「不動産小口化商品」をご存じでしょうか。
これは2015年に行われた相続税の基礎控除縮小以降に増えた、都心オフィスビルなどを小口化して共同で所有することができる商品です。
分配金(家賃収入)を受け取れることに加えて相続税の財産評価を下げることができるため、先月末の日経新聞の記事によれば、節税したい高齢者に人気で急伸しているそうです。
1口100万円程度から買えるため、アパート・マンション経営などに手が出せない中流層からの関心が高く、記事では神奈川県在住の78才の二宮太郎さん(仮名)が少額から始められるうえ、子ども2人に相続するときに分けやすいとみて4000万円を投じたことが紹介されていました。
土地の評価は時価の約8割、建物は固定資産税評価額が相続税評価額になりますので、現金での相続に比べて相続税が抑えられることはご存じの通りです。都心一等地の物件であれば資産価値が落ちにくいことも事実。小口化されていますので、遺産分割もしやすいでしょう。
しかし、不動産を利用した節税対策が、そもそも中流層に必要なのでしょうか。
基礎控除の改正後、金融資産1億円未満の中流層が広く課税対象となってしまったことは確かですが、記事で紹介されている二宮さんの相続財産が仮に9000万円だとした場合、お子さんが2人いる二宮さんの相続税は奥さまがご存命なら240万円、すでに他界されているようであれば620万円です。
もちろん小さな額ではありませんが、9000万円の金融資産があれば、この額の納税に困ることはないはずです。にもかかわらず、普通に支払える相続税を減らすために9000万円のうちの半分近い4000万円を不動産に変えてしまっていいのでしょうか。
二宮さん自身、まだ78才です。仮に5才年下の奥さまがいらっしゃれば、20年以上の時間が残されていると考えて備えなければなりません。9000万円を20年で割ってみれば、それが思ったよりも大金ではないことに気づくはずです。
長く生きれば病気をして入院することや、施設に入ることにだってなるかもしれません。
そうなればまとまったお金が必要になります。
平均寿命が80才を超え、女性は90才から100才くらいまで生きることを前提に考える必要がある現在、ご自身が生きている間はもちろん、わが亡き後も配偶者がお金の心配をしなくて済むこと、子や孫たちに金銭的な迷惑をかけないように備えておくことのほうが、税金対策よりもはるかに重要です。
「不動産小口化商品」で検索をかければ、節税効果をことさらに強調した広告であふれています。狙いは中流層です。
節税の必要性を熱心に説いてくる人はたくさんいますが、長寿時代の「生存対策」の必要性を説いてくれる人は残念ながら少数です。
中小企業経営者には中流層か、それ以上の方が多くいらっしゃいます。
何が一番大切なことか。今のうちから考えておきましょう。