備えとしての借入

新型コロナウィルス騒動によって、ある日突然、何が私たち中小企業を襲ってくるか分からないことを多くの経営者が実感させられています。

こんな時、最も重要になって来るのは資金繰りです。
もともと資金力の乏しい私たち中小企業においては特に、こうした局面で一気に深刻な事態に陥ってしまう可能性があります。

設備や人材その他について投資を行いながら事業を運営し、不測の事態にも備えておかなければならない私たちは、銀行からの借入を上手く活用していかなければなりません。

今回は、私が普段からお客様にお話しさせていただいている、借入についての基本的な3つの考えをお伝えさせていただきます。

【必要なくても借りておく】
今回のような不測の事態の際に最も重要になってくるのは手元の自由になるお金です。
あえて極端な物言いをしますが、経営をしていると起こる様々な問題の多くは、お金で解決することが可能であり、お金があることで確実に打ち手が増え、状況に応じた適切な判断を行うことが可能になります。
平時において資金繰りに特に問題がない状況でも、借入によって、常にある程度資金にゆとりがある状況を作っておくことは経営において非常に重要です。

【利息は保険料】
現状の資金繰りに問題がないのに借入をしたら利息がもったいない。
そう考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、余剰資金確保のための利息は、不測の事態に備えて手元にキャッシュを置いておくための「保険料」だと私は考えています。
しかも、利息は全額損金になります。
1,000万円の資金を1%の利率で借りた場合、利息が損金になり税金が減ることを加味すれば、実質の負担は年間で6~8万円、月額5,000円~7,000ほど。
キャッシュ=血液である企業にとって、利息は保険料以外のなにものでもありません。

【借入の返済期間はできるだけ長くする】
「期限の利益」。
私たちは借入をすることで、これを手に入れます。
〇年間、借りたお金を返さなくていい利益です。
これだけ低金利の時代においては特に、期限の利益は最大限に生かさねばなりません。
繰上げ返済はいつでもできます。
原則、「借入の返済期間はできるだけ長い期間で」が正解です。

今回の件ではセーフティネット貸付など資金繰りに関しても政府が支援を始めていますが、当然手続きが必要で、着金までにはある程度の時間を要します。

次に起こる不測の事態の際にも政府の支援があるとは限りませんし、仮に支援があったとしても、手続きをして着金を待つ時間的余裕などないかもしれません。

私たち中小企業はいつでも不測の事態に対応できるように、平時から自由になるお金をある程度手元に置いておくことが重要です。

これを機に改めて「備える」という観点から手元のキャッシュが十分であるか検討してみてください。

他力による一本足打法

瞬間風速としては、リーマンショッククラスの影響が出ている新型コロナウィルス。

直接的な被害から始まった観光業及び製造業のみならず、飲食業・小売業並びにサービス業と幅広い業種に被害が広がっています。

残念なことですが、自転車操業を繰り返していた企業についてはこの春に掛けて倒産が相次ぐことでしょう。倒産までは行かなくとも内部留保が薄い企業については早急に資金手当に動いていただくことをおすすめします。

3月3日時点において公表されている政府支援策は以下のとおり(一部重複しています)。

1.経済産業省ホームページ
日本政策金融公庫等の支援機関相談窓口と、関連する補助事業を紹介する専用コーナーです。

2.中小企業基盤整備機構ホームページ(J-Net21)
各都道府県における金融支援の対応等が掲載された専用コーナーです。

5.日本政策金融公庫による主な融資制度

*TKC ProFIT EXPRESS(令和2年2月26日・28日、3月2日・3日付)より引用

昨秋の台風被害の際、このメールマガジンでも書かせていただきました。

「売上が半分になったらどうなるのか?」

しかし、今回は半分どころか8~9割の売上が飛んで行ってしまうという凄まじさ…。ブラックスワンが、実際に起こるとこのような事態にまで発展します。

何度も繰り返しますが、「売上が半分になったらどうなるのか?」

やはりこの問い掛けは常に行わなければなりません。今回は中国依存、インバウンド依存の企業が致命傷を負っています。

もちろん中小企業は選択と集中が重要です。業種特化、地域特化、特定顧客特化は当然の戦略ですし、効率も上がります。従って、中国特化、インバウンド特化が悪い訳ではありません。

しかし、今回倒産していくであろう企業は「他力」による一本足打法を行っていたはずです。中国「特化」、インバウンド「特化」ではなく、中国「依存」、インバウンド「依存」。ただ流れてきた売上を捌いていただけの他力です。

選択と集中による特化とは「自力」による一本足打法を指します。誰かに支えられながら一本足で立っている企業と、自力で一本足で立っている企業では中身がまるで違うのは皆さまもご理解いただけると考えます。

自力で一本足で立つにはリスクも織り込む必要があり、そのリスクすらも強みに変えていかなければなりません。それだけ覚悟が求められます。

ただ流れてきた中国からの旅行客を受け入れていただけのホテルはすぐに潰れ、自力で中国の販路を開拓していたホテルは耐えられる可能性が高まるでしょう。なぜなら、自力とは自社で考えてすぐに動ける状態を指すからです。

そして、皆さまも聞き飽きたであろう財務の重要性。危機を未然に防止するために必要な資金は保有し続けなければなりません。

「売上が半分になった。早く借りなければ…」では致命的に遅いのです。

自力による一本足打法とその足を支える財務体質の強化。極端に言えば、中小企業はこれができれば他に言うことはありません。

体重が重ければ(抱えるものが多ければ)それを支える足(財務体質)は太い必要があり、体重が軽ければ(抱えるものが少なければ)それを支える足(財務体質)は細くても問題ありません。

これから1~2年かけて徐々に退場していく企業が増えると予想されていましたが、ここで一気に強制退場が始まります。しかも国を挙げて盛り上げていた観光関連から…。

セーフティネット保証だけで何とかなるとも思えませんので、政府はリーマンショック時のモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)クラスの支援策を行うのか、それとも近年の傾向でもあったゾンビ企業は撤退という方針を貫くのか…。業種によって偏りがあるでしょうが、中小企業にとってこれから数ヶ月が正念場です。

皆さま、まずは守りを固めて、荒野になるかもしれない市場を攻略する体力を残しておきましょう。

そして、他力に頼る経営を行っているようでしたら、いち早く自力に脱皮できるよう動いてください。