前回、仮説データの検証というテーマの中で、経営計画に触れた箇所がありました。
そして、売上高は比較的読みやすいお客様でしたので、過去の実績データとヒアリング内容から、
向こう一年分の月別の予想変動損益計算書を作成しました。
ちなみに、このようなものを経営計画として用いる中小企業も多いですが、これは単なる予測表です。
中小企業では、経営計画を作成していると言っても、結局は決算予測を作成しているに過ぎないことが多いと、過去にも繰り返しお伝えしてきました。
しかし、企業規模の拡大を行わない場合や経営環境に変化がない場合は、これで十分な場合があります。すなわち、現状維持が基本路線であれば、無理に将来の計画を作らず、予測できる範囲内で予測を行い、その予測結果に基づいて事前に対策を講じるというケースです。
・売上高が少し下がりそうだから、賞与は少し抑えよう
・売上高が少し上がりそうだから、備品を買い換えよう
・得意先の一つが潰れそうだから、あそこの営業所は撤退しよう
・あの社員が辞めそうだから、代わりにパートスタッフを採用しよう
これらは数字合わせであり、もぐら叩きのようなものですが、その分、確実性は高いものです。企業経営は継続が前提ですが、成長(=数字の拡大)は前提ではありません。従って、全ての企業が成長を前提にした経営計画を作る必要はありません。
経営計画を作って管理していくべき企業というのは、やはり成長拡大を前提にしている企業です。
では、「経営計画を作れば成長拡大できるのか?」と聞かれれば、当然NOです。
特に、現状分析を伴わない単なる願望を盛り込んだ計画では、実績との間に悲劇的な乖離を伴います。悲劇的な乖離から現実を視るということも重要なので、最初はこれでもよいのかもしれません。
よく聞くお話しに、「過去に経営計画を作成していたが、全く計画通りにならず、計画は意味が無いことが分かったので、作成することを止めた」ということがあります。これは願望で計画を作成し、そのまま決算を迎えて失敗するという典型的なパターンです。
経営計画が達成されない企業の特徴の一つに、その計画内容が共有されていないという点が挙げられます。すなわち、経営計画が社長及び一部の幹部のみで作成され、それが他の社員には公開されなかったり、公開されても根拠が示されないケースです。
計画の共有については、規模の小さい企業と大きい企業では問題が異なります。
例えば、10人程度の企業の場合、情報の共有自体は比較的簡単ですが、まだまだ個人商店の域を出ないことが多いため、共有が部分的になります。具体的に言えば、役員報酬や社長経費を伏せていることが多いため、なぜそのような業績になるのかについて、社員が理解できないことが多いのです。
もちろん、10人程度の会社で役員報酬を開示するのが良いかは難しいところですが、少なくともなぜこのような計画になるのかという説明は必要です。
逆に100人程度の会社になってくれば、役員報酬や社長経費について伏せる必要が薄れてくるため、社員は自社の数字の構成について理解できるようになります。ただし、社員数が多ければ、セグメントも多くなり、他のセグメントの数字に責任を持たない社員が増えてくるため、各セグメントが分断された数字を追いかけるようなことになります。つまり、セグメントごとに計画は共有されますが、全社的には共有されていないも同様です。
例えば、「営業の実績は計画通りで良いけれど、製造の実績は計画を下回り悪い」というのは、企業全体としては意味がありません。本来であれば、これらの各セグメントの数字を統合して管理するのが経営者や幹部層なのですが、中小企業において全てに権限を持つのは経営者のみですので、管理を行わないとセグメントごとに部分最適が繰り返され、企業全体としてのバランスを崩すことが多く見受けられます。もちろん、経営者が上手く管理を行えれば問題はないのですが、管理を行うための判断材料が必要となります。
その判断材料が、経営計画と実績の差異分析となります。経営計画は、組織内における情報共有の中心として据えるべきものです。
行動を伴う計画をきちんと作成し、全員で共有し、計画の達成のためには何が最善かを常に組織で議論する。正直、これだけで計画達成は半分約束されたようなものです。
この経営計画達成の仕組みができていない中小企業が多いため、経営計画が有名無実と化しています。
なお、「社長」というセグメントがある企業というのは、社員が100人を超えても、個人商店の域を出ませんので、ご注意ください。社長が実質的に一人で計画を作るケースも同様です。結局は社長が自分の思い通りにしたいだけですので、社員と共有されているものではありません。
以前に聞いたお話しに、社長が役員報酬を「上げてもらった」というものがありました。
その企業は全ての数字がオープンで、計画も社長以外の役員や社員が作成し、社長は承認するだけ。そして、厳密に実績との差異分析を行い、その結果、業績が上がったため、社長の役員報酬を上げてくださいと進言があったそうです。
社員達からすれば、自らの給与を上げていくためには社長の給与を上げなければという打算もあるでしょうが、良いサイクルの一つであることは間違いありません。もちろん、このような事例はハードルが高すぎますが、計画の共有にはこのような効果もあります。
また、前回お伝えした仮説データのように、そもそも前提となるデータが間違っているケースもあります。しかし、間違っているデータを見て、何かおかしいと気づければOKです。これを経営者一人でやろうとしても上手くいきません。
共有されなければ、検証もされません。
最初から社員と全てを共有する必要はありませんが、せめて税理士と共有したりと方法はいくらでもあります。経営計画は、作ることに意味があるのではなく、共有することに意味があるとお考えください。
上場企業が計画を発表し、結果が伴わないときに強いバッシングを受ける。中小企業にはここまでの洗礼はありませんので、ご安心ください。
可能な範囲で共有していきましょう。