相続税の最高税率が上がり、基礎控除が引き下げになってから1年半が過ぎ、経営者や資産家の中には相続税の心配をされている方が多くいらっしゃいます。
そんな方々の不安につけ込んだ出来事が私の周りで散見されていますので警鐘を鳴らすためにお話いたします。
私が被害と認識している事案での加害者は次のとおりです。
・開発会社・建設会社
・銀行
・生命保険会社
・税理士・コンサルタント
最初に申し上げておきますが、ここにあげた業務に携わるすべての方が加害者であるということでは決してありません。
その中でも最近目に余るのが銀行です。
日銀のマイナス金利政策によってダブついた資金を企業や一般向けに貸し出すことで利益をあげようとしています。
昨今、銀行では貸付できるところがあれば少額でもとにかく貸したいという状況があります。
ある会社のケースについてお話しいたします。
その会社は、社長からの多額の資金を借りており、その結果、社長の相続財産の中に貸付金が入ってくることによって相続税が発生するという懸念がありました。
貸付金については相続財産に含まれ、相続税の課税対象とされるものの、多くのケースでは会社からの返済が期待できないため『負の遺産』と呼ばれています。
事例の会社の場合、社長の他に銀行からも借入金がありましたが、現預金が銀行借り入れよりも多額にあったため、実質的には無借金の状態にありました。
業績も安定していたため、私は銀行借り入れについて一括繰り上げ返済をすべきだとの助言をしました。
私の話を受けて社長が銀行担当者に話をしたところ、相続対策として銀行借入金を使って社長への貸付金を返済してはどうでしょうか?という提案をされたというのです。
相続財産に現預金がなく、納税資金の手当てに苦慮する状況であればその話も一理ありますが、社長へ貸付金を返済しても、貸付金が現預金に代わるだけで相続税の引き下げには全く影響はありません。
今回の事案では、社長からの貸付金は相続後においても会社から返済も可能であるため、相続後に納税資金分を返済することも可能な状況でした。
それにもかかわらず、銀行借入金をそのままにして…というのは銀行に対して利息を払っているだけで、会社にとっては何のメリットもありません。
銀行というよりも担当者の自己中心的な私見です。
同様の事例が、ある資産家についてもありました。
相続対策として、大手デベロッパーからアパート経営を勧められ、すでに何棟かの物件を所有されているオーナーがいらっしゃいました。
アパート経営による相続税節税についても問題は多いのですが、今回はその話は置いておきます。
土地は自己所有でしたがアパートの建設資金は、全額銀行からの融資を受けていました。
金利は2%弱で、今の金利情勢からは比較的高い金利であると言えます。
そんな中で、遊休地が非常に有利な条件で売却できたことから手元に使う予定のない資金が多額に入ってきました。
先程の事例と同様に、私は銀行への繰り上げ返済をすべきとの助言をしました。
オーナーがその話をしたところ、やはり銀行の担当者から「相続対策のためにそのお金は手元に置いておいてはどうか?」と説得され返済できなかったというのです。
いずれのケースも相続対策と言われた人はもともと相続税に不安も持っているため、よくわからないままに銀行の助言を受け入れざるを得ませんでした。
このようなケースでは、私は次のように銀行の方に話をするようにアドバイスさせていただいています。
「顧問税理士からの指導で返済するように言われました」
「返済について意見がある場合には、直接顧問税理士が話を聞くと言っていますが直接お話しをしていただけますか?」
銀行とは良好な関係を築いていきたいという社長のお気持ちはよく理解できます。
そんなときには、是非私を矢面に立たせてくださいと伝えています。
これは決して予防線を引くということではありません。
私とて、知識も経験もまだまだ至らない部分があります。
私が知らなかったことでお客様の利益を逸することがあってはいけませんので端から銀行の助言を否定するというものではありません。
私を説得してでもお客様のためになるという信念をもった銀行員に是非お会いしたいものです。
また、税務署だけでなくこんな話にくい場面でも、税理士を上手に使っていただきたいと私は思っています。
もっともらしい相続対策という言葉には耳を貸さないようにご注意ください。