今年の税制改正で『相続税』の取り扱いが大きく変わりました。
みなさんにとってはそれほど大きな関心事では
ないかもしれません。
しかし、私たち専門家の中には、今回の改正を
ビジネスチャンスとばかりに鼻息を荒くしている人たちが
たくさんいます。
その結果、自信をもって間違ったアドバイスを行う
“なんちゃって専門家”が出没していますのでご注意ください。
先日も私のところにこんな相談がありました。
相談者は30歳前後の青年です。
相談の内容は少し変えてお話いたしますが、概略は
次のとおりです。
寝たきりで痴呆になった父親と相談者の長男の二人暮らしで、
兄弟はいないとのこと。
奥さんは以前にお亡くなりになっていました。
痴呆といってもいわゆる”まだら呆け”の状態で、
調子がいいときには言う事もしっかりしているとの
ことでした。
このまま痴呆が進んでしまうと、いざというときに
銀行からお金も引き出すことができなくなってしまうという
ことで、銀行員と税理士のアドバイスにより『成年後見』の手続きを
行ったとのことでした。
成年後見とは。判断能力を失った人のかわりとなって
『後見人』が身の回りの世話の手配や財産管理を行うという
ものです。
そして、今回はその後見人に長男がなっていました。
その後しばらくすると入院費もかさむようになり、父親の年金に
長男の稼ぎを足しても生活費がままならない状態となり、生活保護を
受けることを考えているとのことでした。
そこで、今回の相談となった訳ですが、相談の内容は以下の通りです。
「生活保護を受ける前に自宅の土地建物を私(長男)の名義に
変更したいのですが、父親から生前贈与は受けられますか?」
結論から申し上げますと、後見人(長男)は被後見人(父親)に代わって
法律行為をすることができますが、『自己取引』となる取引は行う
ことができません。
被後見人の財産を後見人自身に贈与することはその代表例です。
つまり、成年後見制度は被後見人の保護に限定した財産管理しか
行えないため、相続対策の点から見たら絶対に使ってはいけない
制度です。
一たび家庭に法律や裁判所を持ち込んでしまえば、何も自由が
きかなくなってしまうのです。
今回のように、目先の問題にのみ囚われて、浅知恵のアドバイスを
受けてしまうと思わぬしっぺ返しを受けてしまうことがあります。
みなさんもにわか専門家のアドバイスにはご注意ください。
ちなみに、ご自宅のある地域の不動産の状況にもよりますが、
田舎にある二束三文の自宅の土地建物については、生活保護を
受けるにあたって必ずしも処分が必要とされない場合もあります。