6月1日の日本経済新聞に賃上げを拒否するパート社員の記事が掲載されていました。
「賃上げを拒否する!?なんで!??」と思う方が多いでしょうが、このお話、いわゆる「103万円の壁」が絡んでいます。
記事によれば賃上げの結果、年収が103万円を超えてしまうことによって夫の所得税を軽くする配偶者控除が使えなくなること、また、夫の会社からの配偶者手当が打ち切りになることを懸念して賃上げ拒否する人、賃上げを受け入れ、勤務時間を減らしたいと希望する人が増加しているとのことです。
増加する社会保険料の負担などを考えると、中小企業にとって優秀なパートスタッフの確保は非常に重要です。そのために時給を上げたら、勤務時間を短くしてほしいと言われてしまう・・・なんとも皮肉な話しです。
また、年末近くになると「103万円の壁」を理由に「休ませて欲しい」と願い出るスタッフのシフト調整に頭を悩ませている企業も多いはずです。
しかし、この「103万円の壁」、雇う方も雇われる方も「103万円を超えない方がいいんでしょ?」という非常にザックリな理解をしている方が多く、実際に103万円を超えると、どれくらい税額に影響があるのかを知らずに、頑なに拘っているケースが少なくありません。
実際の影響額を知っておけば、「103万円の壁」に必ずしも拘る必要がないという結論に至る人も少なくないはずです。そうなれば、企業も多忙な年末にシフト調整の必要がなくなります。では次の表をご覧ください。
この表は配偶者控除・配偶者特別控除を適用した場合、妻のパート収入金額に対して、実際に夫の所得税住民税が、いくら減るのかを計算したものです。
夫が課せられる税率は、所得金額に応じて異なります。所得控除は人によって異なるため、一概には言えませんが、税率5%は年収~400万円ほどの方、税率10%は年収500~600万円ほどの方、税率20%は年収700万円~800万円ほどの方がおおまかな目安になります。
夫の年収が500万円ほどで適用税率が10%の方の場合、奥様のパート収入が103万円以下であれば、夫の税金が所得税住民税合わせて71,000円減ることが表からわかります。同じ条件で、奥様のパート収入が118万円だった場合は、夫の税金は52,000円減ります。
次に、これを“妻のパート収入が103万円以下であった場合と、そうでなかった場合を比べると、夫の税額がどれだけ増加するのか”という観点で見てみることにします。
先ほどと同じ、夫の年収が500万円ほどで税率が10%の人の場合、妻が年収103万円以下に抑えた場合と、年収が124万円であった場合の夫の税金の増加額は29,000円であることがわかります。
確かに、妻の年収が21万円上がったことによって夫の税金は29,000円増加します。
しかし、世帯での手取り額についてはどうでしょうか。夫の税金は29,000円増加しますが、収入が増えたことによる妻の所得税・住民税の増加額3万円程度を考慮しても、世帯の手取り額は15万円程度増加するのです。
もちろん、妻の収入が103万円を超えると夫の会社で配偶者手当が出なくなるといったような場合には、そこも含めての検討が必要になりますが、もし、そうした事情が無い場合に税額だけで見ると、必ずしも103万円に固執せずに、妻の収入を増やすという選択肢が当然に生まれてきます。
ただし、ご存知のように年収が130万円以上になった場合、妻が自身で社会保険に加入する必要が出てきてしまいます。社会保険に加入した場合、手取り額は一気に減りますので、そういった意味では「103万円の壁」よりもむしろ「130万円の壁」の方が重要です。
多くの人は実際にどれくらいの影響が金額として出るのかを知ることなく「103万円の壁」という言葉に囚われてしまっています。実際の影響や感じ方は個々の状況等によって変わってはきますが、夫の会社での配偶者手当を気にする必要が無い方は、年収を130万円未満に抑えておけば、「103万円の壁」はそれほど気にする必要がないと言ってもよいのではないでしょうか。
今年も早いもので、もう半分が過ぎようとしています。年末まであっという間です。労働人口が年々減少していく現在、パートスタッフは貴重な戦力です。年末の忙しい時期にこそ活躍してもらえるよう、パートスタッフさんに正しい知識を持ってもらいましょう。