『有期契約社員が同じ職場で5年を超えて働いた場合、本人が希望したら、正社員にしなければならない。』
このような改正案が盛り込まれた労働契約法が閣議決定されたことを受けて、経済評論家である池田信夫氏は自身のブログにおいて次のように語っています。
「これがどういう結果をもたらすかは中学生でもわかるだろう。企業は契約労働者を4年11か月で雇い止めするだけだ。」
政府は、このような改正をすることで、社会的立場の弱い契約社員が減って正社員が増え、“皆が安心して暮らせる社会の構築”を意図しているはずですが、おそらく結果は異なったものとなるでしょう。
5年経ったら正社員として雇用しなければならない(=人件費の増加を招く)ため、同氏の指摘するとおり、企業は4年11か月で雇い止めをし、契約社員はまた1から職を探さなければならなくなる・・・。
つまり、政府が意図する“皆が安心して暮らせる社会”とは、真逆の社会が構築されてしまうことになります。
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このように、主宰者の求めていることとは真逆の結果を生み出す代表的な例として、『保険業界における逆選択』が挙げられます。
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保険会社××生命は、(適正な利益を確保するために)保険料を引き上げました。
健康体のAさんは、そんなに高い保険料を払ってまで保険に入る必要がないため、××生命の保険を解約します。
残るのは高い保険料を払っても元がとれると考えている不健康体のBさんと、超不健康体のCさんです。
××生命は不健康体の人だけが契約者として残ったため、保険金を支払う事由が増えることに備え、(適正な利益を確保するために)また保険料を引き上げます。
不健康体のBさんは、「そんなに保険料が上がるなら・・・」と思い、××生命の保険を解約します。
その結果、最後に残るのは超不健康体のCさんです。
当然ながらCさんは、保険金支払い事由の発生する可能性が最も高い、××生命にとっては招かざる客です。
つまり、保険会社は、適正な利益を確保しようとすることで(=従業員の生活を守る、社会に貢献する)、最も集めたくない客だけを集めてしまう、というジレンマに陥ってしまうのです。
(現在は、加入時の告知や医師の診断等で保険料が調整されるため、かなり是正されてきています。)
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経営者である皆さんは、このような社会的仕組みを理解し、経営へと応用していかなければなりません。
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○△株式会社のCEOである甲さんは、利益を確保するために、人件費を抑えることにしました。
甲さんは、特定の人をリストラすると恨まれそうで怖かったため、皆の給料を一律10%カットしました。
「み、みんなで、痛みに耐えて、不況を乗り切ろう・・・!」
優秀な社員である乙さん、丙さんは、給料カットに腹を立てて退職しました。
乙さん、丙さんは優秀な社員であるため、再就職先も引く手数多。
退職することになんの躊躇もありませんでした。
優秀な社員を失った○△株式会社は、売り上げが急降下・・・。人件費を抑えたにも関わらず、大赤字へと転落してしまいました。
自らの経営判断が意図せざる結果を招いたことで、甲さんは大変後悔しました。
「一律10%カットなどせずに、勇気を出して、問題のある社員からリストラすればよかった・・・」
このようにして、○△株式会社からは辞めて欲しくない優秀な社員が去り、他に行くあてのない(=痛みに耐えるしかない)社員だけが居座り続ける結果となってしまいました。
これはもちろんフィクションです。
しかしながら、このように手法を一つ間違えると、集めたいモノが集まらず、逆に、集めたくないモノが集まることになってしまいますので注意しましょう。