コロナ禍で改めて税金を考える

私は節税だけを目的とした生命保険の加入や航空機リースといった、いわゆる節税商品をお客様に勧めることは、一部の例外を除いて基本的にありません。

節税(税の繰延)商品をお勧めしない最大の理由は「優先すべきは現金での内部留保」と考えているからです。

節税商品をお客様に勧めない私に、ある税理士はこう言います。
「それはお客様のことを本気で考えていない証拠だ」

その税理士いわく、生命保険やオペレーティングリース商品によって税金を繰延べつつ、換金できる資産を手にしておくことが、リーマンショックや東日本大震災のような急激な景気変動に耐えるための絶対条件とのことでした。

さて、この税理士に勧められて節税商品を購入した企業は現在、どのような状況にあるのでしょうか。

節税保険に加入した企業は、コロナ禍に解約返戻率が高い時期がちょうど到来し、解約返戻金を手にすることができたのでしょうか。

残念ながら返戻率がまだ低い時点であった場合、解約返戻率がマックスになるその時まで、コロナ禍以降も高い生命保険料を支払い続ける余力はあるのでしょうか。

そもそも節税保険として機能するだけの利益をコロナ禍以降も出し続けることができるのでしょうか。

オペレーティングリース商品を購入した企業は、コロナ禍でもリース先が倒産することなくリース収入を得られているのでしょうか。

旅客需要が激減する中、航空機を売却して想定した利益を得ることができるのでしょうか。

「まさかこんなことが起こるなんて、誰も予測できなかったのだから仕方ない・・・・」

本当にそうでしょうか。

確かに新型コロナウイルスの出現によって経済が止まるなどということは、誰にも予測ができませんでした。

しかし、毎年のように予測できない何かが起こることは経営では常です。
ここ数年、気候変動や災害による損害は想定を超え、想定外であることが想定内になってきています。

このような予測不能なリスクが多い現代に中小企業経営を行う私たちにとって、失敗する可能性をいかに低くするかは非常に重要です。

そしてそれは、決して難しいことではありません。

基本に忠実に行動し、自らがコントロールできない要素を限りなく排除することで失敗する可能性はかなり下がるはずです。

しかし、少なくない数の経営者が「節税」という言葉の誘惑に負けて、コントロール不可能なリスク資産を自ら抱えてしまいます。

「この商品を購入すれば今回の決算ではこれだけの納税額が減り、〇年間、〇円ほどの経常利益が出れば合計でこれくらいの税メリットが享受できます。リース商品は毎月〇円のリース収入が入り、最後に〇円で売却すればこれだけ儲かります。」

単なる税の繰延べでしかない節税が過大に評価され、リスクはいつでも過小に評価されているのです。

「この商品を購入すれば確かに今回の決算ではこれだけの納税額が減りますが、購入によって当然手元のキャッシュは減ります。この先、〇年間、毎期利益が出なかった場合は税メリットが出ないうえに、毎期キャッシュフローを圧迫します。リース収入が入り続けるかは分かりませんし、修繕費がかかれば利回りはかなり下がります。最後に確実にこの金額で売却できるとは限りません。」

税金は経営にとってコストの1つです。

コストである以上、無駄は削り、できる節税策は漏れなく行わなければなりませんが、いわゆる節税商品と呼ばれるもののほとんどが、税金を繰り延べることと引き換えに、本業以外の不確実なリスクを未来に抱えることになることを正しく理解しなければいけません。

今、多くの中小企業経営者が「内部留保による手元キャッシュの最大化」が何よりも重要であることを実感させられているはずです。

そして、コロナ禍における給付や無利息融資などの国の大盤振る舞いは、この後必ずや「増税」という形で回収されます。

私を含め、誰もが税金はできるだけ払いたくありません。

しかし、内部留保をキャッシュで貯めるには、利益を出して税金を払う以外の方法以外は基本的にないことを、今、改めてしっかりと認識しておかなければなりません。

私たちは大企業ではない

アパレル企業は店鋪を大量閉鎖し、EC事業を強化。

大手飲食店チェーンは今までの売上の7割でも利益を出せるよう店舗や仕入れを徹底的に見直し、宅配やテイクアウトにも力を入れる。

このような方針を報道で見聞きするようになりましたが、要約すると以下のような主張かと思われます。

「今までは売上を追って、不採算店舗や不採算事業に目をつぶってきました。とにかくシェアが重要だったからです。しかし、世界が変わったので、私たちも変わります。これからは『効率』です。売上よりも利益率を重視して効率よく稼ぎます。投資家の皆さま、今後の私たちを見てください」

コロナ禍は大企業のこれまでの失敗を堂々と他責できる良い言い訳になりました。いずれにしても近い将来方針転換の必要性を迫られていたからです。

それでもコロナ禍がビジネスモデルを変えていくという認識は皆さま共通だと思われます。しかし、大企業が取り組むことは誰でも真っ先に思いつくような、そして既にどの企業も手を付けているようなことばかり。競合もすぐに追随します。

大企業はお金を使ってすぐにできることを、まるで汚れた服を着替えるように行います。1,000店舗のうち200店舗を閉鎖するのは簡単です。もともと不採算だったのですから切って捨てればよいだけ。DXを推し進め、人員整理も行われるでしょう。

私たちは中小企業です。

私たちは、コロナ禍に関係なく、不採算店舗や不採算事業を持ち続ける余裕はありません。分が悪いと判断した時点で撤退を決断しなければなりません。

私たちは、所有と経営が同一ですので他責ができません。失敗をすぐに認める必要があります。言い訳は新たなアイデアの芽を摘んでしまいます。V字回復なんてものは100に1つです。

私たちは、本業、あるいはこれから育てていく事業に惜しみなくリソースを投入し、クオリティを上げ続けなければなりません。そして、そのクオリティからの評判を順回転につなげ、無理なく売上増加を果たしていく必要があります。

大企業が今までの7割の売上で利益が出るようにするというのは、結局リストラに過ぎません。大量生産と大量販売は変わらず、とにかく店舗や拠点を減らし、人と人との接触も極限まで減らす。しかし、それで収益性が改善するかは別の問題です。

私どもが以前から繰り返している「売上が半分になったら?」という問い掛けは、リストラの話ではありません。売上が半分になっても生き延びるための生存戦略です。

あくまで私のイメージでお伝えしますが、中小企業の効率化を一言で表現すれば「純化」です。職人が作品の制作過程で過剰なものを削ぎ落とすイメージでしょうか。

コストは「過剰なもの」から発生します。過剰さが出たら間髪入れずに削ぎ落とす。無駄なコストを削ぎ落したら不足しているコストに振り向ける。これを継続的に行うことが中小企業の効率化(全体最適とも言います)だと考えます。風向きが悪いときに一気に行う大企業の効率化とは全く異なります。

ここで、中小企業の皆さまはリソース不足を嘆きます。

「戦い方は分かった。大企業が行っているようなことをやっても意味がない。ただ、私たちには良い人材がいない。人材がいないから戦いに挑めないのだ…」

と、皆さまは「良い」人材を欲しがります。
どのような人材が良い人材のか?と尋ねると…。

地頭が良くて自分の考えで動き、素直で勤務態度も良く、ホウレンソウは淀みない。おまけに前職でこのような経験をしている…(ここまでで皆さま苦笑いだと思います)。

でも、よく考えてください。大手アパレル店や大手飲食店は、それほどすごい人材がそろっているのでしょうか? マクドナルドやスターバックスに応募するアルバイトは皆優秀なのでしょうか?

皆さまも十分ご承知のとおり、優秀なのは業務フローやマニュアル(仕組み)です。

人材はお金と両翼のリソースではありますが、仕組みという武器(兵站)を持たせて効果を発揮します。たとえれば機関銃を持った大企業の人材に対して石つぶてを持った中小企業の人材…。そもそも勝負になりません。

つまり、大企業で働く人材は社員でもアルバイトでも、戦うために十分な武器を与えられています。これに対して中小企業の人材に武器は与えられていません。中小企業は先輩社員からの教えが主で、業務フローやマニュアルは「これを見て仕事をこなせるようになる人がいるのか?」というような代物です。さらに仕組み化すらできないような複雑な仕事を求められている場合も多々見受けられます。

言い方は悪いのですが、中小企業では何も考えずに仕組み通りに仕事をこなしてくれる人材が必要なのです。つまり、大企業の人材の使い方と何も変わりません(大企業で働く方々がマニュアル人間と言っているわけではありません…)。そして、マニュアルに落とし込めるようなシンプルな仕事にしていかなければなりません(純化です)。

従いまして、人材に関しては、むしろ大企業のやり方を模倣してください。

中小企業である私たちが、自社で「教育」をできると勘違いしてはいけません。仕事ができる人は最初からできるし(数は少ないですが皆さまが求める人材ですね)、それ以外の人は教育が害になる可能性が高いです。

経営の方向性に関しては大企業や競合が模倣できないことを実行し、人材に関しては大企業を模倣する。

言葉にしてみればシンプルです。
ですが、これに取り組んでいる中小企業はごくわずかです。
そして、これができている中小企業が高収益であるケースをたくさん見てきました。

私たちは中小企業です。

できること、できないことを明確に分けて経営を行う必要があります。