まずは目前の改正を理解する!

毎年恒例の平成30年度与党税制改正大綱が12月14日に公表されました。

所得税基礎控除の改正による高所得者への増税、税額控除の拡充による法人税の減税、円滑な事業承継を実現させるべく事業承継税制の大幅緩和など、連日新聞紙面をにぎわせていましたので、ご存じの方も多いことでしょう。

さて、もちろんこの税制改正大綱の内容を知っておくことは重要なのですが、実際に法案が通り、改正が実行されるのは少し先のお話しです。

税制改正大綱の詳細はあらためて別の機会にお知らせするとして、その前に昨年の税制改正における決定事項で、年明け早々に皆さんに影響がある改正である配偶者控除について、少なからず中小企業経営者の役員報酬に影響しそうですので、重要な点に絞って理解しておきましょう。

ご存じのように、現在は配偶者の年収を103万円以下に抑えることで、38万円の基礎控除と65万円の給与所得控除を使い、配偶者本人に所得税がかからない範囲で収入を与えると同時に、ご主人の方で38万円の配偶者控除を適用して所得税を減らすことができます。

そのため、奥さまに月額8万円程度の役員報酬を計上して、配偶者控除を適用するという形を取っている中小企業経営者は少なくないはずです。

しかし、この配偶者控除が年明けから大きく変わります。

細かい理解は不要です(実際、細かすぎて覚えられません!)。重要なポイントと、考えられる一般的な対策を押さえておきましょう(理解を簡単にするため、あえて配偶者特別控除などの言葉の定義を正確に使用することを避けていますのでご了承ください)。

ご自身の年収が1,120万円以下であれば、奥さまの年収を150万円まで増やしても配偶者控除が38万円フルに使えるようになります!
ただし130万円の社会保険加入の壁は変わっていないので注意してください!

ご自身の役員報酬が年間1120万円以下であれば、奥さまの役員報酬を月額108,000円程度として、奥さまの年収を130万円未満にすることで奥さまの社会保険の加入を避けつつ配偶者控除をフルに使うことができます。

ご自身の年収が1,120万円を超えると配偶者控除の額が段階的に減っていきます!

現在のご自身の役員報酬が年間で1120万円前後の人は、奥さまとの合算年収をうまく配分することで最適化を計ることができる可能性があります。あくまでも2人トータルでの最適化を考えましょう。

まずは奥さまの役員報酬を配偶者控除が使える月額108,000円程度として、奥さまの年収を130万円未満にすることで奥さまの社会保険の加入を避けつつ配偶者控除を使うことができます。

場合によっては、自身の年収を1,120万円以下に抑えることで配偶者控除をフルに使えるようにします。
ただし、1,120万円を超えても段階的に減少していくだけで、すぐに配偶者控除がゼロになるわけではありませんので、過度にこだわる意味はありません。

ご自身の年収が1,220万円を超えると配偶者控除は完全に使えなくなります!

ご自身の役員報酬が年間で1,220万円を大きく超える人は、どのみちもう配偶者控除は使えないので、奥さまの役員報酬もこれを機にグンと上げてしまうことを検討します(ただし、過大役員報酬に注意)。
ご自身と奥さまの年収差を可能な範囲で少なくすることで税の最適化を計ります。

ただし、奥さまの社会保険の加入を避けたいのであれば、月額108,000円程度とし年収を130万円未満に抑えることになります。

なんとなく分かっていただけたでしょうか。

特に現在、ご自身の年収が1120万円前後の方、奥さまに103万円以下の役員報酬を計上している方については奥さまの役員報酬との合計額の配分を少し変えるだけで税金に変化が生じる可能性がありますので注意が必要です。
来年以降の役員報酬について、改正内容を踏まえて検討してみてください。

今年1年も税理士セカンドオピニオンをお読みいただき、誠にありがとうございました。

お気づきのとおり、昨今の税制改正により、税務戦略の「セオリー」はどんどん変化していっており、毎年の「メンテナンス」が欠かせなくなってきています。

来年も皆さまの会社に1円でも多くのキャッシュが残せるよう、有用な情報を発信させていただきたいと考えています。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

税務調査対策の基本中の基本

税務調査対策については、いろいろなところで、さまざまな方が、ありとあらゆる方法を述べています。
シンプルなものからテクニカルなものまで、企業が行うべきものから税理士が行うものまでと、数が多過ぎて専門家である私どもでさえよく分からなくなるときがあります。
しかし、当然すぎてあまり触れられない、税務調査対策についての基本中の基本があります。
それは、会計処理を厳密に原則的な処理にて行うことです。
「払うべきものは払う。税務調査なんかで無駄な時間を取られたくない」という場合には、自社の会計を厳密に原則的な方法にのっとって処理をすればよいだけです。
税法がどうなっている等、細かいことなどあまり関係がありません。
税法の前にそもそも会計です。
税法の判断は税理士に任せればよく、企業側では会計処理を原則的に処理する。原則的な処理が分からなければ税理士に聞けばよいだけ。
これが最大の税務調査対策になります。
(調査官の目を潜り抜けようという別の意図があるのであれば別ですが…)
ただ、「きちんとした会計処理を行うなんて当然じゃないか」とお考えの方が多いと思われます。
しかし、原則的な会計処理を徹底している会社というのは意外と少なく、例えば下記のような点が挙げられます。
・その会社独自の処理の仕方がある → 長年の慣習(あまり意味がない)
・経営者の好みの処理の仕方がある → その方が経営者が分かりやすいという指示
・経理担当者の癖がついた処理の仕方がある → 本人もよく分かっていない
・税理士が好きな処理の仕方がある → 理に適っていない場合が多い
つまり、本来あるべき会計処理の方法ではなく、結果として長い期間の末にその会社独自の処理の仕方ができあがるため、そこにひずみが出て税務調査でその問題が発覚するということがあります。
正確な会計処理が行われていれば気付けることも、その会社独自の処理の仕方が行われていると気付けないことも多く、そのような状態で第三者(例えば調査官)が確認すると違和感を覚える場合もあります。
私は18年ほどこの業界で仕事をしていますが、修正申告を行った数はまだ片手で納まっています。
それはもともと私が税法に詳しい等ではなく、会計処理の原則性を重視して仕事をしているからだと考えています。学生時代は会計学を専攻していて、会計処理はこうあるべきだという思いが強いのです。
正直に申しますと、私は汚い決算書が嫌いです 笑
少なくとも自分が担当するお客様で裁量が任されている場合は、過去の経緯を無視して強引に会計処理を修正してしまいます。
会計処理が原則的に行われていれば、見えないものも見えるようになってきます。
そうなれば税務調査で問題となるようなことはおのずと少なくなります。
なお、近年は効率化の名のもとに、処理が単純化されるケースが増えてきました。
Fintechを利用して処理を自動化なんてことにもなってきましたが、取得できるデータでは請求書の内訳までは分からないため、本来分解するべき取引が一本で処理され、それが後々問題になるということもあります。
会計処理に効率を求めすぎることも、ある面では問題が生じやすくなる場合があります。
また、経理担当者が実際の現場で行われている処理をよく理解せず、請求書等の書類だけで処理をしてしまうことも大きな問題です。
私どもが監査の際、請求書の内容を経理担当者に問い合わせると、その請求書の内容を知らないで処理しているというケースも見受けられます。
・社長が指示している取引の請求書だから内容を聞けない
・その取引を担当している者しか分からないが、その担当者もよく分かっていない
・拠点が複数あり、経理担当者が各拠点のことをよく分かっていない
大企業であれば、上記のようなケースでも対応できる部署があるでしょうが、中小企業では経理担当者次第で処理の結果が大きく変わり、税理士もそこまで詳しく見ていないというのが現状です。
中小企業ならではの部分もありますが、これらが解決しない限り、税務調査対策としてどのようなものを講じてもあまり意味がありません。基本ができていないということですから。
ちなみに、会計処理を正確に行うことと、節税を目的とした対策を取ることは矛盾しません。会計処理を厳密に行っても、節税は問題なく可能です。
以上、私がお伝えする税務調査対策の基本中の基本とは、会計処理を正確に行うというとてもシンプルなことなのですが、税務調査対策に無駄な時間とお金を使っている企業のご相談を受けることもあるため、今回はあえて至極当然のことをお伝えさせていただきました。
皆さまも、税務調査に入られたときの対策を考えるのではなく、普段から正確な処理が行われているかをあらためて見直した方が早いかもしれませんね。