「賃貸アパートを建てれば、相続財産の評価が下がって相続税対策になりますよ!家賃収入だって入ります!相続税の増税も決まっていますし、消費税だって上がります!賃貸アパート建てるなら今でしょ!」こんなセールストークがあちこちから聞こえてきそうです。
相続税対策を考えた事のある方であれば、1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
「賃貸物件を建てれば、相続税が減る。」
このこと自体は決して間違っていません。しかし、不動産経営にかかる費用やリスクを十分検討せずに行うと、相続税の節税効果を打ち消す結末を迎えてしまうことも少なくないのです。
相続税も消費税も増税されることが決まった今、冒頭のような住宅メーカーのセールストークを聞き、不動産経営に乗り出そうと多くの方が考えているはずです。実際、住宅メーカーでは賃貸住宅の受注額がかなり増えているそうです。
しかし、節税対策のつもりが自らの首を絞めてしまうことのないよう、賃貸物件を建てることによる節税メリットと、そのリスクについて知っておきましょう。
繰り返しになりますが、賃貸物件を建てれば相続税が減る事は間違いありません。これは相続税における財産評価の方法による効果です。
例えば相続財産が2億円の現預金のみであった場合、その相続税評価額は額面通り2億円となります。これを子供2人が相続した場合の相続税は2500万円になります。
では、1億円で土地を買い、そこに1億円の賃貸アパートを建て、その土地建物を相続した場合はどうでしょうか。この場合、土地は「貸家建付地」建物は「貸家」として相続税評価額を減らすことができるのです。具体的な計算方法はここでは省略しますが、2億円で手にした土地建物について、場合によっては1億円程度までその相続税評価額を下げることもできるのです。そうすると、これを子供2人が相続した場合の相続税は350万円ほど。相続財産が現預金から土地と賃貸アパートに変わることで、節税額は2150万円となり、その効果の大きさが分かります。
これでだけの節税効果が期待でき、長期に渡って安定した家賃収入を得られるのであれば、この相続税対策は大成功です。こんな試算を見せつけられれば、その気にならないほうがおかしいかもしれません。しかし、現実はそううまくいくとは限りません。
まず、不動産経営にかかる費用は思った以上にかかります。固定資産税や管理費、入退去時の原状回復費用、賃借人を募集する広告費、さらに年数が経つにつれ多くの修繕費がかかるようになります。
そして不動産経営を行ううえで最も考えなければならないのは、家賃の下落や空室のリスクです。不動産経営を勧める住宅メーカー等の試算では、多くの場合その入居率は高く見積もられ、家賃も下がらない前提で予測されているため、安定した収益が得られると錯覚してしまいがちです。
しかし実際には一度空室になると、よほどの好立地でない限り、すぐには次の入居者がきまらないことも多く、また、近所に新築の似たような物件が建ってしまったような場合には賃料も下げざるを得ません。
先程の例では手持ちの現預金で賃貸不動産を購入したと仮定しましたが、これが借金をして購入した場合に家賃下落や空室のリスクにさらされると、賃貸収入では借金返済ができないといった事態に陥ります。中古の賃貸物件が数多く売りに出ているのを目の当たりすると、こうした事態に陥って、結局、賃貸不動産を手放さざるを得なくなる方が多く存在することが容易に想像できます。しかもその売却価格は、都内であれば別ですが新築時の半分以下になることも珍しくありません。
専門家の中には借金をして賃貸物件を購入し、不動産経営を行うことによる相続税対策を勧める者もいます。なぜなら、先程も申し上げたとおり、賃貸物件は相続税評価額を下げることができ、なおかつ、借金は債務として相続財産をマイナスすることができるからです。
しかし、こうした方法は目先の相続税を減らす効果を期待できることは確かですが、その後の不動産経営にかかる経費やリスクを正しく見積もらなければ単なる“ばくち”になってしまいます。みなさんご存知のように賭けごとは外れるのが常です。
こうした不動産経営による相続税対策を行う前提条件は納税資金があること、老後資金が十分にあること、賃貸需要が見込める土地をすでに所有していることなどがあげられます。
目の前の増税に翻弄されて、節税するつもりが資産を減らしただけだったなどという結果を招かない為にも、確かな知識を持つ信頼できる専門家を味方につけ、冷静な判断を下すことが重要です。