先日、お客様から「(売上)代金が回収できないんだけど何かよい方法はありますか?」とご相談をいただきました。
20代の頃の私は『内容証明郵便』や『少額訴訟』、『支払督促』といった裁判所の手続きをご案内していました。
これらの手続きを行った結果、支払いを受けられたお客様がいらっしゃったことは今思えばとても幸運なことであったと思います。
これらの手続きをされることに慣れていない相手であれば十分効果はあります。
しかし、支払いが滞る債務者は得てして督促系の手続きに慣れているか、もしくは、余裕がなさ過ぎて書類が送られてきても無視されてしまう傾向があります。
また、自分の言い分が正しいことを裁判所に認めてもらい、あなたが悪いのだから「支払いなさい!」と言ってもらっても相手がそれに従わなければ意味がありません。
どれだけの方がご存知か分かりませんが、例えば売上代金を請求したり、貸付金の返済を求める裁判などで『勝訴』しただけで、当然に支払いを受けられるということはありません。
そこで、このような場合には裁判所を通じ『強制執行』という手続きをとり、強制的に回収を行わなければ、判決を受けた意味がありません。
つまり、『強制執行』をするための判決と言っても過言ではありません。
『強制執行』には次のようなものがあります。
1.債権執行
預金債権や売掛債権
2.動産執行
自宅や会社にあるモノや現金
3.不動産執行
その名のとおり土地・建物
中でも、もっとも回収に適しているのが銀行預金口座の差し押さえです。
そこで銀行預金口座の差し押さえについて詳しく話をします。
銀行預金口座を差押さえるためには、裁判所に対して一定の書面を提出する必要がありますが、時間もかかり面倒なため、弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
手続きを弁護士に依頼するのであれば、私たちは何をする必要があるのか?という疑問があると思います。
実は預金の差押えをするためには、差し押さえるべき預金を特定するために必要な事項を記載して申立てなければならないことになっています。
『どこの銀行の何支店に口座があるのか?』ということです。
これがわからなければ弁護士に依頼しても効果的な回収ができません。
取引がありそうな近くの銀行に対して片っ端から差押えをかけることも可能ですが、無駄な費用がかかるだけでなく、先制攻撃に失敗し相手に動きを察知されれば、その後の回収は困難となってしまいます。
重要なことは、債務者の銀行預金口座を事前に調べ強制執行可能な財産の目星を付けたうえで、『少額訴訟』や『支払督促』の判決を得るということです。
預金を特定するために必要な事項とは、銀行については支店名、ゆうちょ銀行については貯金事務センターです。
口座番号や記号番号は必要ありません。
しかし、裁判の段階になってから債務者が口座を持っている銀行名と支店名を情報開示することはありません。
そこで、裁判の段階になってからできる調査方法をご紹介します。
ただし、これらは弁護士に依頼する場合には弁護士がすべて行います。
1.ホームページや会社案内
会社概要のページに取引銀行として銀行名・支店名を開示している場合があります
2.民間調査会社に依頼
3.会社や社長自宅の不動産登記簿
不動産に抵当権・根抵当権が設定されている場合、登記簿に記載され、その情報の中には融資をした取引銀行の銀行名・支店名が記載されています。
4.弁護士会照会
弁護士会から銀行に対して債務者の預金口座等を照会するという方法ですが、個人情報を理由に断る銀行が多いです。
5.財産開示制度
裁判所が相手方の財産の開示を要請するという手続きです。
裁判所の命令によって債務者を裁判所に呼び出し、宣誓のうえで債務者に自己の財産について話をさせるものです。
ここに弁護士業務推進センターが実施した「財産開示手続に関するアンケート」の結果があります。
これによれば手続を行ったが、債権を回収できなかったとの回答が75%に上っており、実効性が懸念される制度であることがうかがえます。
いずれの方法によっても事が起きてからの情報取得は難しいと言わざるを得ません。
そこで取引を始める前に形式的に『企業情報開示』を求めることが有効な方法となります。
それでも中には預金口座の開示に抵抗される会社もあります。
その場合には『営業保証金』を預かる方法が有効です。
ただし、ここでいう保証金は「何百万もの現金を差し入れてもらってください」ということではありません。
形式的で結構ですので数万円から十万円程度の保証金を一時的に預り初回の代金決済後に返金させていただきますという形を取ります。
保証金返還時には「手数料は当社で負担いたしますので取引口座をいくつか教えていただけませんでしょうか?」と聞いてみてください。
何の疑いもなく取引口座を教えてくれます。
取引口座を押さえただけではまだ不十分です。
いざ差押えをしようとした時に、口座にお金が残っていなければ意味がないからです。
そこで次の情報も『企業情報開示』で入手できるとベストです。
・主要な取引先はどこか?
・入金日はいつか?
・給料日、支払日はいつか?
これを把握することで入金日から給料日、支払日までの間に差押えをかけることができ、多くの回収を期待することが可能となります。