もちろん、限界利益率(粗利益率)が高ければ良いのは間違いありません。
限界利益率が高まれば、少ない売上高でより多くの利益が出るようになります。
それでは、全ての状況において限界利益率が高ければ良いのでしょうか?
売上高は変わらない、
限界利益率は高まっている、
経常利益も増加した。
これなら収益性の管理はOK。
しかし、貸借対照表を確認してみると在庫が積み上がっている。
その在庫は、限界利益率が低い商品である…。
複数市場、複数商品を扱う場合、売上高に占めるその割合によって限界利益率が変化します。ここにおける限界利益率の上昇は、限界利益率が低い市場や商品の販売比率が減少していることによって生じます。
そのため、限界利益率の上昇を追えば追う程、必然的に限界利益率が低い市場や商品の販売比率が下がることになります。
そのため最終的には、限界利益率が低い市場、商品から撤退するという「合理的な選択」につながります。それにより在庫も設備投資も不要となります。
ここで皆さまもご存じの『イノベーションのジレンマ』。
自社が収益性の低い市場から撤退し、より収益性の高い市場へと上がることによって、撤退した市場で破壊的イノベーションを起こしたプレイヤーの成長を許し、そのプレイヤーが再度自社がいる市場に進出して来る…。
破壊的イノベーションを起こすプレイヤーは、限界利益率が低くても事業が回るコスト構造にあります。従って、まともに戦っても勝てる訳がありません。後出しジャンケンが勝つのと同じ理屈です。
つまり、自社の限界利益率を高めるという一点だけに気を取られていると、在庫にゆがみが生じたり、他の企業が自社の市場に進出してくることを許し、自社は市場からの撤退を迫られる可能性が高まります。
中小企業の多くは、破壊的イノベーターとしての優位性を持って既存市場のシェアを獲るわけですが、規模が大きくなればなるほど持続的イノベーターのポジションに落ち着いてしまいます。
そして、新たな破壊的イノベーターが自社の市場に参入して来る頃には、万全の業績管理ができるようになっており、合理的な判断の下に収益性の低い市場から撤退します。
自社としては収益性の低い市場から喜んで撤退していると思いきや、実は撤退させられていたり、収益性は高いが狭い市場に追いやられている可能性があります。そして、どんどん上の市場に追いやられて最後に行き場がなくなる…。
収益性の高い市場の中で自社のシェアが低い場合は、まだ奪う側に回れるので気にする必要はないかもしれませんが、いわゆる地域一番店と呼ばれる中小企業であれば、既に一方的に奪われる側に追い込まれている可能性があります。
当然、撤退の判断が全て悪い訳ではなく、他に獲るべき市場があればそこに参入すれば良いのです。中小企業は資源が限られていますので、戦力は集中すべきです。その場合は素直に譲りましょう。
しかし、これからシェアを高めようとしている市場が、バラ色の市場であることなどめったにありません。そんな市場は既に他のプレイヤーが牛耳っています。実は撤退した市場の方がまだまだ魅力的だった可能性もあります。
また、既に破壊的イノベーターが自社の市場に進出しており、シェアを明け渡し続けているのにもかかわらず、限界利益率に象徴される「率」にこだわって、本来上げられるべき「額」を失っている場合もあります。
破壊的イノベーターに対抗できる限界利益率で利益が上がらないとしたら、そもそも自社のコスト構造がその市場に合わなくなっているということです。この場合は迅速に他の市場を探すか、傷が浅いうちに自社の身の振り方を考えなければなりません。
なお、クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で主張したように、破壊的イノベーターに対抗するために、独立した別ブランドで自社も破壊的イノベーターになる選択肢もあります。
現時点で、皆さまの会社が魅力的なポジションにいらっしゃるのであれば、必ず破壊的イノベーターはやってきます。そのときにどのような行動を取るべきか…。
今回は以上となりますが、最近、お客様と過去からの限界利益率の推移のお話しをする機会が多かったため、復習を兼ねて限界利益率の構造の問題を取り上げました。
10年程度の自社の限界利益率の推移と市場でのポジションを重ね合わせると、結果として、どのような戦略を採用してきたかがたどれるはずです。そして、今後はどこに向かうのかを検討しなければなりません。
中小企業の業績管理も画一的ではなく、部門別管理や商品別管理により、現状を多角的に捉え、部門や商品によって方針を変える必要があります。
限界利益率の高さは、売上高とトレードオフとの関係にあるということも頭に入れておきましょう。