利益はどこへ消えた?

一昔前、「チーズはどこへ消えた?」という本が一世を風靡しました。

誤解をおそれずざっくりまとめてしまうと、
変化は起きる、変化を予期せよ、変化を探知せよ、変化に素早く適応せよ etc.

皆さまもこの本のタイトルのように考えることがあるのではないでしょうか。

「あのとき出した利益、あれだけあったお金…どこへ消えたのだろうか?」

いま、このコロナ禍で再スタートとお考えだとしても、皆さまの過去の利益やお金がどこへ消えたのかを十分認識されていないのであれば、また同じことを繰り返す可能性があります。

もう二度と繰り返したくはない。

と思っていても、繰り返してしまうのが人間です。それでもできるだけ繰り返さないような防波堤はあって然るべき。

「利益がどこへ消えたのか?」と振り返るには、やはりその形跡を追う必要があります。そして、会社経営のお話なので決算書で追うのが一番分かりやすい。

しかし、単年の決算書を見返しても、ほとんどの方は分からないと思われます。そこでお勧めするのが過去の決算書の数字を並べた表を作成すること。

決算書は主に貸借対照表と損益計算書がありますが、この二つは対になっています。対になっているのですが、別々のものとして認識されていることが皆さまを混乱させる要因になっています。

従いまして、貸借対照表と損益計算書は合体させて眺めてください。そして、不必要な情報は消してしまえばいい。

例えば以下のような感じ。これなら税理士などのプロに頼まなくてもできるはず。
できれば10年。これだけ並べれば傾向は分かると思います。

これは棚卸資産が最重要の会社のサンプルデータであり以下の傾向が読み取れます。

  • 稼いだお金が棚卸資産に化けているという事実
  • 資金繰りを楽にするのであれば仕入を止めて棚卸資産を減らせばよい
  • 仕入のチャンスを逃さないのであれば借金をしてでも仕入れるべき

このサンプルの会社は自社の傾向を十分に理解していますし、このままブラッシュアップすると決められています。ただし、寄り道したくなることだってあります。そこで辿ってきた道を何度も見返すことにより迷いなく進めるようにしておきます。

また、その会社および経営者の性格に応じてどの項目が傾向を表すかは異なるため、その傾向が分かるものを探して並べる必要があります。

そこから何が見えるのか…成功の傾向か、失敗の傾向か。そして、この1~2年はどのような傾向で、今後どのような方向に進んで行く予定だったのか?

そこからのコロナ禍…。

過去の利益やお金の消え方から、今後進もうと考えている方向性が過去の傾向と同じ轍を踏んでいないかどうか?

まず、これを知ることが重要です。

もちろん「消えた先」が分かっており、それが健全な消え方であれば何ら問題ないでしょう。例えば「確かに会社から利益とお金が消えている。しかし、それは役員報酬として受取り、きちんと現預金として残っている。そして、いつでも会社にフィードバックできる」という傾向。そのような場合は表の欄外に個人の預金を付け加えてください。

もし、以下のような傾向が出てしまったら、その原因をよく噛み締め、同じ轍を踏まないように注意してください。

  • 利益が消えただけで、その行き先が何も生み出していない ⇒ お金の浪費
  • そもそも利益が出た形跡がない ⇒ 時間の浪費

例えば、恥ずかしながら当社と私のお話をさせていただくと…。

当社は構造的には非常にシンプルな労働集約型のサービス業です。設立からの傾向を見れば、良くも悪くも売上高と人件費が連動していることが分かります。

この点は今後の基本的な方向性を定め、連動性を切り離すことで覚悟を決めました。コロナ後でも方向性は変わりません。

あとは生産性を追及するあまり、そこに時間とお金を突っ込み浪費に終わったという傾向です。いまなら笑えますが完全に矛盾しています。ですから、私の個人的な関心からくる独りよがりを組織に求めるのは止め、いまは生産性の追求に時間とお金を掛けないと決めました。

自社の(経営者の)傾向を抑え、利益の形跡を追うことができ、やることが明確になる。

これは素晴らしいことなのですが、逃げ出さずにまっすぐ進まなければならないのはとても辛い! 消えた利益を探さないのは逆に楽なことです。

歴史に学べとはよく耳にしますが、会社の、そして皆さまの足跡から学べるものも多いと考えます。

手法としてはとてもシンプルなのですが、是非一度試してみてください。

給付金現場の混乱

5月の緊急事態宣言の延長などにより、売上減少に直面する事業者を支援する「家賃支援給付金」の申請受付が7月より始まっていることは、皆さまご存知のとおりです。

今回のコロナ騒動に関連した各種支援金や助成金を巡る現場の混乱ぶりが多く報じられてきましたが、「家賃支援給付金」についてもやはり混乱が生じています。

経済産業省がHPで「対象外」と明示している事例の中に、「給付対象」となり得るものがあることが分かったのです。

これから申請する企業はもちろん、既に申請済みの企業も申請漏れがないように正しい理解をしておきましょう。

「家賃支援給付金」は、5月から12月の売上高について1ヶ月の売上高が前年同月比▲50%以上または、連続する3ヶ月の合計で前年同期比▲30%以上となる事業者を対象とし、事業のために支払う地代家賃について最大600万円の給付を受けることができるという制度です。

しかし、地代家賃のうち従業員に転貸している「社員寮・社宅」については、給付の対象外であることが経済産業省のHPの、よくあるお問い合わせに記載されています。   

Q4.社員寮・社宅については給付の対象となるのか?


  • 法人が社宅・寮に用いる物件を賃貸借契約等に基づいて借り上げて従業員を住まわせ、当該物件の賃料を当該法人の確定申告等で地代・家賃として計上しているのであれば、原則として給付対象となります。他方、賃貸借契約に基づいて従業員に転貸している場合は対象外となります。
出典:経済産業省HP (一部加工)

通常、会社で社宅を借り上げて役員や従業員がそこに住む場合には、給与課税を避けるために固定資産税の課税標準等をベースに計算する「賃貸料相当額」などを役員や従業員から徴収し、いわゆる「転貸」の形にしていることがほとんどです。

そのため、役員や従業員から賃料を徴収している社宅家賃については給付金の対象外であると考えられ、「家賃支援給付金 コールセンター」に問い合わせても「1円でも賃料を徴収しているようであれば、対象外である」との回答がなされていました。

しかし、日本税理士会連合会が過去の最高裁判例を根拠に、1円でも賃料を徴収している社宅家賃については給付金の対象外だとするコールセンター等の回答は誤りであると明言し、実際にコールセンターの対応が変わったのです。

過去の最高裁判例によれば、例えば家賃の1/2の賃料を徴収している場合については、近隣地域の相場を踏まえた「世間並みの家賃相当額」を徴収しているとは考えられず、賃貸借に基づき「転貸」していることにはならないため、家賃と同程度の賃料の徴収を行っているような場合以外は給付の対象と考えるべきだというのが日本税理士会連合会の見解です。

実際に、既に社宅を外して申請済みの企業が、私からこの情報を得てコールセンターに再度問い合わせたところ、「対象になると考えられるので再度申請し直して欲しい」との回答を得ています。

今回のコロナ禍で政府が出している様々な支援策は、スピードを優先していることで要件などが後からコロコロと変わる傾向があり、申請を受け付ける現場でも、大分混乱している様子が見られますので、申請する側も常に情報を注視していかなければなりません。

コロナ禍はまだしばらく続きます。

こんな時こそ冷静に正しい情報を集め、受けられる支援や救済策は漏れなく受けていきましょう。

損益分岐点売上高、再考

最近、損益分岐点売上高についての言及をよく見かけます。

コロナ禍で売上高が減少している中、今後もそう簡単には回復しないとなると当然かもしれません。

「経営は売上高ではないのだよ!」と頭で分かっていても、誰もが売上高から考えてしまう。そして「せめて赤字は回避したい!」となると、分かりやすい指標でもあります。

【損益分岐点売上高】

    計算式 : 固定費 ÷ 限界利益率

《例 示》

  • 固定費   1億円/年
  • 限界利益率 50%
  • 損益分岐点売上高 ⇒ 2億円

もし皆さまの会社の手元資金が潤沢で、じっくりと収益性を上げていくという余裕があれば、損益分岐点売上高から考えるのもよいでしょう。

しかし、手元資金に不安があるのであれば「収支分岐点売上高」で考える必要があり、その場合は「ざっくりとした資金繰り」も考慮できます。

【収支分岐点売上高】

    計算式 : (固定費 + 借入金返済額) ÷ 限界利益率

《例 示》

  • 固定費     1億円/年
  • 借入金返済額 1千万円/年
  • 限界利益率  50%
  • 収支分岐点売上高 ⇒ 2億2千万円

厳密にいえば、固定費にはお金の支出が伴わない減価償却費があったり、税金や分割払いなど借入金の返済以外にも費用外支出はありますが、通常はこの計算式で十分だと考えます。

しかしどうでしょう…例示では借入金返済額を考慮しただけで分岐点となる売上高が10%増えました。つまり、資金繰りも含めた経営全体で考えるのであれば、損益分岐点売上高に意味はありません。

そして、現在売上高が激減している新型コロナ直撃業種を除けば、経済活動停滞に伴う平均的な売上高減少割合は10〜20%程度と仮定できます。

仮に今まで収支分岐点にあった企業の売上高が今後20%減少すると、その限界利益に相当する現預金を失います。

(2億2千万円 ✕ 20%) ✕ 50% = 2,200万円

この会社が新型コロナの制度融資で5,000万円を借り入れ、3年間の返済猶予を行ったとしても、売上高が元に戻らない限り3年持たずに現預金がコロナ前を下回る…。

当然ですが、返済猶予が終了する3年後には収支分岐点が上がり、借り換え、借り換え…と永遠に収支が均衡しないかもしれません。

もちろん1年で収支を均衡させる必要はありませんが、長期にわたるのであれば根本的な対処を早める必要があります。金融機関が3年後に手を差し伸べてくれると考えてはいけないというのは今までお伝えしてきたとおり。

たとえば収支を均衡させていくため、売上高以外の要素での改善を行おうとすると…

【前提】

  • 収支分岐点売上高から20%減 ⇒ 1億7,600万円

【これを限界利益率だけで補填してみる】

  • 必要となる限界利益率は62.5%(50%から12.5%の増加が必要)

【これを固定費だけで補填してみる】

  • 掛けられる固定費は7,800万円(1億円から22%の減少が必要)

皆さまの会社ではどちらが改善しやすいでしょうか?

もちろん現実解としては2つの組み合わせです。1年だと確かに難しいのですが、3年あれば何とでもなる数字であることは数多くの事例を見てきました。

そこで、2~3年前に過去最高の売上高を計上したお客様が何社かありましたので現状を確認してみます。数字を丸めていますが、以下の増減比率は実際の数字です。この7月までの年計データのため新型コロナの影響も大きく受けております。

【A社】 売上高10億円企業

  • 売 上 高 ⇒ 3年前に比べて10%減少
  • 限界利益率 ⇒ 3年前に比べて 2%増加
  • 固 定 費 ⇒ 3年前に比べて17%減少

【B社】 売上高2億円企業

  • 売 上 高 ⇒ 2年前に比べて35%減少
  • 限界利益率 ⇒ 2年前に比べて 8%増加
  • 固 定 費 ⇒ 2年前に比べて 3%減少

ケースバイケースですが、基本的にはサイズが大きめの企業ほど固定費を下げる余地が大きく、サイズが小さめの企業ほど限界利益率を上げやすいことが分かります。

限界利益率の増加と固定費の削減は売上高がピークに達した時から取り組んでいた結果です。皆さまも経験があるのではないかと思うのですが、売上高のピーク時は本来危うい状態にあります。当然利益も出るのですが、勢いがある故に荒っぽく過剰さが伴っているので、損益分岐点売上高も上昇しています。

したがって、売上高がピークに迎えたときこそ収益性の改善に取り組まなければなりません。これを怠ると「預金残高 ≦ 借入金残高」という状況が延々と続いてしまいます。この2社も次の段階に進むために「売上高は現状が限界」とみなしてその時点での課題解決に動き始めました。

幸いこの2社は新型コロナ以前に収支分岐点売上高が大幅に下がっておりましたので、現在も赤字に陥らず、収支分岐点売上高もクリアしています。

そして当然ですが、収支分岐点売上高が下がれば資金繰りは格段に楽になります。金融機関もその努力を買います。

また、最大の恩恵は稼働率の減少です。収支分岐点売上高が下がって、稼働率も下がる。過剰さが消えた状態で増加する売上高はまさに利益と資金の源泉です。

ちなみに、収支を均衡させるために既存の借り入れもすべて返済猶予を行うという選択肢もあります。ですが、これは問題の先延ばしだということは皆さまもご存じのとおり。

もちろん、いまを乗り切るために1年限定というのはアリですが、これに慣れると他の改善が遅れてしまいます。

以上、損益分岐点売上高の言及を見かけても「なるほど」で終わらさず、先の先まで思考を進めて今後に備えてください。