金融機関にとっての優先順位

AI融資。

中国では日常的に使われているとの記事をよく見かけますが、日本でも事業化に向けて動きが活発になりつつあります。

AI融資は個人情報や取引履歴を用いて、従来の融資とは比べ物にならないくらいのスピード感で実行されるのが特徴です。アプリやWEB上で完結することも大きなメリットと言えます。

日本でもアマゾンやリクルートなど、自社のプラットフォームを使う取引先に対する融資が開始されて数年が経過しています。

このような融資が今後加速し、一般的になるのは間違いありません。情報を随時提供する(あるいは強制的に提供させられる)ことにより、タイムリーに融資が行われることになります。

現在実現しているAI融資は個人や小規模事業者が中心であり融資額もまだまだ少額ですが、AI融資をいつでも受けられるように自社の体制を整えていくということが重要になります。IT化という言葉自体が古臭くなりましたが、そのIT化すらできていない中小企業は注意が必要です。

なお、小規模事業者以外の中小企業(一回の融資で数千万円から1億円を超える融資を受ける規模)はAI融資などの動きについて静観していればよいのかというと…実はそうでもありません。

皆さまも報道でよく見聞きされるかと思いますが、金融機関のリストラが加速しています。支店の統廃合や人員整理が盛んに行われているため、一昔前に比べて金融機関の動きが非常に鈍くなっているのです。

金融機関側にとって優先順位が低い取引先(つまりパッとしない中小企業)については、やる気も経験も少ない担当者が付いたりします。

実際、金融機関の部長クラスに直接確認しても、率直にその事実を認めます。

「手が回らないんです…」

つまり、中小企業はいざというときに迅速に金融機関から融資を受けられるよう、自社の優先順位を上げてもらうことを意識しておく必要がでてきました。

この点につき、AI融資とは別の動きがあります。

たとえば、私どもも所属しているTKCグループが提供している「TKCモニタリング情報サービス」。

これは、税理士がお客様からの依頼に基づき、法人税の電子申告直後に、融資審査、格付けのために金融機関に対して決算書や申告書、月次試算表等のデータを提供する無償のクラウドサービスです。

これまで金融機関は、取引先の中小企業を直接訪問するなどして、決算書や月次試算表などのコピーを入手していました。しかし当サービスを利用すれば、そうした労力を掛けることなく、タイムリーに取引先企業の財務状況を知ることができ、その決算書等のデータは税理士から直接送られてくるため信頼性の高いものになると謳っています。

例を挙げると…。

3月決算法人の申告が5月末に行われ、その決算書等を皆さまが受け取るのが6月上旬頃だとします。その後に金融機関の担当者が ” 紙 ” の決算書等を持ち帰り、決算書情報をデータとして入力。分析を行ったうえで担当者が提案を検討し、再度皆さまの会社を訪問するのが6月下旬から7月上旬。

というのがこれまでの一般的な流れかと思われます。

これが上記のようなサービスを利用すると、金融機関側は5月末に決算書等をデータでそのまま受け取ることができ、皆さまの会社を訪れるタイミングも、” 紙 “ の決算書等を受け取るケースより一ヶ月ほど早まってもおかしくはありません。

仮に、皆さまの会社の業績がパッとせず、金融機関の担当者が乗り気ではなかったとしても、いち早く情報が揃った皆さまの会社から訪問することになるのは当然のことでしょう。

そして、例として挙げたTKCだけではなく、日本IBMが全国の金融機関や会計ソフトメーカー等と組んで、決算書等のデータをプラットフォーム上で提供するシステムの開発を進めています。このサービスの開始目標は2020年とのこと。

紙で受け取る決算書とデータで受け取る決算書…。どの業界よりもフィンテックに積極的であり、そのためのリストラを進める金融機関にとってどちらが好ましいのか、言うまでもありません。

もちろん決算書が良い(格付けが高い)中小企業が有利な条件で融資を受けられるのは間違いありませんが、より早く融資を受けるという意味では外部環境に大きな変化が起こっています。

また、金融機関にとっては、業績がパッとしなくてもタイムリーにデータの提供を受けている中小企業の方が安心できますし、実際に融資条件の優遇を始めています。

今後の融資環境については、皆さまの会社の状態だけではなく、金融機関側の都合も大きく影響してくるということを理解しておいていただければと考えます。

自社や税理士のIT化次第で融資に影響があるというのも時代ですね。

節税保険の新ルール

法人向けの節税保険にメスが入ったことは、このメルマガでもお伝えさせて頂きました。

あれから2ヵ月、国税庁が4月11日に公表した改正(案)によって、既契約への遡及適用はしないことが明らかになると同時に、中途解約時の『返戻率』に応じて異なる損金算入割合を適用する新ルールを示しました。

5月10日まで意見公募(パブリックコメント)を行ってから、早ければ6月にも新ルールが適用されます。

見直し案は、段階的に損金算入割合が変化する、複雑なものになりますが、イメージしやすいように、無理やり簡便的にまとめてみました。

基本的に保険期間の経過に応じて損金算入割合が変化していきます。

ピーク時の返戻率が50%以下の商品については全額損金になりますが、ピーク時の返戻率が高いほど当初保険料の損金算入割合が低く制限されていることが分かります。

そして、保険期間の経過に合わせて損金算入割合が上がっていくことになり、最終的には前半で資産計上した部分も取崩して損金に算入していきます。

理屈はこうです。

時の経過に伴い年齢を重ねるほどに死亡リスクは高まりますので、本来であれば保険料は時の経過に応じて高くなるはずです。

しかし、実際の定期保険では保険料が一定です。これは保険期間の前半に後半分の保険料を前払いしていることに他なりません。

つまり、保険期間前半に支払う前払い保険料相当額を資産計上させ、保険期間の経過に応じて損金算入を認めるという考えに基づいているのです。

次に新ルールに基づいて、保険料を1000万円支払った時点で返戻率がピークに達し、解約した場合のシミュレーションを、こちらも簡単にしてみました。

損金算入割合が制限されることで、返戻率のピーク時に解約したとしても、キャッシュアウトの方が当然に大きくなってしまいました。
仮に解約時に何かしらの損金をぶつけて出口対策を施したとしても、③以外はキャッシュ・フローがプラスに転じることはありませんし、③は出口対策を取れればキャッシュ・フローがプラスになるといっても、その効果は少額です。

パブリックコメントを受けて、多少の調整が入ることはあり得ますが、基本的には改正(案)に沿った改正がなされるはずです。
今後、生命保険各社が新商品で抜け道探しをする可能性は高いですが、節税だけを目的にした生命保険への加入は、現状では基本的に選択肢としてなくなることになります。

節税保険には加入していても、経営者に万一のことがあった場合の必要保障額を算定したうえで、不足資金を保険で手当てし、数年おきに会社や経営者個人の状況に応じて見直しをかけるといった作業を行っている中小企業は少ないのが実情です。

今回の改正で、生命保険は本来の役割に立ち返ることになります。
生命保険に限らず損害保険もそうですが、会社の成長などに応じて絶対に随時見直しが必要です。

会社の現状に全く合わない保険に保険料を支払い続けているといったことが本当に少なくありません。
今回の改正をきっかけに、ぜひ自社の保険の総点検をしてみてください。