政治の混迷をよそに、例年どおり税制改正の議論が進んでいます。
岸田首相が発言を繰り返しているのは、期待が高い「賃上げ」…の税制。
人件費関連の法人税制は10年近く続いていますが、これらは景気の拡大期には有り難いものの、停滞期では恩恵を受けにくいものです。
税率についても言えますが、近年の税制は大企業向けのメニューが拡充されてきました。中小企業が大事と口にはされますが、政府にとって頼りになるのは大企業であることは間違いありません。まだ詳細は分かりませんが、改正されるであろう賃上げ税制についても大企業に対するアメが狙いだと思われます。
そもそも人件費の税制は、原則として給与総額を増やす必要があり、インパクトがあるのは新たな雇用です。
例えば、給与総額1億円の会社が3%の賃上げをすれば300万円の増加ですが、社員を1人増やしても300万円以上は増加するはず。
既存社員の給与はできるだけ上げたいのだけれども、「現実問題としては人手を増やしたい」というのが経営者の本音。
賃上げと人数の増加を両立できる中小企業には頑張っていただきたいのですが、このように多くの中小企業にとってはトレードオフです。
売上高が「単価」×「数」であるように、給与も「単価」×「数」。
これまでも、数は無理せず、単価のコントロールが鉄則という点を繰り返しお伝えしてきましたが、これは給与についても同じです。
単価でもある「1人当たり付加価値」という指標は一般的になってきましたが、「1人当たり人件費」はまだまだ重視されていません。
「1人当たり付加価値」を増やしていきたいのであれば、「1人当たり人件費」も当然増やしていくべきです(役員報酬は別扱い)。この二つの指標にギャップが出始めると社員の離職にもつながります。
単純化して考えれば、会社全体の利益との関連性は以下のとおり。
年収の高い上場企業ランキングをご確認いただくと、最上位層は比較的少人数、かつ歩合給の企業が中心です。上記で言えば、典型的な(A)で、当然一人一人の仕事は大変なはず。
社員数の増加は、売上高の増加が必須になります。拡大期においては数も重要になりますが、単価はおざなりにされやすいのも事実。そして、社員数が増えれば増えるほど、そして若い社員を採用すればするほど、1人当たり人件費は下がって行きます。
1人当たり人件費は、短期的には下がった方が利益を出しやすくなりますが、長期的には生産性を悪化させる可能性があります。
これが伸び悩んだり、下落傾向が続くと、優秀な方が辞めていく場合もあります。もちろん、メリハリを付ければよいのですが、人数が増えるとそこまでメンテナンスが追いつきません。典型的な中小企業のジレンマであり、伸び悩む要因です。
「いや、それでも人数が足りないから仕方がないんだよ」
本当にそうでしょうか?
副業、副業と言われる世の中です。皆さまの主観的な印象よりも社員に余力がある可能性があります。つまり、「給与を上げてくれるならもっと仕事をしますよ」という社員は意外に多いはず。
「給与が上がれば仕事をする? そういう意識自体がありえない…」
そのとおりです。
それでも、それが、現実です。
1人に2人分の仕事を割り振るのは困難ですが、10人に11人分の仕事を割り振るのはそれほど難しい訳ではありません。
世間的なトレンドは、労働時間を減らし、休みを増やし、給与も福利厚生も増やすことのようですが、そんなことは、今それができる企業にやらせておけばよいのです。永遠に続く訳はなく、必ず限界が来ます。
仕事量と給与はトレードオフ。やってもらった分を払う。もっと仕事をしてもらいたいのであれば給与も上げればよく、社員の意識が受動的か能動的かは関係ありません。労働時間は仕事量を増やしながら仕組みで改善して行くしかありません。
これが、中小企業の「賃上げ」の本当の中身ではないでしょうか。
もし、社員が馬車馬のように働いているのに、それでも儲けが出ないのであれば、それは経営者の責任です。
中小企業の原理原則は、今も昔も変わりはありません。