経営者保証というラベル

今月、経営者保証を“実質的に制限”する改正案が金融庁から発表されました。

金融機関による中小企業向け融資に対する監督指針の改正であり、2023年4月から予定しているようです。

もちろん朗報です。

経営者保証に実質的な意味はありませんでした。しかし、いままであったものが無くなるということはトレードオフも発生するため、注意が必要になってきます…。

まず、平成25年に経営者保証のガイドラインが公表され、以下の3要件を充たせば「経営者保証なしで融資を受けられる可能性がある」、または「すでに提供している経営者保証を見直すことができる可能性がある」とされました。

【1】 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている
【2】 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
【3】 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

ただし、あくまでガイドラインですから拘束力はありません。直近の中小企業向けの新規融資における経営者保証の割合は約7割とのことですから、有効に機能しているとは言えません。

金融庁はここにメスを入れます。

今後、金融機関が経営者保証を求める場合には、上記の3要件を踏まえ、具体的にどの部分が十分ではないのか、どこを改善すれば経営者保証の変更・解除の可能性が高まるのかを説明し、その旨を記録する義務を課すということです。

これまで金融機関は定量的な判断基準を示さずに経営者保証を求め、経営者はこれを受け入れるしかありませんでした。一方、ガイドライン公表以降は、経営者がゴネたら簡単に外れたということもありました。つまり、本来は経営者保証が必要ではない中小企業に対しても、一律に経営者保証を求めていたケースが多くあったということです。

今回の改正により、理由なく経営者保証を求められることはなく、透明性が高まるのは間違いありません。

しかし、金融機関が個別具体的に経営者を丸め込めば、これまでどおり経営者保証を求めることはできるわけです。結局は金融機関とのパワーバランスにもよるため、経営者が自ら折れることもあるでしょう。

そもそも、融資を受けなければ経営が立ち行かないという状況では、上記【2】の要件を充たせるとも思えません。経営者保証がなくなれば、融資金額が抑制される可能性もあります。金利にも影響しますし、どうしても経営者保証を外したい場合は、信用保証協会付きにして上乗せ保証料を支払うしかありません。

なお、改正の発端の一つは、日本でもっと起業を促すために経営者保証のリスクを取り除くという点にあるようです。しかし、融資金額が少なくなれば、起業しても資金繰りに困る可能性が高まります。倒産からの再出発はしやすくなるかもしれませんが、勝負を掛けたいときに資金不足に困ることもあります。これらを踏まえると、経営者保証を簡単に外すことが中小企業経営にとって最善なのか、という点は疑問が残ります。

また、3要件自体に変更はありません。あくまで3要件を充たすことが求められ、充たしていなければ状況は変わりません。

そして、定量的に判断されるということは、いままでのグレーゾーンがなくなり、白黒をはっきり付けられることになります。経営者保証の有無が対外的に公表されることはありませんが、定量的な基準が明確になれば、信用調査など、見る人が見ればすぐに分かってしまいます。

経営者保証が外れないレベルの会社、つまり財務基盤が弱いと判断される会社と重要な取引をしたいと思われるのか?

今後は下手に節税やムダ遣いをしている場合ではありません。値上げができないと嘆いている場合でもありません。確実に利益を出し、内部留保を積み増し、財務基盤を強固にすることの優先順位が高まります。

財務基盤が強固になるということは、融資を受けなくても自己資金でまかなえる可能性も高まります。同時に、経営者保証が外れ、かつ融資を受けやすくなる。

中小企業において定量的に勝ち組・負け組が明確になり、経営者保証というラベルが、これまで以上に際立つ格好になります。

以上、経営者保証の基準が明確になるということは、実はメリットだけではないことが想定されます。

繰り返しますが、これまで以上に中小企業の財務力は重視されます。皆さまの会社も準備を始めてください。経営者保証という「負け組ラベル」を貼られないよう注意する必要があります。

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