相続税が増税されたと聞き、何とかしなければと本を読めば賃貸用不動産を建てれば相続税対策になると書いてある。日銀のマイナス金利政策の影響で銀行融資の金利は過去最低水準、聞けば借金も相続税対策になるとか。消費税だって次こそ上がるに違いない。
「金利の低い今のうちに融資を受けて、賃貸用不動産を建設して相続税対策をしないと損をしてしまう!」そんな風に考えてしまう気持ちもよく分かります。
しかし、そんな今だからこそ冷静になって欲しいのです。
8月30日の日本経済新聞の記事によれば、賃貸用不動産の建設ラッシュにより賃貸マンションやアパートの空室率は上昇し、首都圏であっても神奈川・埼玉・千葉の3県は調査を始めた04年以降、空室率は最高を更新し、東京都もアパートに限れば上昇が続いているそうです。
また、首都圏の1都3県でも中心部から外れるほど家賃相場の下げ圧力は強まっており、賃貸物件の契約更新時に、借り手にとどまって欲しい貸し手が家賃を引き下げる動きが出てきたとのこと。
しかし、人口減少が続いている現在、これらは全て当たり前のことです。人口が減っているにも関わらず賃貸物件は急増しているわけですから、需要と供給のバランスは崩れ、今後更なる空室率の上昇により家賃の下落が更に加速することだって十分にあり得るのです。
不動産経営を行ううえで最も考えなければならないのは、上記のような家賃の下落や空室のリスクですが、不動産経営を勧める住宅メーカー等の試算では、多くの場合その入居率は高く見積もられ、家賃も下がらない前提で予測されているため、安定した収益が得られると錯覚してしまいがちです。
しかし実際には、首都圏の物件であっても空室率は上昇しており、賃料引き下げの動きが出ています。人口減少を考えれば今後もこの傾向は続くでしょう。
さらにマイナス金利政策よろしく、借金をして賃貸用不動産を手にした場合において、家賃下落や空室のリスクにさらされると、賃貸収入では借金返済ができないといった最悪の事態に陥ります。
中古の賃貸物件が数多く売りに出ている現実を見れば、結局、賃貸不動産を手放さざるを得なくなった方が多く存在することが容易に想像できますが、その売却価格は、都内であれば別ですが新築時の半分以下になることも珍しくありません。
また、不動産経営にかかる費用も実は思った以上にかかります。固定資産税や管理費、入退去時の原状回復費用、賃借人を募集する広告費、さらに年数が経つにつれて増える多額の修繕費。
「賃貸物件を建てれば、相続税が減る」こと自体は決して間違っていません。銀行からの借金も債務として相続財産をマイナスする効果があります。しかし、不動産経営にかかるリスクや費用を十分検討したうえでの投資でなければ、これらの相続税の節税効果をいとも簡単に打ち消してしまいます。
不動産経営による相続税対策を行う前提条件は納税資金が確保できていること、老後資金が十分にあること、賃貸需要が見込める土地をすでに所有していることなどがあげられます。
相続税増税に消費税増税、加えてマイナス金利。不動産経営を考えている人には一見追い風に見えますが、需要と供給のバランスは明らかに崩れています。今こそ、冷静な判断が必要です。