縦割りの弊害と聞けば、皆さまも十分ご理解されていると思われます。
一般的にはお役所をイメージされるのではないでしょうか。
ただし、どんなに小さな組織でも縦割りが起こる可能性はありますし、少人数の中小企業も例外ではありません。具体的には、職能別、活動拠点別、事業部別などのセクションが該当します。
社員数の増加に伴って、自然とそのような形になるのは当然のこと。
そして、各社員の役割分担が明確となり、セクション別に行動するようになる。さらに、セクション間で仕事や情報の共有が希薄となり、他のセクションの仕事に理解を示さなくなる…。
もちろん、そのための調整機能として会議というものがありますが、例えば事業部制が進むと業績管理も事業部別となるため、他の事業部のことを気にしていられなくなります。事業部の責任者は自身の事業部の業績で精一杯…。
とはいえ、実際に経験された方もいるかと思いますが、事業部制の組織を進めていっても、ある事業部が人材不足や業績不振に陥ると、「一つの会社なのだから事業部に捉われず協力しよう!」という号令の下に、全社協力体制が敷かれます。
そして、落ち着いた頃には、また元の体制に戻る。
この繰り返し。
最近、当社のお客様の規模も少しずつ大きくなっており、組織内部のご相談を受けることも多くなりました。そこですぐに気付くのが、事業部ごとに別々に運営されているために起きている問題です。
やはり内部にいると見えない。しかし、外から見ると一目瞭然。
組織が大きくなった頃には、経営者自身も各事業部の細部には目が届かなくなるため、縦割りの弊害が起こっていることさえも気付かず、問題を抱えたまま経営を行わざるを得ません。
分かりやすい例を挙げると、下記のようなもの。
・本来であれば同一の業務を、セクションごとに別々に行っている。
・ある事業部で困っていることが、他の事業部では簡単に行われている。
・営業部は忙しそうにしているが、総務部は余力がある。
・事業部ごとに過剰に競い合い、協力しない。
CMなどで名刺情報の共有ソフトが盛んに流れていましたが、社員ごとに抱えている情報が共有されていない典型例です。
大企業ではよく聞く話です。最近の三菱自動車で起きた問題も、開発部門において不都合な情報がブラックボックス化されていたために起きました。
有名な話ですので皆さまもご存知かと思いますが、アップルは事業部制組織を採用しておりません。あれだけの規模の企業で、製品別に責任者がおりません。職能別の組織形態を採用しております。
もちろん、これはスティーブ・ジョブズという経営者が、事業部というセクションを破壊して、職能別に横断的に指示を出していたからこそ可能な芸当です。ワンマン経営者による中小企業的な経営です。
後任のティム・クック体制のアップルに適した組織かどうかは分かりません。
中小企業においても、組織体制を構築するという名のもとに、事業部制を採用する企業が増えてきましたが、とにかく気を付けなければならないのが、これまで述べた縦割りの弊害です。
「分かっている」と、おっしゃる方が多いでしょうが、事実、ある程度の規模を越えた組織においては、縦割りの弊害が存在しない組織などありません。むしろ、自社には縦割りの弊害があるという前提で、組織を見直す必要があります。
特に人材難の中小企業において、縦割りにより隠れた労働力があるかもしれないという可能性は見過ごせません。
また、経営者のタイプによっても、現在の組織体制が合致しているかどうかの見直しも必要です。
中小企業ですから、ワンマンが悪いとは思いません。ワンマンであるにもかかわらず、無理に事業部制を導入して責任者を置き、責任を持たせて運営させるのは、縦割りの弊害を助長しやすいのではないかと考えます。
そうであれば、事業部別ではなく、アップルのように職能別組織にして、組織一体として経営者自ら横断的に指示を出していく方が好ましいかもしれません。
あるいは、調整型の経営者であれば、事業部制を採用し、各事業部で協力できるよう自らバランスを取って経営していくのが好ましいかもしれません。
要は、事業部別でも、職能別でも、活動拠点別でも、組織一体として情報共有と行動ができれば問題ないのです。
組織図がある中小企業も多いかと思いますが、まずは組織図と構成員を確認し、それぞれが同じような仕事をしていないか、共通利用できるリソースはないか等をよく見直す必要があります。
私どもも、二十数名で、二社、二拠点、事業部という形式では三つほどあります。そこで苦心するのは、可能な限り、組織全体で共有できる事項を増やすことです。
問題が共有できれば、横断的に解決できる問題があるのではないかと考えるからです。
事業部制を取り入れれば、「組織」という感じがして、満足感はあるでしょう。ただし、そこから始まる弊害の把握にも努めてください。
私たちは大企業ではありません。中小企業です。経営者次第で組織に柔軟性を持たせられることが強みです。
事業部という縦の組織と、職能別という横の組織、これらを上手くクロスさせ、情報を共有し、縦割りの弊害を排除しましょう。