今こそ真の働き方改革を

「ブラック企業」「同一労働同一賃金」「働き方改革」。

本質を理解することなく、これらの流行語をただ振りかざす社員に、ここ数年多くの中小企業経営者が悩まされてきました。

さらに人口減少による採用難が拍車をかけ、転職すれば給与が上がる異常なまでの超売り手市場は、権利意識ばかりが強い労働者を数多く生み出すことになってしまいました。

しかし、今回の新型コロナウイルス感染症によって既に潮目は変わり始め、採用市場が明らかに今までとは違った動きをしだしています。

そして、賢明な労働者は気付き始めているはずです。

「いつ何が起こるか分からない時代。労働時間が短くても雇用と給与を守ってくれない会社にはいられない」

異常なまでの売り手市場が是正され採用市場の潮目が変わり始めた今こそ、私たち中小企業は真の働き方改革を実行しなければなりません。

マスコミ報道に多くの責任がある気がしますが、労働者を中心に多くの人が働き方改革そのものを勘違いしています。

AIやシステム等の活用によって残業を減らすことができたとしても、それ自体、他社との差別化にはなり得ませんので、会社に適正な利益を残すことはできず、結果として今回のような有事に社員を守ることもできません。そんなもの、働き方改革でもなんでもありません。

収益構造を変え、低稼働でもしっかりと利益を確保できるように改革すること、つまり高単価、高付加価値によって低稼働を実現することこそが真の働き方改革です。

口で言うのは簡単ですが、他社よりも高い価格で高品質なサービスを提供し続けることは並大抵のことではありません。

経営者だけでなく、社員自身が意識を変え、高価格をいただくプレッシャーに苦しみながら、高付加価値を提供するために必死に取り組まなければ、働き方改革を実現することなどできないのです。

やるべきことはシンプルです。

  • 全ての仕事の棚卸をし、1つ1つ本当に必要な業務かどうかを見直す。
  • 客観的数字を根拠に売上ごと(顧客ごと)の分析を行い(役務型の売上の場合、正確な時間集計を行う)、利益は適正に出ているか、値付けは適正か検証する。
  • 値付けは「もらえる金額」ではなく「もらいたい金額」に近づける。
  • 利益が出ていない仕事、少ない仕事で、値上げ等で収益改善できないものはやめる。

当たり前だと思うかもしれませんが、これらを本当にきちんとやっている中小企業は実に少ないのが現実です。

売上を選ぶことで売上高が減少しても利益が変わらない、もしくは上がる。
売上高が下がることで生産性が上がり、労働時間が短くなる。
これが働き方改革の本来あるべき姿です。

おそらくまだ当分の間、新型コロナウイルス感染症が経営に与える影響は続き、多くの業種でビジネスモデルの変革が必然的に求められることになります。

真の働き方改革を実行することが、人口減少社会withコロナへの備えの1つです。

今が実行する最後のチャンスかもしれません。

これで明確になった中小企業の課題

今回の新型コロナウイルス感染症は、中小企業がどれだけ自転車操業であるかを大っぴらに暴いてしまいました。

誰もが薄々気付いてはいても見て見ぬふりをしていた致命的な事実です。私は報道などで国の支援に文句をいう経営者の声を聞くたびに胸が痛くなります。

「数カ月すらもたないのか…」

会社がもたないということは、経営者個人ももたないということです。会社にお金が無く、経営者にもお金が無い。リスクを負って経営をしているにもかかわらず貯えがない…。

もちろん各々状況は異なりますし、このような時期に言い方は悪いのですが「経営者としての自覚が足りなかった」そう感じてしまいます。

冷静に考えれば今回の国の支援レベルは異例の規模です。政府のやり方がまずかったのは事実ですが、現時点までの被害だけを考えれば、政府の打ち手が良くても何も変わらなかったでしょう。

国にも責任はありますが、中小企業も社員を雇っている以上、責任が伴います。

採用面接で「うちは新型コロナのようなことがあったら3カ月もちません。休業手当も十分に払えません」と伝えたら、その方はその会社で働こうと思うでしょうか?

大企業に就職しようとする今どきの学生はその企業の財務諸表くらいは確認するでしょう。しかし、求職者が中小企業の財務諸表を事前に目にすることなどありません。そもそも公表されていませんし、公表したら不安にさせるだけです。

黒字・赤字はそのときの状況によるため二の次の判断になりますが、はっきりお伝えすると「お金を持っていないのは経営における『罪』」です。それで雇用を確保しようと国に文句を言うのはあまりにも浅はかです。

特に今回大きく取り上げられている飲食業は、支払いよりも入金が先にある商売です。それで月末の支払いに支障があるというのは、そもそも純粋な手元資金が無かったという事実を示しています。

また、比較的若い世代の経営者は借入れを好まない傾向にあります。「借入れをしないで済ませよう、利息負担は避けよう」というあまり、手元資金が最小化されています。

借入れたお金は使わずに持っておいてよいのです。利息は経営の損害保険料です。経営ではお金を持っていることが『正義』です。

たとえば、新型コロナが流行する前では花形だったスタートアップ企業。ご存知の方も多いと思いますが、基本的に大赤字です。大赤字はこれからの期待を裏付ける勲章と誇りに考えているとすら感じます。

そして大赤字を補填するために資金調達を繰り返します。従って、このような企業はお金が全てです。赤字か黒字かは関係ありません。

しかし、スタートアップ企業もこのような事態になると資金調達に苦労しますので、今後は大赤字を続けるわけにはいかないでしょう。投資する側もリスクを負いきれなくなる以上、当然です。これがスタートアップ企業の最大の問題点です。

それでは「中小企業はどの程度のお金を保有しておけばよいのか?」という点について。

私どもの立場上、お客様の生命保険の必要保障額を算定する場合があります(節税保険ではありませんよ)。

この生命保険の必要保障額は「経営者が亡くなったら、その会社にはどの程度のお金が必要になるのか?」という視点です。

その際に検討が必要な要素は以下の三つ。
 ・借入金の返済が可能か?
 ・売上高が0円になると仮定して何カ月分の固定費を確保しておくべきか?
 ・死亡退職金をどの程度見込んでおくか?

これらの要素と現在の手元資金を考慮した上で必要保障額を算定します。

そして「どの程度のお金を保有しておけばよいのか?」という質問には、この2番目の要素が当てはまります。つまり、売上高が0円でもどの程度の期間、会社を維持できるかという点です。

結論からお伝えすれば…

確保すべきは固定費1年分。

これが難しいのであれば人件費と地代家賃の1年分です。最低でも人件費と地代家賃の1年分のお金を常に維持できれば、新型コロナのようなことがあっても経営は成り立ちます(報道で繰り返されているのもこの二点に集約されています)。この原資は借入金で構いません。

アフターコロナはここから経営を考えましょう。

今は借入れ時です。過剰に借り入れ可能です。誰も文句を言いません。今が最大のチャンスです。

お金が先。利益は後。これが期限の利益です。

期限の利益を活かして業績の改善に取り組み、そして銀行と上手に付き合っていく。これが中小企業を正常化に導く鉄則です。

しつこいくらいに繰り返します。

まず、手元資金を最大化する。
期限の利益を得た上で、収益性を向上させる。
それにより自己資本比率を高めていく。

簡単ではありませんが、シンプルに考えてください。
時間はかかりますが、これ以外にはありません。