ハイエナ

先月半ば、大手生命保険会社4社が金融当局に呼び出され、国税庁が経営者向けの定期保険の課税について見直しを検討していることを伝えられたそうです。

見直しが検討されるのは、いわゆる「名義変更プラン」と呼ばれる節税商品です。

これは、契約当初は解約返戻金が低く抑えられているものの、一定期間経過後、急激に解約返戻金の金額が大きくなる低解約返戻型保険と呼ばれる商品を利用するスキームです。

解約返戻金が低い期間については会社が保険料を負担し、解約返戻金が大きくなる前に契約者を会社から個人(経営者)へ名義変更します。

名義変更の際には解約返戻金相当額で評価されるので、会社が支払った保険料に対して、極端に安い金額で個人(経営者)に保険契約を譲渡することが可能となります。

その後、解約返戻金の額が急激に引き上げられるタイミングで保険を解約し、個人で解約返戻金を受け取ることで会社の利益を経営者個人に移転させることができるようになります。

もちろん解約返戻金を受け取った際に個人に税金がかかりますが、「一時所得」となるため、1/2課税が適用され、役員報酬などでもらうよりも大幅に節税できることになるわけです。

今回、国税庁が見直しを検討しているのは、名義変更時の評価額です。
具体的には「名義変更時に解約返戻金が保険積立金として資産計上した金額の70%未満となるような低額の場合には、帳簿上の保険積立金資産計上額で評価する」改正を見込んでいるようです。

しかも、この見直しについては、2019年7月8日以降に締結した契約について、今回の改正日後に名義変更を行った場合に適用する方針であるとの情報が流れているのです。
異例の遡り適用ということになります。

名義変更プランを勧めて加入させた保険営業は、これをどのように経営者に伝えるのでしょうか。

さまざまなリスクと守るべき多くのものを抱える経営者にとって、生命保険、損害保険はなくてはならないツールです。問題は提案する側の人間にあります。

「社長、こんなに税金払ってちゃいけませんよ!」

生命保険に限ったことではありません。多様な節税商品を手に、皆さんの会社のことなど「これっぽちも」考えていない人たちが、ハイエナの如く狙いを定めて近寄って来ます。

税金を減らしたい、払いたくない気持ちはよく分かります。
しかし、節税商品によって得をするのは皆さんではなく、それを売る人たちです。

改正リスクがつきまとうだけではありません。仮にその時はうまく行ったとしても、経営本来の目的や道筋を外れた行為によって利益を得ると、やがて平均へ回帰するどころか、それ以下のところに戻ろうとする力が不思議と働きます。

もっとも、経営者からすれば「へぇ、合法的に節税できるそんなにいい商品があるなら、やろうかな」くらいの比較的軽い気持ちで節税商品に手を出しているケースがほとんどです。

もう一度言います。

こうした節税商品を勧めてくる人たちは皆さんの会社のことなど「これっぽちも」考えていません。

「そんなに、いい商品なら○○さん(の会社)も、それ、やってるんだよね?」
ぜひ、そう聞いてみてください。

「いやいや~、私(の会社)は、社長のところみたいに儲かっていませんから~」

自分がやっていないことを他人に勧める人の言うことを信じてはいけないのです。

補助金騒動

事業再構築補助金の申請受付が4月15日から開始となります。

「あんなもの使えないよ!」

指針の手引きや公募要領を確認されて、多くの方がそう思われたことでしょう。

想定されていた要件よりもかなり厳しいものだったということは、補助金コンサルタントの反応で分かりました。実際、私どもも多少面食らったというのが正直な感想です。

ただし、国の思惑どおりかもしれません。異常なまでの期待値を下げるという意味では絶大な効果がありました。

補助金コンサルタントの話では、事前に一番問い合わせの多かった案件が『コインランドリー事業』とのこと。私は耳を疑いましたし、そのレベルかと呆れました…。

しかし、忘れてはいけません。

事業再構築補助金の予算額は1兆円を超えております。前代未聞の予算額であり、完全なる救済措置です。ぜひとも利用してほしいと中小企業庁も強調しております。

ここまでお伝えすれば十分かと思われますが、補助金だけが目当てで、事業の深掘りに取り組まない中途半端な企業を切って捨てるという趣旨だと、私どもは捉えております。実際、補助金が出るなら何かをしようと飛びついた企業から早々に脱落したと考えられます。

私どもは現在、一回目の申請のために数社のお客様のお手伝いを行っておりますが、もともと新たな事業、または設備投資の相談を受けていた計画を事業再構築補助金用に落とし込んでおります。補助金を受けられたらラッキー、受けられなくても実行するというレベルです。

コロナ禍にかかわらず、業績が好調な企業は事業再構築の必要性を感じないのかもしれません。また、業績が悪化し続けていた企業は事業再構築に取り組むだけの気力・体力がないのかもしれません。

ですが、事業再構築はコロナが発生したから、または売上が下がったから行うものではありません。悪い事業を切り離し、良い事業を伸ばすため、継続的に行っていく必要があります。そこに補助金は関係ありません。

従いまして、補助金をもらえるのであれば何かをやろうというレベルの計画では、今回の申請要件を充たすことは困難ですし、継続性がある事業とは考えられません。

資料だけを眺めれば確かに厳しい要件なのです。ですが、具体的にお客様と私どもがお打合せしながら検討すると「要件を充たしそうだね…」ということが多くありました。あとは準備期間も含めて、いつ頃申請を行うかというスケジュールの確認が中心です。

確かに公表資料を自社だけで検討するのは難しい判断だと思われます。しかし、そのための認定支援機関です。計画をよく相談したうえで深掘りし、それは本当にやるべき事業なのか、本当に申請できないのかなどを真剣に検討されるべきです。

ほとんどのライバルは脱落しました。
公表資料を浅く眺めただけだからです。

100万円~6,000万円もの補助金を簡単にもらおうと考えてはいけません。
どうせなら苦労の上で獲得されてください(それでも採択率は50%と予想されています)。

計画を真剣に深掘りするだけでも意義がありますし、そこまで行われてこそ事業の継続性が確保されるはずです。