固定か、変動か

費用の性質に、固定・変動があることはご存じのとおり。
いわゆる、固定費と変動費です。

同じように、売上高を分けて考えることができます。

私どものような税理士業界は典型的な固定性売上のビジネス。拡大に意欲的、または創業間もないというケースは別ですが、基本的に8~9割の売上高は固定しており、顧客の増減、およびスポットの仕事で変わる程度。増減が極めて緩やかということです。

「税理士は固定収入だからいいよね…」と、よく言われてはきましたが、コロナ禍の影響を受けにくい代わりに、何かをきっかけとして大きく減少すると簡単に戻すことができません。

もし、コロナ禍で税理士事務所の売上高が半減したら、最後は人員整理に踏み切らざるを得ないでしょう。雇用調整助成金でその場をしのいでも、コロナが収まればお客様が戻ってくる…というビジネスではないからです。

つまり、固定性という安定と引き換えに “復元力”がとても低い。復元力が低いにもかかわらず固定費を維持することは危険ですが、実際に固定費を半減させたら復元力は完全に失われます。固定制売上と固定費比率の高さは基本的にセットです。

ただし、例外もあり、「飲食業特化型」税理士事務所が挙げられます。
(税理士業界も特化型が流行りです)

「飲食業特化型」には明確な理由があり、それは仕事をパターン化できる楽な業種だからです。比較的規模も小さいし、複雑な税制を使う必要もありません。パートスタッフ・外注だけで回すこともできる薄利多売モデル。仕組みがあれば、雪だるま式に顧客を増やすこともできます。

そのような事務所がコロナ禍でどのようになっているのかは分かりませんが、売上高が急減していてもおかしくはありません。ただし、労働力も変動費化できているはずなので潰れることもないはず。そして、コロナが収まれば、また顧客を増やしていくでしょう。復元力は非常に高いと言えます。

つまり、固定性売上と思われるビジネスでも、得意先次第で変動性売上と化す可能性があります。当然、費用も変動費化しておくことが必要です。

売上高の変動幅が大きいということは、それだけ顧客が離れやすく、戻りやすいビジネスを行っているということが分かります。

この困難な時期、固定性売上に憧れる企業も多いとは思われますが、税理士のような独占業務を扱う専門職を除けば、固定性売上(=離れにくい顧客)は企業としての地力が求められます。地力が求められるということは簡単に売上高を増やすことが難しく、固定費比率も高くなる傾向があります。また、固定性売上の方向に舵を切ったら、簡単に止めることもできません。

結局、問題となるのは、売上高が変動することではなく、コロナ禍のような外的環境が改善しても売上高が戻らない、つまり「得意先を持っていない企業」という現実です。

この2年…。自社の売上高の源泉が、どのような顧客属性に応じているのかを気づかせてくれました。従って、この事実を踏まえず、次に向かうことは危険です。

次に日本を揺るがす外的環境の変化が起こったとき、頼みの綱が得意先ではなく、公的なセーフティーネットということであれば、コロナ禍から何も学ばなかったということになるからです。

事業承継について考える

先月公表された令和3年度税制改正大綱で、事業承継税制の特例措置が令和9年12月末までの適用期限をもって延長しないことが明記されました。

ご存じのように、これは中小企業の株式を贈与又は相続等で取得した場合の贈与税・相続税について100%の納税猶予が受けられる制度です。適用を受けるためには令和6年3月31日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。

ここで制度の詳細と適用の是非について論じることはしませんが、年齢的にも事業承継は、まだまだ先のことだと思っている方にこそ考えるきっかけにしていただきたいのです。

この税制を実際に使うかどうかは別として、とりあえず納税猶予の権利を得ておくために特例承継計画を提出していただくケースには共通点があります。

お子さんがいらっしゃるものの、後継者が決まっていないことです。

時代と言っていいのだと思います。昔と違い、多くの経営者が「子供には子供の人生がある」と考え、子供には自分の好きな道を進むようにと育ててきています。

ましてや世の中の変化のスピードが信じられないほど早くなり、3年後どころか来年すら見通しづらい経営環境です。子供に事業を継がせていいのか迷う気持ちも分かります。

しかし、経営者が50代半ばほどに差し掛かり本気で事業承継について考え出すころ、事業が比較的順調であればなお、その想いには変化が現れます。

株式の問題などを含めて社員への内部承継が実現困難であることを悟り、M&Aという選択肢も視野に入れ始めるも、「できれば我が子に継いでもらいたい」そう考え始める経営者が多いのです。

とはいえ昔と違い、この時点で子供への「洗脳」は全くできていません。
急に跡継ぎの話しをされても、子供の方は心の準備も何もできていないため、ことは簡単には進みません。無理もないことです。

もう1つの選択肢であるM&A市場はコロナ過を受けて活況です。しかし、コロナの影響を受けて業績を落としたことをきっかきに売却へと舵を切る「売り時を見誤った」企業が多く存在することもあり、市場は完全なる「買い手市場」です。

こちらが急に売りたいと思ったからと言って、その時には売れるとは限りません。
当たり前のことですが買い手にとって魅力に感じる事業・財務・タイミングでなければ買い手の手が上がることはないのです。

我が子への承継も、M&Aも決して一朝一夕にはいきません。
必要なのは経営者の覚悟と、それを受けての明確な行動による入念な準備です。

前回の税制改正大綱で見直しが明言された相続税・贈与税の一体課税については「今後、本格的な検討を進める」との記述にとどまりましたが、ここにメスが入れば事業承継計画にも少なくない影響があることは間違いありません。

思い通りに進まないことが起きるからこそ入念な準備が必要であり、それに要する期間を考えれば、事業承継は誰にとってもそれほど先のことではないはずです。

もし、本心が我が子への承継を望み覚悟を決めたなら、時代に逆らったっていいのです。