リスキリング

リスキリング(学び直し)というワードが賑わっています。

今月発表された令和4年度の税制改正大綱。かねてからの報道のとおり賃上げ税制がメインとなりました。賃上げ税制には教育訓練費も含まれます。

教育訓練費を10%以上増やせば税金を減らすという措置ですが、関連する税制は10年以上前から存在しています。しかし、中小企業において有効に使われることはありません。

それもそのはず。中小企業の教育訓練は経営者、および一部の幹部社員が中心。一般社員にはあまり使われません。そうなれば教育訓練費が大きく増減することはないからです。

では、それが悪いのか?

もちろん悪くはありません。仕事と教育はトレードオフ。新人社員ではない限り、教育に時間を割けば売上高は下がって当然。スターバックスでは店舗を数時間一斉休業して研修が実施されることがありますが、それにより失われる売上高は数十億円とも言われます。

逆に、売上高が下がらない、あるいは効果測定ができないくらいの教育訓練は“本当に有効に機能しているのか疑問”だと言わざるを得ません。売上高に直接関わらない社員についても同様です。

一人一人の社員がフル稼働することが前提で成り立っている中小企業では、休みを削ってでも仕事と研修をこなす覚悟がある層にしか、継続的な教育訓練は成り立たないと考えます。

「うちは一般社員にも十分な時間と費用を使っている」

という中小企業は、きちんと効果測定をされてみれば良いと思います。経営者も自己満足で時間とお金を使うべきではなく、トレードオフが発生していることをよく理解すべきです。なお、トレードオフが発生していないように見えるのであれば、さらに危険です。

「この研修について来れないのであれば自主退職を勧めます…」

大企業は今後も教育訓練を拡充していくでしょうが、もともと大量採用・大量退職が根底にあるため、教育訓練は合わない社員の退職を促す暗黙の仕組みとしても機能させています。

なお、「リスキリング」=「デジタル化対応」という脈絡で説明されることも多いですが、これまでのホワイトカラーを「新ホワイトカラー」or「旧ホワイトカラー」として選別し直す方法です。旧ホワイトカラーの退職を促すという意味もあるでしょう。

社員教育に時間とお金を浪費し、売上高が上がりも下がりもせず、さらには社員の新陳代謝も起こらない。みんな一緒に年齢だけ重ねていく…。その次につながらず、まるで意味がありません。

リスキリングは自社にとって本当に必要なものを行うべきであって、それについて来れない人は自主的に退職してもらうくらいの覚悟が必要です。血肉にならないようなリスキリングに意味はなく、中小企業にそのような余裕はありません。

広く一般社員にまで行うのであれば、社員の新陳代謝を促す仕組みとして行うべきであり、さらに上のレベルの教育訓練を施すのは自主的に学びを求めてくる社員に対してのみ。給与が爆上がりしなくとも、社員自身にとって意味ある学びの機会を与えられていると感じれば必ず付いてきます。

これがリスキリングの本来の目的だと考えます。

これができないのであれば、経営者、および一部の幹部社員のマンパワーで仕事をこなせばよいのです。

繰り返しますが、何も悪くありません。

変化

税理士業界周辺が揺れています。
ここ1~2カ月の間に顧問税理士から聞いた方も多いはずです。

「来年1月から電子帳簿保存法が改正されます」

電子帳簿保存法については、1.電子帳簿等保存、2.スキャナ保存、3.電子取引の3つに分かれ、任意適用であるスキャナ保存などについて要件が大きく緩和される一方で、義務化となる電子取引のデータ保存が大きな波紋を呼んでいます。

多くの方が既にご存じの内容かと思いますので、ごく簡単に要点だけをまとめておきます。

  • 来年、令和4年1月1日より改正
  • 電子データで受け取った請求書や領収書などのデータ(PDF等)は電子データでの保存が義務となる
  • 今までのように電子データを紙に印刷しての保存は認められない
  • データの訂正削除履歴が残るシステムで保存するなど満たすべき要件がある
  • メールで受領した請求書等のデータ、インターネットで備品等を購入した際にダウンロードした領収書、クレジットカードの利用明細書データなどが対象となる

紙で受け取った請求書や領収書は今まで通り紙で保存すればよいのですが、データで受け取ったものはデータでの保存が義務となり、取引日や取引金額、取引先で検索をかけられる状態での保存が求められています。

従業員が個人のアカウントで購入した備品や、役員個人のクレジットカード利用分なども、証票が電子データであれば全て対象となり、経費精算の際にそれらのデータを経理に集めて保存する必要がありますので、なかなか厄介な改正です。

しかも、これは所得税法、法人税法のお話しで、現行の消費税法では来年1月以降も原則、電子データで受け取った請求書等は紙に出力して保存しなければいけないというから、訳が分かりません。

正直、全ての中小企業が来年1月から完璧に対応できるとは思っていませんが、法改正である以上、対応しないわけにはいきません。

しかし、最近見聞きするのが「大変だから、電子帳簿保存法から逃げるべき」と語る一部の税理士などの専門家の存在です。

メールで請求書を送ってくる取引先には来年以降は紙で送るように求め、ネット通販でも紙の請求書を同梱してもらいましょうと言うのです。

法人税と消費税の取り扱いが異なるため、結果として電子取引に関しては、紙とデータ両方の保存が必要になるうえに、システム対応が追い付いていないため、現時点では大変だと感じるのは確かです。

しかし、令和5年10月からインボイス制度が開始すれば電子インボイスが普及し、中小企業であっても少し気の利いた企業であれば、請求書は電子インボイスでのやり取りに変わっていくであろうことは想像に難くありません。

そうなれば、電子インボイスなどのデータを会計ソフトに流し込むだけで基本的に仕訳は自動化され、経理作業が省力化されていくことは目に見えています。

もちろん最初は少々大変かもしれませんが、電子取引がまだまだ少ない今だからこそ、数年後の本格運用に備えて慣れるためのよい練習になると思うのです。

経費精算等についても効率化を見据えてルールを見直す良い機会になるはずです。
例えばアマゾンでの備品購入については全て法人アカウントで行うようにし、役員はコーポレートカードを作成すれば経費精算そのものを減らすまたは無くすことができ、電子データの保存は経理担当者に任せることができます。

数年以内に廃業することが決まっているなど特別な事情があれば別ですが、クレジットカード利用明細などは紙での郵送対応が有料となるなか、流れに逆らって紙での保存に固執するなど、正直あり得ません。

この1カ月、多くの会計ソフト会社がソフト利用者に対して、今回の改正要件を満たすシステムを無料か比較的安価で提供することを続々と発表しています。

そのため自社で使用している会計ソフトで提供されるサービスを利用すれば、それほど手間なく対応ができるとともに、進みゆく電子化対応への第一歩を踏みだすことができます。

変化には大きなストレスが伴います。
しかし、後退しての一時しのぎは何も生みません。

変化を恐れず、対応していきましょう。

【追記】
今月公表される2022年度税制改正大綱で、電子帳簿保存法に2年の猶予期間を設ける旨の報道が12月6日の日本経済新聞の記事でなされました。