先月、毎年恒例の中小企業白書が公表されました。内容は2016年版に引き続きという感じですが、「事業承継」に割かれているページ数が年々増えております。
事業承継という場合、後継者の有無に焦点が当たりますが、後継者が決定してもその企業で働く従業員が減少してしまえば、企業の存続には赤信号が灯ります。
一昔前までは、中小企業経営者の一番の仕事は資金繰りと言われていましたが、現代では人繰りが一番の仕事と言っても過言ではありません。
人材不足は今に始まったことではありませんが、より規模の大きい企業で働く労働者の割合が急激に増加していることからも、中小企業の事業承継がより困難な状況に向かっています。
従いまして、中小企業の事業承継は、後継者不足と従業員不足の二つの人材難の解決が必須となります。
まだまだ若いオーナー企業のM&Aが増加しているのも、資金面のみならず、より大きい規模の企業の傘下に入り、人材確保の道を切り開きたいという想いもあるのでしょう。
そのような最中、いきなり「事業承継補助金」なるものが登場しました。
概要は以下のとおり(経済産業省WEBサイト参照)。
「事業承継補助金」は、
(1)地域経済に貢献する中小企業による、
(2)事業承継をきっかけとした、
(3)経営革新や事業転換などの新しい取組を支援する補助金です。
【補助率】2/3
【補助上限】
・経営革新を行う場合 200万円
・事業所の廃止や既存事業の廃止・集約を伴う場合 500万円
補助対象者や事業承継についての考え方は以下のとおりです。
1.地域への貢献
他社との取引関係や地域の需要に応える商品・サービスの提供、雇用の維持・
創出によって地域に貢献している中小企業が補助の対象です。
2.事業承継
平成27年4月1日から、補助事業期間完了日(最長平成29年12月31日
)までの間に事業承継(代表者の交代)を行った又は行う必要があります。
3.新しい取組
概要は以上となりますが、この補助金は従業員の人件費に対しても対応しており、事業承継を進める中小企業の人材確保も考慮されているのでしょう。
募集期間は平成29年5月8日(月)から平成29年6月2日(金)と短くなっており、もしご興味のある方はこちらをご確認ください。この手の補助金のハードルは意外と高くはありません。なお、今後も定期的に募集される可能性もあります。
それにしても、事業承継にまで補助金が出るようになるとは驚きです。国としては補助金を出してまでも事業承継を進めて欲しいというサインになりますが、中小企業の事業承継が後手後手に回っていることも事実です。
実際、当社にてご相談を承っているセカンドオピニオンでは、ここ数年は半分程度が事業承継関係です。
事業承継の相談内容数に順位をつけると…
1位・・・高額な自社株式の異動方法
2位・・・そもそも事業承継をどうすればよいか分からない
3位・・・M&A
これから時間を掛けて進めたいとご相談に来ていただける方はまだ良いのですが、今まさに事業承継を行いたいと駆け込んで来られる方も多くいらっしゃいます。
当社の顧問先様の事業承継でも規模に関わらず最低3年から5年は準備をして進めますので、セカンドオピニオンでいきなり解決しようとしても、ウルトラCは出てきません。
特に、事業承継関係の税金については、法人税、所得税、相続税、贈与税と幅広い税金が関係してきますので、上手に進めないと合計数千万円から数億円の差が生じるケースがほとんどです。
中には、自社は小規模だから税金はあまり関係ないとお考えの方も多くいらっしゃいますが、それでも最低数百万円は変わってきます。
事業承継は、後継者の有無、従業員の年齢構成、経営状況、業界を取り巻く環境、退職金の支給予定額、株式の構成割合、関係者の理解等が複合的に絡み合い、顧問税理士一人がトータルでアドバイスできるケースが少ないと言えます。
なお、事業承継は具体的に決まってから考えようとされる方が多いのですが、事業承継についてどうしようかと思い始めた段階で顧問税理士等にご相談されるのが一番好ましいです。従いまして、事業承継の方向性を模索するのに経営者の年齢はあまり関係がありません。事業承継の検討が遅れることにより、競合企業に差を付けられる可能性だってあるのです。
皆さまも事業承継適齢期を待たずに、ご自身の人生と自社(法人)の人生を逆算的に考え、事業承継の検討を始めるのも良いのではないでしょうか。
(山田 拓巳)