今年も中小企業白書が公表されておりますが、これを目にされる方も少ないと思われますので、ここで少し取り上げたいと思います。
ざっくりとした内容は下記のとおり。
1.現状分析
我が国経済の動向
中小企業・小規模事業者の動向
中小企業の生産性
2.稼げる中小企業の取り組み
生産性向上のためのIT活用
売上拡大のための海外展開
稼ぐ力を支えるリスクマネジメント
3.中小企業を支える金融
4.中小企業の稼ぐ力
稼げる中小企業の特徴分析→中小企業の稼ぐ力を決定づける決定力
この内容を見る限り、普段から日経新聞でも読んでいれば済んでしまいそうな気がします…。
そして、結論としては、2016年版の中小企業白書概要の最終ページに、『中小企業の稼ぐ力 まとめ』がありますので、これに目を通せば中小企業庁が考える中小企業の稼ぐ力が分かります。国が声高に叫んでいる内容と全く同じです。
【中小企業の稼ぐ力 まとめ】
1.稼げる中小企業の取組
・2016年版中小企業白書では、中小企業の稼ぐ力に注目。稼ぐための取組は様々だが、そのうち、IT投資、海外展開、リスクマネジメントの3点を分析した。
・こうした取組を行い、稼いでいる企業には、経営者が(1)ビジョンを明示し、(2)従業員の声を聞きながら、(3)人材育成、(4)業務プロセスの高度化などを行うことにより、さらに生産性の向上につなげているという 共通点があった。また、共通の課題として、人手不足があった。
2.中小企業の成長を支える金融
・無借金企業の割合が増えているが、適度な借入れのある企業の方が収益力がある。
・成長投資を行うために必要な資金供給元となるのは金融機関。
・金融機関借入に当たっては現在の財務内容や資産余力などが評価されている。
→ 事業性評価に基づく融資を実現するためには、金融機関側は、他の支援機関と連携した支援を行う姿勢への転換が、企業側は、事業計画等を積極的に金融機関に伝えることが重要。
3.稼げる中小企業の経営力
・低収益企業は投資に保守的な傾向が見られるが、高収益企業は、計画的かつ積極的に投資を行い、リスクへの備えも行っている。
・経営者が交代していない企業より、経営者が交代した企業の方が収益力が高い。
まず、1.については、流行のビジネス書でも書いてありそうな内容ですが、現実問題として、これらに取り組んでいる中小企業とそうではない中小企業では成長性に差が出やすいように感じます。
なぜなら、ビジョンを明示することも、従業員の声を聞くことも、人材育成に力を入れることも、結局は人材を集め運用するために重視するという近年の傾向であり、少しでも人材不足を解消しようという試みです。近年叫ばれている生産性の重視も、日本においては人材不足から語られるのが情けないところですが、やはりこのようなことに取り組んでいる企業というのは成長に意識的な企業が多いのです。
ただし、このような取り組みを続ける中小企業が稼げているかどうかは別です。しかし、このようなことでもやらないと人が集まらないのだから、そうでもしないと稼ぐことすらもできないという感じでしょうか。人余りの時代であれば、このような取り組みが「稼ぐ取り組み」として取り上げられるようなこともなかったように思われます。
次に2.です。2016年の中小企業白書によると中小企業全体の35.4%が無借金だそうです。感覚的には、そこまで無借金企業が多いのか疑問を感じますが、確かに一昔前よりは増えている気がします。
そして、無借金企業の中でも下記のようなケースがあります。
1)借金する必要がない程お金が余っている企業
2)借金もないが、お金も少ない企業
3)そもそも、借金をしないように経営している企業
1)は、良い時代も悪い時代も乗り越えてきた優良老舗企業の典型的なパターン。このような企業の悩みは、中長期的な方向性が打ち出せないこと…。お金もあるし、利益も出ている、経営に困ることはない。しかし、お金の使い道がなく、次の成長軌道に乗せることができないと悩まれている二代目、三代目の経営者が意外に多いのです。現状を維持していくことも大切なのですが、やはり何かを成し遂げたいと思われるようです。実際に成長軌道に乗った企業は、投資資金として借入も行いますので、ここの分類には入ってきません。
また、内部留保が飛び抜けて多い(=自己資本比率が異常に高い)企業は、意外と近年の収益性が低い傾向にあります。多すぎる借金というのは考えものですが、やはり適度な借金があるというのは成長性を重視する企業に多いため、軌道に乗っている場合には収益性も高くなる傾向にあります。このバランスが難しいところ。
なお、2)と3)は無借金とはいえ、小規模にとどまっている企業が多いため、成長という意味では見込めません。
無借金である最大の理由も、「お金の使い道がない」点にありますが、焦ってお金を使って失敗する必要は全くありません。3.にもつながりますが、後継者にお金を託すという方法もあります。
最後に3.です。結局は、国が「成長するために投資しなさい!」と言っているようなものです。経営者の交代というのは、投資のきっかけにもつながるため、収益性が上がる可能性が高くなるということなのでしょう。
最近ご相談が多いM&Aにおいて、「自分の手を離れた方が会社が良くなるのではないかと考えてしまう…」と口にされる経営者が多いのも事実。ただし、最も経営が安定している中小企業の経営者の年齢層は、60歳代という統計上のデータもあります。このような60歳代の経営者から事業承継を受けた若い経営者が多いために、「経営者の交代=収益力が高い」という結果につながるのは間違いありません。
以上、稼いでいる中小企業の特徴という意味では、中小企業白書がまとめる結論も一つの型なのでしょうが、国が誘導したい方向性と同じなのが少し嫌な感じです。中小企業白書と言いつつ、大企業でも全く同じ方向性でしょう。
中小企業白書に対して少し批判的なスタンスでお伝えした部分もありますが、このような統計データや中小企業の全体的な動向も参考になる部分がありますので、自社の経営と比較して、改めて方向性を模索されてみてください。
中小企業も大企業も、周りと同じ方向を見ていたら突出して稼ぐ事などできません。その中でも、中小企業だからこそ、大きく外れたやり方を模索出来るという強みがありますので。