30万円貰ったら頑張ります!

私がある従業員の方に「あなたはどうしたらもっと仕事で成果を上げられますか?」と質問したところ「30万円貰ったら私もっと頑張って仕事をします!」と言われました。
皆さんは、この言葉を聞いてどのように感じられますか?
「給料が低くては将来が不安で仕事に打ち込めない」という方がいます。
「こんなことを言う従業員はとんでもない」という方がいます。
「仕事はお金でするものではない」という方がいます。
「会社があっての給料じゃないか」という方がいます。
「生活あっての仕事だ」という方がいます。
どれもそれぞれの立場から考えた場合『一理ある!』と言えます。
私は、税理士という仕事柄、経営者の悩みを聞くことは多いのですが、多くの経営者は「会社があっての給料じゃないか」と口にされます。
これはお分かりのとおり、経営者の視点にたった考えです。
しかし、これが経営者の本心ではないことは、皆さんが一番ご存じでしょう。
もしも、従業員の方でこのメールマガジンを読まれている方がいらっしゃれば、これから私が言う言葉に驚かれるかもしれませんが、経営者の本音を一つ正直に申し上げます。
それは『みんなに給料を沢山払ってあげたい』という気持ちを常に持っているということです。
それでは何故給料を安易に増やさないのか?
それは、将来への不安があるからです。
ここでいう将来への不安とは、経済的な不安もさることながら、それだけを意味するものではありません。
給料を増やしたら、この従業員は一生懸命に仕事をしてくれて業績があがるのか?という問題があります。
・業績が上がらないから給料を増やせない

・給料が安いから仕事に意欲が出ない

・仕事に意欲がないから業績が上がらない

・業績が上がらないから給料を増やせない
この悪循環のサイクルのどこかにメスを入れなければ、現状を打開することが出来ないことは分かっていても、それをどこからどのようなタイミングで行うべきかが重要です。
そんな経営者の弱みに付け込んだともいえるアベノミクスによる政策が出てきています。その代表的なものとして『ものづくり補助金』と『所得拡大促進税制』があります。
現在、公募されているものづくり補助金は基本1,000万円の支給額のところ、一定の給与増加があった場合には3倍の3,000万円まで増額して支給されます。
また、平成29年度税制改正では一定の給与増加があった場合の税額控除額が増額されました。
そのため、給与を増やしてもその分補助金が貰えるなら、もしくは、節税になるのであれば給与を増やしてもよいと考える経営者は少なくありません。
所得拡大を目的として定められた政策ですので、それを積極的に利用することは、何ら間違ったことではないと思います。
しかし、丁度いい制度があるのだからこれを使わない手はないでしょ!とばかりに半ば『割り切り』によって、安易に決めてしまわれる方がいらっしゃいます。
しかし、何故かこのような投げやりともとれる安易な決断が、決してうまくいくことがないという事実を経営の現場で多く目にしています。
それが何故なのかという明確な理由は今の私にはわかりませんが、それでもひとつだけ確信をもって言えることがあります。
『考えることから逃げ出した結果には幸せは訪れない』
ということです。
さて、30万円貰ったら頑張ります!という従業員とどう向き合って行きましょうか!
皆さんならどう向き合いますか?

税制改正、“まとめ”

12月8日に、平成29年度の税制改正大綱が発表されました。
今年もサプライズがなかったため、事前に報道されていた内容がそのまま収まったという感じです。
配偶者控除の見直しについては長々と説明がありましたが、また複雑な制度になったな…という印象です。
平成30年以降、年収1,120万円を超える方で、配偶者を扶養にされていた場合は増税となります。
今回見直しが行われた配偶者控除の収入分岐点150万円の基準は、時給1,000円で1日6時間、週5日勤務した場合の年収144万円を目途にしているということ。これは240日勤務するということになりますが、土日祝日や盆正月を除いた全日勤務するということです。
240日勤務というのはハードルが高いですし、今まで15時まで勤務していた方が16時に伸びたとしても、政府が目指す労働力の確保や生産性の向上につながるかは疑問があります。特に事務職においてはむしろ生産性が落ちる可能性が高いのではないかと思われます。
ちなみに、平成25年から段階的に年収1,000万円以上の方の給与所得控除額が減額(平成29年にて最終確定)され続けています。この増税が終わると思ったら、平成30年も増税です。
そして、今後も引き続き高所得者の所得税の増税を検討していくと”宣言”しています。この高所得者の基準が年収1,000万円前後に置かれているのは間違いありません。1年で税制を抜本的に改正するのは困難なため、今後も年収1,000万円以上の方の増税が当面行われ続ける可能性が非常に高いということです。
この点、年収1,000万円から1,500万円程度の世帯はますます厳しい環境になると思われます。
増税の影響をもろに受ける下限の年収区分であり、児童手当のカットや高額療養費制度も自己負担限度額が上がったりと、マイナス側面が大きいと言えます。
消費意欲が旺盛なのもこの年収世帯区分の特徴なので、お金が残りにくいブラックゾーンなのではないかと思われます。税負担や経済への貢献度を考えると、報われない層でしょう…。
当然、中小企業の経営者は、この辺の区分の収入の方が非常に多いため(月額100万円というのが一つの目途のため)、厳しいと言わざるを得ません。
また、散々言われていることですが、中間層の減税財源を高所得者に転嫁して中間層の影響を緩和したところで、そもそも中間層の収入が増えなければ意味がありません。
その上で、またしても「従業員の給与を上げてね!」税制(所得拡大促進税制)が強化されました。
「中小企業の経営者の皆さま、あなたの税金はちょっと上がっちゃうけど、従業員の方々の税金は下げてあげるね。それと、従業員の給与を上げたら、法人税は下げてあげるから、がんばってね!」
ということです。
以前から、中小企業のオーナー経営者の個人資産と法人資産のバランスは非常に重要とお伝えしてきましたが、個人への課税が強化される今後の流れから、さらに注意が必要です。
ただし、今回の税制改正で、オーナー経営者向けのメリットがある改正もありました。それは、取引相場のない株式(中小企業等の株式)の評価の見直しです。
内容は下記のとおり。
・類似業種の上場株式の株価について、現行に課税時期の属する月以前2年間平均を加える
・類似業種の上場株式の配当金額、利益金額及び簿価純資産価額について、連結決算を反映させたものとする
・配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重について、1:1:1とする
・評価会社の規模区分の金額等の基準について、大会社及び中会社の適用範囲を総じて拡大する
具体的には個別に計算してみなければ影響は分かりませんが、評価額の低下を意図している部分があるため、この点は中小企業の経営者にとっては朗報となる可能性があります。
平成27年から相続税が増税され、その後は所得税の増税が続いています。今後、所得税の抜本改正で増税が実現すると、次は相続税の番。消費税増税も行いつつ、法人税だけは優遇されていく…。
中小企業のオーナー経営者ほど、国の税制改正の影響を受ける方々はいらっしゃいません。
情報格差によって納税額に大きな差が出てきますので、ご注意ください。
まとめサイトの記事の誤情報が話題となりましたが、中小企業の経営向けの情報も誤情報が非常に多いですから…。

税額控除と税理士賠償訴訟

新聞紙面で連日報道されている税制改正論議。11月15日の日本経済新聞には【中小の賃上げ 減税拡充】との記事が掲載されていました。
【所得拡大促進税制】と呼ばれるこの税制、現状の税制下でも要件を満たせば、かなりの減税効果を享受することが可能です。しかし一方で、要件を満たしているにも関わらず適用を漏らし、税理士が顧問先の会社から訴えられる事案がとても多いことは世間には知られていません。
2015年度の法人税における税理士職業賠償責任保険の支払い事故原因では2位以下に圧倒的な差をつけてのダントツ1位となっているのです。
適用漏れが起こる原因としては、「そもそも税理士事務所の担当者がこの税制を知らなかった」「税制は知っていたが、うっかり適用を忘れてしまった」「適用要件の解釈ミス(計算ミス)」などが考えられます。
もちろん、こうした優遇税制の適用が受けられるのにも関わらず、その適用を漏らしてしまったケースの多くは税理士に責任があります。
しかし、もし皆さんの頭の片隅にこの税制の知識があったなら、たった一言、税理士に確認をするだけで、払う必要のない税金を支払う破目になった挙句、訴訟という多大なストレスのかかる案件に時間やお金を使うという最も不幸な事態に陥らなくて済むかもしれません。
この税制が今度の税制改正で拡充されれば、税額控除の恩恵はさらに大きくなります。
是非この機会に、この税制の概要を理解し自社を自らの手で守りましょう。
大きく要件は3つです。
(1)今期に支払った給与額が、基準事業年度(3月決算の会社は平成25年3月期)に支払った給与額より3%以上増加していること。
(2)今期に支払った給与額が前期に支払った給与額以上であること。
(3)今期の1人当たりの月平均給与が前期の1人当たりの月平均給与を超えていること。
※上記の給与には役員及びその関係者に支払ったものは含みません。
実際には、もう少し細かい要件がありますが、ここではあくまでも制度の概要をザックリと知っていただくことを目的としていますので、細かい要件や説明は省きます。
「うちの会社も使えるかも」ということに気が付いていただき、顧問税理士に確認を取るということが重要です。実際に要件を満たしているかは顧問税理士に計算してもらいましょう。
さてさて、実際の税額控除額の計算です。
(今期支払った給与額)-(基準事業年度に支払った給与額)×10%=税額控除限度額※
※ただし法人税の20%まで
現在であれば基準事業年度は3期前の事業年度になりますので、3期前より1000万円、2000万円給与支払額が増えていれば、100万円、200万円の税額控除が受けられることになります。
さて、再び税制改正論議に戻ります。現在は上記のように基準事業年度より増加した給与の10%が税額控除の限度ですが、これを2倍の20%まで引き上げることで調整に入っているとのことです。
これが決まれば、1000万円、2000万円給与支払額が増えていれば、200万円、400万円の税額控除が受けられることになります。
どうでしょうか?とても大きな税額控除だと思いませんか?
もし、この適用が漏れたら・・・大損です。
実際に適用できるか否かの細かい要件は専門家に任せておけば良いですが、自社を守るためにも、制度の概要くらいは知っておいて損はないと思います。
「そういえば、今期はだいぶ人件費が増えてるから、なんか使える税額控除があったんじゃなかったでしたっけ?」
顧問税理士へのこの一言が自社を守るのです。
※この原稿を書いたあと、12月8日に与党税制改正大綱が発表されました。
これによれば、賃上げ率が2%以上である場合には、合計で22%の税額控除を受けられるようにするとのことです。
賃上げを行う中小企業にとっては、ますます有利な税制になりそうですので、くれぐれも適用漏れのないように注意しましょう。

労災事故から改めて考える、中小企業の労働環境

電通の労災事件は、中小企業の今後の労務管理にも大きな影響を与えると思われます。
保険会社には、労災事故に伴う使用者賠償責任の保険の問い合わせも増えているとのこと。
過大な残業時間による労災事故…。
元社員あるいは現社員からの未払い残業代請求…。
国が規制を強める可能性があり、弁護士がこれを契機に未払い残業代請求を煽る可能性もあります。
『弁護士のテレビCMがニガニガしくなる時代がやってくる!』
と、当社も6年以上前に未払い残業代請求対応セミナーを開催しました。当時でもセミナーの大きな反響に驚きましたが、近年の労働時間短縮、生産性重視、配偶者控除廃止の議論などの流れから、より現実的になってきたかもしれません。
少なくとも8割以上の企業は、自社の労働環境に危機感があると思われます。ただし、これらを解消したくても、慢性的な人手不足が解決できない限り、手の打ちようがないというのが本音でしょうか。また、残業代を全て支払っていたら経営が成り立たないと思われる方も多いはず。
未払い残業代対応セミナーでも、残業代については就業規則や賃金規程の見直しなどで、ある程度の解消はできるとお伝えしましたが、労働時間短縮の根本的な解決にはなりません。
そして、結局のところ、労働時間短縮について本気で取り組んでいる中小企業はほとんど見かけません。
業務拡大、人手不足、コンプライアンス、安請け合いなどから、むしろ労働時間は伸びる一方です。これらの解消のため、大企業を中心にテレワークが叫ばれているものの、どこまで成功するかは分かりません。むしろ懐疑的な見方をされている方が多いことでしょう。
中小企業においては、そもそも経営者自らが365日勤務しているようなものなので、従業員にも長時間労働を求めがちという事実は否めません(もし、経営者が遊び歩いているのにもかかわらず、従業員の長時間労働を放置しているようであれば、その企業の寿命は長くないでしょう…)。
従って、経営とのバランスを取りながら、経営者自ら従業員の長時間労働を改善するという明確な意思を示さない限り、実現不可能です。
誰に対しても長時間労働は絶対に良くないとは言えませんが、大半の従業員については、長時間労働は基本的に是正されるべきと考えています。
それは、長時間労働が常態化した組織が、良い結果にはつながらないことを見てきているからです。さらに言えば、多くの従業員が長時間労働を行ったとしても、それで会社の業績が良くなっていることなど少ないからです。
どちらかというと、どの企業も破綻を回避するために長時間労働を行っているような気がします。そこに改善の意図は見えません。
では、どこに問題があるのかと言うと、中小企業の管理指標に「時間」という概念が取り入れられていることが圧倒的に少ないという点です。
通常、増えた仕事があれば、減らす仕事もあって然るべきであり、あるいは人を増やすか、システム導入などで効率化を図る必要があります。しかし、仕事が増える一方で減るものは少なく、システム導入を行っても、さらに作業が増えるという始末…。
このビフォーアフターを見るために、「時間」という概念が必要なわけですが、時間の管理というと、「残業時間の管理を行う」ということで終わってしまいます。
「残業を止めよう!」と号令を掛けたところで、
「仕事が終わりません!」と反発されるのが目に見えています。
そして、仕事が終わらないと言っている社員に、時間の使い方を改善するよう伝えても、それは無理な話です。
つまり、会社としての目標管理に「時間」という概念を取り入れ、チームや個人の評価の指標にも「時間」を反映させ、それこそ時間を掛けて社内に浸透させる必要があります。
本当のところは「生産性の改善!」とすると聞こえは良いのですが、「生産性って何?」となると難しくなるので、最初は単純に「時間」とした方が良いように思われます。
いずれにしても、自社の労働環境の悪化を放置しておくと、若い世代の採用や定着率に大きな支障を来すため、そろそろ手を打ち始める必要があるのではないでしょうか?
ムダな業務、ムダな会議、ムダな研修、見直す余地はいくらでもあるはずです。

『ジャイアン的思考法』は税務署には通じない!

私が税理士を開業したての頃に出会った老夫婦の話をいたします。
その老夫婦は従業員数名を雇い、小さな会社を経営されていました。
小さいながらも堅実な経営で毎期黒字経営を続けており、役員報酬もご夫婦で2000万円弱をとっていらっしゃいました。
運転資金が心細くなったときや設備投資が必要になったときには社長である旦那さんが会社に貸し付けており、銀行からは無借金ながらも社長からの借入金は数千万円程度はあったという状態です。
そんなある時のこと、いつものように帳面を拝見しながら奥様とお話をしていました。
奥様「会社からは毎月お給料をいただいていることになっているけど、いまどのくらい貯まっているもんかねぇ?」
私 「毎月(会社の)通帳からお給料は振替えになっていますが・・・」
奥様「すべて主人が管理しているから私はいくらもらっているのかもさっぱり分からないんですよ(笑)」
と、こんな感じです。
作業が終わると社長と奥様とお茶を飲みながら話をするのがいつものパターンでした。
そこで先程の奥様からの話を社長さんに聞いてみました。
私 「社長、奥様のお給料は社長がすべて管理されているとお聞きしたのですが、失礼ながらどのようにされているのですか?」
社長「あぁ、そのときによって違うけど大体10万円程度は妻の口座に入れて残りは全部私の口座に入れてますよ」
私 「エッ!奥様名義の口座に全部入れてないんですか?」
社長「入れてないよ。会社でお金が必要になるときがあるから私の口座に入れておいてその都度会社に貸し付けているからね」
社長「今月も車を買うのにお金出してるだろ」
私 「・・・そうだったんですね」
社長「私ら夫婦なんだから妻のものは私のモノ、私のものも私のモノさ(笑)」
この話を聞きながら私の頭に浮かんだのは、昭和のガキ大将『ジャイアン』です。
ジャイアンといえば「お前のものは俺のモノ、俺のものも俺のモノ」という名言があり、これは自らの所有物は当然に自分の所有権を主張しつつ、他者の所有物に対してさえも何の法的根拠なしにその他者の所有権を否定し、所有権が自分にあることを主張するという利己的思考です。
そして、この思考のたちの悪いところは当然に所有権が自分にあると認識しているところで、『贈与』を受けているという認識が全くないという点にあります。
民法では、『贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる』(民法第549条)と規定されています。
これに従えば、ジャイアン的思考によって夫が一方的に自分名義の口座に預金しただけでは贈与とはならないとの見方をすることができます。
ところが、税務署では贈与については当事者の意思にかかわらず『事実認定』という方法によって贈与税の課税を行います。
今回の事例では、長年に渡り自分の現金が夫名義の口座に預金されていることを認識しており、かつ、口座名義人である夫が預金を管理運用し、自由に使用収益させているという『暗黙の了解』がある場合には贈与税が課税されることとなります。
仮に、それが過誤や軽率な判断によりされたものであったとして贈与税が課税される前に本来の所有者に戻されていれば課税はされないこととなりますが、その場合には、過去に遡って預金を個別に把握できることが必要となります。
従って、夫名義の口座に不規則、不定期に預け入れている場合や現金で預け入れている場合、また、会社に貸付けを行っている場合等、個別に財産の管理がされていない場合には妻の所有分を把握することができないため事後の対策をとることすらできなくなってしまいます。
問題はまだ続きます。
このような事例で会社に貸付けを行っている場合、会社の帳簿では多くの場合が夫である社長から借り入れを行ったという処理がされています。
その結果、社長に相続が発生した場合には多額の『貸付金』が相続財産として相続税の課税対象となってしまいます。
オーナーの貸付金は返済の見込みが乏しい場合であったとしても、会社が存続している限り相続財産に含まれてしまい、まさに『負の遺産』となって問題を残します。
ジャイアン的思考、はたまた、昭和初期の家長的思考を税務署が大目に見てくれることはないでしょう(笑)。