貸借対照表よりも、損益計算書をよく見る。
貸借対照表の中では、現預金のみを見る。
売上高や利益が気になるのですから、当然と言えば当然です。
そして、手持ち資金が重要な訳ですから、これも当然です。
極端なことを言えば、これだけ見ていれば何となく会社の状態が分かるのだと思います。これは皆さまが数字以外の事も含めて、自社の全てを把握しているからこそ問題がない訳です。
しかし、これらを外部の人間が見るとしたらどうでしょう?
貸借対照表と損益計算書のどちらを見たいかと言われたら、もちろん貸借対照表です。
現預金は当然としても、それ以外の構成がとても気になります。他に知りたい情報があればWEBサイトを確認します。
貸借対照表を見れば、その会社と経営者の基本的な性格が分かります。
WEBサイトにはそれを補足するような情報が記載されています。
私どもはセカンドオピニオンとしてのご相談を多く受けているため、顧問契約を結んでいるお客様以外の決算書を拝見する機会が多いのですが、特に気になるのが貸借対照表です。
第三者目線からすると、歪んでいる貸借対照表が非常に多いのです。思わず「この先どうされるおつもりですか?」と質問したくなる場合があります。
「将来的には会社を売却することも考えている」と回答されたら、まず貸借対照表の歪みを正していくことをお伝えします。
例えば、ご自宅を売却する際に、荒れ放題の状態で内見してもらうのと、ちょっとした手直しやハウスクリーニングを行った状態で内見してもらうのでは、売却額に影響するはずです。これは会社でも同じことです。
そして、同じ目線で金融機関も税務署も見ています。帝国データバンクや東京商工リサーチ等の信用調査会社も見ています。
貸借対照表の歪みを探し、皆さまの会社の不利となるような点を突いてきます。
このような歪みも金融機関等は継続的な取引の中で説明が可能な場合もありますが、会社を売却するとなれば話は別です。単なる言い訳になってしまい、売却額に影響が出てしまいます。
会社売却時での例は極端とも言えますが、いつ何が起こっても外部の人間に貸借対照表の歪みを突かれないような状態にしておくことはとても大切です。
貸借対照表は皆さまの会社のこれまでの地層のようなものですが、将来に向かっての準備を表すものでもあります。損益計算書ではその準備は分かりません。
貸借対照表の構造はそれぞれなので具体的にはお伝えできませんが、将来に向かっての準備が出来ているか、年の初めに貸借対照表を改めて眺めていただくことをお勧めします。
月: 2017年1月
財務省のホントの狙いとは
昨年公表された「平成29年度税制改正大綱」。一般的には配偶者控除の見直しなどが注目を集めたようですが、中小企業経営者としては最も気になる改正の1つとして「取引相場のない株式の評価の見直し」(いわゆる自社株評価の見直し)があるのではないでしょうか。
この改正、一見すると中小企業等にとっては朗報に見えます。
しかし、さすが財務省(皮肉です)。中小企業等に有利な改正と見せかけて、実は増税要素も多分に含んだ改正内容となっているのです。
皆さんご存知のように自社株評価の大きな問題点として、上場企業と違い基本的に市場流通性がないにも関わらず、実力以上に想定外に株価が高く評価されることが多々あり、事業承継を円滑に進めることが困難になるということがあります。
税理士に勧められて自社株評価をしたところ、その評価額のあまりの高さに驚き、戸惑い、その扱いに困っている経営者は少なくありません。
自社株の評価は、ザックリ言うと【配当】【利益】【簿価純資産】の3つの要素について、それぞれ【1:3:1】の比重によって算定する方法に拠られています。つまり【利益】の比重が3で最も高く、「儲かっている会社ほど評価が高くなりやすい」構造にあるわけです。
税制改正大綱では、この3つの要素の比重を【1:1:1】へと見直すとされています。これにより、誰もがまず真っ先に思うことは【利益】の比重が3から1へ下がることによって、「儲かっている会社の評価額が今までよりも下がりやすくなる」ということです。
財務省は胸を張って(表向き)「中小企業経営者の皆さん!事業承継が円滑に進むように自社株評価額が下がるように改正しますよ!」と言いたいのでしょう。
もちろん「儲かっている会社の評価額が今までよりも下がりやすくなる」ことは事実です。しかし、繰り返しですが、さすが財務省(もちろん皮肉です)です。
実はこの改正の計算式によると、自社株の評価額が今までよりも高くなる(下がりづらい)、ケースがあることに気が付きます。そして、財務省のホントの狙いは、むしろそこにあるのではないかということに思いが至ります。
では、どのようなケースで自社株の評価額が今までよりも高くなる(下がりづらい)恐れがあるのでしょうか。
■簿価純資産が大きい会社
利益の比重が下がるということは、これに伴って全体では【簿価純資産】の比重が上がることを意味します。つまり簿価純資産が大きい会社は株価が上昇する可能性があります。
例えば、株や土地を多く保有する会社において、株や土地の価額が上昇すれば簿価純資産が、より大きくなり、比例して株価評価も上昇する可能性が高まります。
言い方は適切でないかもしれませんが、何もしないで資産価値が上がったような会社については株価評価が高くなるようにしたいという、財務省の裏の意図が見えます。
■利益の圧縮により株価対策をしようとする会社
今までの評価方法では利益の比重が高かったため、評価を下げるには【利益】を痛めつける、つまり利益を圧縮したり損失を出すことが有効でした。退職金の計上や特別償却等によって株価評価を下げ、そのタイミングで株を移動することを税理士から提案されたことのある方は多いはずです。
しかし、改正によって利益の比重が下がることで、損失が計上されたとしても株価評価への影響が小さくなることになります。利益が出ている会社の株価評価を下がりやすくする一方で意図的に損益にインパクトを与えることでの株価評価対策を封じたい財務省の裏の意図がここでも見えます。
税制改正においては減税だけを行うということは、まずありません。減税を行えば、その税収減を補うべく、必ずどこかで増税を行います。
しかも、表向きは減税としていおいて、目立たぬように巧妙に裏側に増税を潜ませたりしてきます。そうした目で見ていくと、「裏」こそホントは「表」であることに気が付きます。ここを見逃さないことが税務戦略においては非常に重要です。
今年もまた1年が始まりました。時代の変化とともに税制も年々変化しており、より一層、経営を考えるうえで重要な要素となり、切り離せなくなってきています。
今年も中小企業経営者の皆様の一助となるべく、有用な情報の「表」も「裏」もお伝えしていきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願い致します。
中小企業の労働生産性を上げるには
「日本の労働生産性は低い!」そう言われ続けています。
労働生産性とは効率を指します。つまり、日本の労働者は効率が悪い働き方をしているという訳です。
日本における就業者1人当たりの労働生産性は832万円、就業1時間当たりの労働生産性は4,718円。1人当たりではOECD加盟35カ国中22位、1時間当たりでは19位。主要先進7カ国では最下位ということ。
これが日本の労働生産性が低いと言われる根拠となっています(公益財団法人 日本生産性本部 『労働生産性の国際比較 2016年版』から引用。いずれも2015年、GDP基準改定後データより)。
当然、このデータだけで何が判断できるという訳ではありません。その国の産業構造にもよりますし、サービス残業など、表面的には隠されたデータもあるでしょう。
それでも考えざるを得ないのは、中小企業の労働生産性の実態です。
上記の数値はGDPを使用していますが、各企業の労働生産性は就業者1人当たりの付加価値(粗利益)とします。1時間当たりの労働生産性も同様です。
つまり、1人当たりの労働生産性は、自社の粗利益(人件費は除く)を従業員数で割れば算出できます。この指標は国の労働生産性と異なり、現実です。
業種や規模、ビジネスモデルにもよりますが、皆さまの会社の1人当たりの労働生産性が上記の832万円より低いと厳しい状況と考えます。
ちなみに、日本の1人当たりの労働生産性832万円を1時間当たりの労働生産性4,718円で割ると、用いられている労働時間は1人当たり1,763時間となります。
1日8時間労働で年間240日働いたとすると1,920時間(年間休日125日)。
正社員で年間1,920時間の労働というのは少ないと思いますので、月30時間の残業と仮定すると年間2,280時間。仮に1人当たりの付加価値832万円を基準にすると、1時間当たりの労働生産性は3,649円です。4,718円からは1,000円以上さがりました。
「だから何なのだ?」というのはその通りです。意味がありません。労働生産性など気にならなければ無視すればよいのです。
とはいえ、日本や各企業の労働生産性も、データを計測して判断していかなければ事実は分かりません。そして、ほとんどの中小企業の経営者は利益を上げ、かつ、効率も上げたいと考えているはずです。
労働生産性は効率を示すとお伝えしましたが、効率が上がって残業時間が減ったとしても、それ以上に利益が減ったら意味がありません。
単純に考えると、アウトプットである粗利益を上げるには、インプットである労働時間を増やさなければなりません。トレードオフの関係です。
しかし、いま世間で言われていることは、粗利益を上げて労働時間を減らす(あるいは増やさない)ことです。
純粋にトレードオフの関係で言えば、これは困難と言わざるを得ません。
労働時間については、厳密に業務内容を見直せば労働時間の1割以上はカットできると思われます。幻想ではなく、実際に無駄な業務を行っているからです。ほとんどの企業は労働時間削減のための業務内容の見直しを行っていません。
ただし、労働時間を1割カットしたところで、1人当たり粗利益は増加しません。1時間当たりの粗利益は増加するので、効率が良くなったという程度です。
極端に言えば、粗利益を追うのであれば労働時間は犠牲にしなければなりません。
第三の道としては、1人当たり粗利益も、1時間当たり粗利益も同時に上げるという点に尽きます。この解決策は粗利益を飛躍的に増加させるという点になりますが、その手法の一つは皆さまもよくご存じのように値上げです。
値上げを行えば(数が大幅に減少しなければという前提ですが)、他の要因は変わらずとも、労働生産性は上がります。
最近の風潮として、労働生産性を上げようとする場合には労働時間の削減が注目されます。電通事件後の各界の言動がその最たる例です。しかし、これだけを真に受けて労働時間を削減すると大変です。トレードオフの関係です。
本来あるべき労働時間の削減とは、労働時間を削減しても問題がない従業員は徹底して削減する。労働時間と粗利益に強い相関関係がある従業員については、直接業務により集中させるよう見直しを行うという点をよく理解すべきです。
粗利益と相関関係が強い労働時間に必要なのは、削減ではなく、増加です。
稼げる従業員と稼げない従業員は明確に分かれています。稼いでいる従業員の労働時間を一律に削減をしようというのは、自殺行為に等しいのではないでしょうか。唯一可能なのは、稼いでいる社員の労働時間のうち、誰でもできる業務を稼げない従業員にやってもらうことです。
労働時間の削減ばかりに注目して、利益が減少してしまえば、企業の存続自体が危うくなります。
では、労働時間を削減できない従業員についてはどうすべきかという点については難しいところです。当然ですが、それは給与で報いるなり、本人に意思確認すべきです。本人が無理といえば、相関関係が崩れてしまうため、他の選択肢を模索する他ありません。
なお、労働生産性が低い企業というのは、扱う商品の価格帯の幅が大きいように思います。
高い商品から低い商品まで売ろうとしている。そのため、数が出る低い価格帯の商品を多く扱う従業員の労働生産性が極めて低く、高い商品を多く扱う従業員の労働生産性が高いというような感じです。
このような企業の労働生産性というのは、従業員というよりも企業側の問題です。
これに対して、例えば幅の狭い価格帯の商品を売っている企業は、その従業員の成果がダイレクトに労働生産性に直結します。
また、直接業務(営業や製造)と間接業務(総務経理)の従業員の比率も大きく影響します。
労働生産性を上げるといっても、それぞれ企業の構造次第です。そして、自社の実際のデータを把握せずして、労働生産性を上げる施策を実行するなどあり得ません。繰り返しますが、自殺行為です。
逆に、データなど無くとも、値上げをすれば結果として労働生産性は上がるのです。
今後も生産性、生産性という声が様々なところから聞こえてくるかもしれませんが、下手な対応を行うと大変な目に会う可能性があるということは頭の片隅においていただければと考えます。