以前、このメルマガで社会保険料削減案として企業型の「確定拠出型年金制度」をご紹介させていただきました。企業型の確定拠出型年金は中小企業においてネックの退職金制度の導入と社会保険料の削減に効果を発揮することは以前お伝えした通りです。
さて、この確定拠出型年金制度、ご存知のように個人型もあるのですが、先月5月24日に個人型確定拠出型年金の対象者を来年から大幅に増やす改正法が国会で成立したことはご存知でしょうか?
401kとも言われるこの制度。401kと聞くと、なんとなく耳にしたことがあったとしても、制度をきちんと理解している人はかなり少なく、その節税効果の大きさとは裏腹に加入者はまだまだ少ないようです。
これを機に制度の概要と改正内容を理解して、加入を検討してみてはいかがでしょうか。
個人型の確定拠出型年金制度は、自ら掛け金を積み立て、金融商品を選んで年金資産を運用した結果を老後に受け取るといったものです。
現在は企業年金のない会社の会社員と自営業者などが加入の対象で、最大の利点は掛け金全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減される点です。
例えば課税所得500万円の会社員が、掛け金の年間上限額の276,000円を拠出した場合、年間82,800円の節税ができます。
また、なんと運用期間中の運用益に対して税金は課されません。運用益は全額、運用資産に組み入れられるのです。
そして原則60歳からとなる給付金を一時金として受け取った場合には退職所得とみなされて退職所得控除が適用されます。
具体的には、掛金を積み立てた年数が退職所得控除計算上の「勤続年数」として扱われます。退職所得控除の額は、勤続年数20年までは1年につき40万円、20年を超える年数は1年につき70万円を掛けたものの合計金額となり、且つ、それを上回った部分についても課税所得はその2分の1となります。
仮に38年間積み立てた場合、40万円×20年+70万円×18年=2060万円の退職所得控除が適用されることになります。
つまり、課税所得500万円の会社員が、掛け金について所得控除を受けて毎年82,800円の節税を実現しながら、その掛け金による運用益が出てるけど税金はかからず、長年運用も上手く行き、60歳になって38年かけて積み立てた運用益も含めた金額2,000万円を受け取ったけど、退職所得控除の適用で税金は0円!なんてことが実現可能なわけです。(現在の税制下での試算です。)
これだけ聞くと夢のような制度ですが、管理手数料や信託報酬などもかかりますし、選ぶ金融商品によっては、もちろん元本割れのリスクもありますので、どういった商品で運用するか、商品選びや金融機関選びは慎重に行う必要があります。
しかし、管理手数料が安い商品もありますし、運用商品は元本割れしない定期預金などを選べば、節税の恩恵を受けつつ確実に老後資金を蓄えることが可能です。
そして、今回の法改正により個人型の確定拠出型年金制度が公務員や主婦、企業年金のある会社の会社員なども加入できるようになります。対象者の大幅拡大です。
公務員や企業年金のある会社の会社員にとって朗報であることは間違いありませんが主婦にとってはどうでしょうか?
主婦で所得のない人は加入したとしても掛け金の所得控除を受けられないので、一見メリットは無いように見えます。
しかし、しかし、この制度、掛金を積み立てた年数が退職所得控除計算上の「勤続年数」として扱われる仕組みのため、全く働いたことのない主婦でも60歳以降、一時金で受給する際には、退職所得控除の適用対象になり、勤めたことがなくても退職所得控除の恩恵が受けられてしまうのです。
これにより結婚後、働くことの無かった主婦が個人型の確定拠出型年金に30年間拠出した場合でも、退職所得控除により1500万円が税金の対象から外れることになり、これだけの金額を実質的に非課税で運用できることになるのです。
繰り返しになりますが、確定拠出型年金を扱う金融機関や、金融商品によって手数料や扱う金融商品が異なり、選ぶ商品によっては投資リスクが高くなりますので、金融機関選び、商品選びは慎重にならなければなりません。
しかし、そこを気を付ければ、大きな節税効果を享受しつつ老後に備えることができる制度であることは間違いありません。
今回の法改正を受けて、個人型の確定拠出型年金に算入する金融機関が増えることが予想されますし、商品のラインナップも今よりも増えるでしょう。
金融機関の動きにアンテナを張りつつ、加入を検討されてはいかがでしょうか。
月: 2016年6月
マイナス金利のため、生命保険契約はお早めに?
今年の1月、マイナス金利が導入され、4月以降、一時払い終身保険の販売停止が起こるとお伝えさせていただいたのが3月。
一時払い終身保険は利回りが良いため、保険機能よりも貯蓄機能として利用されることが多い商品でした。
しかし、一時払い終身保険を法人で契約することは少ないため、法人においては関係のない話でした。
ところが、週刊東洋経済(2016.4.23)に以下のような記事が出ていました。
「このまま超低金利が続けば、17年4月には一時払いではない平準払い(月払い・年払い)保険についても標準利率が現在の1%から0.25%まで急落する・・・」
これを結論からお伝えすると、以下の二点です。
2017年4月以降の新契約から、
(1)保険料が上がる(1~2割程度)
(2)返戻率が下がる
この場合、保障重視の掛捨て保険については影響が少ないと思われますが、法人契約にてよく用いられる長期定期保険や逓増定期保険は返戻率重視のため、大きな影響を受けます。
(個人契約に多い終身保険等も同様に大きな影響を受けます)
つまり、退職金の準備などで、一定の期間払い込む予定の保険については、今までよりも保険料が高くなりつつ、解約時に戻って来るお金は少なくなるということです。
これは、既に契約している保険については影響を受けません。2017年の4月以降に契約する保険から適用されることになります。
「だからすぐに保険を契約した方がよいです!」
というのは保険会社の理屈ではありますが、実際に退職金準備等で生命保険の利用を考えていらっしゃる企業があれば、来年の3月末までに契約してしまった方が良いかもしれません。
長期間に渡る契約のため、パフォーマンスには大きな差が出ます。
契約日が一日ずれるだけで、保険料が1割上がり、返戻率が5%下がるとしたら以下のようになります。
・年間保険料 100万円 → 110万円
・10年後の返戻率 95% → 90%
・10年後の解約返戻金 950万円 → 990万円
・戻ってこない保険料 50万円 → 110万円 = 損失額 60万円
おそらく、最低でもこの程度はパフォーマンスが下がります。
これから保険会社や保険代理店も、「一年後には間に合いませんよ!」と急かすように決算間際に大型の契約を提案してくるはず。
「これがラストチャンスです!」と。
決算間際で検討の時間が少なくなると、この損失額に惑わされ、必要以上に大きな保険に加入しかねません。
生命保険も使いようですから、契約をご検討の方は、保険会社や保険代理店からの営業を受ける前に、必要な額を算定してください。
これが過剰な保険契約から会社を守る有効な手立てです。
当社と提携している総合保険代理店も、一年後には生命保険ではなく損害保険に力を入れると言っておりました(笑)
ここがわからなきゃ裁判に勝ってもそのお金回収できませんよ!
先日、お客様から「(売上)代金が回収できないんだけど何かよい方法はありますか?」とご相談をいただきました。
20代の頃の私は『内容証明郵便』や『少額訴訟』、『支払督促』といった裁判所の手続きをご案内していました。
これらの手続きを行った結果、支払いを受けられたお客様がいらっしゃったことは今思えばとても幸運なことであったと思います。
これらの手続きをされることに慣れていない相手であれば十分効果はあります。
しかし、支払いが滞る債務者は得てして督促系の手続きに慣れているか、もしくは、余裕がなさ過ぎて書類が送られてきても無視されてしまう傾向があります。
また、自分の言い分が正しいことを裁判所に認めてもらい、あなたが悪いのだから「支払いなさい!」と言ってもらっても相手がそれに従わなければ意味がありません。
どれだけの方がご存知か分かりませんが、例えば売上代金を請求したり、貸付金の返済を求める裁判などで『勝訴』しただけで、当然に支払いを受けられるということはありません。
そこで、このような場合には裁判所を通じ『強制執行』という手続きをとり、強制的に回収を行わなければ、判決を受けた意味がありません。
つまり、『強制執行』をするための判決と言っても過言ではありません。
『強制執行』には次のようなものがあります。
1.債権執行
預金債権や売掛債権
2.動産執行
自宅や会社にあるモノや現金
3.不動産執行
その名のとおり土地・建物
中でも、もっとも回収に適しているのが銀行預金口座の差し押さえです。
そこで銀行預金口座の差し押さえについて詳しく話をします。
銀行預金口座を差押さえるためには、裁判所に対して一定の書面を提出する必要がありますが、時間もかかり面倒なため、弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
手続きを弁護士に依頼するのであれば、私たちは何をする必要があるのか?という疑問があると思います。
実は預金の差押えをするためには、差し押さえるべき預金を特定するために必要な事項を記載して申立てなければならないことになっています。
『どこの銀行の何支店に口座があるのか?』ということです。
これがわからなければ弁護士に依頼しても効果的な回収ができません。
取引がありそうな近くの銀行に対して片っ端から差押えをかけることも可能ですが、無駄な費用がかかるだけでなく、先制攻撃に失敗し相手に動きを察知されれば、その後の回収は困難となってしまいます。
重要なことは、債務者の銀行預金口座を事前に調べ強制執行可能な財産の目星を付けたうえで、『少額訴訟』や『支払督促』の判決を得るということです。
預金を特定するために必要な事項とは、銀行については支店名、ゆうちょ銀行については貯金事務センターです。
口座番号や記号番号は必要ありません。
しかし、裁判の段階になってから債務者が口座を持っている銀行名と支店名を情報開示することはありません。
そこで、裁判の段階になってからできる調査方法をご紹介します。
ただし、これらは弁護士に依頼する場合には弁護士がすべて行います。
1.ホームページや会社案内
会社概要のページに取引銀行として銀行名・支店名を開示している場合があります
2.民間調査会社に依頼
3.会社や社長自宅の不動産登記簿
不動産に抵当権・根抵当権が設定されている場合、登記簿に記載され、その情報の中には融資をした取引銀行の銀行名・支店名が記載されています。
4.弁護士会照会
弁護士会から銀行に対して債務者の預金口座等を照会するという方法ですが、個人情報を理由に断る銀行が多いです。
5.財産開示制度
裁判所が相手方の財産の開示を要請するという手続きです。
裁判所の命令によって債務者を裁判所に呼び出し、宣誓のうえで債務者に自己の財産について話をさせるものです。
ここに弁護士業務推進センターが実施した「財産開示手続に関するアンケート」の結果があります。
これによれば手続を行ったが、債権を回収できなかったとの回答が75%に上っており、実効性が懸念される制度であることがうかがえます。
いずれの方法によっても事が起きてからの情報取得は難しいと言わざるを得ません。
そこで取引を始める前に形式的に『企業情報開示』を求めることが有効な方法となります。
それでも中には預金口座の開示に抵抗される会社もあります。
その場合には『営業保証金』を預かる方法が有効です。
ただし、ここでいう保証金は「何百万もの現金を差し入れてもらってください」ということではありません。
形式的で結構ですので数万円から十万円程度の保証金を一時的に預り初回の代金決済後に返金させていただきますという形を取ります。
保証金返還時には「手数料は当社で負担いたしますので取引口座をいくつか教えていただけませんでしょうか?」と聞いてみてください。
何の疑いもなく取引口座を教えてくれます。
取引口座を押さえただけではまだ不十分です。
いざ差押えをしようとした時に、口座にお金が残っていなければ意味がないからです。
そこで次の情報も『企業情報開示』で入手できるとベストです。
・主要な取引先はどこか?
・入金日はいつか?
・給料日、支払日はいつか?
これを把握することで入金日から給料日、支払日までの間に差押えをかけることができ、多くの回収を期待することが可能となります。
中小企業でも陥りやすい縦割りの弊害
縦割りの弊害と聞けば、皆さまも十分ご理解されていると思われます。
一般的にはお役所をイメージされるのではないでしょうか。
ただし、どんなに小さな組織でも縦割りが起こる可能性はありますし、少人数の中小企業も例外ではありません。具体的には、職能別、活動拠点別、事業部別などのセクションが該当します。
社員数の増加に伴って、自然とそのような形になるのは当然のこと。
そして、各社員の役割分担が明確となり、セクション別に行動するようになる。さらに、セクション間で仕事や情報の共有が希薄となり、他のセクションの仕事に理解を示さなくなる…。
もちろん、そのための調整機能として会議というものがありますが、例えば事業部制が進むと業績管理も事業部別となるため、他の事業部のことを気にしていられなくなります。事業部の責任者は自身の事業部の業績で精一杯…。
とはいえ、実際に経験された方もいるかと思いますが、事業部制の組織を進めていっても、ある事業部が人材不足や業績不振に陥ると、「一つの会社なのだから事業部に捉われず協力しよう!」という号令の下に、全社協力体制が敷かれます。
そして、落ち着いた頃には、また元の体制に戻る。
この繰り返し。
最近、当社のお客様の規模も少しずつ大きくなっており、組織内部のご相談を受けることも多くなりました。そこですぐに気付くのが、事業部ごとに別々に運営されているために起きている問題です。
やはり内部にいると見えない。しかし、外から見ると一目瞭然。
組織が大きくなった頃には、経営者自身も各事業部の細部には目が届かなくなるため、縦割りの弊害が起こっていることさえも気付かず、問題を抱えたまま経営を行わざるを得ません。
分かりやすい例を挙げると、下記のようなもの。
・本来であれば同一の業務を、セクションごとに別々に行っている。
・ある事業部で困っていることが、他の事業部では簡単に行われている。
・営業部は忙しそうにしているが、総務部は余力がある。
・事業部ごとに過剰に競い合い、協力しない。
CMなどで名刺情報の共有ソフトが盛んに流れていましたが、社員ごとに抱えている情報が共有されていない典型例です。
大企業ではよく聞く話です。最近の三菱自動車で起きた問題も、開発部門において不都合な情報がブラックボックス化されていたために起きました。
有名な話ですので皆さまもご存知かと思いますが、アップルは事業部制組織を採用しておりません。あれだけの規模の企業で、製品別に責任者がおりません。職能別の組織形態を採用しております。
もちろん、これはスティーブ・ジョブズという経営者が、事業部というセクションを破壊して、職能別に横断的に指示を出していたからこそ可能な芸当です。ワンマン経営者による中小企業的な経営です。
後任のティム・クック体制のアップルに適した組織かどうかは分かりません。
中小企業においても、組織体制を構築するという名のもとに、事業部制を採用する企業が増えてきましたが、とにかく気を付けなければならないのが、これまで述べた縦割りの弊害です。
「分かっている」と、おっしゃる方が多いでしょうが、事実、ある程度の規模を越えた組織においては、縦割りの弊害が存在しない組織などありません。むしろ、自社には縦割りの弊害があるという前提で、組織を見直す必要があります。
特に人材難の中小企業において、縦割りにより隠れた労働力があるかもしれないという可能性は見過ごせません。
また、経営者のタイプによっても、現在の組織体制が合致しているかどうかの見直しも必要です。
中小企業ですから、ワンマンが悪いとは思いません。ワンマンであるにもかかわらず、無理に事業部制を導入して責任者を置き、責任を持たせて運営させるのは、縦割りの弊害を助長しやすいのではないかと考えます。
そうであれば、事業部別ではなく、アップルのように職能別組織にして、組織一体として経営者自ら横断的に指示を出していく方が好ましいかもしれません。
あるいは、調整型の経営者であれば、事業部制を採用し、各事業部で協力できるよう自らバランスを取って経営していくのが好ましいかもしれません。
要は、事業部別でも、職能別でも、活動拠点別でも、組織一体として情報共有と行動ができれば問題ないのです。
組織図がある中小企業も多いかと思いますが、まずは組織図と構成員を確認し、それぞれが同じような仕事をしていないか、共通利用できるリソースはないか等をよく見直す必要があります。
私どもも、二十数名で、二社、二拠点、事業部という形式では三つほどあります。そこで苦心するのは、可能な限り、組織全体で共有できる事項を増やすことです。
問題が共有できれば、横断的に解決できる問題があるのではないかと考えるからです。
事業部制を取り入れれば、「組織」という感じがして、満足感はあるでしょう。ただし、そこから始まる弊害の把握にも努めてください。
私たちは大企業ではありません。中小企業です。経営者次第で組織に柔軟性を持たせられることが強みです。
事業部という縦の組織と、職能別という横の組織、これらを上手くクロスさせ、情報を共有し、縦割りの弊害を排除しましょう。