度立ててみてください。

きっと何かが見えるはずです。

またまた節税保険です

既にご存知の方も多いでしょうが、法人向けの節税保険にメスが入りました。
具体的に取扱いが変わるのはまだ先ですが、2月13日に国税庁から見直しの意向を受けてから生命保険各社が順次販売を停止し、2月末にはほぼ全てが停止されました。
(最終的には問題がないであろう商品も販売停止中です)
平成20年に逓増定期保険、平成24年はガン保険と節税保険が封じられてきましたが、平成最後のタイミングでダメ押しという感じです。
今回は平成29年4月に日本生命が販売開始した節税保険を皮切りに、各社入り乱れてのブームが到来しました。それも約2年で終焉を迎えたことになります。
当社と付き合いがある総合保険代理店の担当からこの保険の説明を聞いた時、「普通に考えたらこの商品は無しだよね…」と返答した記憶があります。
それは商品としてお客様側のメリットを感じなかったからです。ですから商品の存在自体もお客様にはお伝えしませんでした。時間のムダだからです。
しかし、実際には全国で売れまくっていました…。結局、どのような商品性の保険であれ『節税効果』を強くうたえば契約してしまう経営者が相当数いらっしゃるという事実に変わりはありません。
ちなみに、この節税保険に対して最初に疑問を投げかけたのは国税庁ではなく金融庁です。
金融庁といえば、昨年退任した森前金融庁長官の時代から金融機関に対して『顧客本位』を強く求めています。
その金融庁が生命保険会社の監督官庁でもありますから、その商品及び売り方が『顧客本位』なのかどうかに疑問を持ったのでしょう。
お客様が節税できて喜べば顧客本位なのかというと、当然そうではないと私も考えます。素人であるお客様はその商品の本当の性質は理解できません。実際、節税保険に加入した後に生じたマイナスの経済効果を知らされることもありません。お客様の最初の満足度は高いのですが、その後が問題なのです…。
もちろん節税効果のある保険自体が悪いという訳ではありません。あくまで商品性が良く、その上で節税効果も見込めるのが経営者にとって良い保険のはず。
しかし、「この保険ですが、保険料の全額が損金に算入できます…」から説明が始まる保険の本来の商品性が良いはずはありません。そもそもの目的が節税好きの経営者に契約してもらうために開発された商品なのですから(顧客ニーズと一致はしていますね)。
この手の保険を売りまくって稼いだ関係者も多いことでしょう。その原資はお客様が支払った保険料から捻出されています。最終的には効果が無い(つまり損をする)であろう商品を売っておいて顧客本位とは口が裂けても言えないでしょう。売る側も本当の節税の意味を理解していない以上、無理もないことではありますが…。
このメールマガジンで繰り返しお伝えしているように、節税保険で実質的に経済効果(節税効果ではなく)を得られるケースは、限りなく少ないのです。
節税効果を得たい経営者と保険を知り尽くしている税理士が適切なタイミングを見計らい、そしてその効果を最大限発揮できる保険商品が存在することによってのみ、保険による節税が可能になるのです。節税とはあくまで税率の違いを利用したテクニックです。節税保険に加入したから節税ができるわけではありません。
結局、何事もやり過ぎると規制がかかります。そのために商品性の良い保険までつぶれてしまっては元も子もありません。
国税庁が生命保険料の損金性の取り扱いを明確にした後、生命保険各社は経営者保険のラインナップを見直すでしょうが、経営者にとって本当に必要な保険は残って欲しいものです。
なお、既契約はそのままの取り扱いで行けるでしょうが、ご契約されている方はどのタイミングが損切りとして適切なのかも十分にご検討ください。

セカンドオピニオンの使い方

今ではごく当たり前になった「税理士のセカンドオピニオン」。
当社がWEBサイト上で顧問税理士以外の税理士に意見を求める業界初のセカンドオピニオンサービスとして「財務プライベートコンセント」を始めたのが2006年3月のこと。
今回、税理士によるセカンドオピニオンの普及に伴い、導入期の当社の役割は終えたと考え、今月末で本サービスを終了させていただくことにしました。
そこで、13年に渡るセカンドオピニオンの経験から「税理士とセカンドオピニオン」について思うところを書いてみたいと思います。
セカンドオピニオンの場合、顧問税理士とは別に料金を支払うことになりますので、多くの方は顧問税理士では解決できない難解な事例、判断が難しい特殊な事例などをご相談いただく場面を想像するのではないでしょうか。
しかし、実際はけっこう違います。
統計を取ったわけではありませんので正確な数字ではありませんが、数多くのご相談を受けてきた私の印象だと、ご相談内容の7割ほどは「そんなこと顧問税理士に聞けばいいのに!?」と思わず口走ってしまいそうな、税理士なら誰でも同じ回答となるような、ごくごく一般的な内容でした。
残り3割のうちの2割ほどは、顧問税理士の言っていることが本当に正しいのかという確認のご相談です。そして、その多くは「正しいですよ。」という結論に至るもので、顧問税理士の見解が誤っているというケースは、そう多くなかったように記憶しています。
残りの1割ほどが特殊、難解な事例や、実務経験が不足していることによって顧問税理士の腰が引けてしまうケースです。
ご相談内容をとても大雑把に括ってしまいましたが、ある意味セカンドオピニオンが本来的に有効な難しい事例の相談というよりは、顧問税理士に対してなんらかの不満や不信感を抱いてるが故のセカンドオピニオンというケースが圧倒的に多かったというのが実際です。
逆に言えば、些細なことでも何かあった時に顧問税理士にすぐに連絡を取れる関係性が築けていれば、基本的にセカンドオピニオンが必要(有効)な事例に当たるようなことは、そうはないはずと言ってよいのではないでしょうか。
当たり前かもしれませんが、セカンドオピニオンを利用しなくても済むには、顧問税理士選びが重要だということになります。
一般的に不満を抱えていても「じゃあ誰に頼めばいいのか」が分からず、税理士を変えることに二の足を踏む経営者が多いと理解していますが、不満や不信感があれば、税理士変更を積極的に検討すべきだと私は思います。
しかし、税理士も実際に付き合ってみなければ分からないことが多く、「自社にとって良い税理士」は誰なのか、どうやって探せばいいのか分からないというのもよく分かります。
顧問変更を考え、無料相談等を受けてみても、その税理士事務所の実際の仕事を見ることはできませんので、ミスマッチを繰り返す可能性が否定できず、結局不満を抱えつつも何か重大事件が起きるまで「とりあえず今のままでいいか・・・」というありがちな結論に落ち着きがちです。
そこでセカンドオピニオンを利用してみてはいかがでしょうか。
セカンドオピニオンは、顧問税理士を変更することなく、他の税理士の実際の仕事を見たうえで値踏みをすることができる絶好の機会と言えます。
しかも、現在では気の利いた事務所であれば大抵の事務所がセカンドオピニオンサービスを展開しています。
もちろん料金はかかりますが、長い目で見て自社に合う顧問税理士を探すためのコストと考えれば、そう高くはないはずですし、実際の仕事を見ずに自社に合わない顧問税理士と契約してしまうリスクを考えれば、メリットは小さくないはずです。
当社ではWEB上のセカンドオピニオンサービス「財務プライベートコンセント」は終了させていただきますが、新たなサービスとして、対面型個別相談形式による「税理士セカンドオピニオン」を提供させていただいておりますので、今後はぜひこちらをご利用ください。

問題が起きてからでは遅いと分かる、勤労統計問題

勤労統計問題がメディアを賑わせていますが、おそらく誰もが「どうでもよい…」と思われていることでしょう。

国家としての問題は大きいといえども、私たちへの影響は皆無…。しかし、気にされている方も多いと思われるのが、この問題の原因が「忙しい」にあると報道されている点です。

では、実際はどうなのかと調べたところ以下のような資料がありました。

*引用:霞が関国家公務員労働組合共闘会議
「中央府省等に働く国家公務員の第26回残業実態アンケート(2017年1月から12月の1年間)の結果について」

まず、結論部分から引用します。

霞が関に働く国家公務員は(1)月平均 33.0 時間の残業をし、(2)58.3%の人が休日勤務をしており、(3)退庁時間が 23 時以降が 9.7%、(4)6.3%が過労死ラインで働いていて、(5)過労死の危険を感じた者が 28.0%、(6)「体調不良」「薬等の服用」「通院加療中」32.2%、(7)「からだの具合が悪く休みたかったが、休めなかった」人が約半数の 45.7%に達していることなどから、霞が関の中央府省の過酷な勤務実態が組合員等の尊い生命を奪いかねないという危機的状況にあることを示しています。

そして、その残業の要因のアンケート結果が以下です。

この中でも厚生労働省は残業時間が突出しているらしく、月平均の残業時間は50時間超とのことでした。

このデータはあくまで労働組合の組合員のアンケートを基にしている…ということを考慮しつつも、各部署の中心で働く方の実態はもっとひどいと想定できます。

そう考えると「なるほど、これは大変だ…」と同情できる部分はあるかもしれません。児童虐待問題で揺れる児童相談所の対応も労働同問題と合わせて考えると、他人ごととは思えません。

経営者の皆さまからすれば「忙しいを理由に自社でこんな仕事をされたら困る!」と言いたいところではありますが、自社で大きな問題が起きた際、その背景にこのような労働実態があったとしたら、これを放置していた経営者の責任ということになってしまいます。仕事ができないとか要領が悪いとか言っても始まりません。

働き方改革や生産性の向上など、実際は名ばかりなのです。旗振り役の自己満足に過ぎません。

形だけの改革を進めたとしても、現実問題として必ずどこかで歪みが生じてしまいます。結局はそれがいつ露呈するのかというタイミングの問題だけで、それまでは現場が巧妙に隠ぺい工作をつづけます。

今回の統計問題も、全数調査が理想であるとはいえ、現場として対応ができないのであれば抽出調査しかあり得ません。

結局、労働力と業務量が一致していなければ必ず仕事は破綻するということを、働き方改革を主導するはずの厚生労働省がみごとに証明してくれました。

こういうことを自社にて客観的に判断することはとても難しいことですが、自社の労働時間を改めて把握したり、間接的な調査になるとはいえCUBIC等で社員のアンケートを取る方法もあります。

問題が起きてからの対処では遅いのですから、皆さまの会社もまずは現状把握から始めてください。社内アンケートを取るのはとても怖いですが…。

人手不足はこのまま続くのか?

私が見る限り店員はわずか3名でした。
1月初旬に私が訪れた300坪を超えるGUの大型店舗です。
ご存知のようにGUはファーストリテイリングの完全子会社で、ユニクロより低価格なカジュアル衣料品を販売することで知られています。
今回私は、近所にあるGUで導入されているセルフレジがすごいという話しを妻から聞き、遅ればせながら「どれどれ」と実際に体験しに行くことにしました。
米のアマゾン・ゴーや中国を始め、日本でも無人コンビニの実験店舗などが話題になっていますので、それに比べればあくまでも「セルフレジ」と、高を括っていました。
しかし、正直かなりの衝撃を受けてしまいました。
今までのセルフレジとは比べ物にならないほど簡単で、しかも圧倒的に早いのです。
買い物客は購入したい商品を買い物かごに入れ、セルフレジ手前でシャツやニットにかけられていたハンガーを外し、そのまま買い物かごごとレジの下にあるボックスに入れてボックスのドアを閉めます。
すると一瞬にしてボックス内の商品についたICタグが読み取られ、レジ画面に商品と価格が表示されます。そして現金を入れるかクレジットカードをスキャンするだけ。
あとはドアを開けて買い物かごを取り出し、用意されている袋に商品を自分で詰めて終わりです。
デニムなどパンツ類をレジが認識すると画面で裾上げの有無を尋ねられます。
裾上げを選ぶと引換券がレシートと一緒に出力され、この時だけレジ付近にいるスタッフが近寄ってきて、その時の込み具合によって仕上がりの時間を記入してくれます。
文章だと伝わりづらいかもしれませんが、スーパーで品物1つ1つを自分でスキャンするセルフレジとは全く異なり、レジ下にあるボックスにかごごと商品を入れるだけで、一瞬にして複数の商品を読み取るこのセルフレジ、とにかく「すごい」の一言でした。
有人レジと比較して精算所要時間は最大で約3分の1に短縮されたそうです。
現在、業界を問わず人手不足は中小企業にとっても大きな問題となっています。
採用は困難を極め、私達の感覚とはかけ離れた賃金と、人材紹介会社への高額なフィーを支払わなければ採用ができなくなってしまいました。
しかし、その一方で、私たちの想像をはるかに超えたスピードで進化する世界。
皆さんはこの相反するとも捉えられる2つの現実をどう考えるでしょう。
GUではデニムなどを除いて、シャツやニットなどは全てハンガーにかけてあるため、お客様が手に取った商品を畳んで戻すスタッフは基本的に見当たりません。
300坪を超える大型店舗で目にしたのはセルフレジの利用をサポートするスタッフ1人に、試着室の横で裾上げ対応をするためのスタッフが2人、計3名でした。
しかも、このセルフレジ2015年5月には試験導入が開始され、既に2017年8月には全国GUの約半数の176店舗に設置されています。
私たち中小企業は税制も含め、常に様々な変化に対応していかなければなりません。
言わば「変化対応業」である我々は常に変化に対して敏感である必要があります。
経営者によって、目の前の変化をどう捉え、どう考え、どう動くか、または動かないかは異なるでしょう。
もちろん正解は分かりません。
インターネットで調べれば動画も見られますが、まだGUのセルフレジを体験していない方は、セルフレジが導入されている店舗へ足を運び、ぜひ自ら体験してみてください。
きっと多くの方の感覚が刺激され、様々なことを考えさせられるきっかけになるはずです。

2019年における経営計画の問題


「今年のことだって分からないのに、数年後のことなんてもってのほかだよ」

税理士が中期計画の作成を促した場合のお決まりの返答です。

今年は消費税の増税があります。
来年は東京オリンピックがあります。
原材料費や人件費は高騰し、採用難はより一層ひどくなっています。
生産性向上の号令のもと、システム導入も検討しなければなりません。

だから先のことを考えても…。
経営者であれば誰もが感じていることです。

数年後のことを考えるなんて本当に面倒なことだと、私どもも分かっております。

そして「先のことは分からない…」とおっしゃる方が中期計画を考える場合、良い計画を立てるわけがありません。お先真っ暗な計画になる可能性の方が高いでしょう。

結局、お先真っ暗な計画を立てるくらいなら、そんなものはわざわざ見たくないというのが正直なところでしょうか。

しかし、私どもの立場からすると「だからこそ先のことを考える必要がある」という説明になります。

この先バラ色の状態が待ち受けていると分かっているのであれば、計画を立てる必要などありません。儲かるのですから何だってできるはず。

また、破綻するのが分かっているのであれば、先のことを計画するのではなく現実的な準備を開始するだけです。

つまり、中期計画は「先のことなど分からない」とお考えの方にとって一番必要なものとなります。

それはなぜか?

「見たくない現実」を数値で見たあとにこそ、危険な未来を回避するための行動をあぶりだせるからです。

皆さまも十分お分かりのとおり、今年黒字を達成するために必要な行動と、5年後に黒字を達成するために必要な行動は異なります。

いま、いま、いま…の繰り返しの行動は火消しで終わってしまいます。しかし「もし5年後に売上高が半減するとしたら」という仮定の下であぶりだされた行動は、その会社にとって絶対に必要なものとなるはずです。火消しではなく土台の再構築です。

したがいまして、経営計画とは数値を予測するための計画ではなく、必要な行動を導き出すための計画であるということを頭に入れておかなければなりません。

この行動のみを導き出せるのであれば、そもそも数値の計画など不要です。ただし、行動の検証のためには数値との突き合わせが有効であり、逆も然りということになります。

皆さんが強調する節目である2020年。これは東京オリンピックが念頭に置かれていますが、その前年、消費税増税が意図的に設定されました。

節目の年の1年前にはじめて中期計画を考えるというのは遅すぎるといえますが、2021年以後の見たくない現実を見ておくには最後の機会ともいえます。

いま正に必要と考えて行っている行動が、3年後または5年後にとって本当に必要な行動なのか?

検証するにはいましかありません。

なお、本来であれば中小企業の中期計画の検討に今後の税制も絡めてお伝えしたいのですが、国が消費税対策に躍起で、“いまの税制”しか考慮できません。まさに中期計画を見失っているのが日本です。

いまの日本のように、この先どうなるか分からないけど計画もない(少なくともほとんどの国民はそのような計画は知らない)という状況を良いと思われる方はいらっしゃらないはず。

その状況を自社でも作り出しているようでは、政府を批判できる立場にはありません。“いまこそ”、この先に必要な行動をあぶりだしてみてはいかがでしょうか。

 

最後に宣伝になりますが、今年の税制改正の音声は消費税増税時における中小企業の考え方について岡本が解説しております。よろしければ参考にされてください。経営者にとってはタイトルにある“ふるさと納税”よりも重要な話です(笑)

新年に「やめる」ことを決める

皆さま、明けましておめでとうございます。
本年も税理士セカンドオピニオンをどうぞよろしくお願い致します。
さて、多くの経営者の皆さまが「今年は○○をやるぞ!」と意気込み新たに新年を迎えていることと思います。
そんな皆さまに、この新年のタイミングで是非考えていただきたいことがあります。
【今年は何をやめるか】
いきなりやる気を削ぐようですが、決して後ろ向きな考えではありません。
採用は困難を極め、リソースの質も量も今後ますます限られていく中小企業にとって、「何をやめるか」「何をやらないか」が今まで以上に重要になっていくことは明らかです。
どんな企業でも少なからず「やめたほうが良いこと」「やめなければいけないこと」「やめたいけど、やめられないでいること」があるはずです。
心当たりはありませんか?
人口が減少し縮みゆく日本の市場において、限られたリソースで戦いを挑むのであれば、やめること、やらないことを的確に判断し、今あるリソースに合わせて注力すべき事業にのみ注力しいくしか中小企業に生き残る術はないはずです。
理屈では理解していても多くの方はこう言います。
「そう簡単にはやめられない」
本当にそうでしょうか。
客観的なデータ等を基に、やめるべきことが浮かび上がれば、あとは決断するだけです。
決断さえしてしまえば、「やめる」ことは意外と難しくありません。
適切なタイミングで何か「やめる」ことは、経営における重要なリスクヘッジであり、新たな可能性へのチャンスでもあります。
「やめること」「やらないこと」を先に決めてしまうことで、「本当にやるべきこと」がより明確になり、自社の課題を克服していくケースを私はたくさん見てきました。
・粗利が〇%残らない仕事はやめる
・〇〇事業をやめる
・無料サービスをやめる
・無駄な会議をやめる
・自分でやるのをやめる(スタッフに任せる)
・自社でやるのをやめる(外注に出す)
・あのお客様との取引をやめる
予め「やらないこと」を決め、「やめる」ことを適切なタイミングで判断できることは、経営者に最も必要な能力の1つであることは間違いありません。
さあ、今年もまた1年が始まります。
皆さんは今年、何をやめますか。

税制改正、異常なし。ただし…

12月14日、税制改正大綱が発表されました。
これは来年改正される予定の税制の内容を与党がまとめたものです。

まれに大改正が行われたり、隠し玉が入っている場合があるため、私どもの業界は発表と同時に目をとおします。

そして、今年の内容はというと「この場でお伝えすべきものは皆無!」と言ってよいほど、何もありませんでした…。

これまで散々報道されてきた、消費税増税対策が盛り込まれているだけです。これならば皆さまに新聞をお読みいただいた方が早い!

さて、これに先立つ11月28日。

消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)』なるものが公表されました。

要約すると「増税に合わせてこういう表現をして消費者を煽るな。だけどこういう表現はOKだよ」等のガイドラインです。

そして、この中で、便乗値上げについて以下のような記載がありました。

また、従来、消費税率の引上げを理由として、それ以上の値上げを行うことは「便乗値上げ」として抑制を求めてきましたが、これは消費税率引上げ前に需要に応じて値上げを行うなど経営判断に基づく自由な価格設定を行うことを何ら妨げるものではありません。

 

あくまで間接的な表現ではありますが、便乗値上げについて『容認』しています。

皆さまの中にも、本来は値上げをしないとやっていられないという状況であるにもかかわらず、便乗値上げとの指摘をおそれて耐え忍んでいるケースがあるのではないでしょうか。

そもそも便乗の批判をおそれて、その結果企業がつぶれてしまっては元も子もないのです。政府もそれを懸念しているのでしょう。

したがいまして、政府は「消費者対策は国がやるので、価格設定については企業がきちんと経営判断を行ってくださいね」と言っているわけです。

つまり、皆さまにとって注目すべきは消費者対策である税制改正の内容ではなく、事業者対策であるこのガイドラインの趣旨ではないでしょうか。

原材料費や人件費の高騰など、いくらでも値上げの根拠はあるでしょう。ただし、仮に根拠がなくとも、今の価格で経営が成り立たないのであれば、値上げか事業縮小かのいずれかを選択しなければなりません。値上げを行った上での事業縮小も重要な選択肢です。

ちなみに、ガイドラインの中で、このような記載もあります。

『⼤企業においても、消費税率引上げ後、⾃らの経営資源を活⽤して値引きなど⾃由に価格設定を⾏うことに何ら制約はありません。』

大企業は値引きOKだよとあえて記載していることを考えると、値上げについての言及は中小企業向けのメッセージであると読み取れます。

さあ、増税前に値上げをするのか、増税後に値上げに追い込まれるのか。準備を含めても残された時間は多くありません。

年末年始に掛けて、よーく自社の事業構造を見直してはいかがでしょうか。