「極めて小さな差がやがては無視できない大きな差となる現象」を、バタフライ・エフェクトと言うことは広く知られています。
「ある場所での蝶の羽ばたきが、そこから離れた場所の将来の天候に影響を与える」というのが由来ですが、日本では「風が吹けば桶屋が儲かる」と言った方が早いでしょうか。
あらゆる行動が一定期間を経て、予想外の結果を招きます。
テレビ事業が8年連続の赤字・・・。
液晶事業の赤字が解消されず・・・。
売るごとに赤字が出る“逆ざや”が続く・・・。
日本企業は3月決算が多く、今の時期は前期決算についての発表が相次ぎますが、ソニー、シャープ、任天堂等、日本を代表する企業の赤字が注目を集めました。
どの企業も、一世を風靡した事業が一転して足枷となり、業績を大きく崩しています。
これらの企業は今後どのように回復を模索するのでしょうか?
来年の決算発表が注目されます。
この点、岡本の『実学 中小企業のパーフェクト会計』でも、「初期条件に対する鋭敏な依存性」として別角度から触れています。
長いですが引用します。
「“初期条件に対する鋭敏な依存性”と科学の世界で呼ばれる現象は、経営の世界でも当てはまります。特に会計においては、その依存性は決定的のように思われます。」
~中略~
「こうして多くの中小企業と自営業者は、財務的に起きた初期の過ちを埋めることができずにあがくことになります。また、本書で提案した数値管理をもってしても、経営の回復がすぐにできることはありません。」
~中略~
「しかし、ここで一言申し上げます。初期の過ちを補正する方法は、この本に書いてあるもの以外にはありません。あくまでも財務的角度からの方法でしかありませんが、こうした財務アプローチなしで、戦略やマーケティングだけで回復を目指しても無理です。
くどいようですが、財務的な過ちは、どんな方法を使ってもすぐに修復することはできません。それはダイエットに似ているともいえましょう。過去に行った行為の結果が自社の目の前の財務です。一枚の貸借対照表は、一つの企業の創業期からの地層です。この地層の変革は並大抵ではありません。
これが最も重要な『見たくない現実』でしょう。」
『実学 中小企業のパーフェクト会計』P326~P328
最近、財務改善のご相談を受けることも多いのですが、大抵は初期の過ちを放置していたことが原因で拡大悪化しているというのが実態です。
事業年度が替わるごとにリセットされる損益計算書と違い、貸借対照表は事業年度が替わってもリセットされないため、そこにフォーカスする習慣がないのも要因です。
そして、これをカバーするのは戦略やマーケティングだという固定観念に囚われているため、財務的アプローチはおざなりにされます。
特に、中小企業は前期の結果検証を十分行わず、経営計画を作成しても「とりあえずこんな感じだな・・・」と目標ベースで新年度の開始を迎えるケースが数多く見受けられます。
このような行動を行うから、こういう結果が起こるという予測をもとに経営計画を立てられる企業は数少ないのです。
つまりは、行動計画を立てていないということになります。
ただし、行動計画を立てても、このような行動を行うから、こういう良い結果を得るはずだという期待予測を行うのは危険です。
どこで何が起こるかが分からないのがバタフライ・エフェクト。
これを少しでもコントロールしようとすれば、地道な計測と、その結果を基に補正を継続することが必要です。
上場企業は決算報告とともに新年度の施策を発表しますが、中小企業も社内で担当者に発表させるような機会を設けるのがよいのではないでしょうか?
これを経営者だけで行っていては、初動や初期条件について検証する機会が失われてしまいます。
また、失敗を初期の段階で認めなければ、何年も苦しむことになります。
今、この瞬間に何を羽ばたくか?
バタフライ・エフェクトは今もどこかで発生しています。