不正または搾取が絡む取引の危険性

不動産投資関連において、『かぼちゃの馬車』のサブリース家賃の不払い問題から端を発し、スルガ銀行の不正融資、さらにはアパート開発・管理会社であるTATERUでも融資資料の改ざんが発覚しました。
これらの一連の問題は、規模が大きく組織的であったために大きく取り上げられましたが、不正資料の作成、不正融資などは中小企業の取引でも少なくはありません。
資金繰りに困る企業が行う粉飾などは、会計の考え方次第でいくらでも調整可能ですし、金融機関もそれを分かった上で融資を行っています。結局、お互いが暗黙の了解で取引している場合は公になる可能性が低いと言えます。
しかし、取引の一方のみが不正を行っている場合は話が別です。
不正を行っている側は意図的な行為であり、もう一方は不正を行っていないものの、自分が受け取れるであろう利益を期待して、仮に不審な点があっても「大丈夫だよな…」と目をつぶってしまいます。
そして、不正を自ら行わなかった側が後になってだまされたと訴えるのがこれらの問題点です。不正には加担しなくとも、当初から疑念があった点については、ほとんどの方や企業が認めることでしょう。
では、このように最初から意図的に不正行為を行っている会社、または資金繰りに困った末に詐欺的な行為に手を染める会社を見破ることはできないのでしょうか。
あるいは、不正や詐欺が行われていなくても、「この会社の経営は大丈夫か?」という点について判断することはできないのでしょうか。
基本的にこの答えは簡単で、その会社と実際に取引をしようと試みれば判明します。そして、取引を試みる際の判断基準は以下のようなものがあります。
【取引相手が極端に売上やお金を欲しがっていないか?】
もちろん、どの企業も売上やお金は欲しいものです。しかし、「そこまでするか?」という言動が透けて見えると危険です。カボチャの馬車やTATERUの融資資料の改ざんなどは典型です。特にハイリターンの取引を簡単に実行できるような提案の場合はアウト。その取引は誰にとってメリットがあるのか、誰が一番利益を得るのかについて十分に注意をする必要があります。
【商品またはサービス品質、スタッフの接客レベルに問題はないか?】
これは購入または契約直前まで進み、具体的に商品やサービスを確認して初めて分かるものですが、「この品質で取引して大丈夫か?」と疑念が生じる場合には極めて危険性が高いです。末期状態の企業の品質レベルはとにかく低い。かぼちゃの馬車が問題となった後に、実際の物件の構造が取り上げられていましたが、現物を見て契約した方がどの程度いたのかについて疑問があります。
【取引過程で、本来であれば出てこないであろう幹部クラスが出てきていないか?】
これがある意味一番分かりやすいかもしれませんが、挨拶程度ではなく、幹部クラスが契約の後押しや状況の説明などを始めると、危険度が高いかもしれません。特に取引後の支払について幹部クラスが説明を行うような場合は、資金繰りが赤信号の可能性が高まります。
以上、簡単に説明するとこのようなものが挙げられますが、帝国データバンクや東京商工リサーチで取引相手の財務データを取得するという手もあります。しかし、机上のデータだけでは判断しきれませんし、データが古い場合は現時点での参考にはなりません。
例えば、多額の資金運用を行うファンドマネージャーは、投資先の会社を訪問して経営状況を確認しますが、一般人を装って現場では実際どうなのかを調査することもあるようです。上記のような判断基準を見極めるためでもあるでしょう。
私も、お付き合いがあるお客様の商売を知る一番の方法は、自らのお金でお客様の商品を購入したり、サービスを受けたりすることだと考えておりますので、実際に実行しています。
それにより気付いたことをお客様にフィードバックさせていただくこともありますし、問題点があれば一緒に改善案を検討いたします。お客様の商売が、取引相手から不信感を抱かれているようであれば目も当てられません。
結局、リスクの高い取引の典型は、取引相手に犠牲を強いて、自分の利益を確保しようという意図が透けて見える搾取の構造です。
皆さまの周りでも、自分だけ安全な場所で利益を得て、相手だけが苦しんでいるケースを目にしたことがあるのではないでしょうか。もし、自社のお客様が苦しんでいるようであれば自ら危険性を高めている可能性があります。
このような取引は不正や搾取の温床となり、必ず一方または双方が破たんします。そして、不正や搾取の温床に第三者(例えばスルガ銀行など)まで絡んでくると、さらに被害が大きくなります。
かぼちゃの馬車やTATERUのように不動産投資という高額な取引だからリスクが高いと言ってしまうことはできますが、一般的な取引や金銭の貸し借りでも問題点は同じです。
繰り返しますが、不正や詐欺、不信感を与える取引、資金回収について危険性が高い取引の特徴は、お金を支払う側の利益が高く見えるという点にあります。そして、お金を受け取る側のリスクが極めて低いと想定できる点です。
ニュース等で事件を目にすると、「こんな取引をする人がいるんだな…」と思われる方が多いと思いますが、自らが当事者となっている場合は、その危険性に気付きにくいものです。
自社が被害者になる危険性は避けなければなりませんが、知らないうちに自社が加害者になっている可能性こそ絶対に排除しなければなりません。
社員が勝手にやったなどという言い訳をしたところで、問題が発覚した瞬間、中小企業程度の財務力では一瞬に消し飛んでしまうのですから…。