お客様を選ぶ

新橋で居酒屋を経営する女将が出版した本を紹介するネット記事を読みました。
コメント欄は大荒れ、さながら大炎上です。このお店に行ったことがあるなしに関わらず、その多くが、このお店の姿勢を批判するものでした。

しかし、私は全く別の感想を持ちました。
「うまいことスクリーニングしたなぁ」

本も買って読んでみました(藤嶋由香『一緒に飲みたくない客は断れ!』ポプラ社)が、著者の女将が言うところの「非常識な居酒屋経営術」は、至ってまとも。まずはこのお店の基本的な考え方の一部をご紹介します。

  • 居酒屋という心のやすらぎの場を提供するために、お店ではまず「お客様を選ぶ」
  • お店を本当に愛してくれる少数のファンさえいれば、多くのお客様を集める必要はない
  • その数は100人でよく、100人であれば顔や名前、いつもどんな料理を食べるのか分かり、お客様が満足するサービスができる
  • 良質なお客様を大切にし、大切なお客様だけを選び、もっと幸せにする

そして、お店が実行しているのが次のことです。

  • 本当に美味しいものを、心も寄り添えるサービスとともに適切な価格で提供する
  • 安売りはしない
  • 基本的に2軒目以降のお客様、おなかいっぱいのお客様にはご遠慮いただく
  • 4名テーブルは2名でなく4名で利用いただき、5名だけど空席を待つなら4名席でいいというお客様をお通しして回転を高める
  • 2時間制を徹底する

口コミなどを見ていると、ご利用いただく時間、テーブル人数の徹底ぶりや価格に関して少なくない不満がつづられている一方で、味に対する評価は高く、常連客を中心とした多くのファンがいることも分かります。

女将は言い切ります。
「ご理解いただけないお客様には二度と来店していただかなくて結構だと思っています。」

居酒屋で飲食する全ての人をお客様だとは考えていないことを公言してしまったこのお店には、結果として以前にも増して多くのアンチが存在しています。もちろん、そのこと自体は嬉しいことではないでしょう。

しかし、お店が歓迎しないお客様は、これまでよりもさらに来なくなり、スクリーニングは大成功なはずです。

きっと、今日もこのお店に来店するのは、その方針を理解し「他の居酒屋より少し高いお金を払って、他では食べられない正真正銘の朝締めの肉をたくさん食べて飲んで2時間でパッと帰りたい」ファンの皆さま、お店にとって良質かつ大切なお客様です。

安売り⇒質の良くないお客様が増える⇒スタッフが疲弊する⇒利益が出ない⇒お客様をもっと増やそうと安売り⇒質の良くないお客様がさらに増える⇒スタッフがさらに疲弊する⇒・・・

このありがちな無限ループから抜け出すには、まずは自社にとっての「お客様の定義と選別」ができていなければなりません。

一方でお客様を選ぶには経営者はもちろん、スタッフにも覚悟が必要です。

私が通勤で毎日前を通る、この居酒屋さん。今夜も常連と思しきお客様で一杯です。