5月9日、クラウド会計におけるトップシェアを誇るfreeeが、料金体系の変更を実施致しました。
サービス開始から3年余り。開始当初から維持していた法人1,980円、個人980円という単一の月額料金(いずれも税込)が、下記のように変更されました。
【法人】2プラン→1,980円、3,980円(いずれも税抜)
【個人】3プラン→980円、1,980円、3,980円(いずれも税抜)
金額だけ見れば、法人は2倍、個人は最大3倍の値上げです。ただし、新設された上位プランの機能と料金、そして会計ソフト全体でのトップシェアである弥生会計の機能と料金を比較すると、特別高いとは言えません。付加機能を考えればfreeeの方がまだ割安です。
freeeの今までのターゲットは個人事業と小規模法人(10人未満)がメインでしたが、今回予定されている上位プランの新機能(6~7月に提供予定)は、中小企業のど真ん中をターゲットとするのに必要十分。
簡単に新機能をお伝えすると、部門別会計、予算実績管理、資金繰りシミュレーションなど。
今までのfreeeは、メインターゲットからするとオーバースペックで、例えば年商1億円超程度からの、管理面が重要となってくる中小企業においてはアンダースペックと感じていました。
弥生会計はバージョンごとにターゲットが異なりますが、年商1,000万円程度から数十億円程度の中小企業までカバーしております。freeeもターゲット毎に料金と機能を変えることによって同じように対応してきました。
これにより、クラウド会計ソフトは小規模零細企業向けという導入期を突破し、中小企業全体をほぼカバーする成長期に入ります。
既存の会計ソフトは成熟期があまりにも長過ぎました。機能も使い方もさほど変わらないまま、そして操作方法もプロ経理が前提のソフトでした。そして、現在、既存の会計ソフトは、freeeが創った市場と既存の市場を融合するように自らの仕様を変更しています。freeeに追い立てられるように…。
freeeが先鞭をつけた、会計ソフトでの銀行・信販データの取り込みは、むしろ当然の機能となってきています。当社がメインで扱っているお堅いTKCの会計ソフトも、とうとう6月から銀行・信販データの取り込みに対応します。クラウド型のソフトのみならず、クラウド型ではないソフトでもデータ取り込みが実現します。
電子帳簿保存法の改正により、スキャナ保存による領収書の原本破棄も認められることになりますが、これらのデータも会計ソフトに関連付けてクラウドに保管されることになります。freeeのみならず、従来型の会計ソフトも半クラウドのような形で対応してくることでしょう。TKCも対応すると予告がありました。
つまり、クラウドであるかどうかもあまり重要ではなくなり、機能も同質化してきます。freeeもクラウド会計ソフトというカテゴリではなく、会計ソフトという全体カテゴリで評価されることになるでしょう。
こうなってくると、重視されてくるのは、より効率的に短時間で経理を処理できる会計ソフトということになります。
正直、従来の会計ソフトは、効率的に経理をさばくという視点の構造ではありません。従って、人の手による経理オペレーションを合理化して、会計ソフトに掛かる時間を最小限にという思考が必要でした。
freeeの特徴は、そもそもバックオフィスを合理化するという思想の下に開発されたソフトであるため、会計ソフトを中心に経理を回すという思考に適しています。
先日、経済産業省は、人工知能(AI)などの先端技術を活用して成長を目指す「新産業構造ビジョン」の中間報告をまとめました。AIやビッグデータなどの技術を活用して国内産業を改革しなければ、2030年度までに就業人口が735万人減るとの試算を示し、対策が必要だと指摘しています。(読売新聞5月6日付記事より)
このような前提からすると、人に依存する経理オペレーションと会計ソフトは、この先、生産性の悪化をもたらします。
そして、イノベーションのジレンマです。
既存の会計ソフトが、クラウド会計にとって当然の機能を実装していっても、基本構造は変わりません。基本構造をそのままに、他所に負けじと流行の機能を追加しているだけです。また、ユーザーが多いだけに、劇的なフルモデルチェンジもできません。料金体系も大幅変更が困難です。
そもそもイノベーションを起こそうと仕掛けてきたfreeeなどと正面から戦えないのです。
さらに、ビッグデータ…。
freeeは60万以上の事業所(個人、法人合せて)に利用されていると公表していますが、今後増え続ける事業所のデータを、いつ、どのように利用するのでしょうか…。これを武器にされたらと考えるとライバルは恐ろしいでしょうね。
私はたびたびfreeeを中心にクラウド会計を取り上げていますが、それは、ここ数年で会計ソフトの質が大幅に変わる可能性があるためです。ここに上手く対応できないと、本当に非効率な経理を続ける羽目になります。会計のみならず、給与や販売などのバックオフィスソフトも同じです。
様子見もよいですが、それ以上に動きは早いです。様子を見ている間に置いて行かれないように気を付けてください。