情報格差

今月12日、2020年度与党税制改正大綱が発表されました。

今回の改正で、前回のメルマガでご紹介した合法的な課税逃れ商品「タックスシェルター」の1つである「海外不動産への投資」スキームが封じ込められることが分かりました。先月末に既に報道されていましたので、ご存知の方も多いと思います。

残念ながら、こうした節税スキームが税制改正リスクに常にさらされていることの良い例となってしまったわけです。

ここではもう、スキームの詳細は書きませんが、これは日本と海外の住宅における資産価値の違いと日本の税制(中古資産の耐用年数と損益通算)のミスマッチを利用した節税方法で所得の高い富裕層を中心に人気があった手法です。

しかし、その一方で2016年の時点で既に会計検査院から、この節税スキームの問題点についての指摘が入っていましたので、いつ税制改正が入ってもおかしくない状況であったことも確かです。

それにも関わらず某有名大手不動産会社でさえも、つい先日までホームページで大々的に節税効果を並べながらセールスを展開していましたし、節税商品として多くの業者が富裕層に提案をし続けていたわけです。

理由はただ1つ、業者が儲かるからです。

既に、このスキームに乗ってしまっている方は、対象不動産を売却することを前提にしたシミュレーションを早急に行って、その時期を判断しなければなりません。

こうなると、日本人への需要は極端に減るはずですし、2021年には、このスキームが封じ込められる予定ですので、当然その前後での売買相場は下がることが容易に想像できます。どのタイミングで手放せば傷が一番浅くて済むかという判断になるでしょう。

さて、こうしたことが起こるといつも思うのが「情報格差」です。

例えばこうした節税商品であれば、その仕組みやリスクの正しい理解、税務調査現場での取り扱いや、税制改正の動向、これで得しているのは業者ですよという本質に至るまで。

また、税制に限らず、同業他社や異業種の動向、最近の金融機関の動きや世の中の空気感など、中小企業経営者が普段から察知しておくべき情報は実に多岐にわたります。

しかし、恐ろしいのは今や巷に情報は溢れ、その多くがゴミ情報であるという事実です。

数少ないまともな情報を手にするには、その本人の取捨選択能力が求められるほどに情報が溢れてしまっているのです。

来年も目まぐるしいスピードで中小企業経営をめぐる環境は変化していきます。
税制の変化も早く、より複雑なものへと変わってきており、情報は企業の生命線と言っても過言ではありません。

私たちエー・アンド・パートナーズ税理士法人は、来年も皆さまの経営の一助になれるよう、引き続き有用な情報を提供させていただきたいと考えております。

本年も1年間、ご愛読いただき誠にありがとうございました。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

メインバンク再考

皆さまは「うちのメインバンクは〇〇銀行」と言いきれますでしょうか?

ウィキペディアによると、メインバンク制とは下記のとおり。

企業は複数の銀行・信用金庫などと取引関係を保つのが通常である。しかし、その取引関係には濃淡がある。うち一行の主力取引銀行(メインバンク)とは借り入れ・預金・手形取引・取引先の紹介など、他行との取引とは別格の濃厚な取引を続け、経営内容に関する情報を提供し経営指導を受けるなど関係強化に努めて安定的な資金供給を受けられることを期待し、不況期など経営が悪化した場合には役員の派遣を受けて再建を図る。大型の資金需要に対しては、メインバンクの主導のもと複数金融機関が貸出条件・分担額などを取り決めて融資に当たる。

この説明は比較的規模の大きい企業向けの説明となり、一昔前のイメージと重なります。

では、現在の中小企業はどうかというと、低金利融資の乱発により「単に借りているだけ」の金融機関が多数ある…。

つまり、メインバンクの意味が「別格で濃厚な取引」であるのに対し、「同列で淡泊な取引」を行っている金融機関ばかりという状態です。

もちろんメインバンク制が機能していたときとは時代背景が異なります。銀行窓口に行くことも少なく、少額融資ならインターネットで完結するようにもなりました。淡泊なお付き合いになるのも当然です。

従いまして、「どこがメインバンクか?」という話自体が不要になってきたのかもしれません。

しかし、大企業や意欲的なベンチャー企業と異なり、中小企業には直接金融(社債の発行や株式資本の調達)の選択肢はありません。メインバンクは不要という流れが中小企業にとって本当に良いのかどうかは自社の状況を踏まえて検討する必要があります。

なぜなら、そこには無視できない環境の変化があるからです。

ご存知のように、金融機関の業績は急激に悪化しておりリストラを急いでいます。効率化のためにシステム投資を急ぎ、人員削減と採用抑制。店舗の統廃合から最終的には資本提携や経営統合。

BtoCにおいては明らかに金融機関の果たすべき役割が変わってきており、今後はさらに加速することでしょう。

そしてBtoB、つまり企業と金融機関の関係です。金融機関はおおまかには以下のように分けられ、基本的に規模に比例します。

 *都市銀行(3メガバンク、りそな)
 *地方銀行(第一、第二)
 *信用組合・信用金庫・協同組合など

大企業が信用組合から借りることはありませんが、中小企業が都市銀行、地方銀行、信用組合の全てから借りているケースもあるでしょう。

さらに企業が融資を受ける際に「この取引をうちに移して欲しい」との要望を受け、各金融機関に各取引が分散されていきます。

その結果、企業も金融機関もどこがメインバンクか分からない…。

そのような状況の中、金融機関における人員整理と店舗の統廃合の末に何が待っているかというと、『取引先の見直し』です。

都市銀行にすれば、大企業から中小企業まで面倒を見ている暇はありません。年商数千億円の大企業と取引を行いつつ、年商数億円の中小企業のケアを手厚く行うという判断がくだされるでしょうか?

中小企業にしてみれば、今までは積極的に融資の提案をしてきた都市銀行からは急に渋られ、距離的に近かった地方銀行の店舗がなくなり、ふと気付くと密に相談できる金融機関が一行もない…なんてことが待っている可能性があります。

金融機関が融資の際に最初の目安にするのは「年商」です。

つまり、自社の年商がお付き合いのある金融機関にとって「コアな顧客」に該当するのかどうかを把握しておく必要があります。

なお、地方の中小企業は都市銀行との取引自体がほとんど無いため、自社を「コアな顧客」とする地方銀行や信用組合などとの取引が中心のはずですが、その代わり取引相手の金融機関の経営状態はよーく把握しておく必要があります。それほど経営が痛んでいる金融機関が増えているからです。

ここで話をまとめます。

低金利融資の行き過ぎた状況は借り手の皆さまにとっては得でしたが、貸し手の金融機関にとっては損でした。そして、体力も維持できなくなってきたとなると…。

現在のような環境では金融機関も取引先の選別を厳しくするのは当然で、それにより近年のような淡泊な付き合い方では不利になる可能性が高まっています。

もし、自社に資金ニーズが強いのであれば、自社の規模をコアな顧客とし、経営基盤が安定している金融機関と適度なお付き合いをされているかどうかが重要です。

仮に地方銀行や信用組合などとの取引が都市銀行よりも高くついたとしても、長期的には適正なコストにつながるかもしれません。

淡泊なお付き合いが主流になる今の時代だからこそ、濃厚なお付き合いを前提とするメインバンク制というのは大きなメリットになります。

金融機関にとっても適正規模の大切な中小企業は優遇の対象となるはずですので。