税法では認められていないにも関わらず、実務(税務調査)では問題になることがない。
もちろん、そんなことは本来あって良いわけはありません。しかし、実はそんなに珍しいことではありません。
例えば個人事業者の必要経費。自宅を仕事場としている場合、自宅の水道光熱費のうち、何割かを経費として計上することは、ごく当たり前のように行われています。
個人事業者:「自宅で仕事をしているので、自宅の電気代や通信費は経費にできますよね?」
税理士:「そうですね、さすがに全額は無理ですけど、だいたいどれぐらいを事業で使っていらっしゃると考えていますか?」
個人事業者:「うーん、通信費に関しては、固定電話はほぼ使っていないし、妻も子供もインターネットはしませんので、8割くらいですかね・・・電気、水道代は、だいたい3割といった感じですかね」
税理士:「そうですか、少し多い気もするので、安全なところで通信費7割、電気、水道は2割くらいにしておきますか…」
こんなような会話、みなさんも経験あるのではないでしょうか。
実務では、ごくありふれた光景ですが、この会話、税法的には完全に間違いです。
さて、では税法に従うと、さっきの会話の流れはどうなるでしょうか?
個人事業者:「自宅で仕事をしているので、自宅の電気代や通信費は経費にできますよね?」
税理士:「はい、できることはできますが、仕事に必要な部分を明確に分けることはできますか?」
個人事業者:「いやぁ・・・明確にって・・・そんなの無理ですよ」
税理士:「じゃあ経費にすることはできないですね。必要経費にできるのは“業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合”と法律で定めらていますから」
個人事業者:「そんなぁ・・・」
この税理士の言うことは間違っていません。法律には本当にそのように書かれていますので、必要部分を明らかに区分できなければ、本来必要経費に算入することはできないはずなのです。
しかし、必要経費に算入する割合が問題になることはあったとしても、明らかに区分できていないことを理由に必要経費に算入すること自体を認められなかったといったことは、経験上ありませんし、聞いたこともありません。
税務調査において、「じゃあ、5割部分は認めますので、残りの5割は自己否認して修正してください。」といったことを調査官が持ちかけてくることさえもありあます。
つまり「税法では認められていないことが、実務(税務調査)では認められている」ことが少なからずあるのです。
「確かに税法上、そうなってはいるが、実際にそれで課税されたという例は聞いたことがない」
こうしたことは税務署OB税理士や経験豊富な税理士ほど、よく知っています。
「法律上はアウト若しくはグレ-だけど、実務的にはたぶんセーフ」そんな感じです。
私たちは法律家であると同時に実務家でもあります。専門家として職業倫理から著しく外れるような内容でなければ、時には杓子定規になりすぎずに、お客様にとって有利な情報を経験値としてお伝えすべき時もあります。
しかし、実務上は問題になる可能性が低くても、リスクがあるのであれば、そのリスクはしっかりとお客様にご理解いただく必要があります。
そうした時に何よりも大切なのは、お客様との「信頼関係」です。
私は職業柄、様々な場所で、初対面の方に「なにかすごい節税方法がないか?」というようなことをよく聞かれます。しかし、まだ信頼関係の築けていない相手に際どい節税方法を教えることはありません。納税者にとってリスクがある節税方法は専門家にとってもリスクがあるからです。お客様のことを信頼していなければ、リスクは踏めません。
言い方を変えれば、経営者として1円でも多くのお金を残そうと本気になるほど、信頼のおける顧問税理士との良好な関係性が重要になってくるのかもしれません。それにはもちろん皆さまだけでなく、税理士の努力も多大に必要です。
今年も「顧問税理士を変えたい」といったご相談が後を絶ちません。
自戒の念を込めてここに問います。
みなさん、顧問税理士と良い関係性を築けていますか?