厳冬の時期のトランスフォーメーション

「あそこの会社、激減した売上を維持するために広告費を3倍にしたらしいよ」

最近、当社のお客様の競合のお話を伺いました。
当社のお客様の広告費は昨対比で6割減になっている状況においてです。

その競合企業はもともと利益が出ていません(信用調査で確認済み)。利益が出ていない企業が売上を維持するために広告費を3倍にするとは信じ難い話ですが、日本で本格的にコロナ禍が始まって9カ月程度が経過した今、このようなことまで起こっていました。

それを可能にしたのは国が面倒をみたお金です。

制度融資、雇用調整助成金、持続化給付金、家賃支援給付金、各地方自治体の支援金など、想像以上に中小企業の体力を温存させました。むしろ売上が前年同月比50%以下となることを願ってしまうような状況です。

粗利益をそっくりそのまま補填できた会社もあったことでしょう。もともと経営が苦しかった会社はコロナ禍で儲かったと言えなくもない。それほどの支援が行われたのです。

この企業のように、国のお金でお客様を買っている以上、国が面倒を見なくなればお客様も買えなくなるという事実を忘れてはいけません。

では、これほどの猶予を与えられた期間を皆さまはどのように使われましたか?

GoToキャンペーンが開始された夏ごろから気を緩め、何とかなると期待に変わっていたのであれば、皆さまの会社はコロナ前と何も変わっていないはず。中小企業がwithコロナなんて言っていたら遠からず潰れてしまいます。

事実、来年の宿泊予約はGoToトラベルの期限を境に全く異なる状況です。GoToはあくまで一次的なカンフル剤であり、アフターGoToは暖春ではなく厳冬です。

ワクチンなどが提供され始めれば医療費の助成が中心になり、消費喚起策は縮小されるでしょう。

極めつけは、この冬季賞与から始まる本格的な収入減少。テレワークで残業代が少なくなり、賞与がカットされ、昇給も期待薄、転職先も多くはない…。特別定額給付金も含めた年収ベースで考えれば、来年から収入が大きく減少する消費者が多数となるのは間違いありません。

つまり、消費者心理を凍り付かせる環境がそろってきました。これが最低でも数年は続きます。その理由がコロナであろうが何であろうが、収入が下がれば消費も下がるのは変えようがない事実です。

そのような状況が迫っている以上、これまで価格で勝負していた企業はどんどん厳しくなります。いままで購入してくれていたお客様はより安さをもとめて移動します。価格に比例して価値が見合わない商品またはサービスを提供していた企業も同様です。

ちなみに、冒頭の企業は価格勝負の企業ではないと言われています。コロナ前の売上を求めて過剰反応したとしか思えません。それでも今までと同じような売上を維持しようとすれば莫大な固定費が掛かります。

コロナ禍にかかわらず、お客様を厳選していない企業は、お客様から厳選されてしまいます。このような時期に逃げていき、状況が落ち着いても戻って来ないお客様はそもそも私たちのお客様ではなかったということです。

皆さまがお客様を厳選することに躊躇を覚えるのは、やはり売上が下がるという恐怖感…。実際に売上が下がることも多いでしょう。

お客様を厳選することによるメリットは何なのか?

それはデジタルトランスフォーメーションならぬ、収益構造のトランスフォーメーションです。お客様を厳選すると行動が変わり、その行動によって掛けるべき固定費が変わり、そこから上がる粗利益も変わる。

収益構造はお客様によって変わります。お客様を厳選すれば、あとは売上の最大化に尽力するだけ。一点集中は強力な武器にもなります。

もし今後もお客様を厳選しなかったら、体力不足の中小企業は国の延命措置にすがるしかありません…。それは会社経営ではなく、国民の雇用維持のために国に経営させられている器でしかありません。

これから厳冬の時期に入りますが、収益構造のトランスフォーメーションは確実に進めていってください。むしろお客様厳選の効果が目に見えて分かる時期でもありますので。

あらゆる慣習や当たり前を疑い、商売を根本から見直してみる

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、バイオマス由来の材料を配合していることから本来は有料化の対象外である自社のレジ袋について、10月1日からデザインやサイズを新しくしたうえで有料化(20円)することにしました。

また、新たなチケット価格戦略として、繁閑に応じて価格を変える「ダイナミックプライシング」の導入、アトラクションに待たずに乗れる「ファストパス」の有料化なども検討しているとのことです。

2021年3月期決算が通期で初の営業赤字となる現実味が増し、今後も入場者数など多くのことがコロナ前に戻らないことを前提に考える必要がある以上、様々なサービスを有料化できるように変えていこうとする動きは当然のことと言えます。

今年も残すところあと1月半となる今、年が明ける前に業界慣習や常識などを一切取っ払って皆様にも改めて自社の商売について考えてみて欲しいのです。

先月末に朝日新聞の全国版で紹介された、行列ができるサンドイッチ店の経営者と先日話をさせていただく機会がありました。

自店での販売に加えて全国展開する大手総合スーパーなど約50店舗に商品を卸しているこのお店は、全ての商品をスーパー側が買い取る「買取仕入」にて卸しています。

在庫リスクを負いたくないスーパー側は、商品が売れた場合に生産者がスーパーに販売手数料を支払う委託仕入やお客様へ販売できた分だけをスーパーが仕入れる消化仕入での契約を望み、商品を置いて欲しい生産者側は多くの場合それを受け入れてしまいます。

しかし、絶対に買取仕入でしか商品を卸さないというこの経営者はその理由をこう話してくれました。

「商品をスーパーに置く以上、売るのはスーパー側の仕事のはずです。在庫リスクを負わない委託仕入や消化仕入で契約すると、彼らは真剣に売ろうとしない。そんなのおかしいじゃないですか。」

サンドイッチ店を経営する以前、20代半ばに大手ゼネコンを退社し、歌手を目指しアコースティックギター1本を手に地元のバーで歌うことから始めたこの経営者。
最初から「500円でも1000円でもいいので、お店から必ずギャラをもらうようにしていた」そうです。

理由は「タダで歌を聴かせるのはおかしいし、少額でもギャラが発生することで歌う側にも仕事としての責任が生まれる」から。

ギャラどころか演者がライブハウスに出演料を支払い、チケットを自ら手売りするのが「当たり前」の業界慣習に逆らって、自らの「そんなのおかしい」という感覚にしたがって行動した彼は数年後、キャパシティ1000人規模の地元ホールを満員にしています。

人口減少社会withコロナ禍にあって、多くの前提条件が崩壊してしまった今、過去の「当たり前」は何の意味も持ちません。

まずは業界や自社で当たり前と考えられていることを書き出してみてください。

きっとその中に「おかしいのではないか」と感じることがあるはずです。

内側にいると、疑うことすらしなくなってしまう慣習やしきたり。
そうしたものに囚われることなくフラットな頭で考えてみて欲しいのです。

実現の仕方を考えるのはそのあとです。

来年以降、コロナ禍を生き抜くためのヒントが見つかるかもしれません。